6、忍者少女とロリ少女
「なるほど、そういう事でござったか」
ロミリアが独り言を呟いたその上空……具体的には校舎の屋根の上で、一人の忍者が佇んでいた。
「拙者に接触したと嘘をついたのはなぜかと思っていたが、ニンニン」
にやり、と忍者は笑う。
「イカン、イカンでござるよそれは~。親友といえどそれはイカンでござる」
そう言うと、忍者から笑みが消える。
「ユミルたんはみんなのもの! その掟を破るとは、許さんでござるよ、ロミリア!」
瞬間、忍者の姿が消える。
彼女の名はランラン。一家に一台と言われた忍者である。
その頃、ロミリアはひとり、ご機嫌だった。ロミリアは新たな人生を謳歌していた。
ユミルとロミリアが出会ったのは「Fine Online」というオンラインゲーム。
当時、ロミリアとランランは二人でパーティを組んでいた。最初こそ二人でも何とかなっていたが、だんだん二人ではクリアするのが難しいクエストが増えてきた。
そんな時、ロミリアはユミルのパーティと出会い、意気投合してパーティを組む事になった。
ロミリアは最初は知らない他のプレイヤーと組む事を警戒していたが、すぐにそんな気は吹っ飛んだ。
ユミルは可愛いかった。
ユミルはマジ天使だった。
ロミリアは自分がロリっ娘なのをいい事に、ユミルに甘えまくっていた。ユミルはそんなロミリアを可愛がり、常にやさしく笑いかけていた。
ロミリアがユミルに夢中になるもの、そう遠い話ではなかった。
そしてある日、ロミリアは気づいてしまう。自分以外のメンバーも、ユミルに惚れている事を。
とはいえ最悪なのは、ユミルに嫌われる事だ。喧嘩などはもってのほか!
だからロミリア達は、「ユミルたんはみんなのもの。抜け駆け禁止」という掟を定めた。
しかし今は違った。 現在この世界でユミルに近づく者はいない。ロミリアだけだ。
ロミリアは当初、ユミルの中の人が男だった事にショックを受けたが、今はそんな事はどうでもよかった。 今この時、ユミルはロミリアのものなのだと、浮かれていた。
そう、ロミリアはこの時、浮かれていた。
だから彼女は、背後から近付いて来る気配に気付かなかった。
「……ここは?」
気がつくとロミリアは、暗い場所にいた。ここがどこかはわからない。どれくらい時間が経っているかも。
「気がついたでござるか?」
「そ、その声は!」
フッとそこに突然現れたのは、よく知る顔だった。
紫の髪のおかっぱ少女。見慣れた忍装束ではなく、今は学園の制服だ。その少女が不気味に笑っている。
「ランラン!」
「その通りでござる。そんなに日は経っていないはずでござるが、感覚的には久しぶりでござるな、ロミリア」
「そうね、久しぶり、ところで私、どうしてここに連れてこられたの? そもそもここはどこ?」
「ここは校舎裏でござるよ、別に怪しい場所ではござらん。まあ滅多に人は来ないでござるがな」
ロミリアは思考する。校舎裏、それならまあ、逃げ出せない事もないか。……うん、無理だな、相手が悪すぎる。ランラン相手に逃げ出せる気がしない。他に何か方法がないか、ロミリアは周囲を伺っていた。
「どうしてここに連れてこられたか、それはロミリアがよーくわかっているのではござらんか?」
「……ロミリアわかんない」
可愛くとぼけてみる。が、無駄だった。
「そうでござるな、ロミリアは悪くない、悪いのは中の人……鉄也でござるよ」
「……中の人の名前を出すのはマナー違反じゃない?」
「マナー違反も何も、掟を破ったのは鉄也でござるからなー」
……やはりそういう事か!
ランランの狙いが見えてくる。ようランランは粛清にきたのだ、ユミルを独り占めしようとしたロミリアを!
「つまり、お前は今、ランランとしてではなく、雅人としてここにいるという事か」
「あくまで拙者はランランでござる。ユミルたん大好きなランランでござるからな」
「ランランはロミリアにこんな事はしないと思うが?」
そう、ランランとロミリアはとっても仲良し。という設定である。まあ実際仲はいいんだが。
「ロールプレイを忘れているでござるよ、口調が鉄也になっているでござる。いくらここは「Fine Online」ではないといっても、ロミリアである事を忘れてはイカンでござる」
「鉄也と呼んでおいてそれはないんじゃないか?」
「ふむ、拙者とした事が、そうでござったな。ではこうしよう」
その時、目の前にいるランランの気配が変わった。
忍びとしての気配から、中の人の、威圧的な気配に。
「我、王上院 雅人が告げる! 小女子 鉄也よ! 貴様は我が友人であるが、ユミルたんを独り占めしようとした事は万死に値する! よって貴様には、クリーナとデュノスの分まで、我が天罰を与えてやろう!」
目の前にいるのは美少女なのに、偉そうな男の姿が透けて見える。
王上院 雅人、ロミリアの中の人、鉄也の同級生であり、友人であり、親友だ。そして同時に、恋敵でもある。実家が金持ちで、金目的に近づいてくるやつを遠ざける為にこの様な偉そうな態度と口調を続けていた。その内に、これが地になってしまったそうだ。根はいいやつなんだが。
「ユミルたんはみんなのもの! その掟を破った事、後悔するがいい!」
ランランが叫ぶと、ランランの右手に筒の様なものが現れる。
「そ、それはまさか! やめろ! いくらなんでもそれは!」
「黙れ! さあくらうがよい! 我が必殺技を!」
「やめろおおおおおおお!!」
炸裂音がした。一体どこから? 何か嫌な予感がする。
「一体何が……一応、見に行った方がいいよね?」
ロミリアと別れてから、俺は教室に行くつもりだった。しかし、なんとなく真っ直ぐ教室に行く気になれず、学園を探索する事にしたのだった。
そんな中で聞こえてきた炸裂音。どこかで聞いた事がある音だった。
「こっちかな?」
音のした方へ向かってみる。もしかして、ロミリアちゃんが言ってた敵?
魔王が世界を破壊するまでまだ3年ある。とは言っても、それまでに俺達の敵が現れないとは限らない。
「慎重に……って、またロミリアちゃんに言われちゃうかな?」
ロミリアちゃんが慎重にって言ったじゃないですかー! と怒る姿が思い浮かぶ。思い浮かぶと、その可愛い姿に自然と笑みがこぼれてしまう。
「っと、いけない。誰がいるかわからないんだし、慎重に、慎重に」
そう言いながら慎重に歩みを進める。校舎裏、そこから音が聞こえた気がする。
俺は音の出所を探りながら、慎重に歩みを進めていった。そして着いた校舎裏、そんあ俺の視界に、とんでもない光景が映る。
「そ、そんな……」
それは、俺の事を心配してくれるはずの……
「お願い……見ないで……ユミルさん」
白濁液にまみれたロミリアちゃんの、無残な姿だった。