38.0話 呼び捨てpart2
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@EXtM2bxjG1tMuLM
11/24 設定の変更では無いのですが、言葉が足りなかった為、加筆させて頂きました。
NOSバーガーを後にしたオレたちは、ドンキーに向かってる。ドンキーも色んな変なもん置いてあって面白い。あー言う店が好きなヤツなら、半日は余裕で潰せるよな。
…………。
普段なら蓼園モール一択なんだけどなー。
今日は、あそこにゃ、近づけんからねー。
あそこは……ほら。やっぱり、やばいっしょ? 憂ちゃんが。
憂ちゃん……かぁ。拓真も千穂ちゃんも普通に『憂』って呼んでるし、凄えよなぁ……。まぁ、千穂ちゃんはちょっと違うか。憂ちゃんからのお願いだし。
それより拓真よ。こいつ、最初は『立花さん』なんて呼んだ癖に、すぐ手の平返しやがった。とんだ裏切りじゃん。
まぁ、いいや。
拓真より憂ちゃんの事だ。問題なのは。
憂……憂ちゃん。
憂。
……憂。
あの後ろ姿に『憂』って……?
うわぁぁぁ!! オラ、こっ恥ずかしいぞぉ!
それに憂なんて呼んだら……思い出すじゃん。優がPGやってた時の事。
オレがマジで本気になったのって、バスケだけだ。たぶん。
えっと…………。
「あぁ……間違いねぇ……」とか、こっそりと拓真の口真似。
……くだらねー。
そもそも、拓真は憂ちゃんをどう認識してんだ?
最高のバスケ仲間? ……元だけど。
親友? 妹感覚? ……それとも……普通に女の子?
女の子……。
たしかに可愛くなっちゃったんだよなー。どっから引っ張ってきたんだ? あの体? 徐々に変化したって何だ?
アレ無くなってソレ出来たのか?
…………どうやって?
……はぁ。さっぱり意味分かんね。
女の子ねぇ……?
『憂?』
『なに――勇太――?』
……とか。首を傾げて……。
うわ……やばいな……。落とされかねん。
やっぱり憂ちゃんだよな。仕方ない。うん。
……大体、優はさ。オレが憂ちゃんって呼んでんの、どう思ってんだ?
何も思ってないん? 嫌な顔しないんだけどなぁ……。
……………………?
うん。分からん。考えるのヤメだ。
……。
………………。
優。
憂?
……憂……か。
「どしたの?」
「佳穂!? びっくりしたじゃんよー!」
人が考え込んでる時に、いきなり覗き込んで……。
……あれ? なんで佳穂ちゃんがびびってんのさ?
「佳穂……って……ちょっとドキってしたじゃん。もう1度呼んでみて?」
……え?
やっべー。呼び捨ての事を考えてたら佳穂ちゃんの事、呼び捨てにしちまったよ……。
「ねぇ! もう1度! 勇太!」
ぐはっ! 佳穂ちゃん呼び捨てにしてきた!
……あれ? 考え事してる内に、みんなと距離空いてんじゃん。立ち止まってたんか? これなら……まぁ、いいか。
えっと……言うぞ?
行くぞ?
言うよ?
「……佳穂」
うっわー!! 恥っずかしぃぃぃぃぃ!!
佳穂ちゃんも赤くなってるじゃないかい!
「……決ーめた。あたし、これから『勇太』って呼ぶね。勇太もよろしく!」
なんだ……って……?
ええぇぇ!? 走って追いかけちゃってるしぃ!?
……とりあえずオレも追いつこう……。
「佳穂ちゃん?」
……オレ、無理っすよ?
「…………………………」
…………あれ?
「……佳穂ちゃん?」
「佳穂? 勇太くん呼んでるよ?」
「え? 聞こえないよ?」
「……え?」
……うっそぉぉん。そりゃ無いよ……。千晶ちゃん、フォローしてー!
「お前……何した?」
「……何もしておりませんよ? 拓真さん?」
「あぁ?」
怖いっすよ。拓真さん。
佳穂……ちゃんかぁ。オレの妹たちには居ないタイプ……ってか、女の子の友達なんて、ほとんど居なかったし!! うははは!!
……そう。その……。タイミングが無かっただけだ。
バスケ一筋! 辞めた後は凹んでたし!! 彼女なんて出来ねーよ!!
…………はぁ。
……自慢にならねー。
なんか佳穂ちゃんって、めっちゃ気が合うんだよなー。オレみたいな、でかいのに問題ないくらいの身長あるし……。お。目ぇ合った……。
……って! 睨まれたしぃぃ!
どうする!?
あぁ……行け。行けばわかるさ。
いつものノリだ。いくぞ!?
……行くぞ!
「おーい! 佳穂ー! 機嫌直してよー!」
よし! 言った! グッジョブ! オレ!
あぁ……視線を感じる……。
拓真と康平の冷たい視線。
千穂ちゃんと千晶ちゃんの驚きの視線。
憂ちゃんの何か、よくわからん視線。……首を傾げて。
梢枝さんの……笑ってるし!
佳穂ちゃん……佳穂の……嬉しそうな顔。
えっと……コレって……アレ?
は~るがき~た~♪
は~るがき~た~♪
ど~こ~に~きた~♪ ……ってヤツ?
佳穂が……オレの前で立ち止まる。両手を後ろ手に組んで、前屈みで見上げる。
か……かわいいじゃないかい……。
「おっけぃ! それじゃ、次! 憂ちゃんに言ってみよう!」
ビシっと、オレの顔の前に人差し指を立てる佳穂……。
…………?
「…………へ?」
ぉぅ。情けない声出たさ。何か問題あるか?
そんなこったろーと思ってたさ。
……思ってたよ? マジで。
「呼んであげて? 喜ぶよ。きっと!」
えぇ!? 手……繋がれたぞ!?
あったかくて、柔らかくて……そのまま引っ張られて、大人しく付いていって……目の前には憂ちゃん。
……なんだこれ?
「――――勇太?」
そう言って小首を傾げる、妹系超美少女。
…………。
……優だけどなっ!
やっべー。コレ、さっきの妄想と同じじゃん。声をかけたほーが、逆だけど。
「さぁ! 呼びたまえ!」
佳穂ちゃん酷い……。泣いちゃうよ? オレでも。
「さぁ! さぁ!!」
…………。
「……憂?」
憂の黒目がちの目が、驚きに見開かれて……。
嬉しそうに笑って……。
……涙、出た。
…………。
そっか……優だもんな……。オレ、悪ぃ事してたんだな……。
「今まで……すまね……」
……小首を傾げて、オレの事、じっと見て……。
すっげー恥ずかしい。
「ううん――ありがと――勇太――」
「憂ちゃん! 良かったね! ナイスだよ! 勇太!」
……勇太のままだし。
「……さんくす……佳穂」
「どうしたしまして!」
「うわぁ……あんな子、泣かしてる……」
「最低……」
「泣かしたのどいつだ?」
あらー? 周りの皆さん、何か勘違い?
「良かったね!! 憂ちゃん!!」
……でっけー声。フォローしてくれたんだよな?
佳穂……分かんねーヤツ。
ポンポン。
……マジでちっせーの。
なでなで。
妹キャラだよなー。
「おい、勇太?」
「どしたん」
お? 憂? あ。オレ、また頭よしよししてたんじゃん。
……手ぇつかんで……あーんって。さすがに同じ手は喰わねーよ?
ガシって、オレの手をつかむ手。康平……あんた……。
うっわぁぁ! 噛まれる! 離せよぉぉ! この人、なんて腕力してやがんだ!?
精一杯に口を開いた憂の顔が近づいてきて……。
ガブ。ガジガジ。
「痛っ……たくない……?」
憂は、すぐに口を離して上目遣い。
「――ゆるす――きょう――だけ」
…………。
……ちっきしょぉぉぉぉぉ!
可愛いじゃねーかよぉぉぉ!
ダメだ。こいつは優だ。こいつは優……。
……はっ!?
佳穂ちゃん……いや、佳穂は!?
「あはははははは!!」
大笑いしておられた。
「惚れんなよ?」
うっせーぞ。拓真ぁ。どっちの事かも分からねーよ。
それから、歩きの配置を変えて出発進行だ。
いや、単に昔の配置なんだけどな。
オレが右。憂ちゃん挟んで、拓真が左。でかい、小さい、でかい。この並び。優が端に居ると、姿が見えんくなって話辛かったんだよ。
そんな理由で自然とこうなった。真ん中のヤツは、前よりも随分と小さくなってるけどな!
あー。こうやって歩いてたら、千穂ちゃんにナイトとプリンセスって言われたっけ?
着替えがめんどくて、よくバスケ部のジャージで歩いてたもんなぁ……。あのジャージ着てたら、たしかに優は女子に見えない事も無かった。当時のバスケ部御用達のジャージは、ピンクのラインの入った黒のジャージ。ウチのガッコって、ピンクをちょくちょく使ってるかんね。蓼の花ってのがピンクなんだとよ。
んー? 思い出してみよっかね? 優の姿を。
……あれは女子だわ。うん。髪の毛サラサラの女顔。
なるほどねー。お姫様とは、よく言ったもんだわ。
……優は怒ってたけどなっ!
「千穂、嬉しそうだね」
「……うん」
後ろから聞こえる、本物の女の子たちの声。
あっ。いや、憂ちゃんが違うって訳じゃない。本物なんだろーさ。見た事ねーけど。
……見せられても困るぞ? どう反応すりゃいい訳?
うわぁ! 余計な妄想め! 消えろ!!
あー! ちくしょーめ! なんでこんな事になったんだよ! やりにくいわ!
……怪我させたくないから、バスケさせたくない……かぁ。
拓真のほーが憂ちゃん……。憂の事、受け入れてんのかも……なぁ…。
憂を見ると、やっぱり足を軽くひきずってて……ハンデ持った女の子なんだよな。
……拓真の言ってた事は、たぶん正しい。
でも……なぁ……。優だったらバスケやりたいだろうよ……って、まーたこの事、考えてんのか。オレは。
拓真が折れたじゃねーか……。終わったんだよ! この話は!
「拓真――?」
「……あ?」
「勇太――?」
「え……?」
オレ『え?』って何だよ? 拓真も『あ?』って何だ?
今日は、よく自分から話し始めるよな。あれか? デイビッドか? 受け身ばっかじゃいかんとか、思ったんか?
あー。足、止まっちまったな。考え込むと固まるのは、足も一緒か。
「……憂?」
すぐ後ろを歩いてた千穂ちゃんが憂……に声を掛ける。
「――――なんでも――ない――」
「……そう?」
千穂ちゃんが小首を傾げて返事する。
千穂ちゃん、移ってるぞ。感染するのか? 怖ぇーな。
また同じ陣形で歩き始めた。目的地まで、あとちょっと。
……時間かかるなー。また、オレら3人、静かに歩いてるし。後ろの5人は話してんだけどなー。
えーっと……。あの頃はオレと優が話してて、それに拓真がツッコミって形だったよな。
優が大人しく……違うな。話さなく……? これも違う。
あれだ。その……オレと憂との会話が難しくなったから、こうやって無言で歩いてんだろな。
無言で歩いてっと、色々と考えちまうじゃねーの。
……優との出会いとか?
オレ、公立の小学校から、蓼学中等部に入った。
これが珍しいパターン。初等部からのエスカレーター以外の中等部入学組は大抵が余所の私立小から。蓼学は蓼園関連企業か裕福層に人気の学園だかんね。オレの場合、親父が株のトレードで成功して、金に余裕が出来たからって。蓼学を卒業すれば、蓼園グループに就職しやすいんだとさ。優先的に採用されるとか?
んで、中等部入ったのはいいんだけど、周りの連中は初等部からの持ち上がりや余所の私立出身ばっかで、すでにグループ形成済み。浮いてたな。最初の頃。あの頃から、でかかったのが原因だろうけど。
そんな時に現れたのが隣のクラスの優だ。オレの事、見るなり『でか! バスケしよ! ボク、バスケ部なんだ!』とか何とか。正確には憶えてねーけど、そんな感じ。
でも、オレ。面倒くさいの嫌いだった。当時は……な。だから断った。何度も断った。
しつこかったよなー。何度も断ってたらヤツが来た。拓真が。
拓真は『優の勧誘断ってんのお前か?』って……いきなしケンカ腰だ。いや、まいった。当時のオレ、でかいだけのヘタレだったし、バスケ部に入っちまった。すぐ辞めりゃいいや……って。
……で。オレ。優のパス、受けらんねーの。拓真の野郎は受けてんの。それがむかついて、マジになった。生まれて初めて何かに本気になったのって、あん時だと思う。
優のパスって凄かったもんなー。
「あぶねぇ!」
え? ……って! 危ねぇ!!
憂がバランスを崩して転びそうになったところを、オレと拓真が片腕ずつ持って支えた。
……膝、笑ってんじゃん。
「憂!? 大丈夫!?」って、千穂ちゃんの慌てた声。
「憂さんをあのベンチに……」と梢枝さん。
「すいません! あの子が調子悪くて!」って、ベンチに座ってる人に席を譲って貰う康平。
佳穂……と千晶ちゃんは心配そうな顔。
拓真とオレは両腕を支えたまま、憂を誘導。体重のいくらかを引き受ければ大丈夫っしょ? おんぶも抱っこも嫌だろうし。
……なんか、柔らかいよなぁ……。やっぱ女の子だ。うん。
うげ。なんか外野が大勢こっち見てるし。
「――ごめん」
憂は座ると、すぐに謝った。悔しそう……だな。
「ううん。私たちこそ……ごめん」
「……うん。ごめんね……」
うん。千穂ちゃんと千晶ちゃんの言う通りだ。NOSからドンキーまでは、20分ほど。オレらの足で。
憂は倍かかるから40分。それだけ長い間、歩くのはしんどいよな。
しんどいのに弱音吐かずに頑張って歩いてた……って事か。
やっぱ優だよなぁ……。その頑張るところ。
それから15分ほど憂を休ませた。
最初は泣きそうだったけど、オレらみんなで謝ると、手ェバタバタさせて全力で慌ててた。
くそ可愛かった……ぜ?
可愛い仕草を見せるくれる度に、複雑な気分になるオレの気持ちも分かってくれ。
それから、憂がぽつりとぽつりと話してくれた。
球技大会までに、少しだけでも体力を付けたいとよ。まぁ……そうだろうな。バスケ命だったし。この子は。
それともう1つ。下の名前で呼んでごめん……だとよ。フルネーム覚えようとすると苦労するらしい。覚えれば覚えるだけ、忘れていくらしい。苗字で呼ばないのは距離が遠く感じて嫌だから……だそうな。呼び捨てなのは、言葉を出すのに苦労するからって。これは主に佳穂、千晶ちゃん、梢枝さんに向けて謝ってた。
うん。今日なら謝る気持ち、すっげーわかる。
やっぱ、ちょっと変わったよな。受け身だったのに、どこか積極的だ。デイビッドって、すげーヤツ?
んで。憂が復活したところでドンキーへ。ここはやっぱり色々な物が置いてあって面白い。でも憂の体力が心配だったし、憂を1人掛けのソファー(売り物)に座らせて、見付けた面白いものを各自、どんどんと見せた。
色んなもんに興味示したり、馬鹿げた商品に声上げて笑ったりで、楽しそうだったぞ。
そしたら、いつの間にか憂が観賞されてた。
幼稚舎くらいの女の子が『ままー! おひめさまうってるよー!! かってー!!』だってよ。いや、笑ったさ。
ソファーに座って、商品を吟味する憂。
たしかに小さい子から見たらお姫さまかもなー。
憂は赤くなったけど、怒ったりしなかったぞ? 優、子供好きだし。玉座から降りて、しゃがんで目線合わせて、よしよししてた。柔らかい微笑みでなっ! ついでに言うと白いパンツが見えてたよっ! 光沢ありのなっ! なんてパンツはいてんだよっ!
まぁ、いいや。
よしよしされた女の子は真っ赤になって、もじもじしてた。
ドンキー来て正解だったかも?
店員さんも微笑ましく見てたけど、冷やかしだけだと悪い気がしたし、この前……一昨日かな? 防犯グッズを買い忘れてたのを思い出したんで、それを買った。引っ張るとブザーの鳴るアレ。
憂に男衆3人でプレゼントしたら複雑な表情してた。
まぁ、気持ちは分かるぞ。
そのブザーは千穂ちゃんがすぐに憂のリュックにくっ付けてた。
あー。あと、千穂ちゃんの意外な趣味が判明した。ブサイクな小物やぬいぐるみが好きなんだと。
『憂!? これ可愛くない!?』とか、可愛くないぬいぐるみ見せられて困惑してたよ。
……困惑する気持ち、すっげーわかるぞ。
結局。
憂はオレらの怪我については一切、聞いてこなかった。バスケ部の事も。
思うところはあるんだろーけどな。遠慮してる……んか? ……それも分かんね。
親友コンビの視点は初めてですね。
書きやすかった一話です。
勇太くん、面白いですわ(笑
活動報告にて、相談? アンケート? ……みたいモノを書いております。
時間がありましたら覗いてみて下さいませ^^