66.0話 夢の世界
……あれ? 千穂?
じっとボクを見詰めてる。ボクの目の前で2人が向き合っている。ボクと千穂が目の前で……?
ここは中等部校舎の屋上?
あ。そっか。
これ、夢だ。思考クリア。すごい。やっぱりいいよね。自由に考えられるって。いつもこうならいいのに。
「優くん……」
「はっ! はい!!」
うわぁ……。ボク、すっごい緊張してるなぁ……。
この夢、勝手に進行していくんだよね。気を付けないと見逃す仕様。
……どこかに眠ってるボクの記憶。たぶん。
「お手紙、読んでくれたんだよね……?」
「うん! 読んだ!! 読んだからここに!」
「あ! そうだよね!! ごめん!!」
「ううん!! 大丈夫!!」
……ダメだ。すっごく照れ臭い。
これ、たぶん千穂が告白してくれた時の夢だよ。
……忘れてたけど。ボクの馬鹿。
あれ? じゃあ、なんで付き合ってる事は覚えてたの? ワケわからない。まぁ、頭壊れてるし仕方ないよね?
あ! 入った!
いきなりなんだよね。この夢。
宙を漂ってたボクは、目の前に居たボクに取り込まれた。
だから急にボクが消えて、千穂が目の前に出てきちゃった感じ?
今より、ちょっと幼いよね。今よりふっくらしてるし。
……やっぱり可愛い。ボクの大切な彼女。
「優くんが……好き、です。付き合って下さい!」
差し出されたキレイな右手。特に爪がキレイなんだ。
そっか。これで付き合い始めたんだ。思い出したよ。もう忘れない。
千穂……。
ホントにごめん。複雑な気持ちだよね? 夢から醒めて……頭痛問題が解決したら謝らないと……。
「あの!」
「はい!!」
ボクの意思に反して、ボクは勝手に喋り始める。
「よろしく……ね?」
千穂がボクの勝手な言葉に、照れて笑って……。
「……嬉しい」
中学生の千穂に言いたい。やめたほうがいいよ……って……。ボク、女の子になっちゃうんだよ……。
わ! 変わった! びっくりするんだよっ!!
体育館? ボクは空中にふわふわ浮いてる。浮いた状態でボクを見下ろしてる。
最近は見上げるばっかりだから変な気分。千穂まで見上げないといけないとか。
「拓ー! お前、なんとかしろよ! あの練習馬鹿!!」
あれ? 渓やんの声だ?
「あぁ? 優は無理だ。俺にも止めらんねぇ。無理すると噛みつかれる」
おぉ。みんなで練習してるし。
みんなって言うか……数人だけ? みんな座り込んで……。疲れちゃってるし。
「サウスポーでのシュート練習か。いつか役に立つ時が来るといいね」
きょうちゃん。役に立ったよ?
球技大会で頑張ったんだよ?
……この頃みたいには出来ないけど……。それでも、楽しかったよ?
「オレにはありがたいぞ! いいリバウンド練習になっから! でもそろそろ止めにしねぇ?」
ゴール下で付き合ってくれてる勇太もきつそうだね……。
「せんぱーい! 俺、もう無理っす……」
「優! ほら! 周り見ろって! みんなへばってんだ! 先輩方もOBたちも呆れて帰ったぞ!!」
「あと10本! それで終わるから!」
「「優!!」」
……空気読めてないね。ボク。
え!? また違うところ……。
……。
練習、好きだったもんね……。
「あ! 優!」
「千穂!?」
「すごーい! 偶然だね!!」
「だねー!」
……特に意味も無く、ぴょんって跳ねてハイタッチ。客観的に見ると恥ずかしいかも……。
今度はモール。
……事故った場所だね。あの時とは違うシーンみたいだけど。
「佳穂! 千晶! 見てみて! 言った通りでしょ!?」
「あーはいはい。何が?」
「千穂。これってホントに偶然? わざとやってない?」
「偶然だよー! きっとね。赤い糸?」
「めんどくさっ!」
「それで何よ。見てみてって」
めんどくさって言ったの佳穂。なんか変なの。
「ほら! 優って、拓真くん、勇太くんと歩くとお姫さまみたいでしょー!?」
「あ……わかる気がする……」
「千晶! 優くんに失礼だって!」
「あ! ごめんなさい!」
「……俺ら、なんて反応すりゃいいんだ?」
「分かんね。おい! 優! スネてんじゃねーよ! 女子たちにいじって貰って羨ましいんだよ! オレは!! 千穂ちゃん可愛いし! こんちくしょーめ!!」
……なんか、佳穂と千晶が今と逆っぽいね。2人に言ってあげたほうがいいのかな?
佳穂……。千晶……。わからないよ……。どうしてあげればいい?
…………。
騎士を侍らせるお姫さまね……。
客観的に見るとホントにそんな感じに見えちゃうんだね。
でかい普通でかい。この配置はダメだ!
今は……超でかい、小さすぎ、超デカイ。
……友だち変える?
……冗談だよー。今でも友だちで居てくれて感謝してる。
渓やんもきょうちゃんも……。
あぁ……2人とも話したいなぁ……。
あ。今度は……?
また千穂だね。2人きり? 園庭だね。千穂のふわふわな髪が揺れてる。
「優って優しいよね。優の名前って、やっぱり優しく育って欲しいって付けられたの?」
うん。そうだと思うよ?
「うん。そうだと思うよ?」
同じことを……。まぁ、仕方ないよね。ボクだし。
「千穂の名前は?」
「私? 私の名付けの理由は……ちょっと重いよ?」
……重い?
「そう……なんだ……。また今度にする」
「うん。それがいいよ」
あ……。思い出した……。
この次の日、聞いたんだ。
千穂の……。
ボク……別れなきゃ……。別れてあげなきゃ……。
千穂の将来の夢……。
お嫁さん。
初めて聞いた時には笑っちゃったけど……。
それには、ちゃんとした理由があって……。
「いらっしゃいませ……」
ひゃぁぁぁぁ!?
このシーンはやめてーー!!!
「優……お前……やば……オレ……」
「なんでそんな似合ってんだよ!?」
ぶぶぶ文化祭だ!? メイド服の黒歴史!!
今じゃ、毎日がコスプレ状態だけどねー。まぁいいけどね……。仕方ないし……。お姉ちゃんに逆らったら怖いし……。
……………………。
『犯すよ』って本気だったのかな?
………………。
……試してみる? 逆らってみる?
…………。
本気だったらヤられる!?
ひゃあああああ!!
怖ろしい!!
えっと……。
……女の子ってどうなんだろ?
わぁぁぁぁ!!!
想像したらダメだぁぁぁ!!!
変な道具まであるし……。
……やっぱり服装に関しては逆らえません。従順に行きます。はい。
あれ? 拓真と勇太どこ行った!? シーン飛んだ!? お姉ちゃんだ!!
「ぎぃやぁぁぁ!! 帰れ! 姉ちゃん! 帰ってくれ!!」
「優! うっそ!? マジ可愛い!! 今からでも遅くないよ! 女の子にならない!? 妹が欲しいのよ!! 夢なのよ!」
なりましたけどねー。夢が叶って良かったですねー。
……お姉ちゃんの変な願望のせいじゃないよね?
「うっさい! 帰れ!!」
「なんだ!? 優の姉ちゃんだと!? うわ! 美人じゃんか!! 彼女も可愛いし!! お前は敵だ! 今日、そう認識した!! 明日から敵な! 今日は可愛いから許す!」
あれ……?
この人って……今のクラスに居る……健太と一緒の……翼くん? メイド服、似合わないね……。
なんか、着てるメイド服の出来が違わない? やけにボクのメイド服だけ本格的……。
「ストッキングはもう少し薄い方がいいね。よし! 買ってくる!」
「姉ちゃん! やめろ! 帰れって!!」
姉ちゃんね。今じゃすっかり『お姉ちゃん』だよ。
女の子らしく……かぁ。
そうするべきなのかなぁ? でも違和感、半端ないんだよ?
「優くんのお姉さん! どんどんと思うままに優くんを可愛くしちゃって下さい!! 売り上げ爆発です!」
あれ? 有希……さん?
えー!? 過去のクラスメイト!? 全部、忘れてるし!!
「皆さん! 初めまして! 3-Cへようこそ! 担任となります、白鳥 利子です! 名前で呼ばないでね! 白鳥せんせでお願いします! お願い聞いてくれなかったら内申に響くかもですよー!!」
……リコちゃんだ。今度は4月だよね? 一応、時系列?
「なんでー?」
「嫌いなんです! それだけですっ!!」
「えー? 白鳥せんせって堅くないー?」
「白鳥ってイメージじゃないよなー?」
「どっちかって言ったらヒヨコとかスズメとか、小鳥っぽい」
「じゃあ、リコ先生でどうですか? いや、リコちゃん先生で!!」
「……え?」
ちょろっと考えてのボクの発言。
……ほとんど考えてないよね……。
「いいね! それ!」
「それでいこ!」
「リコちゃーん!」
「優! それナイス!」
「けってーい!」
「「りこちゃん!」」
「みんな……」
あ。リコちゃん泣きそう。
「うわ! リコちゃん泣くぞ!?」
「優!! 謝れ! 今すぐ!!」
騒がしい。ボクが発端。
「ごめん!!」
未来のボクからも『ごめんなさい』しときます……。
過去にあった事だよね? この夢の全部。全部、忘れてるけど……。
あれ? あそこに座ってるのって優子さん?
あ! せりなさんもいる! さくらさんも!! あ! あの人も!! この子も!!
こんなに居たんだ……。前の……優のクラスメイト……。
拓真!?
うわぁぁ!!
びっくりした……。
どんどんシーンが変わるね。やめてと声を大にして言いたい。言えないけど。
それにしても拓真のドリブル、すっごい迫力。正面から突っ込んできて、ぶつかるかと思った。擦り抜けたけど。
なんて言うのかな? 流れる映像に取り込まれた感じ?
「速攻を止めろ! 速攻さえ防げば、4番を潰すだけだ! 4番のパスが出る前にチェックしろ!! 削れ!!」
あー。藤校のうるさい監督さん。居たね。こんな人も。
スコアは……48-49。接戦だねー。
お。きょうちゃんの3P……。入った! 逆転!
「何をしとるか!! こんな所で負けられんぞ! 負けたら戦犯はレギュラー剥奪だ!!」
……それは酷くない?
「よし!! よく決めた! 4番チェック!! とにかく4番だ! 防げ!」
……イライラしてきた。頑張れボク。
ナイスパス! 拓真、ゴール下強い! かっこいい! 男前! ひゅーひゅー!
「4番のパスを防げ言っとるだろうが!!」
……うるさいね。
向こうの攻撃。
あ。渓やん、ファール。ちょい微妙な判定。
「なんでだよ! 向こうの「渓やん! カッカしない!!」
あれ? どっかで聞いた台詞だね?
「落ち着いて行こう! 藤校倒して優勝するよ!!」
「おう!」
「いけるよ!」
「俺に回せ!」
「全部拾う! 任せとけ!」
……なんか、いつに無くじっくり観せてくれるなぁ……。
早送り状態だけど。
拓真……。
勇太……。
バスケ部、辞めちゃったんだよね。
渓やんときょうちゃんは続けてるみたいだけど……。
ボクが事故って……その後、何があった?
………………。
聞いてみたいけど……。今のボクには聞けない……。
でも伝えないとね。バスケやっていいって。また全国への夢を追いかけてって……。
うわ! また飛んだ! ボクの中!?
残り時間、10秒!? 同点!? 嘘!?
「4番のシュートは打たせろ! どうせ入らん! パスは出させるな!!」
むか。
ボクはシュート。たぶん藤校の監督さんのが聞こえてムキになったんだよ。ボクって馬鹿?
……!?
今度はどこ!?
またボクと千穂?
それよりさ! さっきのシュート、どうなったの!? あれ決まってれば優勝だよね!? 藤校に勝つんだよ!?
……聞いていいのかな?
いいよね? 気になるし。藤校に勝ったら全国制覇近いんだよね。勝ったのかなぁ……? あの試合……。
……あと、時系列も違うっぽい。適当……なのかなぁ?
「やっぱり点取り屋って格好いいよね!?」
あ。千穂の声だ。
どこから見下ろしてるんだろ?
天井? 想像すると怖いね。でも見えてるのは2人の頭だから間違いないよ?
2人は2人掛けの椅子で向き合って座ってる。
「優は誰が1番だと思う?」
「やっぱり最強はMJだって!」
「えー? 古くない? ジョーダンがコービーやレブロンより上だって言い切れる?」
「それは……ちょっと……」
……活躍時期が違うから比べても無駄じゃないかな? 過去のボクと千穂にツッコミ入れたい。
ボクは左手のテリヤキバーガーにかぶり付く。美味しそう……。
千穂は……分かんない。移動しよっと。
ボクはスイスイーって、浮遊して千穂の近くに移動。ある程度の範囲なら移動可能なんだよね。行き過ぎたら戻されるんだけど。よく分からないけど夢だし仕方ない。
あれ!? もしかして、もっと移動したらテーブルの下に潜り込めない!?
そうすればたぶん!
いや! ダメだ! 千穂のパンツ見たいとか思ってないよ!?
……自分ので見慣れたしー。でも……千穂の……? いやいやいやいや。ダメだって……。
あ。千穂はNOSバーガーだ。千穂も大きく口を開けて食べてる。千穂って気取ってなくて……やっぱり可愛いよね……。へへ……。
ボクはテリヤキバーガーを食べ終えるとロースカツバーガーを食べ始める。
むぅ。今のボクは2つも食べれないんだけど!
千穂も食べ終えたね。次はポテト?
……え? 変わった食べ方するんだね。
あれ? どっかで見た。夢の世界以外で。ボクが変わってから? だよね?
「……美味しい?」
「食べてみる?」
「うん」
千穂がポテトでNOSバーガーのソースをすくって、身を乗り出してボクの口元に。
ボクは赤くなってポテトを受け取ろうとして、その手を千穂に掴まれる。
「優? あーん」
ボクは、ためらって、もっと赤くなって、それから覚悟を決めて、『あーん』で食べて、笑った。
「これ美味しいよ! 千穂、天才!?」
…………。
……思い出した。
これ、ちょっと前に同じ事あった。
……その時、ボクはなんて言った?
同じように言った……よね……。
それで……千穂の声が震えて……。ぎこちなく笑って……。
すぐに千晶にトイレに連れて行かれて……。
千穂……泣いたんだ……。
ボク、最低だ。千穂との思い出も忘れちゃって……。
謝らないと! 教えてあげなきゃ! 思い出したよごめんって!!
あ……。
白くなっていく……。
夢から……醒める……。
この夢……。
醒めたら忘れちゃう!
忘れたらダメだ!!
中等部の友だちの事!
拓真と勇太にバスケやれって!
千穂に……。
千穂に謝って。いっぱい謝って、そしたら……。
別れてあげないと……。
……想い。
……願い。
いつだったか千穂は恥ずかしそうに教えてくれたんだ……。
どんどん白くなっていく……。
もう真っ白……。
………………。
…………。
……。
――。
――――。
――――んぅ?
ゆめ――?
――みてた――?
――――?
――なんだ――っけ?
――だいじな――ゆめ?
そんな――きが――する――。
――んー?
――――なに?
「憂? おはよ」
お姉ちゃん――。
「おはよ――」
あれ――?
――――――?
――わすれた。
――まぁいいや。