1、トリプルテールは突然に
初投稿。ドキドキです。※全体的に改稿しました。2017/6/17
時刻は夜中の0時。
俺は今、自分の部屋で……
「あなたは、誰ですか?」
眼鏡をかけたイケメンに、押し倒されていた。
どうしてこうなった?
俺は今日一日を、振り返った。
ポニーでもない、ツインでもない。
金色に輝く、3本のテール。
トリプルテール、それが今の俺だった。
名前はユミル。
16歳。騎士を目指す可憐な女の子。
ここは、王立ルカディア学園。冒険者及び騎士育成を目的とした学園である。
近年、魔物の動きが活発になってきた事からルカディア王国が急遽作り上げたと言われている。
私もその噂を聞きつけ、この国にやってきた。
私は入学試験に合格し、今日からこの学園に通う事になったのだ。
全寮制になっており、荷物はすでに部屋に運んである。
「うん、そう……間違いない」
そう、間違いないはずなのに……なんだろう、この違和感は。
違和感を感じながらも、私はそのまま広場に向かう。
周りを見渡すと、私と同じ歳位の子達が緊張の面持ちで歩いている。
ざわざわ……
ふとしたざわめきを感じて目を向けると、そこには……2mを超える大男が立っていた。
「……」
圧倒的な威圧感。只者ではない。筋肉は膨れ上がっており、大きな斧を携えている。髪は黒く、ボサボサで、眼光は鋭く光っている。
普通ならお近づきにはなりたくない。周りの子達も遠巻きに見ているだけだ。
だというのになぜだろう? どこかで見た事がある様な……
「……っ!?」
瞬間、頭に電撃が走る。頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
これは……私は……いや……
「俺は……!」
そうだ、思い出した! 俺は……私は……
あの日、俺は死んだ……
突然の爆発だった。
何が起こったかもわからないまま、俺の意識は闇に落ちた。
-この世界を救ってほしい-
-3年後、魔王が世界を破壊する-
俺の頭の中は、死ぬ時までファンタジーなのかと我ながら笑ってしまった。
そして今、俺はここにいた。
落ち着いて自分をよく見てみる。
俺は男だ。
だというのに、この身体は女の子だ。髪も長い、そもそも俺は黒髪のはずなのに……この身体は金髪だ。服装も、この学園の制服だ。ちょっと短めのスカートが気になる。
触って確かめてみる。やわらかい。……じゃなくて!
そうだ、この身体には見覚えがある。そして……ユミルという名前。
本来の俺の名前は「乙女塚おとめづか 涼りょう」だ。ユミルではない。
……いや、実を言うとユミルという名前には心当たりがある。
俺は自分の姿が確認出来る物を探した。校舎の方に向かい、窓を探す。
……あった! 窓を見つけた。そして、窓に映った自分の姿を見て、確信した。
「ユミルだ……間違いない」
金髪の、何より間違えようがない。
ポニーでもツインでもない。揺れる3本のテール。
……トリプルテール。
そう、そこに映ったのは、俺が知ってる「ユミル」だった。
当時、俺の周りでは「Fineフィーネ Onlineオンライン」というオンラインゲームが流行っていた。
「ユミル」はそのゲームで俺が作ったキャラクターだ。
髪の色を金色にした後、ツインテールにするかポニーテールにするか迷っていて、最終的に両方つければいいんじゃね? と決めて生まれたのがこのトリプルテールである。
アクセサリー感覚でツインテールもポニーテールもつけられる為、ツインテールの真ん中からポニーテールが生えているという状態になっている。
知り合いに三本角と呼ばれた事を思い出した。
失礼な話だ、こんなに可愛いトリプルテールに対して……
……とにかく、このトリプルテールは間違いない、俺が作ったユミルだ。
しかしそうなると疑問が沸いてくる。
なぜ俺は今、ユミルなんだ?
しかもつい先ほどまでは思考は完全にユミルだった。今の状況も把握しているし、自分がユミルとしてどうすべきかも分かっている。
その時、集合時刻を告げる鐘の音が鳴った。
思考はそこで遮られ、俺はユミルとして、広場へ向かった。
学園長の言葉が続く中、俺は再び思考の海に浸っていた。
今の俺はユミルになっている。これは間違いない。ユミルは騎士になる為にこの国に来た。それまでの経緯や出身は……まったく思い出せない。
思い出せるのは、あのまどろみの中で聞いた言葉。
-この世界を救ってほしい-
-仲間を集めて-
-3年後、魔王が世界を破壊する-
いったいあれはなんだったのか。
ふと見渡せば、見知った顔がある。
小さい身体で一生懸命、学園長の話を聞いている少女、ロミリア。
凛々しい顔立ちと姿勢で隙がない女剣士、クリーナ。
うまく気配を殺して息を潜めている忍者少女、ランラン。
彼女達は俺が「Fine Online」でパーティを組んでいた子達だ。
そして先程の大男、デュノス。彼もパーティメンバーだった男だ。
なぜ彼らがここにいるのだろう? ここは「Fine Online」の世界なのか?
いや、「Fine Online」に、ルカディアなんて国はなかったはずだ。魔物はいたが、魔王なんて存在しなかった。
ユミルの記憶を思い返しても、「Fine Online」に繋がる記憶は無い。
そうなると、「Fine Online」とは別の世界と考えた方が良いだろう。
……ではなぜ彼らがこの世界にいるのか。
-仲間を集めて-と声は言っていた。
仲間とは、彼らの事なのか。
彼らは元々、NPCではない。れっきとしたプレイヤーキャラクター、つまりユミルと同じ様に誰かが作ったキャラクターなのだ。
ならば彼らもまた、俺と同じく転生者なのか? 今頃彼らも俺と同じ様に思い悩んでいるのだろうか?
……今考えても何も分からない。
わかっている事は、俺は仲間を集めて魔王を倒す。という事を求められている。
後で彼らに接触して聞いてみるしかないか。
学園長の話はまったく耳に入ってこなかった。
俺は学園長の話の後、教室へ向かった。
授業は明日から。今日はこのまま解散となるらしい。
クラスメイトは12人。意外と少ないのか?
試験がどうだったかは思い出せない。案外厳しい試験だったのかもしれないな。
「ねえ、あの金髪の子、あの髪型どうなってるの?」
「あのポニーテール、どこから生えてるのかしら?」
……俺の髪型に視線が集まっている気がする。そりゃそうか。
金髪だし、3本もテールが伸びてるわけだし。
俺は自慢のトリプルテールに触れる。……うむ、やはりトリプルテールは素晴らしい。
なんて浸っていても仕方ない。ひとまず寮に戻ろう、ユミルの記憶から場所はわかるし。
寮に向かおうとした時、一人の少女が話しかけてきた。
「あの、こんにちは。私、ロミリアっていいます」
話しかけてきたのは元パーティメンバーのロミリアちゃんだった。
小さくて可愛いロリっ娘。ピンク色の髪を揺らしながら愛くるしい赤い瞳がこちらを見つめてくる。
「あ、はい。私はユミルです、よろしくお願いします」
「ユミルさん、ですね。こちらこそ、これからよろしくお願いします」
ロミリアちゃんは相変わらず可愛くて癒されるなー
……と、そうだ。癒されてる場合じゃない。
このロミリアちゃんが俺の知ってるロミリアちゃんなのか確かめないと。
「あのね、ロミリアちゃん、聞きたい事があるんだけど」
「なんでしょう?」
「えっと……」
俺はロミリアちゃんに、俺の知ってるロミリアちゃんか尋ねようとしたが、ふと思う。
もし違ったらどうしよう? 頭のおかしいやつだと思われないか?
「……そうだ、寮まで一緒に行きましょう。それで、寮でゆっくりお話ししない?」
「わかりました、ご一緒します」
ロミリアちゃんの笑顔がまぶしい。
果たしてお話はどうなるか。
少し不安を感じながら、俺はロミリアちゃんと一緒に寮へ向かった。
寮は学園のすぐ隣にある。俺とロミリアちゃんは話しながら、寮へ向かう道を歩いていた。
「へー、じゃあロミリアちゃんはまだ13歳なんだ?」
「はい、ほんとはまだ学園に入れる歳じゃないんですけど、能力が認められて、早い方がいいだろうって学園長さんが」
なるほど、どうやらロミリアちゃんは相当優秀らしい。
「そうなんだ、すごいねロミリアちゃんは」
「すごくなんてないですよー、でも、ユミルさんに褒められるとうれしいです」
ああ、可愛いなーロミリアちゃんは。さすが我がパーティの癒し担当。
……ちなみに俺がユミルとして話す時、言葉づかいが女性になっているのはだ。別に俺はオカマとか女装趣味とかじゃない。女体化願望があるわけでもない。ならなぜ女を選び、女を演じているのか? それはだ、どうせロールプレイをやるなら、自分と違った自分を演じたかったからだ! そう、これはロールプレイなんだ! 断じてそういう願望があるわけではない! あとほら、女性キャラの方が装備とか優遇されるし!
なんて俺が心の中で必死に語っている間に寮に着いた。
「あ、ユミルさん、どうやらもうすぐご飯の時間みたいですよ」
気がつくと日が沈み始めていた。そうか、晩ご飯の時間か。
「そうみたいね、おいしそうな匂い」
……ああ、ほんと、いい匂いがする。駄目だ、お腹が空いてきた。これは急がねば。
「ロミリアちゃん、急ぎましょう! ご飯が私達を呼んでるわ!」
「え? は、はい! わかりました!」
俺は急ぎ足で1階の食堂へと向かった。
ご飯の最中、俺達は自分の事を語り合った。
だが、俺が転生者である事、ロミリアちゃんが転生者かどうかは聞けなかった。
さすがに周りの目がある中で、そういった話はしづらい。
俺はロミリアちゃんに、夜、部屋で話をしないか誘ってみた。
「は、はい! 私も、ユミルさんに、大事な話があります!」
どうやら向こうも話がある様だった。
俺達は別れて、それぞれ部屋に戻った。
「ふう……」
堪能した。すばらしいご飯だった。
あの肉、あのスープ。あの魚。どれもすばらしいものだった。
……女の子なのにガツガツ食べてしまったのはよくなかったかもしれない。
晩ご飯を堪能した俺は自室でくつろいでいた。
ベッドとタンス、机と非常にシンプルな一人部屋だった。
部屋が一人部屋なのはありがたい。一人で色々考えたい事もあるしな。
「さて、これからどうしようかしら」
この後はお風呂に入って寝るだけだ。
……お風呂か。
今俺、ユミルなんだよなぁ。という事は、女風呂……
「く! 静まれ俺の男心! イカン、イカンぞ! まだその時ではない!」
何がその時なのかは分からないが。
……結局、俺はその日、最後に誰もいない事を確認してから、風呂に入った。
違うんだ、いざ入ろうとするとその、罪悪感がだな……
まあ、ユミルの身体は見た。
見たけど、自分で作ったキャラクターだしな。正直見慣れているというか。うん。
イカンな、らしくないぞ俺!
そうだ、明日は必ずみんなと一緒に入ろう! だって今の俺、女の子だし! 問題ないよな!
そうして自分に言い聞かせていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「あの、ロミリアです。ユミルさん、まだ起きてますか? 入ってもいいですか?」
心臓が跳ね上がる。ロミリアちゃんがやってきたようだ。
ちなみに現在は23時40分。この世界にも時計はあるんだなー。部屋の壁にかけてあったわ。
「はい、どうぞ」
俺がOKを出すと、ロミリアちゃんが部屋に入ってくる。
……パジャマ姿のロミリアちゃんも可愛いなー
ちなみに今の俺もパジャマ姿である。タンスに入ってた。
俺はロミリアちゃんをベッドに座る様に促す。……男の俺がやったら犯罪だな。
「ありがとうございます」
ロミリアちゃんは一息つくと、俺に向かって話しかけてきた。
「あの……ユミルさん、実は私、大事なお話があるんです」
ロミリアちゃんの顔が真剣なものに変わる。
おそらく、俺と同じ転生者だという話だろう。俺も覚悟を決めて、話さないとな。
「あの……ユミルさん!」
「うん」
そういえば、もしロミリアちゃんも俺と同じ状況だとしたら、ロミリアちゃんの中の人ってどんな人なんだろう?
なんて考えていたが、次の瞬間、その思考は吹き飛んだ。
「ユミルさん、好きです! 私と付き合ってください!」
……え?
「い、今なんて?」
「あの、女同士で変だと思うかもしれませんが、それでも私は! ずっと、ユミルさんの事!」
え? なに? ずっと?
そのずっとは、いつの事なのか。あの可愛いロミリアちゃんが、俺の事を好き?
考えている間に、ロミリアちゃんの唇がせまってくる。
思考が定まらない。
いよいよ唇が触れるという時、時計の針が、0時をさした。
「え?」
「え?」
そしてその時、二人の時が止まった。
ユミルとロミリアの時が止まり、俺、早乙女 涼の時間が動き出したのだ。
そして目の前には……
「……あなたは、誰ですか?」
眼鏡をかけたイケメンがそこにいた。