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34.0話 憂の脳

PV数が戻って……(涙

昨日の前書きに反応してくれたんでしょうね。

ありがとうございます。

評価して下さった方の優しさが身に沁みます。


 



『皆さんは、とある転入生をご存知ですか? 私のC棟では、どこに行っても、その子の話題を耳にします。おそらくは、全ての棟に噂が広がり始めている事でしょう。私はその子とその子のお友達と話す機会を偶然、得ました。そこで彼女たちは様々な悩みを打ち明けて下さいました』



 最大までズームし撮影された映像を、千穂が真剣な眼差しで見詰めている。憂は、ぼんやりと映像を眺めている。



『注目され続け、落ち着ける時間が無い事。取り囲まれて、身動きが取れなくなり困る事。お手紙を頂いて悩む事。彼女にどうか配慮してあげて下さい。その子は、手紙を読む事が難しいのです。その子は言いました。今は恋愛は考えられないと。私はそれを、ある事態の影響であると理解しました。……お願いです。今は彼女をそっと見守って下さい。それでも、どうしても伝えたい事があるのならば、直接、彼女に伝えて下さい。でも、その時には……きっと誰かが、彼女の傍に付いている事でしょう。それを理解した上で行なって下さい。何の事か分からないという方も、今は大勢おられる事でしょう。すぐに分かります。噂は来週中には全生徒に広がる事になるでしょうから』



「ここまでですわぁ。あとは新しく申請の来てはる部活や同好会についての報告やら、どうでもいいものばかりでした」


「はぁぁ……」


 千穂は盛大に溜息を付いた。憂は動画の再生が終わるとぼんやりと流れる風景を眺め始めた。おそらく……いや、間違いなく生徒会長の話は理解していない。何を考えているかは全くの不明である。


 千穂は後部座席真ん中、自身の左に座る憂を眺めながら、物思いに耽る。


 生徒会長の意図は分かる。憂の露払いと憂への手紙を千穂たち……言わば部外者が確認する事によってもたらされる、周囲の白い目を懸念してくれての行動だろう。しかし目立ちすぎではないか? しかも話を盛ってまで……そう思うのだ。


「どうでもいい事ばかりじゃなかっただろ……」


「何かありましたかねぇ?」


 助手席に座る拓真が、やれやれと言った(てい)で口を開く。


「……あれだ。新部の申請。『憂たんなんたら部』だったか? ふざけてるよな……」


「あははは! それ本当かい!?」


 ハンドルを握る島井が突然、吹き出した。そんな島井に聴かせるように、梢枝が続けた。


「あー。あの会長さんが恥ずかしそうに言いはった名前の部ですねぇ。『憂たんをそっと見守る部』ですわぁ……。希望者が多くて申請が通りそうとか」


「それ……本当……?」


 千穂も島井と同じように問い掛けた。そんな怪しげな部の申請が通るのか? それ以前に一体、どんな人たちが申請したのか? 疑問はいくらでも湧いてくる。


「お見せしましょうか?」


「いえ……結構です……」


「本当みたいだねぇ……。うん。いい傾向だね」




 現在、島井のセダンで病院に向かう最中である。憂と愉快な仲間たちは、6時間目。サッカーと卓球のメンバー選定の合間に、グループチャットで島井の務める蓼園総合病院に同行する、残り2名を誰にするか話し合った。憂は我関せずで……いや、後遺症の影響で眠っていた。

 そもそも今は憂の事は置いておこう。ややこしくなる。


 その話し合いにより、同行が決まったのが拓真と梢枝である。


 因みに、このグループチャットは蓼園関連企業が開発し、発表しようとした間際、総帥の鶴の一声によって強奪されたアプリである。表には出回っていない。


 表に出回っていない為、セキュリティ面に於いては万全である。

 ……とは言え、その関連企業の者に知られてはまずい為、重要な部分はぼかしてコメントなされている。



「いい傾向……ですか?」


「いい傾向だよ。私としては、このまま学園のアイドルになって欲しいからね」


「アイドル……?」


 隣に座る拓真が怪訝な表情で呟く。そして更に続けた。


「それじゃ平穏なんて得られないんじゃないですか?」


「よし! 着いたよ!」


 島井の回答は得られなかった。



 島井のセダンは蓼園総合病院の地下駐車場に消えていったのだった。






 エレベータに乗り込みVIPルームに到着すると、そこには4名の男女が待ち受けていた。


「こんにちは――!」


 憂は軽く右足を引きながら、それでも急ぎ足でVIPルームに駆け込むと、自分から4名に挨拶した。はにかむような笑顔を見せている。気心の知れた相手のようである。ちなみにVIPルームの重厚なドアは開放されていた。


「憂さん、お久しぶりですね」

「憂さん、昨日ぶりです」

「俺は久しぶり……」

「こんにちは! 伊藤さんは昨日、休みだったから仕方ないですよ」

「お前は今日、休みなのに来てるじゃないか」

「島井先生が『良い知らせを持って憂さんが最上階(ここ)に来るけど、どうする?』なんて電話してくるから……」


 口々に憂への挨拶等を済ませる。

 それから遅れてVIPルームに「失礼します……。こんにちは……」と会釈をしつつ、入ってきた千穂と選抜メンバー2人に挨拶を返す。


「あら? 貴女は初めてお目にかかりますね。わたくしは当院の看護部長を努めております、鈴木と申します。よろしくお願いしますね」


 梢枝に正対し、丁寧な口調で簡単に自己紹介したのは、定年が近いと思しき年齢の女性である。その女性は慈愛の表情を湛えている。千穂と拓真は、何度か顔を合わせているようだ。


「榊 梢枝と申します。よろしくお願い致します……」


「俺……僕は伊藤 草太です。憂さんの専属看護師でした」


 小太りで短く髪を刈り上げた、30代前半と思しき男性が続いて挨拶した。言い忘れていたがビデオカメラは地下駐車場で島井よりNGを出されている。各自スマホの電源も落とさせられた。



「あたしは山崎 佑香です! 同じく『専属』! 榊さん、初めまして!」

「五十嵐 恵です。私も『専属』です……。よろしく……」


 伊藤に続いて残る2名が、ごく簡単に自己紹介した。説明し難くなるのでやめて頂きたい。


 山崎 佑香は三十路前後と思われる女性である。彼女は唯一人、私服だ。伊藤が言ったように非番……休みであったらしい。黒髪を後ろで1つに結んでいる。気にしない性質(タチ)なのか、その髪は適当に結ばれており、所々跳ねてしまっている。


 最後の1人は五十嵐 恵。20代半ばと思われる。明るく茶髪に染められた髪を、佑香と同じく後ろで1つに結んでいる。しかし佑香のそれとは違い、丁寧に結ばれていた。彼女は人見知りをしているようである。ひと(たび)、気を許せば丁寧ながらも、どこか気軽く接するようになるのは、憂の姉・愛との以前の会話でも分かるだろう。




『専属』であった看護師の3名と、巨大な蓼園総合病院の看護部を統括する鈴木看護部長。

 いずれも『知る』……いや、『全てを知る』者たちである。



「さぁ! 『良い知らせ』を聞きましょう! ここまで我慢してたんですよ!」




 憂たち4人が放課後、応接室を訪ねるとそこには島井1人だった。学園長も利子もそこには居なかった。


『学園側は協力を依頼されている立場だからね。学園長殿もある程度しか知らないよ。君たちよりも知らないかもね。だから今日は勝手に待ってます……って言って、出ていって貰ったんだよ』と悪い顔をして話していた。




 千穂が口を開こうとした矢先。そこに突然、横槍が入った。


「不用心ですよ! 島井先生! せめてドアくらい閉めなきゃ。いくらこの最上階に、人が来るのは難しいと言っても、侵入不可能って訳じゃないんですからね!」


 開け放たれた分厚いサイトスライドドアから姿を見せたのは、30代半ばと見られる男性だった。縁の無い眼鏡に小奇麗に整えられた四分六で、光の加減により赤くも見える頭髪。目元は細く、眼光は伺えない。口元には軽薄そうに見える薄笑いを浮かべている。


 千穂と拓真の表情に緊張が浮かぶ。梢枝は、さして表情を変えていない。どうやら千穂も拓真も初対面の人物のようだ。



「……渡辺君か……。驚かさないで下さい……」


 島井の声に警戒心を緩める千穂。どうやら問題の無い人物らしい。よく見れば白衣を身に纏っているでは無いか……と、言ったところか。しかし、この病院内でも優の事はごく少数しか知らないはずである事を思い出し、再び警戒心を強める。拓真は元より警戒を解いていない。


 そんな2人の様子を気にすることも無く白衣の男は、VIPルームに入室するや否や、壁に埋め込まれた機械にカードを掲げる。するとスライド式の分厚いドアがゆっくり閉まり始めた。

 ドアが完全に閉まると、彼は軽い調子で言い放った。


「だって、島井先生……。憂ちゃんが来るとか、『良い知らせ』とか。時間も教えずにそれだけ伝えるんだから……」


「……そうでしたか? 申し訳ありません。失念していたようですね」


 どこかで島井は同じ事を言った気がしないでもない。島井の口調はVIPルームに到着するなり、砕けたものから丁寧なものへと変化している。看護部長の鈴木が年長だからであろうか?

 その島井は2人の様子に気付き、声を掛ける。


「ん? あぁ。彼は大丈夫ですよ。彼も当初から『知っている』人物でして。脳外科医の渡辺君です。彼は脳のスペシャリストなんですよ。だから今もこうして、色々と相談に乗って貰っているんです」


 千穂と拓真の様子を見た島井が、渡辺を紹介した。彼らが警戒したままでは、いくら経っても待ち遠しい、良い知らせを聞く事は叶わない。


「天才脳外科医・川谷 光康って聞いた事ないかな? 蓼園総合病院(ここ)の院長先生なんだけどさ。過去には何度もテレビで特集組まれた凄い先生なんだよぉ。知らないかなぁ? 知らないよねぇ? 君たちは15,6歳なんだよねぇ? それじゃ知らなくて当たり前だよねぇ……。引退しちゃって何年も経つからねぇ。僕はその天才の……えーっと。弟子みたいなものだよ。凄いんだよぉー。よろしくね!」


 渡辺はペラペラと喋り倒した後、彼らに握手を求めた。

 それぞれ握手に名乗りながら応じた千穂、拓真、梢枝の3人だったが、その表情には戸惑いが見られている。梢枝さえも困惑させる渡辺。大したものである。


「いやー! 若い女の子の手っていいね! ナースの手は荒れてることが多くてねー!」


 その言葉に、憂と話していた専属の女性2名がピクリと反応する。


「おいおい渡辺君……。それはセクハラになるんじゃないか……?」


「そうですよ! 妙齢の女性に対して失礼です!」

「私たち専属は、そこまで手荒れしていませんよ。手荒れの酷い冬場は憂さんの看護だけで済みましたから」


「あー! いい加減にして下さい! 僕は早く知らせを聞きたいんですよ!」


 伊藤が声を荒げた。同感だ。

 看護部長を除く全員が、バツの悪そうな表情を浮かべている。

 目上のはずの島井も渡辺も同様である。看護部長のみ、変わらず微笑みを湛えている。


 そんな病院関係者たちの様子を見て、千穂が少し悪い顔をしている。何か思い付いたようだ。


「憂?」


「なに――?」


 即座に嬉しそうに返事をする憂。已むを得ない事ではあるが、憂を置き去りに話が進むことが多い。少し寂しかったようだ。


「いいよ……今だけ……。あ。五十嵐さん、ちょっとしゃがんで貰えますか? 向こうを向いて……」


「…………?」

「――――?」


 恵は困惑しつつも、千穂に言われた通り、その場でしゃがむ。

 憂は小首を傾げて固まった。千穂の言葉が足りなさすぎた為だろう。


 そんな憂の側に寄り、何やらごにょごにょと囁く。



「――いいの?」


 拓真も梢枝も千穂が憂に何をさせたいか、とっくに把握しているようだ。

 まぁ……当然であろう。だがサプライズ演出には効果的と言える。2人は興味深げに、その様子を見守っている。


 憂は恵に後ろから、(おもむろ)に近づく。その表情は既に嬉しそうである。

 病院関係者たちは訝しげに、或いは興味深げにその様を眺め、若しくは注視する。

 憂は恵の髪の束ねられた箇所をターゲットに、小ぶりながら整った鼻をスンスン鳴らす。


 ……憂で無ければ変態行為です。これは。


 憂に(やま)しい気持ちがあるのか、それとも純粋に香りを楽しみたいのか不明だ。後者であると信じたい。


「――いいにおい――ありがと――」


 にっこりと笑う憂に、病院関係者たちも同級生たちも、思わず見惚れてしまった。

 僅かな沈黙の時間を破ったのは、匂いを嗅がれた当人であった。


「姫……今……なんて?」


 恵は素の言葉が出ている。憂を混乱させると、かつて禁止された『姫』と言う呼び名付きだ。


「憂さん……」と伊藤の声。

「……嗅覚か……意外だね」と脳外科医・渡辺。

「良かったね……憂ちゃん」と佑香。

「あぁ……神よ……」と鈴木看護部長。

 声も無かったのは主治医・島井。


「におい――わかる――」


 憂は院内での味方を見回し、はっきりと伝えたのだった。






「どう思います? 島井先生?」


「そうですね。意外……としか言いようがありません。痛覚が先だろうと……。嗅覚を意識する出来事でもあったのか……?」


 渡辺の問い掛けに、島井は曖昧に答えるしか無かった。


 訳が分からないのは、憂を除く蓼学3人組だろう。因みに憂は佑香に『嗅いで』と乞われ、言われるがままに、その髪の香りを楽しんでいる。


「意外って何です? 少し説明して欲しいですわぁ」


「そうですねぇ……。どこから説「島井先生!」


「僕に説明させて下さい! 脳に関しては譲れません!」


 細い目が開かれている。その目は真剣そのものだ。口元に浮かぶ笑みも消えていた。

 瞬刻の間、医師同士、睨み合う。柔和な島井の眉間に、珍しく1本の皺が入っていた。

 だがその皺はすぐに消え去り、いつもの柔和な表情に戻った。


「渡辺君……くれぐれも頼むよ」


「はい! お任せ下さい!」


 渡辺は高校生3名に向き直る。その時には、彼の表情もまた戻っていた。細い目をそのままに、口元には笑みが浮かんでいた。


「さて……と。憂ちゃんが覚醒したのは12月26日だったよね?」


「え? あ。はい」


 いきなり確認された伊藤は予想外だったのだろう。気の抜けた返事で返した。

 千穂と拓真の真剣だった表情に変化が見られた。唖然……とまではいかないものの『大丈夫か? この先生は?』と云った様相である。

 梢枝は無表情に腕を組んでいる。


「それから半年……は、経ってないね。5ヵ月と半分ってとこかな? 憂ちゃんの脳はちょっとずつ再生してるんだよ。ほんのちょっと、……なんだけどね」


「……そんな事、あるんですか?」


 信じられないと云った様相で問い掛ける梢枝。島井は頭を抱えている。


「……渡辺君……」


 責めるような呟きが聞こえたが、渡辺は尚も続ける。気付いていないのか、気付かない振りをしているのか判断は難しい。


「MRI画像でも見せようかい?」


「そないな物、見ても分かりません……」


「そう? 結構、分かり易いものだよ? 慣れればね」


「それより、憂さんの脳は本当に……?」


「うん。見ればすぐに分かるよ」


「いえ。脳の再生の前の段階です。憂さんは脳の半分を失っていると聞いてます。あないに動き、思考する事は、出来はるものですか?」


「うん。それは海外で実例があるよ。脳を半分摘出して、今も元気に生きてる女の子とかね。その子に比べると障がいの度合いは少し重いようにも思えるね」


「そうですかぁ……。実例があるんですねぇ。それでは話を戻します。……脳の再生は?」


「脳細胞の再生……これはまだ、研究段階だよ。既にマウスや猿を使った実験では、成功例も聞かれているよ。僕から見たら眉唾だけどね。某国では新薬の臨床試験も始まってる。これは間違いなく時期尚早だね。患者さんが心配だよ。つまり、僕が知ってる限りではね。世界初の再生……なんだよ。しかも憂ちゃんの脳は外部からの刺激じゃなく、勝手に再生してるんだ」


「渡辺君……君はどこまで話すんだ……。まぁ、言ってしまった物は仕方ないがね……」


 島井は渡辺と梢枝の会話中、再び眉間に皺を寄せ、険しい顔をしていたが、会話に割り込んだ時には普段の柔和な表情に戻っていた。


「あはは! 秘密は共有するべきですよ。先生。そうしないと一枚岩になることなんて、出来きやしませんよ」


「……続けて下さい」


 島井は出来の悪い後輩を見るように眺めた後、続きを促した。因みに千穂と拓真、看護部長は彼らの会話に聞き入っている。看護部長を除く2人は会話に付いていないのかも知れない。いや、渡辺の言葉は分かり易いよう、かなり噛み砕かれている為、大丈夫かも知れない。どっちか微妙な様子である。


 憂と専属看護師たちは会話を楽しんでいるようだ。常に誰かしらの笑顔が見られている。



「えっと……榊さん……だったかな? 君が体の全機能を失ったとしよう。自らの意思で失った機能を回復させていくとしたら、先ずどこを回復させるかな?」


「……生命維持機能に決まってます」


「そうだね。僕もそうするよ。それじゃあ、味覚、嗅覚、尿意……あ。おしっこしたいって感覚ね。この中から選ぶとしたら?」


「……え? まさか……そないな事……」


「そう! 気付いたみたいだね! 今、挙げた3つは憂ちゃんが覚醒した時、失われていた機能だよ。憂ちゃんは睡眠から絶叫して、目を覚まし、過呼吸を起こしてね。夢を見たんだと思う。おそらく事故の……ね。その夢は脳が見せる何らかのサインだと僕らは推測してる。過呼吸は……可哀想だけどね。でも、その過呼吸の後、味覚も尿意も便意も戻った……機能が回復したんだよ。いや、正に奇跡だよね!」


 梢枝は渡辺の言葉を聞き終えると、潜考に沈み始めた。だが、その思考はすぐに引き戻された。島井が言葉を引き継いだ為である。


「……覚醒して、ほんの少しの間、憂さんは無表情で食べてたんですよ。最初は素粥でしたから……そのせいだと思っていました。今度はプリンを提供しました。プリンを見た時は嬉しそうでしたね。でもね。プリンを食べながら、しきりに首を傾げるんです。『味がしない』って。憂さんは味覚も失っていたんですよ。それからすぐに発作を起こし、味覚が戻りました。次の発作で尿意と便意。それからも何度も過呼吸を繰り返しました。尿意の回復以降は目に見えた回復は見られませんでしたが、記憶力、思考能力……そう言った目に見えない、はっきりとは判らない部分が回復しているんだと推測しています」


「脳の回復……それが貴方がたが隠してはった本当の理由……」


「……1ヵ月後に話す約束だったんだけどねぇ。渡辺君のせいだよ」


 島井が渡辺を睨む……が、それに梢枝は気付かなかったようだ。

 その瞬間、梢枝は憂に視線を巡らせていた。


 憂は満面の笑顔で3人と話している。学園での話でもしていたのか。それとも嗅覚の回復の喜びを語っていたのか。梢枝には分からない。


 島井と渡辺。先ほどまで、どこか癖のある2人との会話に全神経を集中させていたのだ。




「性別の変化よりも大きな理由……脳再生の生きたサンプル……」



 梢枝の呟きに、島井も渡辺もしっかりと頷いたのだった。




 その後、梢枝は『死』と言うキーワードについて、問い掛けた。

 フラッシュバックはキーワードで発動すると言う、転入当初の利子の説明と矛盾する。


 梢枝の質問に、島井は悪びれる事無く回答した。


「あぁ。それは嘘です。偽りの情報ですよ。以前の自傷行為が『死』と言うキーワードによって、引き起こされたものでは無いかと推測していまして……。言葉から過呼吸を起こした事は、今まで1度もありません。ですが、控えられるものなら控えて欲しいのは間違いないので……。いや、申し訳ない。混乱させてしまったようですね」


 島井の回答を……、梢枝はどこか嬉しそうに聞き入っていたのだった。


映画「君の名は。」

観に行かれましたかー?

この小説を読まれてる方なら、観に行かれた率が跳ね上がるんじゃないかと思いまして。


なぁーんとなく、聞いてみました。


聞いた本人は観に行っておりません。行きたいんですけどねー。


あの映画でTS界隈が盛り上がればいいのに……って期待してます(笑

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