3、最強の剣、その名はエターナル
眠れなかった。俺は水を浴びて、無理矢理目を覚ました。
朝食の為に食堂に来る。周りはみんな女生徒。まあ女子寮なんだから当然か。
しかしこれ、みんな中身が男かもしれないんだよなぁ。なんかそう思うと、非常に残念でならない。
昨日お風呂に突撃しなくて正解だったかも。いくら外見が女性でも、中身男じゃなぁ。
なんて考えてたら、隣にロミリアちゃんが来た。
「おはようございます、眠れました?」
「いや、全然」
「あはは、私もです」
昨夜の事を思い出す。どうもロミリアちゃんはあまり気にしていない様だ。俺も気にしすぎない様にしよう。
とにかく今日は授業初日、疲れている場合ではない。
「眠れなかったのはしょうがないわ、こうなったら、ご飯を食べてパワー充電よ!」
「ですね!」
そして俺は、今日もガツガツ朝食を食べるのであった。
「それではこれより、私と模擬戦を行ってもらう! 各自準備をして、10分後に広場に集合せよ!」
教室について、授業が始まる。今日は講師と簡単な模擬戦を行うのみ、らしい。
講師のドング・ジュライさんが生徒に指示を出す。
ドングさんは騎士であり、この世界でユミルが目指す所にいる人である。簡易的な鎧に身を包んではいるが、鎧の隙間からは鍛え抜かれた肉体が見え隠れしている。
……ちなみに男性である。残念ながら女教師ではない。
周りが準備を始め、次々と広場に向かっていく。
もちろんユミルも生徒なのでその指示に従い、広場へ向かう。
ちなみに、特に着替えたりは必要ない。この学園の制服は魔法の繊維で編みこまれており、そこら辺の普通の鎧よりはよっぽど丈夫に出来ているからだ。
広場に着くと、ドングさんが剣を携えて立っていた。
「全員、準備はいいか! それではこれより一人ずつ名前を呼ぶので、呼ばれた者から前に出る様に!」
一人目が呼ばれる。
ヤラレール・デ・マタという名前の男だ。……なんかもう名前の時点で勝てる気がしない。
「ヤラレール、いっきまーす!」
「よし、こい!」
ヤラレールが駆け出す!
意外と早い! こいつ、やられキャラじゃなかったのか?
「おおおおお! 背撲万回斬!(はいぼくばんかいざん)」
ヤラレールは雄たけびを上げ、必殺技を繰り出す。
相手に背を向けたと思えばそこから器用に身体を半回転させ、その勢いで相手に向かって剣をなぎ払うという技だ。
……でも気のせいか、その名前はダメな気がする。
「甘い!」
「ぐはっ!」
ドングさんはヤラレールの剣をはじき返し、更に一太刀浴びせた。
「ま、参りました……」
「うむ、今の技は悪くなかったぞ、今後も磨いていけ」
「は、はい!」
ヤラレールの尊敬のまなざしを受け、ドングさんは1試合目を終えた。
「次! ユミル・メヅカ!」
お! 俺の番か。ていうかユミル、フルネームはそんな名前だったのか。多分、俺の苗字、乙女塚を元にしてるんだな。
俺は前に出て、自慢のトリプルテールをなびかせながら、剣を構える。
……それにしてもこの剣、どうにも頼りないな。
俺はユミルが持っていた剣、普通の鉄の剣を見つめる。
俺の使っていたあの剣はこの世界には無いのだろうか。……あるわけ無いよな、あれ、俺が作った剣だし。
俺が思い浮かべるのは、「Fine Online」で俺が自分で作った愛剣。つい最近の事なのに、はるか昔に感じるのはその剣が今、手元に無いからか。
「どうした? 準備が出来たなら、かかってこい!」
ドングさんの声で現実に戻る。そうだ、今は今。いまだにこの世界の事も、俺自身の目的も定かじゃないけど、だからこそ、目の前の事に集中していかなきゃな。
「いきます!」
俺は気合いを入れ直すと、力強く大地を蹴る。
一太刀目、あっさりはじかれてしまう。
だが、思ったより身体が動く。
ぶっちゃけ元の俺は剣とは程遠い生活を送っていた。25歳、社会人になって間もない、ただのサラリーマンだった。
そんな俺がここまで動けるのは、ユミルの身体のおかげだろう。意思があれば身体が動いてくれる。正直ここまでスイスイ身体が動くのは気持ち良い。
っと、集中しないとすぐにドングさんの剣が飛んできそうだ。
俺は集中して、ドングさんの隙を伺う。
……って、全然隙なんかないんですけど? ていうか身体は動いても、俺自身の戦闘経験はまったく無いんだよなぁ。そりゃ隙なんか見つかるわけも、そもそも分かるわけがないんだよなぁ。
「どうした? それで終わりならこちらからいくぞ?」
ドングさんの動きが変わる。マズイ、これはやられる。
……その時、校舎の方から爆発音が鳴った!
「なんだ! 何が起こった!?」
ドングさんの顔に焦りの色が生まれる。俺も何がなんだか分からない。
校舎から煙が上がり、中から何か大きな物が近づいてくる。
「あれは、まさか!」
煙の中から現れたのは、ゴーレムだった。
「あれって、ゴーレム……ですか?」
ドングさんの顔色を伺いながら尋ねる。石で出来た巨人。俺の世界ではゴーレムと言われるものだ。
「そうだ、おそらく錬金術の授業で生まれたのだろうが……しかしあんな大きさのゴーレムは学園では見た事がないぞ」
錬金術、そういえばそんな授業もあるって言ってたっけ。ドングさんにとってもこの事は予想外の事件だったようだ。というかあのゴーレム、こっちに近づいてきてるんですけど?
「お前ら! 離れていろ! おそらくあのゴーレムは暴走している!」
暴走!? そういうのもあるのか!確かにあればやばそうだ。
見ると周りの生徒達も距離を取っている。
「この装備では心許ないが、仕方あるまい!」
言ってドングさんが駆け出す。さっきまでとは桁違いのスピードだ。これが本物の騎士……!
「でえあああああ!」
ドングさんの剣がゴーレムを捕らえる!……が、簡単に弾かれてしまう。
「くっ! やはりこんな装備では無理か!」
ゴーレムが横なぎの鉄拳をふるい、ドングさんは弾き飛ばされる。
……どうする?
ハッキリ言うと、倒せそうなんだよなぁ。「Fine Online」ではゴーレム以上の魔物も倒してきたわけだし。
問題は、俺がまだユミルの身体に慣れていないって事なんだよな。さっきのドングさんとの模擬戦でも、本来のユミルなら一瞬で勝っていただろうし。
考えている内にゴーレムが迫ってくる。ていうかなんだ、もしかして俺に向かってきてないか、あれ?
ゴーレムのとの距離が迫る。ドングさんが何か叫んでいる。ロミリアちゃんは……間に合わないか。というか多分心配していない。ユミルなら問題なく倒せるだろうと信じているからだ。
ユミルの力……か。
その時、トリプルテールが光り輝いた。
3本のテールから放たれた光は、やがて収束し、1本の剣の形になる。
俺は確信した。この剣は……間違いない。
だから俺は、その名を呼んだ。俺の作った。
俺の、最強の剣の名を!
「エターナル!!」
その名を呼んだ瞬間、光が爆発して、最強の剣が、俺の手元に現れた。
エターナル
ユミルが作りし、最強の剣。
あらゆるものを切り裂き、あらゆるものを癒し、あらゆるものを滅する。
……すごい。
俺は今、剣を手にしている。
以前、ゲーム系のイベントで、勇者の剣を手に持った事を思い出した。あの時は剣を持たされて、それを画面にあわせてゆっくり振るう程度だった。
だが、今はあの時とは違う。これは本物の剣で、俺が作った、俺だけの、世界にたった1本しかない、最高の剣だ。高揚感がハンパない。剣を手にしているだけで感動で震えてくる。
そうこうしている内に、ゴーレムがどんどん近づいてくる。
「何をしているユミル! 早く逃げるんだ!」
ドングがユミルに向かって叫ぶ。だが、その声は届いてはいなかった。
「大丈夫ですよ」
ふいに、もう一人の生徒、ロミリアが呟く。
「ユミルさんならあの程度、問題ありません。それにほら、見てください。あのトリプルテールを」
「なに?」
「すっごく嬉しそうに動いているじゃないですか」
「え? あ? え?」
「さあ……いくわよ、エターナル」
俺は一度深く深呼吸をする。そして、エターナルに力を込める。
「ゲームでは何度も力を貸してもらったけど、こうして本当に使うのは初めてね」
俺はエターナルの力を解放する為、キーワードを叫ぶ。
「エターナル! 全力解放!」
エターナルが金色の光に包まれる。それを確認し、俺はエターナルを振りかぶり、咆哮する!
「エターナル・ブレイカーぁああああああああ!!!」
エターナルから黄金色の閃光が走り、ゴーレムを飲み込む。
そして大爆発。
光は天空へと舞い上がっていく。
光と爆発が治まると、そこには……巨大なクレーターが出来ていた。
「あっ、やば!」
俺は、やりすぎた事に気づいた。