29.0話 色褪せたボール
8/27 23:00
総合評価2000pt達成しました! ご支援ありがとうございます!
お礼と言っては何ですが、登場人物紹介の執筆を開始致します!
ネタバレにならない程度ですけど……。
ついでに言うと……その紹介文をこれからの展開次第で、こっそり変更しちゃうかもですけど……。
いえいえ。変更する事あったら、前書きとかでお知らせしますよ……。たぶん。
因みに、イラストは描けないので勘弁してください(苦笑
追記
8/28 20:45
なんか、今日、投稿予約してました(苦笑
私、3日に1回が理解できてないんでしょうかね?
折角なんでこのまま投稿します(笑
それで……もう、○日に○話とか……考えずに投稿します。
当面、3日以内に投稿すると約束致します。
あと、都合により投稿時間は18時に戻させて頂きます。
……なんか、ころころ変わってすいません。。
「康平……さん、何で一緒に?」
「拓真はん! 呼び捨てで頼みますよって! いや、そうじゃなくて……! そうなんだけど……あぁ! もう!」
一緒に居てはダメなのか……? この問いもしたかったと思われる康平は、頭をわしゃわしゃと掻き毟る。リーゼントが崩れてしまい、ジャージ上のポケットから櫛を取り出すと、素早く整えた。
だったら崩すなと声を大にして言いたい。しかし、2人からのツッコミは無かった。
「俺かて、ぼっちは嫌や。拓真はんと勇太はんの仲間に入れたってや」
「自分の事、『ワイ』って言ってなかった?」
勇太の指摘に「……あれ? そうやった?」と、言葉を詰まらせた。会話のベクトルを逸らされている事に、気付いている様子は無い。
本日の午後の授業は特に問題なく終わった。憂は島井の車に乗せられ、病院に向かった。これから毎週、木曜日は定期検診となるらしい。
男子3人は私立蓼園学園から徒歩15分ほどにある、蓼園モールをぶらぶらと散策していた。勇太の提案で、憂に持たせる防犯グッズを見に来たのだ。
拓真と勇太の両名は、しばらくこのショッピングモールからは、足が遠のいていた。ここの東館と西館を繋ぐ歩道橋から優が転落した為だ。つまり全ての始まりの舞台なのである。
それも今年に入り、流れが変わった。彼らは、憂を優と認識すると、このモールをちょくちょく2人で徘徊するようになっている。
そう。彼らは部活を辞めた今……。
単純に、暇なのである。
立ち位置は正面から見て、右から拓真、康平、勇太。
千穂が見たら康平にクレームを付ける事だろう。そのポジションこそ優の立ち位置だったからである。
そのVの字に並ぶ頭を見て、両脇に騎士を侍らせるお姫様と評したのは、当時、中学生の千穂であったが、それはまたの話だ。
「まぁ、とにかく『さん』付けやめたってや? ワイが歳上なのは拡散されてへんし」
「拡散?」
「あれ? 知らへんの? まぁええわ。これから呼び捨て頼むわ」
康平が暗に示したのは裏サイトの事であろう。裏サイトの【【可愛すぎる転入生】立花 憂ちゃんを愛でるスレ【天使降臨】】改め、【【抜け駆け禁止】立花 憂ちゃんをそっと見守るスレ【C棟の天使】】は、順調にその数字を伸ばし続けている。
「「はぁ……」」
2人は同時に溜息を付いた。しつこい。とにかくしつこい。康平は口を開く度に、『呼び捨てお願い』と依頼している。
そんな康平を挟み、2人は目線で会話し言った。
「わかったよ」
「あらためてよろしくな! 康平!」
「お……お前ら……」
余りのしつこさに渋々了承した4つ年下の2人と、ついに呼び捨てを引き出し、若干、涙目の康平なのであった。
「ここでっか」
「あぁ……」
歩道橋の中央付近の端。そこには沢山の花。花壇ではなく、多くの花束が献花されていた。
家族、病院関係者、蓼園商会と、そのグループ会社の重役を始めとする社員、そして少年の友人たち。
年齢を問わず様々な者がここを訪れては、花や菓子、スポーツ飲料などを供えていく。
……中には小さく青い可憐な花も見られる。
その花の名は、勿忘草。花言葉は『真実の愛』と……、『私を忘れないで』である。
供えた者の強い想いが感じられる。
3人はしゃがみ込み、それぞれ一輪の花を供え、手を合わせた。
今回は薔薇である。初めて来たであろう康平を除いた2人は、このモールに来る度に、モール内のフラワーショップに立ち寄る。
その時、目に付いた花を買い、供えているのである。花言葉も何も気にしていない。優も花言葉など興味無かったからそれでいい……とでも思っているのであろう。
立花 優は亡くなった事になっている。
最初に訪れた時以外は、対外的なアピールである。
拓真は合掌を解くと、ゆっくり立ち上がり、傍のベンチに腰掛ける。
2人も拓真に倣い、腰掛けた。
……長い無言の時が流れる。
拓真は歩道橋の柵に取り付けられた、色褪せたバスケットボールを見詰める。
誰がそうしたのかは分からない。バスケットボールは器用に編み込まれた太い針金に包まれ、柵からワイヤーで繋がれ、ぶら下がっている。いたずらの防止なのだろう。
そのバスケットボールは今年1月の初め、拓真たちが優の為にと供えたものだった。
この固定されたバスケットボールの裏側には、太字のサインペンで書かれた文字が、今も残っているはずである。
【PG・立花 優】
【SG・池上 京之介】
【SF・渓 圭佑】
【PF・本居 拓真】
【C・新城 勇太】
【決める! 全国大会!】
それは蓼学バスケ部伝統の寄せ書き。初、中、高等部、いずれのバスケ部もが行う儀式。
初等部では、初心を貫く為に6年生全員が名前を入れる儀式。
中等部では、3年に上がった直後、スタメンを張るレギュラーメンバーが結束を高める為に行う儀式。
1,2年生……、そして控えのメンバーは、その光景を羨望の眼差しで見詰め、闘争心に火を灯す。
拓真は、その寄せ書きに想いを馳せる。
優の死の知らせを聞いた直後、勇太の呼び掛けにより、残されたバスケ部レギュラー4人は、ここに集まった。
呼び掛けた勇太は、既に供えられていた多くの花束を見るなり、真っ先に膝を付き、人目を憚る事無く、声を上げ泣き始めた。それは号泣。それは慟哭。
滂沱たる涙に釣られるように、残された3人は、声も無く涙を流した。
そして、拓真は多くの花の中、埋めるようにバスケットボールをそっと置いた。
―――私立蓼園学園は、各スポーツの分野でも強豪と呼ばれる存在となっている。
野球、サッカー、バレーボールなどの人気スポーツを始め、多くの部が優秀な成績を収めている。
だが、男子バスケットボール部に関して言えば、全国的にほぼ無名であった。
県の西部にある蓼園市の逆側。県庁所在地のある東部の、とある私立校が全国制覇を幾度と無く成し遂げた、学生バスケ界に於ける超名門校である為だ。中等部も高等部も、男子バスケ部は幾度と無く、その壁に跳ね返された。
一昨年の夏の大会終了後、中等部3年生が引退すると、2年生たち……。つまり、優たちの世代が主役となった。
この世代は、優の天性のパスセンスを筆頭に、拓真と勇太のツインタワーを擁し、攻守共にバランスの取れた好チームであった。
秋季大会では敗れたものの、一進一退の攻防を繰り広げ、ごく僅かな点差であった。
それから時は経ち、春の大会。優の世代は、遂にその分厚く巨大な壁を打ち破り、県大会優勝を果たした。残念ながらその大会は、全国大会に繋がる大会では無かった。
しかし、その優勝は蓼学バスケ部の黄金期を、たしかに予感させるものであった。
バスケ部の機運は高まっていた。誰もが県内のライバルを超えた、その先を見据えていた。そんな中での突然の事故。
チームの中心である優が意識不明、絶えず面会謝絶の重体。蓼園学園中等部男子バスケ部は文字通り崩壊した。
5月末。他校を招いての何の変哲も無い練習試合。ホームゲームであるにも関わらず、そこで格下相手にまさかの敗戦。しかも大敗であった。
優と共に全国へ―――
夢は叶わぬ物になったと悟り、モチベーションを失い、その練習試合で平凡なミスを繰り返した拓真は、責任を取るようにバスケ部を後にした。その翌日には、拓真を追うように勇太が退部。
7月。残された京之介と圭佑は、控えだったメンバーを引っ張り、全国大会県予選を果敢に戦った。しかし、そこに春季大会を制し、シードされた中等部男子バスケ部の面影は無かった。緒戦を制したのみであっさりと敗退。そして県大会を突破した東部のライバル校は、全国制覇を成し遂げたのだった―――
もしも優が居れば……。
拓真は、いつものようにそう思う。
たらればを考えても無駄な事だと、頭では理解している。
それでも……。
それでも、考えずにはいられない。
優さえ居れば、あの全国制覇の栄光は、蓼学中等部男子バスケットボール部の物であったかも知れない。
優が居たあの春、たしかにあのライバルの打倒に成功したのだ。
優が意識不明となり、何度も考え、何度も夢想した。
あの日、このモールで別れず、いつもと同じように優と帰っていれば……。
或いはあの日、繰り返される『最後の1本』と称した優のシュート練習を、無理矢理に切り上げなければ……。
―――優の事故は無かったはずだ。
不思議なタイミングでストンと掌に収まる優のパスを夢で見た。
最前線で体を張り、守る優の背中を夢で見た。
全国への切符を掴み、喜び合う姿を夢に見た。
「なぁ……拓真ぁ?」
拓真の回想は、勇太によって中断された。
「あ?」
勇太はとっくに慣れているが、拓真は相変わらず、ぶっきらぼうな物言いである。
「昼休憩……。あいつ、泣いただろ?」
昼休憩、拓真と勇太は、渓 圭佑、池上 京之介の2人と、久々に腰を落ち着け談笑した。康平が2人のディフェンスを相手に、ポイントを上げた事を自慢したのが始まりであった。
憂を手放しで褒めちぎる康平に、2人は乗らざるを得なかった。
実のところ、憂が5本の2on2で出来た仕事は、1本目のパスと5本目のスクリーンだけである。実際、素早い動きなど一切無く、経験と閃きにより、康平のフリーを作り出しただけだった。
『小さいのに大したもんだよ! バスケやってたんじゃないか!?』と、苦しい誤魔化しをしたのは勇太であった。
憂を話の肴に盛り上がっている時、彼女らは生徒会長を伴い戻ってきた。その事に大いに驚いた直後だった。
康平を含めた5人の姿を見ると、憂は急に泣き出したのだった。
「あぁ……」
「なんでかな?」
「……さぁな」
一瞬、口篭った拓真の反応。それに付き合いの長い勇太が気付かないはずはない。
「あれってさ。渓やんときょうちゃん見て、泣いたんじゃね?」
「あぁ、そうかもな」
「だとしたらさ。思い出したって事だろ?」
「あぁ……、そうなるな」
「明日、球技大会のメンバー決めじゃん?」
「あぁ……」
「憂ちゃん……。何か言いたそうだったろ?」
「そう……だったか?」
「ごまかすなよ。気付いてたんだろ?」
「いや、知らねぇ」
「そうか。じゃあ、オレの独り言だ。独り言だから気にすんな」
勇太は針金に覆われたバスケボールを見詰め、独り言を紡ぎ始める。
「優もさ。理解してんだよ。あいつら思い出しても言えないって事をよ。それって、あんまりじゃねーかな? 目が覚めて気付いたらバスケなんか、まともに出来ない体でさ。あいつ、バスケしてーんだよ。あのボール持った楽しそうな顔。あれ……見たらよ。オレ、あいつが明日、バスケに手ぇ上げんの止めらんねぇ」
「ダメだ。危険だ」
「独り言に反応してんじゃねーよ!」
「痛み……ねぇんだぞ!? 突き指しても、足首捻っても、そのままプレーすんだぞ。わかってんのか!?」
「ちょ! あんさんら、落ち着きや!?」
「あ!? 過保護だなぁ、拓真は。女の子の憂ちゃんが大切で大切で仕方ありませんかぁ!?」
………………。
その直後、珍しく黙って聞いていた康平の制止も聞かず、2人は掴み合った。
お互い2発ずつ殴り合った途端、康平が拓真の脇腹を蹴り、勇太の手首を捻り上げ、その場を制した。重量級の2人を相手に、一瞬の芸当だった。
「お互い2発ずつや。これでもうやめとき? お互いボコボコの顔を憂さんに見せて、何て言い訳するんや?」
「あんた何者だよ!? いてっ……」
康平は勇太の手首を開放しつつ言った。
「梢枝が言っとったやろ? 正義の味方や!」
「うぜぇ……」と拓真。
「同意するわ……むかつくけど……」と勇太。
「あー! すんません! 終わりました! ちょっとした身内のケンカですわ! ほんま、すいません!」
遠巻きに見る、通りすがりの人々に康平は頭を下げ、その場を切り抜けたのだった。
それから5分ほど後の事。
拓真と勇太は冷たい缶コーヒーをそれぞれ、殴打された部位に押し当てていた。
缶コーヒーは康平の奢りである。
「あー。いてー。拓真、マジで殴るんもんだからよー」
「お前もだろ……」
「あははは! 青春でんなぁー!」
笑い飛ばす康平を、2人は恨みがましい目で見る。
「あんさんら、2人とも違う見方で、憂さんの事を大切にしてるだけやわ」
「んなこたぁ、わかってんだよ」と拓真。頷く勇太。喧嘩はするが仲は良い。
「そうそう! あんさんら、こないな話、知っとるか? この歩道橋を舞台にした都市伝説? ……みたいなヤツ」
「「…………?」」
2人は返事こそしなかったが、多少の興味は惹かれた様子である。康平は満足そうに咳払いをすると、ゆったりと話し始めた。
「とある掲示板で見付けた……都市伝説なんやけどな……」
ゆったりと前置きする康平の口調に思わず、2人は身を乗り出した。
「この歩道橋では夕暮れ後にな……。1人になったらあかんそーや。1人きりでな。この歩道橋の中央を通り過ぎると、後ろからテインテイン……ってな。ゆっーくりとボールを突く音が聞こえるんやそーな。その音に振り向いたら……絶対にあかんらしい。振り向くと、小柄な少年がドリブルしながらな。追いかけてくるそうなんや……」
3人は顔を見合わせる。その頬が次第に緩み始める。
「「「あはははははは!!」」」
彼らは腹を抱えて笑い始めたのだった。
康平くんはなんでエセ関西弁なんでしょう?
私もよくわかりません(笑
動かしやすいキャラなんで大好きなんですけどね。
まぁ、産み出したキャラのほとんどが好きなんですけどね(笑
また、無意味な後書き書いてしまった……。
追伸……と言う名の本題。
前回の後書き、大変失礼を致しました。
あの後書き書いた時、変なテンションだったんですよ。反省してます。
そして……本当に評価して下さった方、ありがとうございます!
お陰様でジャンル変更後の最高順位、3位まで浮上しました!
そして、感想も頂きました! これで戦えます! モチベーション上がったんで!