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80.0話 大運動会開催

 さぁ! 80話です! 50万字突破しています!


 本日は73.5話の挿話と登場人物紹介の第3段の投稿を予定しています。


 後、活動報告でも触れたのですが、昨日投稿した79話を加筆修正させて頂きました。余りにも淡白だったもので……。

 プロローグからの表現強化も続けております。余り変わってないですけどね(苦笑


「無理すんなよー」って方、大丈夫です。

 現在、91話まで書き進めておりますので(*´ω`*)

 



 ―――7月1日(土)



 13時まで行われる大運動会。その名の通り、規模は大きい。初等部は全員参加。それに加え、中等部、高等部から有志が参加する。広大なグラウンドの一角は多数の蓼学生で埋め尽くされている。一般の姿は無い。保護者たちが駆け付ける通常の運動会は9月に行われる。あくまで初中高の交流が目的なのである。ちなみに中等部も高等部も9月には体育祭を行なう。


 その有志参加企画行事の中に、脅威の出席率を誇る高等部のクラスがあった。無論、高等部C棟1年5組。憂の所属しているクラスだ。


「憂……? どこに……座る……?」


「晴れて良かったねー!」

「これだけ晴れたら暑くなるよ? ちょっと勘弁かな……」


 青く澄んだ高い空の下、千穂が問い掛けると、少し経った後、キョロキョロと憂は周囲を見渡し始めた。

 初等部の児童たちは既に纏まって座っている。トラックの外周から中央を囲むようにポツリ、ポツリと一角を占拠している。フラフラと歩く、憂たちに羨望の眼差しを送っている……が、声を掛けられないようだ。高校生のお兄さんお姉さんには切っ掛けが無ければ、声掛けはなかなか難易度が高いものらしい。


 中等部、高等部の生徒はその初等部のクラスの周囲に置いてある椅子を各自、自ら選ぶ方式だ。中高の生徒たちがクラス単位でごっそりと一角を占める。この行為の予防だろう。先輩たちが固まってしまっては交流も何も無い。


「暑いくらいでいいんだよー!」


 その佳穂の言葉に千穂も千晶も眉を顰め、恨めしく空を睨んだ。山に囲まれた雨の少ない蓼園市。梅雨の最中にも関わらず、雲1つ見られない。強く輝く太陽が、ニヤリと少女たちを見下ろし笑っている。


「私は日焼けしたくないなぁ……」

「うん。わたしも」

「2千は肌弱いのかっ!? 前は気にしてなかったでしょ! 色気付いてからに!」


 彼女たち3人の付き合いは長い。だが、小学生時分と比べる佳穂もどうにかしている。

 その佳穂は、ぼんやりと周囲を見回す憂に目線をシフトすると「憂ちゃん、ちょっと心配かも」と困り顔を見せ、「真っ白だからね」「白いよね」と千穂千晶も同調した。

 憂は新雪のように透き通るような肌をしている。長時間の直射日光が心配になるのも仕方のない事だろう。一応、日焼け止めは姉によって、嫌がる憂に塗られている。


「お兄ちゃん! こっちー!!」


 少し離れて歩いていた拓真に声が掛けられた。妹の美優(みゆ)が悠々と席を吟味する兄を発見したのだ。彼女は呼び掛けた拓真を通り越し、女性陣4人に駆け寄る。梢枝は例によって、少し離れたポジションでカメラを回している。


「憂先輩! 千穂先輩! お久しぶりです!!」


 憂は礼儀正しく腰を折り、頭を上げた美優を見上げる。千穂も目線は軽く上向きだ。美優は千晶と同じくらいの160cmほどの身長だ。


「美優ちゃん、久しぶりだね」

「――美優ちゃん――げんき――?」


 千穂は驚いたように憂を見下ろす。しかし、次の弾けるような元気のいい声に思考を持っていかれてしまった。


「美優!! 美優!? 噂の千穂憂コンビ!?」


 大声量だった。グループ全員の視線を集めた。梢枝が思わずそちらにカメラを向けたほどだ。


「うわぁー!!」


 美優の座っていた辺りから、一気に走り寄ろうとし、沢山並んだ椅子に躓く。


「ぎゃあ!」


 ……そして転ぶ。ドジっ子属性の持ち主だろうか?


「もう!」


 初等部の子たちの視線も集まる中、美優が走り寄り、助けに入った。


「ナナミはいつも落ち着きないんだから!」

「大丈夫かいな?」

「あ。ありがとうございますっ!!」


 美優と康平の手を借り立ち上がると、ふかぁーく頭を下げた。


「あー。膝擦り剥いてる」

「いつもの事だよ! それよりも憂せん「それよりじゃないっ! 先に救護テント行くよっ! 挨拶は後でっ!」

「そっちは後でー!!」

「ダメ!」


 ……美優に引っ張っていかれるナナミなのであった。『いつも』と自ら話していた。ドジっ子で間違いないようである。


 放置されたグループ8名……いや、憂を除いた7名は目配せし合い、彼女らが座っていた一角に陣取るのであった。このまま立ち去るのは何とも気まずい。


 尚、七海はこの日、救護テントにお世話になった第一号だったらしい。




「はぁい! 七つの海で七海です! よろしくお願いしまぁす!!」


 中学生2人はしばらくすると合流した。膝には大きなガーゼがテープで止められている。意外と酷く擦り剥いていたらしい。


「七海ちゃんは元気だね! あたしと一緒だ! 佳穂だよっ! 佳人の佳の()い稲穂で佳穂!」


 グラウンドでは競技が開始されている。たった今、5年生の借り物競走の1組目がスタートした。この借り物競争は定期的にプログラムに組み込まれている。各学年が行うのだ。その借り物の対象は中高生の先輩たち。こうして先輩たちをシャッフルしていき、交流を促進させていくのだ。


「よい穂……? 先輩! かほって読めません! よしほです!」


「優良の良いじゃないってば。佳人の佳! 佳作の佳!」


「七海先輩! あれです。人偏に土が2つの……」


「はい! わかりませんっ!」


 ご近所の小学生にまで説明される始末だった。憂たちが座ったところは6-2組の傍だった。何年生で覚える漢字だったかは記憶していないが、分かる子も居るようだ。

 ……たぶん、憂はこの6年生に混ざっても何ら違和感は無い。


「漢字は分からなくても名前は覚えましたっ! あたしを起こしてくれた康平先輩!」


「ほうほう」


「一番おっきい勇太先輩!」


「おー! 正解だ!」


「ちょっぴり怖い拓真先輩! 美優のお兄さん!」


「……怖いか?」


「カメラの梢枝先輩!」


「よろしくねぇ……」


「あたしと同じ元気ハツラツ佳穂先輩!」


「親近感!」


「ツッコミ厳しい千晶先輩!」


「え……? そう? そうでもないよ?」


「優しく美人さんな千穂先輩!」


「……えっと……。名前は正解……だけど……」


「最強の可愛さ! 小悪魔笑顔に天使の声! 初等部、中等部まで噂は広がっていますよ! 憂先輩!」


「――――――?」


 憂は小首を傾げる。七海は憂を見て話していた為、聞いていたようだが、如何せん早口だった。興奮していると言うより、元々だろう。


「えっと……。佳穂先輩に千晶先輩……梢枝先輩に康平先輩……」


 七海の記憶力は確かだった。各自、紹介したばかりだが、全員を見事に記憶している。まぁ、分かり易い面々であるのは間違いないのだが……。

 相方の美優は七海の言葉で確認中だ。梢枝と康平は僅かな間だったが、ご一緒した通学中、目撃している。接触もしている。しかし、カメラな先輩とマッチョな先輩と云う認識だったのだろう。


「でっかい人! お兄さん、おねがいします!」


「お!? オレか!? 行ってくるー。またなー!」


 勇太が借られていった。彼はそのまま、次に借られるまで、借っていった5年生の周囲で過ごす事になる。


「――ばいばい」


 何テンポか遅れて憂が手を振ったがすでに駆け出し、後ろ姿だった。


「……憂も狩られるよね。どうしよう……」


 千穂は、このシステムを覚えていた。初等部時代には借る側だったのだ。中等部時代も1度だけ有志として参加している。ところで千穂。漢字が違う。


「心配要りません。ウチが見ておきますわぁ……。借られない態度を取っておきますえ?」


「髪が長くてキレイな先輩! カメラの先輩!」


「……すみません。行ってきますわぁ……」


 普段は頼りになる彼女も小学生の前では無力だった。頼もしい言葉の直後だっただけに、実に頼りにならない護衛なのであった。


「どんどん狩られていくねー。ハンター怖い」

「うん。狙われた獲物の気分だよね」


「ちっちゃい人……。あ!」


 競技中の5年生が千穂に目を付ける。千穂は『ちっちゃい人』と聞き、思わず憂をチラ見してしまった。

 そのお陰で5年生女子は憂を見付けた。


「すっごい可愛いセンパイ! 憂さん発見です! お願いします!」


 案の定、ターゲットは千穂から憂にシフトされた。さもありなん。


「千穂のバカ」

「千穂のバカ」

「仕方ないじゃないっ!」

「――ボク?」


 憂は自分と同じくらいの身長の小学生に手を引かれ、よたよたと駆けていった。すると憂の姿を目の当たりにした初等部の児童たちから大歓声が沸き起こった。


「あー……憂先輩……。もっとお話したかった……」


 七海の寂しそうな声の横では佳穂千晶が歌う。


「ドナドナドーナー」

「ドーナー」

「仔牛をのーせーてー」

「やめなさいっ!」

「千穂のせいだ」

「うん。憂ちゃん、心配」

「反省してますっ!」


 かくして、グループメンバーは誰一人、抵抗も叶わず、シャッフルされていったのであった。





 憂は狩られ続けた。もはや『借る』ではない。千穂が正解であった。憂の噂は初等部まで広がっていた。各クラスが狙っている。先ほど2年4組さんに狩られていった憂を追い掛ける者が居た。


 梢枝は5年生の席を抜け出していた。今は2年4組さんの後ろで撮影中だ。憂は競技に参加していない。しきりに話しかけられては小首を傾げている。小さな後輩たちの為に頑張って理解をしようとはしているようだ。同じくたまたま2-4に借られた陽向が通訳し続けている。


 その様子に梢枝は微笑む。彼女と瀬里奈の2人の更生が純粋に嬉しいのだろう。


 2年生に混じっている現在はまだマシだ。4年生以上の学年に混ざると馴染んでしまう。たまに居る大人びた少女と見間違えそうになってしまう。困ったものだ。



 グラウンドではラストの種目となる学年対抗のリレーが行われている。

 無論、1年生が6年生に勝てる筈が無い。今まで借ってきた中高等部の生徒がリレーの主役だ。初等部の子たちは走らない。


 アンカーには高等部2,3年生を差し置き、拓真、康平、健太、京之介の姿も見える。C棟1-5の面々は憂の影響の強さもあり、何かと有名人なのだ。

 因みに勇太、圭佑などは序盤で走り終えている。


「手加減はしまへんで」

「健太さんは負けない! たまには目立つぞ!」

「こけんなよ?」

「拓もね」

「あ! 凌平! あいつ速いじゃんか!」

「女子相手だからね」


 トラックでは凌平が佳穂を抜いていた。抜かれた佳穂は何とも悔しそうだ。凌平は高等部3年生に青いバトンを渡す。佳穂は中等部の生徒に黄色のバトンを繋げる。差はますます広がっていった。


 黄色は憂が現時点で狩られている2年生の代表だ。青は6年生である。


 2チーム飛び出していた均衡が崩れる。デッドヒートだったが、6年生代表チームが飛び抜けてしまった。


「ごめん! 凌平くん、速いなんて思わな、かった!」


 200mを駆け抜け、佳穂が乱れる呼吸で拓真に謝る。憂のチームを勝たせたい。今だけとは言え、憂は2年生に混ざっている。同じ2年生のチームの代表。彼女はどこまでも本気で憂がたまたま居る2年生のチームを勝たせたいのだ。


「任せとけ」

「なんだとー!? 健太さんはサッカー部でも俊足だぞ!?」


 健太さんは青い鉢巻をしている。6年生のアンカーを務めているようだ。


 拓真と健太が火花を散らす中、2年生の子どもたちの席から大歓声が沸き起こった。青の中等部男子を高等部の女子が猛追する。再びデッドヒートへと突入し、アンカーへと近づいてくる。距離を詰めたのは蓼学高等部生徒会長、容姿端麗、文武両刀を素で行く文乃(あやの)だった。


 少し先にスタートした健太がバトンを受け取る。僅かに遅れて拓真が生徒会長から黄色のバトンを受け取る。


 彼らはすぐに競り合いへと突入する。2人とも速い。再びデッドヒートだ。


 アンカーは400mトラックを1週する。



 100m付近。


「拓真――がんばれ――!!」


 憂の高くよく通る声を捉え、拓真が加速する。健太は嫉妬心を燃やし、追従する。



 200m付近、6年生の大歓声を背に健太は更なる加速を。


「健太! 負けんな!」


 有希の声を拾い、全力疾走へと健太はギアを最大にする。次第に拓真との距離を開いていく。



 300m付近、4年生の大歓声が2人を後押しし、回らなくなってきた足を無理に回転させる。


 残り50m付近。拓真が躱された。


 残り40m付近。健太が抜かれた。当然、拓真ではない。


 大歓声の中、健太は悔しそうにゴールラインを越える。続いて、縺れる足で拓真がゴールした。

 大歓声は1-5の2人……いや、康平と京之介を含めた4人への物ではない。赤のチーム4年生の代表者だった。


「はぁはぁ……」


 歓声を一身に浴びる男は、続々とゴールした他のアンカーたちが倒れ込むのを他所に、腰に手を当て歩きながら呼吸を整える。


「陸上部短距離舐めんなよ。1年ばっかに負けられっか」


 彼らを纏めて抜き去った男は陸上部男子。200m、400mで県代表となっている選手だった。


「必死なのは伝わったんだけどね。ペース配分、考えないから……」


 生徒会長が呆れた様子を見せていた。


「……ですよねー」


 同意せざるを得ない佳穂なのであった。





 この大運動会。憂は狩られるだけでなく、2つの種目に参加した。


 1つ目はパン喰い競争。


 ……届かなかった。バッシュを履き、万全な状態で頑張ってジャンプしたにも関わらず、それに届かなかった。

 紐を渡した棒を持った両サイドの2人が思いっ切り下げてくれ、ようやく届いた。


 憂は断トツの最下位でゴールした後、美味しそうに餡パンを頬張っていた。



 もう1つは障害物競争。こちらはリタイアと相成った。


 スタート直後の網潜り。目の荒い網を潜り抜けると云う至ってシンプルな障害に絡まり、混乱し、脱出不能となってしまったのだった。



 そんな憂は表彰台でぼんやりと周囲を見下ろしている。


 初等部、中等部、高等部の交流を目的とした大運動会。



 ……MVPとして選出されたのである。


 決め手は借られた回数。憂は実に20回近く借られ……否、狩られた。


 2位に倍以上の大差を付けていた。


「今の……お気持ちは……?」


 憂はマイクを向けられ、考慮した後、こう答えた。


「――ふくざつ――」


 そんな憂の肌は日に焼け、真っ赤になっていましたとさ……。




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