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7、忍者少女とトリプルテール

「ロミリアちゃん、どうして、こんな!」


 ロミリアちゃんは地面に横たわっていた。だがそれよりも酷いのは、身体中が白い粘液まみれになっている事である。


「うー、ベトベトする」

「大丈夫、ロミリアちゃん?」

「大丈夫じゃないー」


 それはそうだ、何せこの粘液、簡単には取れないのである。


「確か、熱いお湯で何度か洗い流さないといけないんだっけ?」

「そうなのー、もうやだー」


 涙目になるロミリアちゃん。謎の白い粘液が身体中に絡みついている。


 その……ちょっとこれは、さすがに危ない光景ですね。


「もう、絶対許さないんだからー!」

「……これ、ランランの仕業、よね?」


 そう、俺は知っている。さっきの炸裂音も、この謎の白い粘液も。


 ランラン。紫色の髪のおかっぱ忍者少女。

 彼女の使う武器、粘着砲は謎の白い粘液を出して敵を足止めしたり、敵の視界を防ぐ事に使われる。


「ふええー、動きづらいよー、ベトベト気持ち悪いよー」


 ランラン、グッジョブ! じゃない、なんて酷い事を!


「でも、どうしてランランが? やっぱりランランは敵なの?」


 そう、以前ロミリアちゃんが言っていた可能性。

 パーティメンバーが敵になる。それだけは避けたいと思っていた最悪の事態が、まさか現実に?


「あー、うん。そういうわけじゃないんだけど」

「え、違うの?」


 どういう事だ? ならなぜランランは、ロミリアちゃんにこんな事を?


「それは拙者が説明するでござるよ」


 上から声が聞こえた。見上げると、木の上に誰か立っている。


「ランラン、そこにいるの?」


 ランランは消配しょうはいという、文字通り気配を消す事が出来る特技を持つ。そのせいで神出鬼没なのである。


「久しぶりでござるな、ユミル殿。こうしてまた話しが出来てうれしいでござる」


 そう言うと、ランランは飛び、華麗に着地を決める。どうしてあれでスカートの中身が見えないんだろうと思い、昔聞いた事がある。なんでもスカートの周りに風魔法を展開しているのだそうだ。なんという無駄な技術。

 ……と、それより。


「私もうれしいよ、ロミリアちゃんがこんな状態じゃなければね」


 そう、以前の仲間と話しが出来てうれしい。けど……まだロミリアちゃんの状態の説明がついていない。

 まだ、油断は出来ない。


「ロミリアでござるか? ロミリアには罰を受けてもらったのでござるよ」

「罰?」


 うっ……とロミリアちゃんが呟く。一体何なんだ?


「ユミル殿はロミリアから、拙者に接触してみると聞いていたと思うのでござるが、実際にはロミリアは、拙者に接触などしていなかったのでござるよ」

「え? どうして?」


 そんなはずはない、ロミリアちゃんはまず、ランランに接触してみると言っていた。なのに接触していないって、どういう事だ?


「嘘をついたのでござるよ、ロミリアは」


 ロミリアちゃんが嘘を? 一体、何の為に?


「ロミリアちゃん、どういう事?」

「別に深い理由は無いでござる、単に、ユミル殿を独り占めしたかったのでござるよ」


 ユミルを、独り占め?


「ほれ、ロミリアは甘えっ子だったでござろう? 拙者達がいなければ、ユミル殿に甘えやすいと思ったのでござろう。だから拙者に接触したと嘘をついて、拙者をのけ者にしたのでござる。酷いでござろう? だから、罰を受けてもらったのでござる」


 あー、そうか、そういう事か。


「ごめんなさい、ユミルさん」

「ロミリアちゃん……」


 ロミリアちゃんが謝ってくる。なんだか罪悪感が半端ない。


「いいのよ、ロミリアちゃん。私こそごめんね、ロミリアちゃんの気持ちに気づかなくて」

「ゆ、ユミルさん!」

「大丈夫、ロミリアちゃんは甘えてもいいんだよ。ランランがいても気にしなくてもいいの」

「ほ、本当に?」

「うん、本当」


 もちろん、ロミリアちゃんは、だけどな。鉄也君はカンベンだぞ。


「ユミルさん、大好き!」

「私もロミリアちゃんの事、大好きだよ」


 抱き合う二人。非常に美しい光景だろう。

 ……中の人の事を考えなければ。


「え? なにこれ? なんなのこの茶番? 拙者なんなの?」

「ところで、ランラン」

「はい!?」


 ランランが呼ばれてビクッとする。そう、その態度が正解だ。何せ俺は今、怒っているのだから。


「あのー、何ゆえユミル殿は怒っておられるので?」


 そこに気づくとは、やはり元パーティメンバーか。


「ねえランラン、ロミリアちゃんが嘘をついたのはわかるけど、それでどうしてロミリアちゃんに粘着砲を撃ったりしたのかな?」

「え? それはだって、拙者だって早くユミル殿と話しをしたかったのに、のけ者にしたから……とか?」

「なら私にそう言ってくれればいいだけだよね? いくら二人が私達に会う前からの知り合いだからって、これは酷いんじゃないかな?」

「えー、そんなー、拙者悪くないでござ……」


「エターナル」

「やりすぎました申し訳ございませんでしたー!」


 トリプルテールが輝き、エターナルが現れる、その刀身を赤い光が覆う。

 それを見たランランは勢い良く土下座するのであった。


「嫌でござる!拙者、切って直して切って直しては嫌でござるーーーー!」


 エターナルのキルモード、これは全てを切り裂く。

 そしてヒールモード、これは全てを直す。

 つまりは切って直して切って直してをエンドレスに行えるのである。相手が死なない限り。


「拙者これからは、仲良くするでござる! だから、カンベンでござるーーーーー!」


 ランランの声が、校舎裏にむなしくこだました。


「そういえば、どうして粘着砲を絶壁でガードしなかったの?」

「別に死ぬわけじゃないですし、誰がどこで見てるかわかりませんから、安易に使うのはちょっと……」

「なるほどね、さすがロミリアちゃん。ちゃんと聞いてる、ランラン?」

「拙者忍者だけど正座は苦手でござる……」


 とりあえず正座させたランランの顔からは、生気が消えていた。



 そしてその夜。


「というわけで改めまして、ランランでござる、よろしく!」

「よ! 便利忍者! 一家に一台!」

「そのあだ名はやめるでござる! 拙者のあだ名は、忍びの風と書いて忍風にんぷうでござる!」

「え-、それ自称じゃーん」

「誰かお願いだから呼んでくれでござるー!」


 ランランとロミリアちゃんが戯れている。可愛い。


 あの後、俺達は一旦解散し、夜、俺の部屋に集まったのだった。

 目的は情報交換と、例のアレを試す為である。ちなみに今日は事前に3人とも一度仮眠をとっている。5時まで待っていては、また眠れなくなるだろうからだ。


 そういえば風呂だが……入った。

 だってロミリアちゃんもランランも普通に入っていったし。

 でもあれだった。ここにいる俺達以外の女の子もみんな、中身男なんじゃないだろうかと思うと。なんだか中の人が透けて見える様で、見てもまったくうれしくなかった。


 ……イカンな、思考を切り替えよう。


「さてランラン、いくつか聞いておきたい事があるの」

「なんでござるか?」


 俺はまず、例のアレについて尋ねなければならないと思った。時間も限られているしな。


「昨日は何時まで起きてた?」

「2時くらいまでは起きてたでござるな」

「その時、何か起きなかった?」

「何か?」


 そう、例のアレ。0時を過ぎると中の人に変化するというやつである。鉄也君の話が確かなら、ランランの中の人も男のはずだが。


「いや、特に何もなかったでござるな」

「……本当に?」

「うむ、間違いないでござる」


 おかしい、2時であれば中の人になっていたはずだ。どういう事だ?


「ユミルさん、もうすぐ0時です。その時になればわかりますよ」

「……そうね」


 そう、もうすぐ0時だ。これでわかる。昨日の事は一度だけなのか、なぜランランは知らないフリをしているのか。


「……な、なんでござる? この空気?」

「黙ってて、すぐにわかるから。ね、ユミルさん?」

「……うん」


5……4……3……2……1……0……!


「え?」


 時計の針が0時をさす。

 その瞬間、ランランの……いや、ランランの中の人の声が聞こえた。


「て、鉄也? どうして鉄也がここにいるでござ……え?」


 ランランは自分の声と、自分の姿を確認した。


 ……またしてもイケメンだった。金髪の俺様系の。


 もちろん俺達も。再び、中の人に変化していた。


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