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83.0話 パジャマパーティー:夕飯と入浴と

 


 ――んぅ?


 ――――ねてた。


 あたま――すっきり。


 ――でも――ふんわり――。


 へんなの――。


 ――ふんわり?


 ――いい――におい――。


 千穂の――におい――。


 ――ふとん――あたま――。


 かぶって――た――。


 うぅ――まぶし――。


 ――――。


 ――千穂!?


 ――千穂?


 ――――ねてる。


 かわいい――千穂――。


 ――ねがお――。


 ――みんな――は――?


 ちょっと――ごめん――。


「んん……」


 ――!?


 ――ふぅ。


 ――みんな――ねてる――。


 ――千穂――。


 ほっぺた――つんつん――。


「……んー」


 ――――かわいい――こえ――。


 ――どきどき――おさまれ――。


 ――つたわる――から――。





 もっと――ふれたい――。





 ――だめ!


 ――だめ――だよ?


 もっと――どきどき――。


 うぅ――。


 ――――。


 すこし――。


 ――このまま――。



 ――――。



 ――――。



 ――――。



 千穂――すき――。



 ――――。



 ――――。



 ――でも――。


 ――なんで?


 ――なんで――こんな?


 ――こんな――ことに?


 なんで――?


 なんで――?


 なんでなんで――?


 ――――。


 ――――おんなのこ――。


 なりたく――なかった――。





 ――おとこ――なら――。





 ――――千穂と――。





 ――だめ。


 ――かんがえる――な――。


 ――――ここで――ないたら――だめ――。


 ――千穂の――べっど――。


 うれしい――。


 ――でも――ちがう――。


 ――おんなのこ――。


 はぁ――――。



 ――千穂――。



 ――――。



 ――――。




 ――――。





 ――――。





 ――のど――かわいた――。



 あそこ――じゅーす――。


 ――はんたい――まど――かべ――。


 千穂――。


 ――とおれ――ない――よ?


 ――――。



 ――ごめん――ね。



 とおして――ね?



 ――ふとん――じゃま――。



 ――――――?


 ――――?


 ――!?



「わぁぁぁ――!」



 ――千穂!


 ――――なんで?


 ――――――ぱんつ!?



「んん……」



 ――おきる――!?


 ――――どう――しよ――!?


 うぅぅぅ!!



 ――千穂――。


 ズボン――はかない――()


 ――しらな――かった。








「憂さん……起きはったん……?」


「ん……? 梢枝さん、おはよ。憂ちゃんも」


 憂が騒いだせいだろう。千晶と梢枝がモゾモゾと起き出した。憂は布団を捲り、固まっている。視線は白黒ボーダーのソレを捉えたままだ。時折、「うぅ――」と唸り声を上げている。


「憂ちゃん……獲物を……狙う……猫の……真似?」


「――え!?」


 慌てて布団を離すと「ちっ――ちがっ――!」と興奮混乱状態へと(おちい)った。動揺の隠せない可哀想な子である。


「「血!?」」


 梢枝と千晶は飛び起き、布団を撥ね退ける。また白黒ボーダーのソレ……。つまり、千穂のショーツ姿が再び(あらわ)になった。


「――わぁ!」


「ん……なに……?」


 憂は撥ね退けられた布団に頭を突っ込む。素早かった。珍しい。千穂は後ろ手を突き、体を起こすと「あ……れ……?」と呟いた。その視線は自分のパンツに注がれている。


「千穂。ちょっと立って?」


「………………?」


 千晶の言葉に小首を傾げつつ、従順に従う。寝起きで思考が追い付いていないのかも知れない。当然、体操服の下は剥ぎ取られたままだ。


「違う……。千穂のが始まったのかと思ったけど……。それじゃ憂ちゃん!?」


「千晶さん。違いましたわぁ……」


「え?」


「憂さんを見ると分かります。血……。血液じゃありませんわぁ……。『違う』()おうとしはったんですねぇ……。きっと千穂さんのパンツを見詰てはったんを誤魔化そうされたんですわぁ……」


「……なんだぁ……。人騒がせだね。千穂のパンツを見ちゃった憂ちゃんは仕方がないとして、パンツのまま寝た千穂が悪い」

「千晶が脱がしたんでしょー!? 変なとこ触ってたのも千晶だよね!?」

「昔の事は忘れる主義なんだよ?」

「嘘ばっかり!」

「昨日から主義変えた」

「千晶ぃ!」

「――ごめん!」


「「…………」」


 そーっと体を起こした憂だが、千穂の縞々に包まれた小ぶりのお尻が目に飛び込んだのだろう。再び、潜り込んでしまったのだった。


「折角、憂さん、顔を上げはったのに……。千穂さん……」

「とりあえずなんか履け」

「……はい」


 千穂はいそいそとハーフパンツを履いたのだった。






「んく――んぐ――ふぅ――」


「本当に喉乾いてたんだね」


「そりゃ、パンツ姿の千穂を見ちゃったら仕方ないよ」


「千晶さん?」


「あ。ごめん。憂ちゃん」


 憂は聞き取った『パンツ』に反応し、また頬を染める。どこからどう見ても美少女なのに、千穂のパンツに赤面する構図はどこか不可思議だった。





「あ。もう6時だね。ご飯、作ってくる。出来たら呼ぶね」


 あれからようやく勉強時間となった。梢枝が()人の勉強を見る形だった。3人は梢枝を先生とすると勉学に短時間集中した。梢枝の教えは解り易く、かなり捗ったようで何よりである。ちなみに佳穂は未だに寝ている。タオルケットが掛けられているのは千穂の優しさだ。ほっぺたに【I LOVE YUU】と落書きされているのは……これは千晶の優しさだろう。たぶん。


「千穂待って! わたしも手伝う! 佳穂! いい加減起きて!」


「大丈夫だよ。晩御飯は簡単に出来るものにしたから。しっかり勉強出来たし、遊ぶ時間もいっぱい欲しいよね?」


「流石ですわぁ……」


「出来る子だよね。天然なのに」


「天然じゃないですっ!」


「憂ちゃん? 千穂……天然……だよね?」


 ――――――――。


「そんな――こと――ないよ!?」


「あるって」


「――な、ないよ!?」


「傷付いた……中華鍋に八つ当たりしてくる……」


「千穂――!?」


 千穂はそのまま階段を降りていってしまったのだった。憂は少し涙目である。彼女は基本的に隠せない性質をしている。不便なものだ。



「佳穂ー! 起きろー!」


「そうですねぇ。そろそろ起きなあきまへんねぇ……。夜、眠れなくなりはるよって……」


 千晶がゆっさゆっさと肩を揺らすが反応なし。千晶は大きな溜息を吐いた。


「やっぱり起きない。佳穂はいっつもこうなんだよ……」


「これを毎朝……? 千晶さんも大変ですねぇ……」


「そうなんですよ! ……って、敬語。釣られるじゃないで……の?」


「佳穂さんにウチの敬語キャラが好きと……」


「佳穂のバカ!!」


 怒鳴ってみたものの動きは無かった。千晶は肩を竦めてみせた。


「……反応なし。憂ちゃん、助けて?」


 憂は未だに涙目である。千穂は冗談半分だったが、憂には伝わっていなかったようだ。千穂を傷付けたと自責の念に囚われているのかも知れない。


「憂ちゃん……。お願い。佳穂……起こして……?」


 しばらく首を傾げ、理解するとコクリと頷く。

 憂はお願いされると思考停止、そして了承してしまうのかも知れない。危険だ。『お願い。パンツ見せて』と言われたらどうするのだろうか?




「佳穂――おきて――?」




「………………」




「佳穂――!!」




「………………」




「――だめ――」



「奇跡を期待してしまいましたわぁ……」


「……同じく」


「――どう――するの?」


「全員で……せぇの!」


「「起きて!!!」」

「――おきて?」


「んー? ……あたし」


「起きた! なに?」


「憂ちゃんに起こして貰った……。夢が叶った……」


「起きなかったんだけどね」


「……? あ! こんな時間! 勉強しなきゃ!」


「嘘……。佳穂が勉強とか言ってる……」


「失礼な! 最近、あたし頑張ってんだぞ!」


「知ってた」


 ……覚醒は遅いが寝起きすっきりのタイプのようだ。珍しいかも知れない。ようやく起きた佳穂だが、言っている事は本当だ。最近は本当に勉強を頑張っている。次のテストが楽しみなほどだ。因みに千晶が教えている。


「……勉強……する……」


「――うん。しよ――?」


「……付き合うよ」


「仕方ないですねぇ……」


 そして再度、勉強を始めて10分少々、勉強時間は強制終了と相成った。千穂からのご飯出来たメールを一斉に受信したのである。階段下から声を掛ければ済むことなのだが、その辺りが天然と言われる所以か。





「おー! 千穂! 炒飯か! あたしは好きだよー!」

「いい香りですわぁ……」

「さすが千穂。短時間でここまで仕上げるとわ……」

「もう材料も切ってたり? 色々と下ごしらえしてたんだ」

「千穂――すごい――おいしそう――」


 千穂が20分ほどで作った5人分の夕飯は、炒飯に中華スープだ。やや手抜き感は否めないが時間は有限。時間を優先した場合、已むを得ないだろう。


「左腕……どうしました? さっきからえらく気にされてますねぇ……」

「もみもみしてる。やらしー」

「なんでよ。やらしくない。中華鍋に八つ当たりしすぎちゃった……」

「ごめん。千穂のご飯、好きなんだけど誰かちょっと貰ってくれる?」

「まだダイエット頑張ってるの? 太ってないって……」

「……ええですよ」

「仕方のない子だねー」


 千穂佳穂梢枝が、皿を寄せ、千晶の炒飯が減っていく。すぐに憂の皿と同じくらいの量になってしまった。

 ……千穂の炒飯はパラパラに仕上がっており、何とも美味しそうだ。


「――千晶――なんで――?」


「……ダイエット」


 千晶の言葉を受けると、表情が変わった。


「――だめ――ごはん――たべないと――」


 ……怒ったらしい。真っ直ぐに見据えられた千晶は縮こまってしまった。そんな千晶にフォローが入る。憂の女性としての大先輩たちからだ。


「でも、気持ちは……わかるん……だよね」


「……はい。これ……ばっかりは……」


「憂は……やせてる……から……」


 憂の目が細まった。女としての先輩たちを見回す。もっと怒ったらしい。静かに怒っている時は不思議と可愛いから美しいに変貌する。怒った憂にみんな見惚れてしまった。無理もない。憂は、滅多に怒らない。見慣れていないのだ。


「うんどう――するべき――」


 紛うこと無く正論だ。見惚れてしまったタイミングでのひと言は、ずしりと重かった。空気が複雑なものを醸し出す。そう言えば憂がグループメンバーを叱責するのは初めてかも知れない。叱られる場面は時折、見受けられるのだが。特に千穂に、だ。


「たべたら――あるこ――?」


「うん。そうする。ありがとう……憂ちゃん……」


 憂の叱責は千晶の体を気遣っての叱責だ。千晶の心にストンと落ちた。




 それから3人は千晶のお皿に先ほど取った分を戻すと、憂に倣いきちんと『頂きます』をして簡単な晩餐は開始された。スプーンを使った食事は憂もそこまで遅くない。千穂の意図通り、すぐに食事は終わった。


「久しぶりにしっかり食べちゃった……。美味しかった……」


 千晶も満足そうだ。もっと満足そうにしている者が居たが、察して欲しい。愛しい人の手料理なのだ。


 しばらく雑談となった。胃を休ませる為だろう。

 食後に歩く。これは既に決定事項となっていた。千晶はこれから毎日、早めに起きて歩くと言う。佳穂が同調したが……起きられるのか?


「憂ちゃんの声で起こして貰えれば何とか……」と語る佳穂に千穂が提案した。音声録音式の目覚まし時計に憂の声を録音し、それをアラームに……と。「それはウチも欲しいですわぁ……」と梢枝がねだると、みんなが同調した。そして、通販サイトで目覚ましを発見すると早速とばかりに注文したのだった。


 千晶の運動については、早朝のウォーキングは危険と却下された。少女の1人歩きは何かと危険なものだ。

 そこで、電車通学を一時休止し、徒歩通学する事となった。「汗かくなー! 何とかしなきゃ!」と佳穂も前向きのようだった。因みに佳穂と千晶は1駅しか離れていないそうだ。丁度いい距離なのかも知れない。


 そこまで決めると5人は薄暗くなるのを待ち、ウォーキングへと出発した。未だに体操服姿であり、憂と千晶は千穂の服を借りた……が、佳穂と梢枝はサイズ的に無理があった。翌日の私服とパジャマは持参しているが、ウォーキングは汗をかく。只今、7月なのだ。

 その為、2人は体操服のまま出掛けたのだった。薄暗くなるのを待ったのはそんな理由と憂を目立たなくする2つの理由である。


「千穂の――ふく――!?」と動揺を隠せなかったちんまりしたのが1人存在していたのは語るまでもないだろう。彼女は小柄な千穂の服さえダブダブだった。



 30分ほどで5人は千穂の自宅へと戻った。憂が居る。その辺りの時間が妥当であろう。

 戻ってきた時には、憂が1人だけ多くの汗を流している状態だった。憂は頑張って歩いた。普段の倍のペースで先頭を切り歩いた。

 ……が、それは憂以外の者の普通のペースだった。多少の汗は掻いたものの、運動でと云うよりは暑さの為だ。



 自宅に戻った千穂はすぐに浴槽に湯を張った。憂が汗だくだ。当たり前にそうなった。誰が一緒に入るかでひと悶着あったが、そこは千穂が「お姉さんに『私が』頼まれてるんだよっ!」と譲らなかった。そして、憂の為に……と水着着用で憂を連れて行った。憂は当然のように全裸だった。千穂が多少なりとも憂の羞恥心に配慮した形だ。さほど()に見られる事は気にしていない。


 憂は「うぅ――ずるい――」と抗議の声を上げたが黙殺された。どちらかと言えば見るより見られる方が恥ずかしいのは、過去が証明している。そもそも憂の水着は今ここに存在していない。千穂の中等部時代のスク水やらはあったが、それでもサイズは大きい。ついでに言えば、千穂の水着は色々な理由で着られないだろう。



 それはともかく。



 憂のやたら大きな荷物には様々なパジャマが入っていた。


【色んなの入れといたから好きなの着せてあげてね。何なら着せ替えてもいいよ】


 ……と、姉のメッセージが添えられていた。吟味の結果、「まず(・・)はこれ」と全身タイツのような白猫さんに変身出来る薄手のパジャマが選ばれた。着せ替えて遊ぶ気満々の様子であった。


 また、そのパジャマの吟味の最中、4枚の巾着袋が発見された。


「あ――わすれて――た」


 憂は巾着たちを一旦、受け取ると続けて話した。



「それ――みんなに――」



「プレゼント――」



「千穂は――しろ――」



「梢枝は――あか――」



「佳穂は――きいろ――」



「千晶は――おれんじ――」



 恥ずかしそうにそれを渡していったのだった。4人の反応は語るまでもないだろう。しかし、特筆すべき場面があった。

 白の巾着を渡された千穂は、薄くなった赤い小さな点々を見付けた。完成後、一度洗濯したが落ちなかった……。そんな感じだ。


 それは何度も何度も針を自身の指に刺してしまった事の証明である。愛は敢えて、しっかりと洗わなかったのかも知れない。


「憂……あり、が……と」


 千穂は言葉を詰まらせながらも、優しい笑顔を見せたのだった。



 入浴の話に戻そう。頭こそ千穂に洗われたものの、憂は愛する彼女に背中を向け、その小さく貧弱な躰を洗った。水着姿の千穂を見ない配慮もあっただろうが、大半は自分の躰を隠す事が目的だったと判断する。


 そして、憂は痛がらなかった。真っ赤に日焼けしていた肌は、既に赤みが引いていた。千穂はそんな憂の背中をどこか少し残念そうに見詰めていた。


 ……千穂の隠れSとしての本能がそうさせたのかは定かではない。



 憂の洗体が終わり、浴槽に浸かる憂と一頻(ひとしき)り談笑した後、千穂は憂の着衣を手伝った。


 ……苦戦した。


 全身タイツのようなソレは、見た目よりも体にフィットしていたのだ。入浴直後では体に張り付き、なかなか着せられなかったのである。


 最後にフードを被せ、それでも何とかそのパジャマを着せ終わると、可愛らしい白猫さんが完成した。


(うん! 可愛い! ネコミミ似合ってる!)


「憂が出るよー!」と後を友人たちに任せた。


「かっわいい!!」

「反則でしょ! これ!」

「お姉さん……グッジョブですわぁ……」


 廊下を連れられていく憂の後ろを見送る。


(あ……。パンツ透けてる……)


 本日の憂の下着は青と白のボーダーだった。体のラインがはっきりと出ている、その薄手のパジャマははっきりとソレを浮き上がらせていたのだった。


(……別にいいよね。男子は居ないし……)


 そう心の中で自分を納得させると、水着を脱ぎ再入浴するのだった。



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