39.0話 2人きりの家族写真
次回更新にて40話の投稿と共に簡単な
登場人物紹介(とりあえず憂とグループのメンバーだけですが)と38.5話の挿話を行います。
38.5話は40話閲覧後に読まれる方が良いと思ってます。
先に読まれても大丈夫ですけどね。
――――5月14日(日)
今日はお出かけ。
憂のお姉さんが、突然の電話で話があるって……その当日。
……なんだけど、何を着てけばいいんだよー?
『憂を可愛く』って事は可愛い系だよね? ふりふりなの着てくるのかな?
憂と同じような格好は出来ない! 絶対に嫌! あんなのと比べられても困るから!
……ふりふりの逆? ビシっと決めてみる?
……でもねー。デートでも無いし気合入りすぎるのも……。
どうかな? ボーイッシュな感じで……?
うん。そんな感じでいこうかな?
私……、なんで下着だけでうろうろしてるんだろ……?
憂のせいだよ!
よりによって、あんなちょー可愛くならなくてもいいのに!!
……って、好きでなったワケじゃないよね。
……そんなワケで、着てみました。
サイズ大きめ白黒しましまのカットソーに、黒のショートパンツ。太もも見せるの、ちょっと恥ずかしいから7分丈のレギンスを合わせてみました。若干低めの40デニール。
これにロングのグレーのパーカー羽織って……。
うん。こんな感じかな? ……あんまりボーイッシュにならなかったかも?
ふりふりにならなきゃ、いいよね?
足元は……。ショートブーツって可愛いから好きだけど、もう5月中旬だし……。
ハイカットのスニーカーでいいかな?
黒主体でつま先と靴底の白い……。
よし! これでおっけー!
モノトーンなのは趣味。白と黒は大好き。好きじゃなかったら、目立つ純正制服なんか着てないよ。黒のスカートだと、なんか違うし。この制服の場合はね。
セーラー服。
憂とおそろい……かぁ。不思議な気持ち。憂はどんな……って、恥ずかしいに決まってるよね。
憂……。そろそろかな?
時間は……10時半ちょっと過ぎ。お迎えは11時。ちょっと早いね。支度、急ぎすぎちゃった。
下降りて、テレビでも見てよっと。
「ん? 千穂……? デートかな?」
「あ。あれ? お父さん。出掛けるんじゃなかったの?」
リビングにはお父さんが居た。パジャマだよ……。今日は何か買い物に出るって言ってたのに。
「あぁ。千穂の必要なものを、一緒に買いに行くつもりだったんだ。高校生にもなれば色々と要るだろうと思って」
「あ……そうだったんだ。ごめんね」
思わず苦笑い。
私の『ごめん』に、お父さんは優しい笑顔で首を振る。
「千穂が立ち直れて良かったよ。優くんの事……吹っ切れたのかな?」
………………。
「……うん。そんなとこ」
私は曖昧に笑う事しか出来なくて……。お父さん、ごめん。本当の事、話せなくて。
「千穂には苦労かけて、済まないと思ってるんだ。これでもね。いつも家事……ありがと……」
「……どうしたの? 今日は?」
よくしゃべるよね。最近は特に……。
……違うかな? 話すようになったのは私のほう。
優が意識不明の間、塞ぎ込んでたし……。優が姿を変えて生きてるって知ってからも、話しづらくて……。隠してるって引け目もあったし……。
「嬉しくてね。千穂が笑ってて、お洒落してて。お母さんも喜んでるよ?」
お父さんは、若いお母さんの遺影を見詰める。私はソファーにゆったり座るお父さんの後ろに回る。肩でも揉んであげようかな? ……って。そんな気分?
「……そんなに落ち込んでたかな?」
……自覚はあるけどね。さて。肩揉み始めましょうか!
「千穂? ……ありがとう。久し振りだね。こうしてくれるの。お母さんもよくしてくれてたんだよ」
お母さんかー。そう言われてもね。思い出の1つも残ってないんだよ。
……お母さんは私の誕生と引き替えに、命を失ったんだ。
よく、佳穂と千晶に女子力高いって言われるけど、その理由がこれ。
幼い頃から、お父さんのお手伝いをしてたから。家事とか、上手になるのは当たり前だよね。ならなきゃそれはそれで問題なんじゃないかな?
佳穂も千晶もお母さん居ないの知ってて、突付いてくるんだよ? ひどくない?
……って、言っても私にはそれが当たり前だから、何も気にしてないけどね。
それを知ってるから平気な顔で突付いてくるんだ。信頼度、低かったら出来ないよね。ホント、いい友だちに巡り会えたと思ってるんだよ?
「千穂?」
「ん……? なに?」
「その格好……、新しい彼氏? デートかな? 長男だとさ。将来、寂しくなるから嫌だよ」
「……なにそれ?」
「お婿に来られる子でお願い」
「あはは! 残念ながら違いますよー」
「えー? お嫁さんに出したくないんだよー」
「今日のデートの相手は女の子だよ? もうちょっとで到着かな?」
「え!?」
『え!?』ってなにかな? 変な想像してないよね?
「いたたた!!」
うん。痛いでしょ? 目一杯、ちから入れたから。
「……立花 憂ちゃん」
「…………え?」
お父さんが振り向いて、心配そうに見詰めてきた。
「ち…千穂!?」
そんな目で見ないでよ。精神状態、正常ですから。どこもおかしくなっていません。
優が憂。もうちょっと何とかならなかったのかな? ……ボロ出ちゃう? 憂の場合。名前間違えたら1発アウトだもんね……。
「……変な心配しなくていいよ。幽霊と付き合ってる訳じゃないし」
「……女の子なんだよね? それじゃあ、偶然?」
とりあえず、頭をえい! ……って、正面向かせてあげた。肩、揉めないよ?
「うん。偶然。今週の月曜に転入してきたんだ。すっごーーい可愛いんだよー。健気でね」
肩もみ再開!
「……健気?」
「……うん。健気。憂ちゃん、事故の後遺症で……障がい持っててね。それでも必死で頑張ってて……」
「そうか……。その子が千穂の笑顔を取り戻してくれたのかな?」
…………。
「……そう……かも、ね」
…………私って、言われてみたら、家では笑ってなかったかも。
憂の転入までの間、ずっと不安だったし。すぐにバレたらどうしよう……って。そんな事ばっかり考えてて……。
私、親不孝者だね……。お父さん……これまで私を、男手1つで育ててくれたのに……。
「千穂、ありがとう。気持ちよかったよ。娘の手はやっぱり最高だね」
そう言って立ち上がるお父さん。
「可愛い娘の救世主に挨拶しておかないと。着替えてくるよ」
それから10分弱。お父さんはスーツ姿でリビングに戻ってきた。どれだけ気合入ってるんだか。普段、休みの日には剃らないはずのヒゲまで剃って。
「なんだい。その目は……。変かな?」
「気合入りすぎ……って意味で変かな?」
「変かぁ……。困ったなー。どんな格好すればいい?」
ぴんぽーん。
「あ……」
「……来ちゃったね。はーい!!」
リビングを出て、小走りで玄関へ。お父さんの横を通る時、困り顔だったけど……仕方ないよね?
とりあえずミュールを履いて、がちゃ……って鍵を開ける。がちゃ……じゃないかな? かちゃ?
「お姉さん、お待た……あれ?」
ドアを開け放ったら、憂が居た。私を見て、にっこり笑顔。可愛い。
門扉の外の車の中では、お姉さんがサングラスかけて手を振ってる。予想外。てっきり、憂が車で待機してて、お姉さんがインターホン鳴らすとばっかり……とか思いながら、お姉さんに会釈。
それより!!
「君が憂ちゃんかな!? ホントに可愛いねー!! 千穂が1番って思ってたけど、こりゃ凄い!!」
う……。気勢を削がれちゃった……。お父さん、タイミング悪すぎ。
まぁ、憂の可愛さは、とてつもないけどさ。実の娘補正かかっても憂のが上なワケ? ちょっと傷ついたよ?
「――こん――?」
憂が口を開いたと思ったら、いきなり、小首傾げて困り顔。どしたの?
「……こん?」
もう! お父さんは黙ってて!
私が睨むとお父さんは驚いた顔。
「――おはよう――ござい――ます――?」
「あははは! たしかに微妙な時間だね! 憂ちゃん! 初めまして! 千穂の父です!!」
靴下のまま玄関に出てきたお父さん。興奮してるのか早口。玄関先の憂の手を取って、上下にぶんぶん手を振っての握手。憂は混乱中。
あ。ほら! 涙目!
「お父さん!!」
お父さんを押しのけて、そっと抱き寄せる。よしよし……怖かったね。
あ……あれ?
私の胸を押して脱出。軽いハグだったからね。ついでに……今、胸に触れたよ? 別にいいけど。
あ。赤くなった。
「――ごめん――!」
「……いいよ?」
―――――――。
「――え――!?」
余計に赤くなっちゃった……。可愛いなぁ。もう。
「千穂ちゃん。かぶっちゃったね……服装……。あ! こんにちは!」
お姉さんが私のお父さんに慌てて挨拶。お姉さんも可愛い人だよね。キレイな人なんだけど、どこか可愛い。
「こんにちは……貴女は……?」
お姉さんは梢枝さんぽい服装。黒のスキニージーンズに、体にゆったり目なトップス。Tシャツかな? なんだろ? わかんない。白黒の目の細かいチェックのロングカーディガンで隠れちゃってる。
「憂の姉の愛です。いつも憂が千穂さんのお世話になっておりまして……」
……モノトーン。キレイなお姉さんのモノトーン。
いいなぁ……私には、あのスキニーパンツって言うのは無理。背の低い、ちんちくりんだから。
「今日は憂の付き添いです」
そして……憂。お姉さんが姉妹コーデを考えたんだろね……。
…………?
憂って……妹……? ま、それは置いといて……。
「いえ! こちらこそ! 憂さんが千穂に色々と与えて下さっているようで……」
憂の格好は私と丸かぶり。
黒のフェイクレザー……本物のレザーかも。つや消し加工の、そんなショートパンツに白のカットソー。襟周りと裾に一本の黒いラインが入ってる。
そして、黒のロングカーディガン。小さい憂におっきいサイズなのが可愛い……。
完全に白黒のモノトーンコーデ。
「いえ! 何も出来ない子で……」
生足だよ? 生足!! 憂の足も身長の割に長くて……ほっそりしてて、キレイだなぁ……。でも、もうちょっとお肉付いたら、もっとキレイになると思う。
似合ってる。すっごく似合ってる。
お姉さん? ふりふりにするんじゃなかったんですか?
『可愛く着飾って連れてくから』だったかな?
……えっと……。
私……どこからふりふりって言葉、引っ張ってきたの……かな?
「千穂――はずかしい――」
あ……。後ろ向いちゃった。
あはは。隠してもね。ちらっと見える耳が赤いんだよ?
……って。それよりも……。
「あの……着替えてきていいですか?」
お姉さんにお伺い。この2人と似た格好やだ。
「どうして? よく似合ってるよ? 3姉妹みたいだね。あはは!」
「うん。ちょっと写真、撮らせて貰ってもいいかな?」
「あ! お願いしてもいいですか?」
お姉さんがスマホを取り出して、ちょっと操作して、お父さんに手渡す。
本気なんですね……。
お姉さんは私と憂の肩に手を回して、後ろに立つ。
「――しゃしん?」
あ。状況が飲み込めたみたいだね。
「――千穂と――」
あ。ふんわり笑顔。
ぴろり~ん。
……え…………え?
「あはは! ごめん! 千穂と憂ちゃん、いい表情してたから撮っちゃった!」
そんなお父さんがいい表情ですよ……。
「もう1枚! 今度はカメラ目線頂戴! 笑顔でね!」
お父さん、ハイテンションだなぁ。
ぴろり~ん。
ぴろり~ん。
ぴろり~ん。
……1枚って、言ってなかったっけ? ……いいけどね。
ぴろり~ん。
嬉しそうに撮ってるよね。こんな嬉しそうなお父さん、久しぶり。今日はお父さんの好きな、肉じゃがでも作ってあげますか。
……材料、あったっけ?
お姉さんのスマホで写真を撮ったお父さんは「ちょっと待ってて」って、一眼レフを持ち出してきた。恥ずかしいからやめて欲しいんですけど……。
私たち3人をひとしきり撮り終えたら、お姉さんが一眼レフで、私とお父さんの2ショット写真を撮ってくれたんだ。
我が家って私の写真ばっかり。撮ってくれる人が居ないから仕方ないんだけどね。
お父さんも嬉しそうだったよ。
それから、いっぱい話をして……。お父さんも憂の事を理解しようと一生懸命。
すぐにゆっくり話してくれるようになった。
ゆっくり会話を交えて、少しは憂の事、解ってくれたみたい。
『千穂……。憂ちゃんはお前が守ってあげなさい』……だって。
ホントは自分が守ってあげたい癖に。憂って、全力で守ってあげちゃいたくなるんだよね。
ぼんやりしてて、どこかおどおどしてて、足を引きずってて……。
敵意とは無縁の存在って感じ? あの外見だし。
優は違うタイプだったんだけどなー。
今日、お姉さんのしたいって話は……。たぶん、その辺りの話。
それと……私が憂の事を、どう思っているか……かな?
……今の私は……どうなのかな?
わかんない。
でも、下着姿見られても、胸に触れられても……。
特に何も思わない。
当たり前だけど、異性とは思えないんだよね。
異性、同性とか……じゃなくて……。恋愛対象? 恋愛対象としての憂?
…………わからない。
うーん……ま、その時になったら考えますか。
その質問があるとは限らないしね。
最後に、お父さんとお姉さんは写真を交換し合う約束をして。
お姉さんが誰かに電話して……。
そして、やっと我が家を立ちました。
スマホで時間を確認したら12時前。余計な時間を使っちゃった。お父さんのせいで。
……はしゃいでたな。お父さん。
たった2人の家族。
優で壊れて……。
憂で戻って……。
……振り回されてるなぁ……。




