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天魔屍侠譚  作者: スキャット
第2話「屍者の街」
9/44

2-1


「……どうして私と契約などした?」


 廃墟の街を、古ぼけたクーパーが悪路に揺れながら走る。

 助手席で静かに呟いたのは、黒い外套に鳥の頭蓋骨のような仮面を被った悪魔だ。全身から血と灰の匂いを漂わせ、いかにも恐ろしげな様相だが、身に纏うその雰囲気はどことなく捨てられた野良犬か雨に打たれる鴉を思わせた。

ハンドルを握る男、八重山篝はくしゃりと笑顔を見せる。


「いやー、何でかなあ? 強いて言うならカンだよ、カン! こいつとは手を結ぶべきだって、なーんかピンと来たんだよな!」


「……馬鹿な。そんな理由で悪魔と契約を結ぶ者などあるものか」


「えー? 本当なんだけどなあー! ……そうだなあ、他に挙げるなら……」


 篝の眼差しがアッシュを捉える。


「……あんた、何となく放っておけなかったんだよ。……あのまま野垂れ死なせるのは惜しいと思った。……いや、あんたと言うより、あんたのあの……怒りかな」


 仮面越しにも、悪魔の憤怒が燻り滾るのが分かった。思わずぞくりとした悪寒に襲われるが、篝はなお踏み込む。


「……あんた、名前は? ……教えてくれよ。あの場所であんたに、何があったんだ?」


「…………」


 しばしの沈黙が車内に満ちる。クーパーのエンジン音が響き、時折悪路に車体が揺れるばかりで、篝はただ前を向いて待ち、悪魔は俯き、互いに押し黙った。


「……いや」


 その沈黙を破ったのは、篝だった。


「……やっぱり、話したくないならいいわ。悪いな、無理言って。あんたにとっちゃ思い出すだけでも嫌なことなんだろう?」


「…………」


 悪魔は僅かに身じろぎをして長い黒髪を揺らし、それきり窓の外を眺めて口を閉ざした。


 車はやがて一つの廃校に辿り着き、その校庭で止まった。この廃校が、今の篝の住処だった。校舎の窓からは洗濯物が垂れ下がり、荒れ放題のグラウンドには幾つものテントが立ち並んでいる。


「悪い、少しここで待っててくれるか?」


 悪魔は何も答えなかったが、その沈黙を肯定と受け取り、篝は車を降りる。それに気付き、二人の仲間が駆け寄ってくる。一人は青年、一人は少女だ。


「おう篝! お帰り、どうだった?」


「……ん、そうだな……」


 元々篝が悪魔と出会った廃墟街に出向いたのは、誰もいないはずのそこで大きな爆発と魔力の反応があったという仲間の観測報告を確認するためだった。だがその結果そこにいた悪魔と契約を結んで帰ってきた、などという事情を上手く説明できる気がしなかった。


「……とりあえず、問題は無いかな。こちらに害を及ぼしそうなものは特に無かった。安心していいと思うぜ」


「そうか、そりゃ良かった。お疲れ」


「……あの、篝さん……」


 少女が青年の後ろに隠れながら、怯えた様子で篝を見る。


「ん? どうした?」


「……あの人、誰ですか……?」


 少女の視線の先には、車に乗ったままの悪魔の姿があった。確かに、見るからに恐ろしい異形だ。青年も気付いたのか、ぎょっとした顔をする。


「えっ、なっ、何だよあれ!?」


「あー、うーん、……後でちゃんと説明する。とにかく大丈夫だ。敵じゃない」


「……そうか……? お前がそう言うなら……」


 青年と少女はまだ困惑気味ながら、篝の言葉を受け入れたようだった。


「うん、そういう訳だからみんなにも何も心配ないって伝えといてくれ。……じゃあ、また出てくるわ。狭霧さんに呼ばれてるんでな。……もしかすると何日か掛かるかもしれない。でもなるべく早く帰るよ」


「ああ、分かった。気を付けてな」


「か、篝さん! お昼まだですよね? これ作ったんですけど、その、良かったら……」


 少女がおずおずと、小さなバスケットを差し出す。篝は笑って受け取った。


「本当か!? ありがとう! 腹減ってたんだよ! 後でありがたく頂くな!」


 少女は嬉しそうにはにかむ。篝が車に乗り込もうとすると、気付かぬうちにさらに数人の仲間が集まってきていた。


「何だよ篝、さっき帰ってきてもう出て行っちまうのか?」


「篝ちゃん、もうちょっとゆっくりしていけば?」


 口々に引き止められ、篝は笑みをこぼす。老若男女は様々だが、ファミリーの誰もがこの十年、篝と寝食を共にし苦楽を分かち合ってきた掛け替えのない存在だった。


「……いやあ、そうしたいのは山々なんだけどさ。出来るだけ早く帰るから、待っててくれよ。……じゃあ、行ってくるわ」


 手を振る仲間達に見送られ、クーパーは再び発車する。数分も走ったところで、不意に悪魔が口を開いた。


「……さっきのは……」


「おっ? え? 何だ?」


「……さっきのは……お前の、家族か?」


 思いも寄らぬ言葉に、篝は虚を突かれたような気になった。


「家族……家族か。そうだなあ、俺の昔の家族や知り合いはみんな十年前に死んじまったけど、あいつらはそう呼べるかもなあ……」


 文明が滅び去り、核兵器で汚染され尽くした地上では、一人の力だけで真っ当に生きていくのは殆ど不可能と言っていい。僅かな土地や食糧を巡る人間の集団同士の争いは次第に加速していき、互いに武力を以って衝突するようになるのにそう時間はかからなかった。そうした中小規模の生存者の集団は、『ファミリー』と呼ばれた。そう、家族だ。ただ生き延びる為に死力を尽くし、互いに支え合う。そこには時に、血縁以上に確かな絆があった。


 力と庇護を求めたファミリーの中には、自ら悪魔の支配を受け入れるもの、協力関係を結ぶものも現れた。篝のファミリーもその一つだ。生き延びる為、仲間を養う為には手段など選んでいられなかった。


「……そうか……家族か……」


 何か思うところがあったのか、助手席に座る悪魔はしばし黙り込み、それから顔を上げて篝を見た。


「……先程訊ねられた話……話そう」


「……いいのか?」


「……契約者への最低限の礼儀だ」


「ははっ、案外話の分かる奴だな」


 ぎしりと座席を軋ませて座り直し、悪魔は窓の外に顔を向けて口を開く。


「……私の名はアッシュ・ブラックバード。通名は“燃え尽きぬ燼灰(じんかい)”。ソロモン七十二柱が一人、魔王カイム様の眷属だ。『黒歌鳥(ブラックバード)』はカイム様の眷属たる証、言わば姓のようなものだ。アッシュという名は……カイム様に付けていただいた」


 篝は悪魔のその声色に、押し殺した煮え滾る怒りの他に、懐かしさや親愛の情、そして深い悲しみの色を見て取った。


「……眷属というものには二種類がいる。魔王がその魔力で作り出した生まれながらの眷属と、全く別の場所で生まれ、悪魔として個を確立した後に自らの意思で忠誠を誓うもの。……私の場合は、後者だった」


「……え、それじゃあ……生まれた時? 地上に降りた時? ……は別の魔王の眷属だったのか?」


「……そうならばまだ良かったのだが。……私は生まれつき、何の後ろ盾を持たない野良だった。そういう悪魔は余程の力を持たない限り、大抵の場合は粗雑に使い潰されて誰にも顧みられず死ぬものと相場が決まっている。私も掃き溜めのような戦場で満身創痍になり、そこで死ぬものだと思った」


 悪魔――アッシュが、拳を握り締める。


「だが、カイム様が救ってくれた」


 静かな言葉だったが、篝にはアッシュにとってそれが、己の全てを賭してもなお足りないほどの得難く尊い邂逅だったのだと理解した。


「……カイム様は何も持たぬ私を眷属として迎え入れ、名を与えてくれた。……知っているか? 神話に描かれない凡百の悪魔は、悪魔としての在り方を表す通名しか持たず、個としての己の名前すら持たない。皆名無しとして生まれ、名無しとして死んでいく。名前が無いということは、存在が無いのと同義だ」


 篝は腹がずしりと重くなるような錯覚を覚えた。集団の中にありながら、誰に知られることもなく生き、誰に思い出されることもなく死ぬ。それは想像するだに恐ろしい孤独だった。


「……カイム様は、私に全てを与えてくれた。あの方に出会って、私は初めて本当の意味でこの世界に生まれたんだ。……カイム様は他の眷属と同じように、私を家族のように扱ってくれた。仲間達も皆、まるで実の兄弟のように思えた。我々は決して恵まれた境遇では無かったが、私は十二分に幸福だった。……だが……」


 そこで、アッシュはしばらく黙り込んだ。篝の脳裏に、つい先刻見た地獄のような情景が過ぎる。


「……先日、同盟からの最重要指令が届いた。ある子供の確保という指令だ。私は巡回中に偶然……その子供を見つけた」


 絞り出すようなその口調に、アッシュの深い後悔がまざまざと表れていた。一語口にするごとに、身を焦がす苦痛に苛まれているようだった。


「……我々は、カイム様は、その子供を捕らえようと決めた。その指令を成し遂げれば、我々の境遇も改善するはずだった。……それは降って湧いた好機に思えた。……仲間達が出撃する際、負傷していた私は留守を任された」


 アッシュの震える拳は強く握り締められ、血が滲んでいた。


「……夜明けまでには決着を付ける。カイム様はそう言って出て行った。だが夜が明けても、日が昇っても、城には誰も……誰も帰って来なかった。私だけだ。私だけが、……残された……!」


 アッシュは身を攀じるようにして頭を抱えた。怒りか悲哀か後悔か、或いはその全てによってか、その身体は震え、呼吸は荒かった。


「……私は何とか一人で、その場所まで辿り着いた。……何もかもが……遅すぎた。…………お前も、……あれを見たろう」


「…………ああ……」


 何もかもが燃え尽き、破壊し尽くされた惨憺たる光景。そこら中に転がっていた焼死体、その全てがアッシュの仲間達だったのだろう。もしもあれが自分の仲間だったらと考えて、篝は暗然たる気持ちになる。アッシュの憤怒と憎悪は、その何百倍も大きいだろう。


「……カイム様は、見るも無残な姿に成り果てても、私が来ると信じて待っていてくれた。……そして、仇敵の名を伝えてくれた」


 ぎしり、と奥歯を噛み締める音が響く。


「……“篠突く雷火”……。その名を決して忘れん……。たとえ地獄を這い、この身が砕けても……必ず奴の息の根を止める……!!」


 篝は身震いをする。余りにも深く、熾烈な怒り。それはさながら燃え盛る業火のように恐ろしくありながらも、どこか篝の心を強く惹きつけてやまなかった。


「……復讐か。だが、その為にはもっと力が要るだろう?」


 煌々と燃え立つ炎にあえて足を踏み出すような、挑発的な口調。アッシュがほんの少し身じろぎしただけで、一歩間違えれば自らも焼き焦がされそうな感覚に襲われる。


「…………何?」


 篝はごくりと喉を鳴らし、不敵な笑みを浮かべる。


「それならこれから行く先は、お前にとっても都合がいいはずだぜ」


 車の向かう先、その遥か遠くに、巨大な『城』が霞んでいた。

 






「……で?」


 巨大な玉座に巨大な悪魔が踏ん反り返り、巨大なパイプの紫煙をくゆらせていた。

 頭部には無骨な二本の角。四メートルに届くかという常軌を逸した長身に、筋骨が脂肪に包まれた分厚い体躯を誇っている。砕いた薬剤の粉末入りのパイプを咥えたままに濁った目で眷属を見下ろす姿は傍若無人そのものであったが、無言の内に漂わせる圧倒的な暴力の匂いはある種の威厳とも言え、魔王としての風格と存在感を十分に備えていた。

 彼の名はシェムハザ。数多の眷属を従え、日本列島と東アジアの一部を領土とする、地上でも有数の魔王の一人だ。

 その膝下に跪く切り株のような短い角を備えた悪魔は、彼の眷属の一人だ。短角の眷属は顔面を蒼白にしてびくりと震えた。


「…………そっ……その……フルーレティ卿から書状が届いておりまして……」


 上ずった震え声。その目には涙が滲んでいる。


「ああ?」


 低く、酒に焼け掠れた声でシェムハザは怠そうに頭を傾ける。ふうふうと息を詰まらせながら、眷属は震える手で書状を取り出し、読み上げる。


「……きっ……謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。……平素は……」


「うるせェーんだよ要点だけ言え」


 短角の眷属は小さな悲鳴を漏らす。だらだらと脂汗を垂らし、荒い呼吸を繰り返す。そんな彼を、謁見の間に集まった他数名の眷属達は固唾を飲んで見守っている。


「……要……約……すると……」


 全てを諦めたように、彼の顔には力無い笑みが浮かぶ。


「……先日のフルーレティ卿配下陣営への襲撃に対しての、抗議声明です」


 短角の眷属は死んだ。

 振り下ろされたシェムハザの巨大な腕で、文字通り叩き潰されたからだ。彼は頭から足まで一瞬で圧縮され、奇妙なオブジェのようになって沈黙した。


「そんなクソ下らねえコトの為に……」シェムハザは懐から取り出した錠剤を指で砕き、鼻腔に吸い込みぶるりと身震いする。「俺の時間を無駄にさせたのか?」


「……シェムハザ様……!」


 眷属の一人が決死の形相で主の眼前に歩み出る。硬質の蹄が床の石材を叩き、軽い音が鳴る。

 彼はシェムハザの眷属の中でも一際忠誠心が強く、義に厚い人物だった。それ故に、他の眷属達にも苦い表情が浮かぶ。


「……今からでも遅くはありません! フルーレティ卿への謝罪と補償を……! このままでは我々は……!」


 蹄の眷属は死んだ。

 玉座から身を起こし放たれた蹴りで、彼の胴体は真っ二つになった。下半身はその場に残され、上半身は吹き飛んで天井と床を激しくバウンドした。


「逆に聞くけどよォ……」小指で耳の穴をほじくりながら、シェムハザは怠そうに言う。「俺がそんな事すると本気で思ってんのか?」


 眷属達は皆苦々しく目を瞑り、俯いたり首を振ったりした。その場の誰も、そんな事は思っていない。だからこそ問題なのだ。


「いいじゃねえか。フルーレティの野郎が殴り込んできたら俺がブッ殺せば済む話だろうがよ? そうしたら同盟の席も一つ空くぜ? オッ? いいことじゃねえか。そしたら代わりにお前らの誰か推薦してやろうか? 良かったなあ? ええ?」


 眷属達は皆更に苦々しく眉間に皺を寄せ、項垂れたり声にならない唸りを上げたりした。皮肉や冗談でなく、シェムハザは本気でそう思っている。だからこそ問題なのだ。


「ったく無駄な時間だったぜ。誰か部屋に女呼んどけ……おい狭霧ィ!!」


「はっ!」


 眷属の一人、眼鏡を掛けた男が答える。


「ここ片付けとけ。いいな?」


「……承知致しました」


 けたたましく扉を閉めてシェムハザが部屋を出て行くと、眷属達は一斉に深々と息をついた。

 眼鏡の眷属は深々と頭を下げた姿勢のまま、床に転がる仲間の下半身をしばらくぼんやりと眺めていた。


「失礼します! ……狭霧様! お客様がお見えなのですが……」


 入室してきた部下に名を呼ばれ、眼鏡の悪魔、“宵烟る狭霧”は顔を上げた。


「……分かった、部屋に通しておいてくれ」


 狭霧は天井を見上げ、ぼたぼたと滴る血の跡を見て深い溜息をついた。







「狭霧さん、お久しぶりです」


 狭霧が脚立を抱えて部屋に戻ると、八重山篝が待っていた。篝とはこの日、前もって会うことになっていた。彼と彼のファミリーとは一年ほど前から交流があり、物資や食糧を譲与する見返りに、悪魔より人間の方が動きやすい仕事や他のファミリーとの交渉の橋渡し役などといった様々な役割を担って貰っていた。


「ああ、元気そうだな。……そちらは?」


 狭霧は部屋の隅で観葉植物をじっと眺める、見覚えの無い鳥骨の仮面の悪魔に目をやる。


「紹介します、こちらはアッシュ・ブラックバードです。……ほら、挨拶挨拶」


「…………」


 アッシュと呼ばれた悪魔は、無言で軽く会釈をする。


「……ブラックバード……と言うと確か……あー、カイム卿……の眷属か?」


「……そうだ」


「ああ、やっぱりそうだったか。……それで、今日はどうしてここに? 呼んだのは八重山だけだったと思うが……」


「あ、そのですね、狭霧さんにも紹介しておこうと思いまして……」篝は頭を掻く。「実は俺、このアッシュと契約したんですよ」


「…………は?」


「……え?」


 狭霧は口をあんぐり開けたまま固まる。


「はあああああ!?」


「えっ、えっ? どうしたんですか?」


 それは狭霧にとって、完全に予定外の事だった。脳内で組み上げていた計画の図案に、根元からヒビが入るのを感じる。気の抜けたような声と共に、狭霧は頭を抱えた。


「……僕が今日、どうしてお前を呼び出したのか分かるか?」


「……いつもと同じで、何か仕事の用事かと思ってましたけど……」


 ぽかんとした顔の篝を見て、狭霧は深々と溜息を吐く。


「……僕はな、お前と契約を結ぼうと思ってたんだよ」


「えっ……えええええええ!?」


 今度は篝が驚愕する番だった。アッシュもぴくりと反応する。


「で……でも、そんな事少しも……!」


「ああ……だから今日会って話をしようと思ってたんだ……」


「そ……そんな……すいません、俺……」


 申し訳無さそうに俯く篝に、狭霧は首を振る。


「いや……仕方ない……運とタイミングが悪かったと思うことにしよう……。……でもな……」


 そこで狭霧はアッシュに目をやり、品定めするように見つめる。


「……八重山、確認したい事がある。正直に答えてくれ」


「はい……何でしょう?」


「……そこのアッシュって悪魔……信用できるか? 秘密を守れる奴か? 裏切ったりしないか?」


「…………」


 狭霧の射抜くような視線。篝は振り向き、部屋の隅に佇むアッシュを見る。アッシュはゆっくりとかぶりを振った。


「……私とそいつは出会ってまだ間もない。信頼など……」


「出来ます!!」


 アッシュの言葉を遮り、篝は力強く頷く。アッシュは驚いたように硬直し、篝を凝視した。


「うん、その根拠は?」


「こいつには目的があります。出会ったばかりですけど、その目的は絶対に途中で投げ出したり諦めたりできるものじゃない、それだけは確信を持って言えます。俺が契約者である限り、アッシュは絶対に裏切ったりしません!」


 狭霧は眼鏡に手をやり篝を見て、それからアッシュに目を移した。アッシュもそれを受け止め、二者の視線が交錯する。

 やがて狭霧は、深々と頷いた。


「……分かった、信じよう」


 不安げだった篝の表情が、ぱっと輝いた。


「ありがとうございますっ!」


「……それじゃあ、早速だが本題に入ろう。……僕が八重山と契約しようと思っていたのは、ただ何となくという訳じゃない。ある目的があっての事だ。その為に、どうしても力が必要だった」


「……目的、ですか?」


 狭霧は頷き、辺りを憚るような小声で告げる。


「……僕は、シェムハザを殺すつもりだ」







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