5、学園の噂と不穏な動き
学園全体がざわついていた。
内容はもちろん、謎の光を放った女生徒に関してだ。
あんな魔法は見た事がない。
そもそもあれば魔法なのか。
あのドングさんが手も足も出なかったゴーレムを一瞬で倒した。一体何者なのか。
様々な憶測が飛び交っていた。
その中で、確かな情報があった。
女生徒はトリプルテール。
それはまるで三本の角。
光の三本角、それが彼女についたあだ名だった。
「どうしてこの世界でまで三本角って呼ばれなきゃいけないのよー」
俺は泣いた。以前にも、「Fine Online」でそう呼ばれた事があった。なんで角なんだよー!
「あれですよ、やっぱりいるんですよ、転生者」
隣にいるのはロミリアちゃん。
俺達は今、学園の中央、憩いの広場の芝生に座って雑談をしていた。
「私、三本角ってあだ名、キライ」
「そもそもなんでそんな髪型にしたんですか?」
……言えない、ツインテールとポニーテール、迷って2つとも全部取りだ!ってこの髪形になったとは。
「そ、それはそれとして、私の噂、他には何かある?」
そう、あの後ロミリアちゃんに俺の噂に関して探ってもらっていたのだ。そして、この三本角という不名誉なあだ名を耳にする事になった。
「他はあやふやな情報ばかりですねー。謎の光がどうだとか、見た事が無い魔法だとか」
まあそんなものだろうな。実際あのエターナル自体が偶然の産物だ。
「Fine Online」には光魔法、レイというのがある。そのレイを剣からビームの様に飛ばしたい。それが始まりだった。魔力をこめて出力調整を続ける内に、なぜかリミッターの様なものがはずれてしまったのだ。
リミッターの様なもの、というのは俺自身、何がどうなって出来たのか、よくわからないからだ。
とにかくあの頃の俺は神がかっていた。キルモードやヒールモードも同じである。もう一度作れと言われも無理だろう。ぶっちゃけ作っていた時の記憶がほとんど無い。
「私達も不思議でしたからね、そのエターナル」
そう、エターナルが完成した時、パーティメンバー全員にドン引きされた。そしてみんなに自分にも作ってくれと言われたけれど出来なかった。もう一度作ろうとしても、どうやって作ったのかわからなかったのだ。
デュノスなんかは、戦っている時に意識が飛んでも戦い続ける事があり、その時は普段使わない力を発揮する事があるのでそれと似た様なものだろうと言っていた。一種のトランス状態というやつだそうだ。
みんなもデュノスがそう言うので納得してくれた。デュノスってほんとすごい。
「しかし、思いがけず目立ってしまいましたね、ユミルさん。おそらくユミルさんを知る人は、ユミルさんがこの世界でもエターナルを持っている事に驚いたでしょうね」
確かに、あの時まで俺はエターナルは持っていなかったからな。突然現れて俺も驚いたし。
「そういえば、ロミリアちゃんは、持ってるの? ポムット」
「はい、持ってますよ、ほら」
そう言ってロミリアちゃんは笑顔で右手にはまった指輪を見せてくれる。
ポムット、ロミリアちゃんらしい可愛い名前のその指輪は、展開すると絶対無敵の壁を作り出す。
そう、ロミリアちゃんの能力は絶対防御。ポムットは何も通さない。また、ポムットを使わずとも、強力なシールド魔法を使いこなすのだ。
ついたあだ名が絶壁。
……どこがとは言わない。言ってはいけない。言ってもなぜか喜ぶし。
ちなみに、エターナルのキルモードなら絶壁を切る事は可能だ。だが、壁を切ってもすぐに壁は再生されてしまう。
最強の剣と最強の盾。
俺達の場合、剣で盾は切れるが、盾はすぐに再生するのだ。しかも盾を切るのが精一杯。盾しか切れず、奥にいる対象までは一太刀では届かない。そしてその再生速度に、剣はついていけない。ゆえに終わらない。勝負はつかないのである。
勝負がつくとすればそれは、周りの援護である。盾を切った瞬間に他の者が攻撃すれば通る。盾を切ったとしても他の者が援護すれば盾がすぐさま再生する。剣側と盾側、どちらの援護が優秀かで勝負は決まるのである。
あと、もう一枚、別のシールドを張られていればまとめて切る事は出来ない。絶壁を切るので精一杯だ。
エターナルブレイカー?
そんなもんロミリアちゃんに向かってぶっ放せるわけないだろう! もし貫通しちゃったらロミリアちゃんが消滅するわ!
というわけでエターナルブレイカーでポムットを貫けるかは不明である。
「なんだか懐かしいですね、みんなで冒険した事」
「……そうね」
俺ことユミルと、ロミリアちゃん、デュノス、ランラン、クリーナ。俺達5人は「Fine Online」で様々な冒険をした。
ユミルは万能型。剣も魔法もそれなりにこなすタイプだ。
ロミリアちゃんは支援型。絶壁をはじめとして様々な補助魔法が使える。
デュノスは戦士型。巨大な斧を振り回し敵を殲滅する。
必殺技の「破砕旋風斬」は巨大な竜巻といって言い程のすごさだった。「戦慄のデュノス」、なんて呼ばれてたな。
ランランはシーフ型、本人は忍者だって言ってたけど。素早い動きと色んな道具で敵を翻弄し、探索系の魔法や特技も使えるのでダンジョン探索をする時はいなくてはならない存在だった。情報収集も得意で他のパーティの情報やイベント情報なんかも色々教えてくれたっけ。
あだ名は「一家に一台」だった。本人は泣いていた。
クリーナは剣士型。冷静沈着で攻撃力はデュノスに劣るけど、多彩な剣技とスピードで、敵を圧倒していた。特に一点集中の鎧通しは強力で、一撃の威力はパーティ1だった。
俺のエターナルとどっちがすごいって?
クリーナはね、多分リアルでも剣術をやってて、勝負にならないんだ。簡単に言うと俺の攻撃はクリーナに当たらない。
クリーナのあだ名?「戦姫」だよ。決して「くっころさん」と呼んでは駄目だからな?
ちなみに何がとは言わないが、ここに記しておこう。
ユミル(巨)ロミリア(絶)ランラン(並)クリーナ(豊)デュノス(肉)
……何がとは言わないが。
「……懐かしいなぁ、みんな今頃、どうしてるかな?」
「え? 同じ学園に通ってるじゃないですか」
「いや、そうなんだけどね」
ロミリアちゃんからのツッコミが入る。
そう、みんなこの学園にいるんだよなぁ。ただここにいるみんなが、俺が知ってるみんなかどうかがわからないだけで。
「そういえば、ランランはどうだった?」
ロミリアちゃんはランランに接触してみると言っていた。果たして、どうだったのか。
「今のところはわかりませんね。出来るだけ慎重にいってますし。正直焦る事でもないですからね」
「え、でもみんなと再会出来るなら早い方がいいんじゃない?」
「……そうですね、まあ、そうですかね」
いまいち煮え切らない態度のロミリアちゃん。何かあるのか?
「いえ、そうですね、再会は早い方がいいですよね。わかってるんですけどねー」
「何か考えがあるの? ロミリアちゃん」
ロミリアちゃんは俺の考えの及ばない所まできっと考えてくれてるのだと思う。そう思うと、なんだか申し訳なくなってくる。
「いえ、それは……いずれ話せる時がくると思いますけど、今はまだ」
「そっか」
やっぱり何かあるのか。俺も、もっと気を引き締めないとな。
「わかったわ、でも、何かあったら遠慮なく言ってね?」
「はい、わかりました。それじゃあ私、ランランを探ってきますね」
「気をつけてね」
「はい!」
そう元気よく返事をすると、ロミリアちゃんは駆けていった。
「はぁ、やっぱり言えませんよねぇ。ユミルたんを独り占めしていたいから、みんなと再会したくない、なんて……」
ロミリアの独り言は、誰にも届く事無く、風の中に消えた。
ただ一人を除いて……