表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/317

51.0話 ゴールの上から

 突然の投稿、失礼します。


 体育の日に、かこつけて球技大会編を一気に投稿しちゃおうと思いまして(笑

 夜勤明けなんで、一眠りしたりしながら本日中に出し終えたいと思います。

 投稿前の修正作業があるんで、そっちを済ませながら……です。


 のんびりと次話投稿をお待ちくださいませ。


 


 ―――5月27日(土)



 純正制服へと着替える千穂。その最中、勉強机の上のスマホが振動し、滑るように横に動いた。

 千穂はスマホを手に取ると首を傾げながら、着信に応じた。こんな時間に愛から電話があるのは初めての事だ。因みにスカートはまだ履いていない。小ぶりなお尻を包む白の下着が目に眩しい。


「はい。千穂です」


「千穂ちゃん……。突然でごめんね。落ち着いて聞いて?」


「……はい」


 思わず眉根を寄せてしまった。確かに嫌な予感しかしない前置きである。


「憂が階段から落ちて「階段から!? 大丈夫なんですか!?」


「……落ち着いてって、言ってるのに……」


「……ごめんなさい」


「右足首が腫れちゃってるかな……。後は打ち身くらい……。落ちた時間が悪くてね。専属の看護師さんと、なかなか連絡付かなかったんだ。島井先生1人で夜中にゴソゴソ検査する訳に行かなくてね。目立つから。頭のCTだけは撮ってくれたよ。脳に新しい異常は無いみたい。そこは安心して。今、憂は最上階で待機中。外来受診って形になるみたい」


「外来……? 大丈夫なんですか?」


「優の事は知らなくて、憂ちゃん(・・・)の事だけを知ってる看護師さんは、結構居るんだよ。受付の人とかも知ってるし……」


「そうだったんですか……」


 そうなのである。優=憂である事は知らず、その後に偶然(・・)、入院した旧名『篠本 憂』の事は知っている……と云う者は、相当数存在するのである。それはそうだろう。優の死が公表された後には、憂として再入院する必要があった。故に憂の存在のみを知っている病院関係者が居るのは必然である。憂としての再入院後、接触した看護師や理学療法士も存在しているくらいだ。()の事だけを知っている者たちにも、やはり人気者なのは言うまでもない。


 定期検診時、わざわざ裏ルートから最上階に上がっているのは、女性としての成長具合など、『篠本 憂』ならば必要の無いはずの検査が行われている為なのだ。それとは別に、誰にも聞かれたくない話をする場合にも、裏ルート……エレベータの隠しコマンドを入力し、地下から直接、最上階へ赴いている。



「今、憂は……?」


「…………泣いてたよ。さっきまで。『ごめん。ごめんね……』って。球技大会出られないのがショックみたい。私……今は受付の近くに居るから、今現在の憂の事は分かんないんだけどね」


「……憂……かわいそう……」


「そうだね……。張り切ってたのに」


 愛は盛大に溜息を付いた後、話を続けた。


「憂から伝言だよ。頑張って……って。全力でぶつかって……って。チームメイトにも伝えてくれるかな? 拓真くんには、これから電話するから……他のみんなにね」


 憂の通学同伴ローテーションは千穂が月水金。拓真とその妹、美優が火木土。

 今日は土曜日の為、拓真にも直接伝えなければならないのは当然だ。


「……はい。たしかに伝えます。私からも憂に伝言……いいですか?」


「うん。お願い」


「決勝戦、戦うから……って」


 千穂の言った言葉の裏を正確に汲み取り、愛は返事する。


「その頃には病院を出られると思うから……連れていくね……」


 この日の戦いは、各棟の王者を決める戦いだ。

 各学年、優勝、準優勝したチームが出場する。つまり6チームでトーナメントが組まれている。まずは1年優勝と2年準優勝、2年優勝と1年準優勝が戦い、勝者はシードされる形となっている3年生とぶつかる。1年優勝の5組は2年準優勝のチームと緒戦を戦い、勝てばシードされている3年生とぶつかり、午後からは決勝戦が開催されるのである。


 千穂は決勝まで残るから憂に見に来て欲しい……と言ったも同様だ。


「はい。お願いします!」





「行ってきます!」


 千穂の玄関で声を上げると、ドタドタと騒がしい足音が近づいてきた。


「千穂! 今日は、やけに早くない!?」


「……ちょっと……ね」


「何かあったのかな?」


「ううん。何にも。ちょっと緊張しちゃって落ち着かないだけかな?」


「……そう? それならいいけど……。応援、行くから! 頑張って!」


「うん。行ってきます!」





 学園に着いたのは千穂の方が拓真よりも早かった。

 グループのメンバーは誰1人、到着していなかった。

 それどころか、教室は無人だった。


 千穂は、早めの通学を心掛けている。その上、愛からの電話で気が急いていた。普段より早い時間に家を立ち、いつもより早足だった。


 千穂はホワイトボードの上の壁掛け時計を見て苦笑いを浮かべた。早く伝えなければならないと、どこかで思っていたのだろう。

 しかし、そんなに急いでも、早く伝えられる訳が無かった。


 元々、部活の朝練が無いクラスメイトの中で、彼女より早いメンバーは康平と梢枝……たまに拓真くらいだった。

 その3名は、いや、妹の美優も一緒だろう。おそらく一緒に登園となっていると千穂は思う。


「あ。千穂ちゃん、おはよう」


京之介(きょうのすけ)くん、おはよ……、早いね」


「あれ? 元気ないね。どうしたのかな? ちなみに僕、『ケイノスケ』だよ?」


「え!? そうだったの? ごめん!」


「あはは! 少しは声に張りが出たみたいだね。いいよ。『きょうちゃん』って呼び始めた誰かさんが悪いんだから」


 きょうちゃんは千穂から視線を外し、グラウンドを見ながら笑みをその口元に形作る。どことなく寂しそうな、その横顔に千穂は理解する。


 その呼び方を始めた人物こそ、京之介が亡くなったと思っている優であろうと。


 僅かな間、俯き、優に想いを馳せ、再び顔を上げると京之介とばっちり目が合った。


「……笑ってくれると思ったんだけど」


 ……きょうちゃんは冗談が下手なタイプらしい。元気の無い様子を見せる千穂に、優絡みの話は冗談にならない。

 彼は失敗を悟ったのか、目を逸らすと出入り口である開け放たれたドアを見ながら言った。


「憂ちゃんを見てるとね。優を思い出すんだよ。なんでだろうね? 全然、違うのに」


「……そう……かな?」


「……僕だけなのかな? 渓やんも同じ反応だった。渓やんも共通点が多いことは認めてくれたけどね」


「その憂ちゃん(・・・)だけど……。ケガしたって……。階段から落ちて、今は病院……」


 京之介の穏やかな整った顔がガラリと変わった。顔一面で驚きを表現している。


 それは「大丈夫なの……?」……と、徐々に心配に変化していった。


「……足首が腫れてるって。それと打ち身が……って……」


 言葉の途中で大きい者が入室。彼に続き、男女2名が開け放たれたままのドアをくぐった。拓真と護衛の2名である。3名とも暗い表情だ。妹と2人で学園に向かう拓真に2人は、それはもう凄い剣幕で憂の事を問い詰め、本日早朝の出来事を知ったのである。


「……はよ」


「おはよ。拓真くんは憂の伝言、聞いてる?」


「……いや。聞いてねぇ」


「そう……。みんな来たら伝えるね……」





 球技大会6日目、この日は一切の出欠は取られない。

 敗れた者たちは自由登園日となっている。


 そんな中、続々とクラスメイトたちが到着した。


 その度に元気の無い、お通夜状態のバスケメンバーを心配し、問い掛けた。当然だ。5組でこの土曜まで生き残ったのはバスケのみ。彼らは期待の星なのだ。彼らの応援の為だけに、わざわざ足を運んでくれたのである。


 そして、問い掛けては沈んた。渓やんも同様だ。クラス全体が深く沈んでいる。


 まもなく朝礼と言う時間になり、ようやくバスケメンバー残りの3名が教室に着いた。勇太、佳穂、千晶の3名である。

 彼らは例によって、また一緒に登園したようだ。

 電車通学の佳穂と千晶は、当たり前だが駅に降り立つ。勇太の通学ルートとは外れている為、わざわざ合流し、登園しているものと思われる。


「……おはよ。何これ? なんでどんよりしてんの? あたし、明るいほーが好きなんだよー?」

「あれ? 憂ちゃんは?」


 千穂が説明しようとしたものの、時間ぴったりに朝礼に現れた利子によって阻まれた。


「おはようございます……」


 元気の無い利子の声に、まばらな挨拶が返される。


 ……暗い。どうにも暗い。


「……今日はバスケ代表の決戦の日ですね。頑張って! 私も応援に行きますからね!」


 虚勢を張ったような声音で激励すると、伝達しなければならない事項に触れる。


「それと……1つお知らせがあります。憂さんが怪我をされました。今は病院です。今日の試合には参加できません……」


 利子は涙目で、学園に来てくれた全員に、そう周知した。佳穂も千晶も勇太も、普段は何かと茶化す健太さえも、言葉が出なかったようだ。


「先生!」


 静寂に包まれる5組の教室で千穂は声を上げる。何か言おうとした佳穂よりも先だった。


「この場を借りて、憂からの伝言です。『頑張って。全力でぶつかって』って。午後には応援に来てくれるかも知れません」


「午後って事は決勝には間に合うって事だよな! お前ら、マジ頑張れ! 俺らも全力で応援するぞ!」


 千穂に続いた健太の元気な声音に、教室内が、にわかに活気立つ。


「よっしゃあ! いっちょやったりますかぁ!!」


 佳穂が叫び、室内のテンションはガツンと跳ね上がった。


『憂の為に決勝へ!』


 新たな目標を得て、5組バスケ代表は結束を固めたのだった。






 この日の緒戦。C棟2年の部、準優勝の2-8はなかなか強かった。

 しかし、ツインタワーを擁するC棟1年5組の敵ではなかった。


 大体育館で行われたこの試合。時間が経過するごとに大いに盛り上がった。


 当初、バスケ部門はC棟体育館で行われる予定であった。しかし、加熱するC1-5の人気を見た球技大会運営は前日になって、バスケ部門の会場をこの大体育館に変更したのである。


 C棟1年優勝チームとして5組が紹介されると、3千名を超えるであろう生徒と父兄の混成の観衆はざわめいた。大半の生徒の目的であった少女の姿が無かったのだ。


 5組の試合が始まっても憂の姿は無い。


 1-5の面々の声援を掻き消すように、ブーイングさえ耳に入るその会場を勇太がプレイで黙らせた。


 勇太は試合開始早々、ダンクシュートをぶち込んだのだ。そのダンクシュートは憂のようなインチキダンクでは無い。正々堂々と自らの足で跳び、リングを越えたものだった。それは勇太本人にとっても初めて試合で決めたダンクだった。


 中等部でバスケ部を退部した時から、勇太は更に成長し、背を伸ばした。


 バスケ部時代、あと少しのところまでいっていたダンクシュートは、1年間の成長を経て、ついに完成されたのである。


 その勇太のいきなりのプレーは、2-8の度肝を抜くには十分だった。


 この学園内でダンクショートを決められる者は、数少ないが居ない事は無い。

 しかし、それが目の前の1年生によって目の当たりにさせられるとは思わなかった。


 動揺する2-8に5組は畳み掛けた。


 ベストメンバーを揃えたスタメンは躍動した。


 拓真が高等技術を要するフックシュートを決めれば、渓やんがカットインからのレイアップシュートを華麗に決める。

 きょうちゃんと梢枝はアウトサイドからのシュートを高確率で決め、問題の千穂と千晶の10分間の出場時間を消化する為に、彼女たちがゲームに参加した頃には、しっかりと点差を広げていた。


 力の劣る千穂も千晶も必死のプレーを見せていた。

 千穂はルーズボールに膝を擦り剥きながら、そのボールを収める気迫を見せた。

 千晶も男子生徒との接触にも怯まなかった。

 2人のそんな必死のプレーに5組は益々、気合を昂ぶらせた。


 力が劣る2人が同時にINした時間帯も、僅かながら点差は開いた。



 結果、2-8は1度もリードする事無く、大差で敗退した。1-5はセフティリードを保ち続けたのだ。

 この時期……転室の始まっていない1年生が2年生に完勝した。


 この快挙に会場は大いに沸いた。


 試合が終わった頃には、憂の怪我の情報は拡散され、会場内の多くが知る事となっていた。



 ―――『ここに居ない憂の為に』



 彼らは、自らの体を使い、気合の入ったプレイで体現した。それは大観衆に伝わった。

 容赦の無い試合運びのゲームであったが、会場内は完全に5組のホームゲームと化していたのだった。


 この試合が終わり、5組は1つコマを進めた。


 次の対戦相手はC3-7。


 全国トップレベルの女子バスケットボール部員を11名、ずらりと揃えたクラスだ。それは女バスそのものと言っても過言では無い。


 男子バスケ部メンバーを揃えたA棟3-7と並び、C棟内どころか学園内に於ける優勝候補である。



 観客席の一角に陣取る3-7の女子が、5組の試合の感想を語り合っていた。


「ちゃこぉ? 勝てそ?」


 ちゃこと呼ばれた女子は、自信無さそうに応える。


「……勝てると思う。このルールならね。対等のルールだったら勝てない自信がある」


「……マジで?」


「仕方ないでしょ。中等部時代には、その後に中学全国制覇した藤校を倒した時のメンバーが4人も居るんだよ。2人、でかいしさぁ……。あたしら女子とは身長差が、ね……」


「しっかりしてよ……キャプテン……」


「しっかりするのは3Pシューターのみんな。あのツインタワーが居る以上、3Pの率次第。全国大会の気分で勝負してね。じゃないと負けるよ。次の試合、女バスのプライドを賭けた試合になるからね!」


「「はいよ!」」


 5組の知らぬところで密かに結束を固める3-7……。もとい、私立蓼園学園高等部女子バスケットボール部なのであった。






 前書きについて。


 ストック放出の本当の理由は最近、ブクマの減りが激しくて悲しいからです(´;ω;`)

 早く球技大会編を突破しちゃいたいのです。モチベーションだだ下がりしちゃうんで(苦笑


 球技大会は作中で前から宣言してたのに……。

 ……とか、書いたらまた減るのかな?


 前書き後書き書いたら、何故かブクマ減るから最近は控え気味にしてたんですけど、書かずにいられませんでした。

 まぁ、後書きとか書かなくても減るんですけどね……。


 ……と、盛大に愚痴ってしまいました。すみません。


 お付き合い下さってる方、変な事書いてごめんなさい。

 ……本当はブクマして頂いている方のごく少数なんです。ブクマ外された方は。

 応援して頂けている事は解ってます。でも、ネガティブ思考なもので……。


 最近、投稿恐怖症気味なのです。

 だから荒療治でストック放出です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックマーク、評価、ご感想頂けると飛んで跳ねて喜びます!

レビュー頂けたら嬉し泣きし始めます!

モチベーション向上に力をお貸し下さい!

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ