51.0話 ゴールの上から
突然の投稿、失礼します。
体育の日に、かこつけて球技大会編を一気に投稿しちゃおうと思いまして(笑
夜勤明けなんで、一眠りしたりしながら本日中に出し終えたいと思います。
投稿前の修正作業があるんで、そっちを済ませながら……です。
のんびりと次話投稿をお待ちくださいませ。
―――5月27日(土)
純正制服へと着替える千穂。その最中、勉強机の上のスマホが振動し、滑るように横に動いた。
千穂はスマホを手に取ると首を傾げながら、着信に応じた。こんな時間に愛から電話があるのは初めての事だ。因みにスカートはまだ履いていない。小ぶりなお尻を包む白の下着が目に眩しい。
「はい。千穂です」
「千穂ちゃん……。突然でごめんね。落ち着いて聞いて?」
「……はい」
思わず眉根を寄せてしまった。確かに嫌な予感しかしない前置きである。
「憂が階段から落ちて「階段から!? 大丈夫なんですか!?」
「……落ち着いてって、言ってるのに……」
「……ごめんなさい」
「右足首が腫れちゃってるかな……。後は打ち身くらい……。落ちた時間が悪くてね。専属の看護師さんと、なかなか連絡付かなかったんだ。島井先生1人で夜中にゴソゴソ検査する訳に行かなくてね。目立つから。頭のCTだけは撮ってくれたよ。脳に新しい異常は無いみたい。そこは安心して。今、憂は最上階で待機中。外来受診って形になるみたい」
「外来……? 大丈夫なんですか?」
「優の事は知らなくて、憂ちゃんの事だけを知ってる看護師さんは、結構居るんだよ。受付の人とかも知ってるし……」
「そうだったんですか……」
そうなのである。優=憂である事は知らず、その後に偶然、入院した旧名『篠本 憂』の事は知っている……と云う者は、相当数存在するのである。それはそうだろう。優の死が公表された後には、憂として再入院する必要があった。故に憂の存在のみを知っている病院関係者が居るのは必然である。憂としての再入院後、接触した看護師や理学療法士も存在しているくらいだ。憂の事だけを知っている者たちにも、やはり人気者なのは言うまでもない。
定期検診時、わざわざ裏ルートから最上階に上がっているのは、女性としての成長具合など、『篠本 憂』ならば必要の無いはずの検査が行われている為なのだ。それとは別に、誰にも聞かれたくない話をする場合にも、裏ルート……エレベータの隠しコマンドを入力し、地下から直接、最上階へ赴いている。
「今、憂は……?」
「…………泣いてたよ。さっきまで。『ごめん。ごめんね……』って。球技大会出られないのがショックみたい。私……今は受付の近くに居るから、今現在の憂の事は分かんないんだけどね」
「……憂……かわいそう……」
「そうだね……。張り切ってたのに」
愛は盛大に溜息を付いた後、話を続けた。
「憂から伝言だよ。頑張って……って。全力でぶつかって……って。チームメイトにも伝えてくれるかな? 拓真くんには、これから電話するから……他のみんなにね」
憂の通学同伴ローテーションは千穂が月水金。拓真とその妹、美優が火木土。
今日は土曜日の為、拓真にも直接伝えなければならないのは当然だ。
「……はい。たしかに伝えます。私からも憂に伝言……いいですか?」
「うん。お願い」
「決勝戦、戦うから……って」
千穂の言った言葉の裏を正確に汲み取り、愛は返事する。
「その頃には病院を出られると思うから……連れていくね……」
この日の戦いは、各棟の王者を決める戦いだ。
各学年、優勝、準優勝したチームが出場する。つまり6チームでトーナメントが組まれている。まずは1年優勝と2年準優勝、2年優勝と1年準優勝が戦い、勝者はシードされる形となっている3年生とぶつかる。1年優勝の5組は2年準優勝のチームと緒戦を戦い、勝てばシードされている3年生とぶつかり、午後からは決勝戦が開催されるのである。
千穂は決勝まで残るから憂に見に来て欲しい……と言ったも同様だ。
「はい。お願いします!」
「行ってきます!」
千穂の玄関で声を上げると、ドタドタと騒がしい足音が近づいてきた。
「千穂! 今日は、やけに早くない!?」
「……ちょっと……ね」
「何かあったのかな?」
「ううん。何にも。ちょっと緊張しちゃって落ち着かないだけかな?」
「……そう? それならいいけど……。応援、行くから! 頑張って!」
「うん。行ってきます!」
学園に着いたのは千穂の方が拓真よりも早かった。
グループのメンバーは誰1人、到着していなかった。
それどころか、教室は無人だった。
千穂は、早めの通学を心掛けている。その上、愛からの電話で気が急いていた。普段より早い時間に家を立ち、いつもより早足だった。
千穂はホワイトボードの上の壁掛け時計を見て苦笑いを浮かべた。早く伝えなければならないと、どこかで思っていたのだろう。
しかし、そんなに急いでも、早く伝えられる訳が無かった。
元々、部活の朝練が無いクラスメイトの中で、彼女より早いメンバーは康平と梢枝……たまに拓真くらいだった。
その3名は、いや、妹の美優も一緒だろう。おそらく一緒に登園となっていると千穂は思う。
「あ。千穂ちゃん、おはよう」
「京之介くん、おはよ……、早いね」
「あれ? 元気ないね。どうしたのかな? ちなみに僕、『ケイノスケ』だよ?」
「え!? そうだったの? ごめん!」
「あはは! 少しは声に張りが出たみたいだね。いいよ。『きょうちゃん』って呼び始めた誰かさんが悪いんだから」
きょうちゃんは千穂から視線を外し、グラウンドを見ながら笑みをその口元に形作る。どことなく寂しそうな、その横顔に千穂は理解する。
その呼び方を始めた人物こそ、京之介が亡くなったと思っている優であろうと。
僅かな間、俯き、優に想いを馳せ、再び顔を上げると京之介とばっちり目が合った。
「……笑ってくれると思ったんだけど」
……きょうちゃんは冗談が下手なタイプらしい。元気の無い様子を見せる千穂に、優絡みの話は冗談にならない。
彼は失敗を悟ったのか、目を逸らすと出入り口である開け放たれたドアを見ながら言った。
「憂ちゃんを見てるとね。優を思い出すんだよ。なんでだろうね? 全然、違うのに」
「……そう……かな?」
「……僕だけなのかな? 渓やんも同じ反応だった。渓やんも共通点が多いことは認めてくれたけどね」
「その憂ちゃんだけど……。ケガしたって……。階段から落ちて、今は病院……」
京之介の穏やかな整った顔がガラリと変わった。顔一面で驚きを表現している。
それは「大丈夫なの……?」……と、徐々に心配に変化していった。
「……足首が腫れてるって。それと打ち身が……って……」
言葉の途中で大きい者が入室。彼に続き、男女2名が開け放たれたままのドアをくぐった。拓真と護衛の2名である。3名とも暗い表情だ。妹と2人で学園に向かう拓真に2人は、それはもう凄い剣幕で憂の事を問い詰め、本日早朝の出来事を知ったのである。
「……はよ」
「おはよ。拓真くんは憂の伝言、聞いてる?」
「……いや。聞いてねぇ」
「そう……。みんな来たら伝えるね……」
球技大会6日目、この日は一切の出欠は取られない。
敗れた者たちは自由登園日となっている。
そんな中、続々とクラスメイトたちが到着した。
その度に元気の無い、お通夜状態のバスケメンバーを心配し、問い掛けた。当然だ。5組でこの土曜まで生き残ったのはバスケのみ。彼らは期待の星なのだ。彼らの応援の為だけに、わざわざ足を運んでくれたのである。
そして、問い掛けては沈んた。渓やんも同様だ。クラス全体が深く沈んでいる。
まもなく朝礼と言う時間になり、ようやくバスケメンバー残りの3名が教室に着いた。勇太、佳穂、千晶の3名である。
彼らは例によって、また一緒に登園したようだ。
電車通学の佳穂と千晶は、当たり前だが駅に降り立つ。勇太の通学ルートとは外れている為、わざわざ合流し、登園しているものと思われる。
「……おはよ。何これ? なんでどんよりしてんの? あたし、明るいほーが好きなんだよー?」
「あれ? 憂ちゃんは?」
千穂が説明しようとしたものの、時間ぴったりに朝礼に現れた利子によって阻まれた。
「おはようございます……」
元気の無い利子の声に、まばらな挨拶が返される。
……暗い。どうにも暗い。
「……今日はバスケ代表の決戦の日ですね。頑張って! 私も応援に行きますからね!」
虚勢を張ったような声音で激励すると、伝達しなければならない事項に触れる。
「それと……1つお知らせがあります。憂さんが怪我をされました。今は病院です。今日の試合には参加できません……」
利子は涙目で、学園に来てくれた全員に、そう周知した。佳穂も千晶も勇太も、普段は何かと茶化す健太さえも、言葉が出なかったようだ。
「先生!」
静寂に包まれる5組の教室で千穂は声を上げる。何か言おうとした佳穂よりも先だった。
「この場を借りて、憂からの伝言です。『頑張って。全力でぶつかって』って。午後には応援に来てくれるかも知れません」
「午後って事は決勝には間に合うって事だよな! お前ら、マジ頑張れ! 俺らも全力で応援するぞ!」
千穂に続いた健太の元気な声音に、教室内が、にわかに活気立つ。
「よっしゃあ! いっちょやったりますかぁ!!」
佳穂が叫び、室内のテンションはガツンと跳ね上がった。
『憂の為に決勝へ!』
新たな目標を得て、5組バスケ代表は結束を固めたのだった。
この日の緒戦。C棟2年の部、準優勝の2-8はなかなか強かった。
しかし、ツインタワーを擁するC棟1年5組の敵ではなかった。
大体育館で行われたこの試合。時間が経過するごとに大いに盛り上がった。
当初、バスケ部門はC棟体育館で行われる予定であった。しかし、加熱するC1-5の人気を見た球技大会運営は前日になって、バスケ部門の会場をこの大体育館に変更したのである。
C棟1年優勝チームとして5組が紹介されると、3千名を超えるであろう生徒と父兄の混成の観衆はざわめいた。大半の生徒の目的であった少女の姿が無かったのだ。
5組の試合が始まっても憂の姿は無い。
1-5の面々の声援を掻き消すように、ブーイングさえ耳に入るその会場を勇太がプレイで黙らせた。
勇太は試合開始早々、ダンクシュートをぶち込んだのだ。そのダンクシュートは憂のようなインチキダンクでは無い。正々堂々と自らの足で跳び、リングを越えたものだった。それは勇太本人にとっても初めて試合で決めたダンクだった。
中等部でバスケ部を退部した時から、勇太は更に成長し、背を伸ばした。
バスケ部時代、あと少しのところまでいっていたダンクシュートは、1年間の成長を経て、ついに完成されたのである。
その勇太のいきなりのプレーは、2-8の度肝を抜くには十分だった。
この学園内でダンクショートを決められる者は、数少ないが居ない事は無い。
しかし、それが目の前の1年生によって目の当たりにさせられるとは思わなかった。
動揺する2-8に5組は畳み掛けた。
ベストメンバーを揃えたスタメンは躍動した。
拓真が高等技術を要するフックシュートを決めれば、渓やんがカットインからのレイアップシュートを華麗に決める。
きょうちゃんと梢枝はアウトサイドからのシュートを高確率で決め、問題の千穂と千晶の10分間の出場時間を消化する為に、彼女たちがゲームに参加した頃には、しっかりと点差を広げていた。
力の劣る千穂も千晶も必死のプレーを見せていた。
千穂はルーズボールに膝を擦り剥きながら、そのボールを収める気迫を見せた。
千晶も男子生徒との接触にも怯まなかった。
2人のそんな必死のプレーに5組は益々、気合を昂ぶらせた。
力が劣る2人が同時にINした時間帯も、僅かながら点差は開いた。
結果、2-8は1度もリードする事無く、大差で敗退した。1-5はセフティリードを保ち続けたのだ。
この時期……転室の始まっていない1年生が2年生に完勝した。
この快挙に会場は大いに沸いた。
試合が終わった頃には、憂の怪我の情報は拡散され、会場内の多くが知る事となっていた。
―――『ここに居ない憂の為に』
彼らは、自らの体を使い、気合の入ったプレイで体現した。それは大観衆に伝わった。
容赦の無い試合運びのゲームであったが、会場内は完全に5組のホームゲームと化していたのだった。
この試合が終わり、5組は1つコマを進めた。
次の対戦相手はC3-7。
全国トップレベルの女子バスケットボール部員を11名、ずらりと揃えたクラスだ。それは女バスそのものと言っても過言では無い。
男子バスケ部メンバーを揃えたA棟3-7と並び、C棟内どころか学園内に於ける優勝候補である。
観客席の一角に陣取る3-7の女子が、5組の試合の感想を語り合っていた。
「ちゃこぉ? 勝てそ?」
ちゃこと呼ばれた女子は、自信無さそうに応える。
「……勝てると思う。このルールならね。対等のルールだったら勝てない自信がある」
「……マジで?」
「仕方ないでしょ。中等部時代には、その後に中学全国制覇した藤校を倒した時のメンバーが4人も居るんだよ。2人、でかいしさぁ……。あたしら女子とは身長差が、ね……」
「しっかりしてよ……キャプテン……」
「しっかりするのは3Pシューターのみんな。あのツインタワーが居る以上、3Pの率次第。全国大会の気分で勝負してね。じゃないと負けるよ。次の試合、女バスのプライドを賭けた試合になるからね!」
「「はいよ!」」
5組の知らぬところで密かに結束を固める3-7……。もとい、私立蓼園学園高等部女子バスケットボール部なのであった。
前書きについて。
ストック放出の本当の理由は最近、ブクマの減りが激しくて悲しいからです(´;ω;`)
早く球技大会編を突破しちゃいたいのです。モチベーションだだ下がりしちゃうんで(苦笑
球技大会は作中で前から宣言してたのに……。
……とか、書いたらまた減るのかな?
前書き後書き書いたら、何故かブクマ減るから最近は控え気味にしてたんですけど、書かずにいられませんでした。
まぁ、後書きとか書かなくても減るんですけどね……。
……と、盛大に愚痴ってしまいました。すみません。
お付き合い下さってる方、変な事書いてごめんなさい。
……本当はブクマして頂いている方のごく少数なんです。ブクマ外された方は。
応援して頂けている事は解ってます。でも、ネガティブ思考なもので……。
最近、投稿恐怖症気味なのです。
だから荒療治でストック放出です!




