48、向き合う心、目覚める力、ブリザード
「以前にも言った通りだ。俺はお前、お前は俺。俺達はひとつだ! 誰が一番とかじゃない。みんな俺なんだ」
心の迷宮の中、俺はジャミルに対して言い放った。
その答えは以前、闇のユミルに変化した時と同じだ。
「……そう、やっぱり、あなたの答えはそれなのね?」
「そうよ! あなたの言う事が全て間違いだとは思わない。強くなりたい、敵を倒すんだって気持ちを否定したりはしない。その気持ちが強くなったのがあなたで、あなたは私だと言うなら、私はあなたを認めるわ」
俺の隣に立つ、ユミルもジャミルを認めると言う。俺も同じ気持ちだ。
俺だって人間だ、男だ。なら敵を倒して気持ちいいという感情は少なからずある。強くなりたいという気持ちも同じだ。最強って気持ちいい。それを否定する気は無い。
「……わかったわ。私はあなた、あなた達は私。そういう事ね?」
「そうよ」
「そうだな」
「なら教えて? あなた達は、誰が好き?」
「……え?」
ジャミルが突然、よくわからない質問をしてきた。
「誰が好きって、どういう意味だ?」
俺達の反応を見て、ジャミルがにやりと笑う。
「言葉通りよ? 今の仲間達の中で、あなた達は誰が一番好きなのかしら? 私達は同じなんだから、当然答えも同じよね?」
「……」
ど、どうしよう? どう答えればいいんだ?
そもそも、まず、俺が好きなのは誰だ? ロミリアちゃんか? ランランか? クリーナか? それとも他の誰かか?
そしてユミルだ。俺とユミルは同じといえど、男と女という絶対的な違いがある。
時々、男相手にときめく事がある。あれはきっと、ユミルの気持ちなんだろうと思う事があった。
そうなると、どうなんだ?
「私は……」
ユミルが答えようとする。
「ま、待てユミル! いったいなんて答えようとしてるんだ?」
ユミルの答え、それはきっと、俺の乙女な部分の答え。男の誰かを、答えるんじゃないだろうか?
だが待って欲しい。俺は男だ。俺は男同士で愛し合う趣味は無い! だからユミルの答えも、きっと女の子なんだと思う。思いたい。
しかし、俺自身が、誰が一番好きかもわからないのに、ユミルが答えられるのだろうか?
わからない。わからないのにユミルは答えようとしている。
「涼……ごめんなさい。きっとね、この答えだけは、私とあなたは違う答えになると思うの」
「な、なんだと?」
「ふふふ、でしょうね。そうよね? ねえ、なのに私達、一緒だって言うの? どうなの、涼?」
ジャミルがあおってくる。ユミルまで俺と違う答えだと言う。
「ゆ、ユミル……答える前に、ひとつだけ教えて欲しい」
「なに?」
「お前が答えようとしている人、それは……おとこか?」
「……うん」
はい終わったー。俺終わったー。もうひとりの俺は男が好きでしたー。
「う、うそだあああああああああ!!」
「嘘じゃないわ。私が好きな人も、男よ?」
「じゃ、ジャミルもだと!?」
そんなバカな。これじゃあ俺ひとりだけがおかしいみたいじゃないか。
俺は頭を抱えた。
「涼……」
「何が俺達は同じよ、聞いてあきれるわ」
「ジャミル、それは違うわ」
ユミルがジャミルをにらむ。
「どういう事?」
「ジャミル、人の心というのは、正解なんて無いと思うの。特に好きという気持ちは……だから私と涼の好きな人が違っても、私は涼が、私じゃないとは思わない」
「違うじゃない。好きな人が違うなんて、明らかに違うじゃないの。涼は男は愛せないのよ?」
「そうかな? まあそれを言うと涼は否定するだろうから、置いておいて。きっとね。違いはそこじゃないの」
「そこじゃないって、じゃあどこなのよ?」
ユミルが俺の肩に手を置いてくる。
顔をあげた俺の瞳に、ユミルが映った。
「ねえ涼、私がその人を好きになったのはね、私が女としてその人を見たからなの。涼は違う誰かを、男として見て、好きになる人がいるんだと思う。でもその違いはね、見る立場が違うだけなの。きっと私が男として見れば、その女性を好きになると思うし、涼も……女性としてみれば、私の答えに納得がいくと思うよ」
ユミルが笑う。
ユミルの言葉が心に染み込んでいく。
「ジャミル、もうやめよう? あなたもわかってるんでしょ? わかっていて……そっか、涼に納得させる為、意識させる為、なんだね?」
「なによ、急にわかった風に」
「わかるよ、私はあなた、あなたは私だもの。悪趣味ね、あの神様」
「……そうね、ふふ、わかってもらえて何よりだわ」
ユミルとジャミルが、お互い笑い合う。
「おいおい、なんか二人とも通じ合ってるみたいだけど、俺にもわかる様に説明して欲しいんだが?」
俺がそう言うと、ユミルが俺に語りかけてきた。
「涼、私ね、好きな男性がいるの」
「お、おう」
「つまりね、心の底で、涼は好きな男性がいるの」
「待て! 待ってくれ! それだけは否定させてくれ!」
俺は必死に否定するが、俺の主張を、ユミルは聞いてくれない。
「そして、好きな女性も……あれ? ねえジャミル、涼が好きな女性って、誰?」
「わからないわよ。だって、今まで誰が一番とか、誰が好きかって、ちゃんと考えた事がないんだもん」
「ああそういえばそうだっけ? あれ、もしかして涼って、好きな女性がいない?」
「好きな男性しかいない?」
おおい! ちょっと待て! 誤解を生む様な会話はやめてくれ!
「お、俺にだって! 好きな女性はいるさ!」
「誰?」
「誰?」
「……あー、その、えっと……」
ジャミルの言う通り、俺は今まで、誰が一番好きかなんて、ちゃんと考えた事がなかった。
あらためて考えるが……駄目だ、すぐに一番なんて決められない。
そもそも対象は誰だ?
ロミリアちゃん、ランラン、クリーナは中の人が男だ。
けど、もし、中の人が男じゃなかったら……
あとは、キミッチ、トリメンテ、リーノか。彼女達は中の人が男じゃない。中身まで女性だ。
だが生まれた世界が違う。けど、ユミルと融合した俺はすでにこの世界の人間だ。
そう考えると、彼女達の中から選ぶのが一番自然なのか?
いやいや! 選ぶってなんだ。俺はそんな立場じゃないだろう。
「そうだよ、俺みたいなフツメンが、相手を選ぶとか、ないだろう?」
「出た! そうやっていつも女性から逃げるのよね、涼は」
「あれだけ好かれているのにね」
ユミルとジャミルに突っ込まれる。
「いやいや! 好かれているのはユミルだろ?」
「何言ってるの? 忘れたの? クリーナが言った事。涼の方が好きってアレ」
「うっ! いや、あれは……」
「ロミリアとランランも言ってたじゃない。あれ、本心よ? それとも信じてあげないの?」
「いや……俺は……」
「さてジャミル、このくらいでいい?」
「そうね、これ以上は逆効果ね、きっと」
俺が真剣に悩んでいると、二人が急に態度を変えた。
「な、なんだよ二人とも?」
「いい涼? 今回のこれは、今の涼の気持ちを意識させる事が目的だったの」
「は?」
ジャミルがいきなりわけのわからない事を言い出した。なんだよ、意識させるって。
「自覚しなさい涼。あなたのユミルの部分は、男の人が好き。でもあなたは女性が好き、でいたい。でも一番好きな女性はわからない。このままだとあなた、男性攻略ルートに入っちゃうわよ?」
「そ、それは嫌だ!」
そうだ、いくらユミルの部分が男が好きでも、俺はやっぱり、男と愛し合うのはごめんだ!
「だったら、ちゃんと考えなさい。誰が好きなのか。あなたが決めた相手なら、私もユミルも納得してあげるから」
「そ、そうなのか?」
俺の言葉に、ユミルもジャミルもうなずく。
「私はあなた」
「私もあなた」
「だけど男と女、見る視点が違う。だからあなたはあなたの視点で、好きな人を決めて」
「そしたらまた、こうして会議を開いてあげるから。その時また決めましょう」
ジャミルとユミルの姿が、薄くなっていく。
「忘れないで」
「私達は、あなただけど、あなたも私達なの。これからも、ずっとね」
最後にひときわ大きく光ると、二人の姿は消えた。
気がつくと、俺はユミルの姿になっていた。
「俺は……私は……」
はじめはロールプレイだった。
だがいつしか、ユミルはもうひとりの俺だった。
俺はユミルで、ユミルは俺で、ジャミルも俺達の中のひとつの姿だ。
気持ちも、心もひとつ。
だけど、男と女。そこが違う。
ユミルは好きな男性がいるらしい。ジャミルも好きな男性がいるらしい。
ならば俺はどうなのか?
俺はこれから、どうしていくのか……
きっと今は答えは出ない。だけど……いつか答えを出さなければいけない時が来る。
その時俺は、誰を選ぶのか。
ひとつだけわかるのは、その時俺は、もう逃げられない。
逃げようとしてもユミルとジャミルが追いかけてくるだろう。二人は俺だ、逃げられない。
ならば俺は、自分に素直にみんなと向き合おう。
そう心に決めた時、トリプルテールが光った。
「な、なんだ?」
「おめでとう。おぬしは試練を乗り越えた」
突然目の前に、黒髪のロリババア。俺達の世界の神様、フィーネが現れた。
「何が試練よ? こんな事に気付かせる為だけに、こんな大掛かりな事して……」
「自分と向き合うというのは大切な事だろう? そしてそうしたおぬしだからこそ、あらたなる力を授ける事が出来るのじゃ」
あらたなる力。
そう言われると、自分の中に、今までと違う力があるのがわかる。
「これは……」
「おぬしも知っているじゃろう? わしらの世界で、恐竜がなぜ絶滅したか」
「氷の世界、それは全ての生命を死にいたらしめる」
「ゆえにその力は最強。全てに死を与える。だからこそ、おぬしは自分と向き合い、自分を知る必要があった。自分を知らぬ者に、この力を与える事はできんからのお」
フィーネはそう語ると、にやりと笑った。
「エターナル・フォース・ブリザード。相手は死ぬ」
それが俺の、あらたなる力だった。




