84.0話 パジャマパーティー:夜這い
少女は細く柔らかな髪を靡かせ、軽く両目を閉じ、うっとりとしている。成されるがままだ。
ブオオオ! ……と、大きな音が周囲の音を掻き消す。
そう。現在、髪を乾かしている最中である。
ふいにその喧しい音が途切れる。憂は薄く目を開いた……が、またすぐに閉じた。続いてブラッシングが始まったのだ。彼女はこのひと時が大好きなのだろう。心地良さそうにしている。憂の髪は収まりを見せていない。多量の空気を含んだように広がっている。
「あは。憂ちゃん、気持ち良さそうだねー」
「だね。梢枝さん、これを……」
千晶は梢枝に霧吹きを手渡す。それを憂の髪に直接噴霧しつつ、再びブラッシング。膨らんだ髪が落ち着きを取り戻す。そして憂の至福のひと時が終わりを告げた。
そうこうしていると千穂がリビングに姿を現した。
「あれ? 千穂、髪洗わなかったの?」
「うん。後がつかえてるから」
「わたし、最後でいいから佳穂と梢枝さん、入ってきて?」
「1人ずつでもいいよ?」
「時間勿体無いし、そーしよ?」
「ええですよ。ほな行きましょか……」
……その時、憂は千穂の至ってシンプルな白のパジャマ姿に釘付けなのであった。
「佳穂さんは……どうされはるん?」
浴室の洗い場。梢枝の声がエコーを掛けたように響き渡る。もちろん、佳穂も同様だ。
「どうって……?」
「憂さんの事です。諦めへん言うても……」
佳穂と梢枝のツーショットは初めてかも知れない。梢枝は基本的に憂を見ている。仕事上の都合もあり当然だ。
佳穂もまた千晶と行動を共にしている事が非常に多い。
よって、2人切りは初めてなのだ。
「諦めないよ? それにしても……梢枝さん、プロポーションいいなぁ……」
「そないに見られると、さすがに恥ずかしいですわぁ……。佳穂さんもスレンダーで格好ええ思います。もう少し、年齢を重ねはったらウチを超えてきますえ? そないな事より、佳穂さんはそれでええんですか?」
「誤魔化せないかぁ……。あれ、どうやるの? 話逸らすヤツ」
「アレはコツがあるんですわぁ。今回は逸らせませんでした。諦めて教えて下さい。宜しければ……ですけどねぇ……」
……口調だけで捉えると佳穂が年上に見える不思議があるが、お互いに気にしていない様子だ。年上の梢枝が敬語、年下の佳穂がタメ口。一時期、梢枝も口調を崩していたが、佳穂が告白後、誤魔化し半分に矯正してしまった。梢枝もこの方が話し易いらしい。
「笑っちゃやだよ?」
「約束はしぃしまへんえ?」
「……まぁいいけど。あたしさ。ホントに憂ちゃんの事、好きになっちゃったんだよね。外見はもちろん、憂ちゃんの中……にかな? 千穂は憂ちゃんの気持ちに応えられない理由があるし」
「はい……。お母さんの願い……ですね……」
「うん。憂ちゃんが男の人と付き合えるようになれば、それはそれで仕方ないと思えるんだよ? それが千穂の想いだと思うし」
「そうですねぇ……。でも……」
「簡単に割り切れる話じゃないよね。憂ちゃん、目覚めたらいきなり女の子だったんだから。いきなり『女の子になったんだから男の子を好きになるべき』とか……あり得ないよね。無理だと思う。だから……あたし、千穂に好きな男の人が出来て……、憂ちゃんを離す時に……。逃げ道になっててあげるんだ。だから諦めない。もう、憂ちゃんの想いの邪魔もしない。ずっと待っててあげるんだ。千穂も誰かそんな人が居ないと憂ちゃんが気になって恋愛なんか出来ないだろうしね。だから、あたしは待ってる。憂ちゃんが1人になっちゃう時の保険でいい。憂ちゃんが男を好きになった時は……もちろん、祝ってあげるつもり……」
「……佳穂さん。それは……」
『辛くないですか……?』
その問い掛けは出来なかった。辛いに決まっている。ただその時を待つ。憂と千穂を想い、佳穂の出した結論に梢枝は何の慰めの言葉も掛けられなかった。
その頃、千穂の部屋では……。
「憂? ちょっと……立って?」
憂は、よく躾けられた犬のように従順だ。言われるがままに立ち上がる。
「あ」
正面から見た千晶が思わず声を上げた。透けている。
「うん。着替えよ」
憂は千晶の視線に釣られたのか自身の体を見下ろす。そして、両手で体を必死に隠し、座り込んでしまった。所謂、女の子座りで恥ずかしがる姿に千穂も千晶も笑う。その姿はとてつもなく女の子らしかった。
そして、すぐに着替えさせられた。サテン地の白いパジャマだった。他にもネグリジェやら色々とあったが、それが一番、シンプルな物だったのである。
憂はサラサラスベスベなその感触を前に、サワサワしていたのは今までの行動から当然の事と云えるだろう。
千晶の入浴も終わった。全員のパジャマが白だった。理由は語るまでも無い。憂以外の4人は顔を見合わせると、困ったように笑いあったのだった。
そして、ついに遊びの時間が始まった。
まずはトランプだ。憂がルールを憶えているゲームはほとんど無く、ババ抜きの最中である。
梢枝が千穂の手札に触れる。すぐに引き抜くと1セット合わせた。千穂は次の千晶のカードを躊躇うことなく引き抜く。揃わなかったようだ。千晶から引いたカードはそのまま千穂の手札となる。
……迷いが無い、表情すら伺わない理由は単純だ。
続いて千晶が憂の手札の一枚に触れる。憂がにやける。隣のカードに移動すると悲しそうな表情を浮かべた。
……つまり、誰がジョーカーを持ち、どのカードがジョーカーなのかバレバレなのだ。
「――やった」
千晶は敢えてそのカードを引いた。それは彼女の優しさなのかも知れない。
そのゲームは千穂の負けだった。残念ながら罰ゲームは無かった。罰ゲーム付きの遊びは、憂が対等に勝負出来るものが見付かるまでは保留となっている。
「次はこれー!」
佳穂の荷物には無数のゲームが詰まっていた。その中からオセロを取り出す。オセロは憂にも出来た。単純明快なルールのゲームだからだろう。佳穂は憂に出来そうなゲームを多数、見繕っていたようだ。しかし、憂は弱かった。だが、このオセロは意外なことに盛り上がった。千晶が得意だったのだ。案外、コツの要るオセロ。千晶は梢枝とのガチンコバトルに勝利したのである。梢枝はリベンジを誓っていた。本気で勉強する気なのかも知れない。
「こんなのもあるよー?」
ボードゲーム。この人生ゲームは冗長だった。時間が勿体無いと盛り上がりを見せる前に終了してしまった。
「今度はこいつだ!」
ジェンガであった。組まれたブロックを引き抜き、上に積んでいくと云うあの玩具だ。これこそ憂も可能なゲームだった。全員が左手使用のルールが追加されると、戦力的にほぼ互角となったのである。
そして導入される罰ゲーム。
以前のヘンテコお菓子群と戦った時と同じ要領だった。罰ゲームを決めた上で、ゲームを開始。倒した者が罰を受け、直前の者が次のゲームの罰ゲームを決める。
最初の罰ゲームは腹筋5回。憂がいきなり負けた。梢枝が足を押さえ、真っ赤になりプルプルと震えながら腹筋を1度だけ成功させた。『…………』となった一同だったが、憂1人だけは嬉しそうだった。
「――はじめて――できた――」
日々の日課として繰り返してきた努力が、ここに来て、ようやく実った事を4人は知ったのだった。
ゲームはどんどん進行された。佳穂が腕立て伏せを。憂が背筋を。千晶がスクワットを。梢枝が口紅厚塗りの罰ゲームを執行された。
この罰ゲーム制と云うものは次第にエスカレートしていくのが難点である。
この日の罰ゲームも例に漏れず、次第にエスカレートしていった。
佳穂が大真面目に君が代を斉唱させられると、千晶は流行りのAPPAをフリ付きで歌わされ、梢枝はホントにあるのか? ……と云ったやらしい謎のヨガポーズをさせられた。
佳穂が一度は『たしかに起きなかったんだけどさー。酷くない?』と文句を言いつつ消した【I LOVE YUU】と言う落書きを復活させられると、千晶はパジャマの下をノーブラにされた。
そこで年長者、梢枝からのストップが入った。その唇に、はみ出す口紅が滑稽で梢枝を除く全員が笑いを堪えていた。憂もだ。
そんな滑稽な顔で真摯に伝えた。これ以上の罰ゲームは危険である……と。至極真っ当な意見だったが、負けの込んでいた佳穂と千晶は納得できなかった。そして、おかわりの1回が追加された。
千晶は最後の罰ゲームを告げた。内容は1分間の全員によるくすぐりだった。
ゲームの終盤。『梢枝さん。その顔、反則』などの言葉の妨害に屈することなく梢枝は各所を突付き、何とか安全な箇所を引き抜き、慎重にそれを載せた。
続いて千穂がゲームに於ける集中力を遺憾なく発揮し、ブロックを積み上げた。『千穂ぉー? 落とせー?』などの外野の妨害もおそらく耳に入らなかった。
「くそー! 千穂だけが罰ゲーム受けてないのに! 悔しいぃ!」
「佳穂? 言葉が汚いよ?」
憂は中央付近のブロックをつんつん突付き、そのブロックを啄木鳥のように突付き落とした。落ちた振動でタワーが揺れたが、運良く持ち堪えてくれた。何故だか憂の時のみ妨害が無い。
「「「ふぅ……」」」
何故か全員が安心した様子だった。憂はそのブロックを嬉しそうに摘み上げると、ひょいとタワーに載せた。載せた場所がたまたま良かったのか、タワーは揺れる事も無く安定していた。
佳穂はツンツンと動かせそうな箇所を探す。そして、僅かに動くブロックを見付け、震える手でソッと掴んだ瞬間だった。
「……せやかて佳穂さん」
それまで一切の妨害発言をしなかった梢枝がボソッと呟いた。そして佳穂は梢枝を見てしまった。その厚塗りされ、鱈子唇と化した梢枝を。
「ぷぷ!」
手元が狂った。プラスチック製のブロックたちが大きな音を発した。タワーを崩してしまったのである。
「卑怯だー! あの顔、ズルすぎるー!! え? あの。ちょっと待って? うぎゃー!!」
元から女子の3名に佳穂が悶絶されられる間、憂は直視できずオロオロと右往左往していたのであった。
「酷い目にあったー。もうお嫁に行けないー」
「……私の時、もっと長かったよ? 罰ゲームでも何でも無かったよ? 突然だったよ?」
「もう罰ゲームは嫌だぁ……。勉強するー」
「あの佳穂がまた勉強とか言ってる……。明日は嵐かな?」
「勉強ですかぁ……。提案があります」
千穂のクレームは当たり前のように流され、勉強の第2ラウンドが開始された。梢枝の提案は遊びの延長だった。憂の漢字の勉強を兼ねて、古今東西漢字編。
「草」
「――くさ――くさ――」
「苗」
「――なえ――うえる――」
「薄い」
「――うすい――あたま――」
「なんでやねん」
「あぅ――」
「若い」
「わかい――しゅう――」
「若い衆て」
「意外と草冠って難しいね」
お題を決め、まずは憂に部首ごとに知っている漢字を上げて貰い、そこから4人で漢字を列挙していく。梢枝もやはり書きより読みが優先と云う見解だ。人編、阜偏、門構、下心とお題は移り変わっていった後が現在の草冠である。
「4個出たよー。憂ちゃん、読んで……みて?」
4人でひと回り。4人が書いた漢字を憂が読んでいく。
「――くさ――なえ――うすい――わかいしゅう――?」
「衆は……要りまへん」
「なんか若ハゲの人、想像した」
「わかる」
「――じょうだん――なのに――」
「冗談だったのか。気付かなかった」
「草冠の常用漢字はこないな所ですかねぇ……? 残ったものを書いておきます」
【苦しい 芝 お茶 菜っ葉 薬】
「まだこんなに……」
「梢枝さんの脳みそ凄い……」
「うん。どうなってるんだろうね」
「まだあると思いますえ?」
「んぅ――?」
「くるしい……しば……おちゃ……なっぱ……くすり……」
「くるしい――しば――おちゃ――えっと――」
「なっぱ」
「なっぱ――くすり――」
お題は3つ目。着実に読める漢字は増加しているようだ。ゲーム式にした事が正解だったのだろう。
「――魚」
「魚?」
「――魚へん――なら――勝負――できる――」
「それでは……やって……みます……?」
「――うん」
半信半疑ながら初めて憂を加え、ゲームは始まった。
「あー! ダメ! あたし、もう出ない! ギブアップ!」
「なんで魚偏だけこんなに知ってるの? わたしもピンチ」
「えっと……虎……でシャチだったよね……」
「……正確には違います。憂さん?」
【鯱】
憂が線を1本加え、文字が完成した。
「えー? 虎じゃないんだ……。私も失格……。残り3名……。憂、頑張って……」
「――うん――がんばる――」
「わたしももうダメ。憂ちゃん、打倒・梢枝さん!」
――――――。
「――うん。まだ――いける――」
「……ウチもきつうなってるんですけどねぇ……」
「読みじゃなくて書きだもんね」
【鯛鯉鯰鯖鰹鮭鮃鱸鮮鮗鰆鮪鰍鯵鮫鯨鮒鰤鮎鰰鰻鱈鯱鮑鯔鰊鮹鰈鱧鱚鱒】
漢字の列に憂が【鯑】を加える。
「これ……なに?」
「かずのこ――」
「もはや魚違うし」
【鮟】と梢枝がひと文字加えると【鱇】と憂が続いた。
「憂さん、ずるいですわぁ……」
「レベル高くて理解できない」
「2つであんこう……かな? ほら、右側……作りの音読み」
「なるほどぉ……」
【鱗】【鰯】
「まだ、鰯とか残ってはったの……」
梢枝の顔に焦りが浮かぶ。真剣勝負の様相だ。憂の本気に本気を持って応えている。手加減しないのもまた愛情かも知れない。
「梢枝さんがピンチ……」
「梢枝さん、まさかのギブアップかぁ!?」
……2分後、梢枝の手がようやく動いた。
【鮨】
「ありましたわぁ……」
「何これ?」
「寿司だね」
「寿司でいいじゃん」
「わたしに言うな」
「憂? まだ……いける?」
「うぅ――まって――」
「待ち……ますえ……」
「うぅ――魚――がんばれ――う?」
【鮠】
「憂さん? これは……?」
「――はや」
「はや?」
早速、佳穂がググル先生に聞いてみた。
「あ! 本当だ! 梢枝さんも知らなかったのかな?」
「ええ……。知らない漢字でした……。参りましたわぁ」
「梢枝さん、ギブアップ! 憂ちゃん、凄いー!!」
「憂……」
「――へへ」
「憂ちゃん嬉しそうだね」
「他のこんなのあるよー? ワニ、エラ……」
「あー。そないなの出ませんわぁ……」
憂の勝利でゲームはお開きとなり、完全な勉強時間となった。元々の目的を忘れていない良い子たちなのである。
やはり梢枝が4人の勉強を見る形で進行していった。憂はそのまま漢字の読みの勉強だった。梢枝は魚偏の漢字を分解し、「弱い魚だから鰯なんですえ?」と云ったように、そこから教えていった。賢い遣り方と云えるだろう。
だが、憂の勉強はすぐに捗らなくなっていった。睡魔の襲来。憂は千穂のベッドに躊躇っていた。気分は少年の憂だ。愛しい人のベッドに加え、女子たちがベッド外での睡眠となる事に抵抗があったのだろう。しかし押し寄せる睡魔に憂が勝てるはずもなく、どこか諦観した様子でモゾモゾと千穂のベッドに入っていったのだった。
残った4名はしばらく勉強をしていたが、脱落者が出ると流れは変わる。日付が変わる前には就寝となったのだった。
……豆電球のみの薄暗い空間の中で1人だけ眠れない者が居た。
眠れないよー。
千晶ー? 昼寝しすぎたよー。
今何時? スマホスマホ……あった。
……まだ2時。丑三つ時。みぃーんな寝ちゃってるんだよねー。
憂ちゃんからもっと色々聞きたかったなー。男の子の時と女の子との違いとか、色々聞いてみたいー。
…………。
……なんか読も。
暇潰しにはこれが一番。チャラララン! 小説サイトー!!
【恋愛 学園】……っと。
……うわぁ……これでR指定じゃないって、基準甘いんじゃない?
女の子同士で触り合っちゃって……。
……………………。
あたし……どうなんだろ?
憂ちゃん……。可愛い。大好き。
……でも。
女の子。
千晶。ちょいごめん。
あ。そっか。ノーブラのままだ。この子。
……柔らけー。あたしらの中で一番大きいし。
うん。感触はすっごい気持ちいい。でも全然興奮しない。
「ん……」
やば!
……せーふ。びびったー。
やっぱり千晶じゃダメだなー。
いっつも一緒なんだもんなー。
……憂ちゃんなら?
そーっと……。
そーっと……。
あー。千穂邪魔。
うひっ!
ベッドきしんだ!
音出ちゃやーよ。
……お邪魔しまーす。
またいじゃった。体重は掛けないから安心してね……。
布団ぺろり。憂ちゃん、ちっちゃいなぁ……。
どう言う気分なんだろうね。不安……だよね……。全然、力無いし……、腹筋だって、今日初めて1回出来たって……。
襲われても抵抗出来ない憂ちゃん。
逃げる事も出来ない憂ちゃん……。
…………守ってあげたい。守りたい。
……。
あは! 寝顔いつ見ても可愛い!
ごめんね。
あたしの気持ち……確かめさせて……。
あー。ドキドキする。
これは……どっちかな? バレたらヤバい。それとも……?
ボタンを持つ手が震えて……。
ふぅ……。1つずつ……1つずつ……。焦るな佳穂。ゆっくりでいいんだから。
よし。ボタンの関門突破。
いつ見ても白くてキレイな肌。ちっちゃい可愛い胸。
…………んー。
……いっちょ前に柔らかいね。ブラ邪魔だ。
さすがに外すのは無理だよねー。
もっと見たい? 触りたい?
…………分かんない。やっぱバカだ。あたし。
……いいかな?
あたし……キスしたい。鱚。憶えてちゃったよ。萎えるー! 消えろ鱚め!
そーっと……だよ……。
うわ! ギシって音出た!
その距離10cm……。射程圏内。ごめんね。憂ちゃん。これで……これだけで待つからね。1度だけ……ごめん。
………………。
………………。
………………。
……すっげー。柔らけー。初めてキスしちゃった。秘密だよ。あたしの初めてのキス。ファース「何やってんの?」
!?
「佳穂……あんた……」
「ちあ「しぃ!」
「佳穂……。何考えてんの……」
「えっと……その……」
千穂の家のリビングへ移動した。千晶は隠してくれるみたいだね。あたしの変態行為。
「その……じゃないでしょ? 憂ちゃんの同意があればわたしも怒らないけどね」
「だって……。ただ待つの辛いんだもん……」
「佳穂……」
千晶だけには前に伝えてた。今日、梢枝さんに聞き出された、あたしの覚悟。
「もう……2度としないって約束できる? あんたの想いが届くまでは……ね?」
「……うん」
「佳穂のおバカ……。自分で選んだ茨の道だよ。辛いの当たり前じゃない……」
「……うん」
「……おいで」
あたしは千晶の胸に飛び込む。優しいよね。千晶も……。
……まだノーブラかいっ!
「それで……どうだった?」
「……ふぇ?」
……変な声出た。恥ずかしい。
「初めてのチュウ」
「……普通、それ聞く?」
「だって……気になるじゃない……」
……そんなリビングの2人にそっと背中を向け、千穂の部屋へと戻る梢枝なのであった。