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286.0話 お母さんへのお願い

 


 お父さん、ご飯食べたかな……?


 ……とか思ってたら、また人の心配ばっかりって千晶に怒られそう。


『あんた自分の状況、理解してる?』とか言って。



 今、何時なんだろうね?

 外が見えないと時間の感覚無くなって困ります。

 お腹の具合で考えると、晩ご飯の時間なのかな……って思うけど。



 ……あれ、食べてみる?



 ベッドの傍に置いてあった、おむすびとパン。コンビニおむすびと菓子パン。

 何度も確認したんだけど、ちょっと怖くて手を付けられません。

 袋は未開封。ちっちゃい穴とかも見付けられなかったし、大丈夫だとは思うんだけどね。


 薄暗いから確認出来てないだけだったりして……?



 …………。



 ここは貨物列車が引いたりしてるコンテナの中。

 ここって電波、届いてるのかな?


 感度良好だったり……?


 何度もこの壁を叩いてみたし、声も出してみたけど、無反応。

 あの人たちが近くにいるかどうかも分からない。


 今はもう叩いてないけど……。

 チャンス……だから……。

 もし、あの人たちの誰かが気付いたら潰しちゃうから……。



 …………。



 長い間、動いてたんだけど、今は止まったまま。


 なんだか丁重に扱われてるんだよね。


 ……大事な人質だから?



 ちょっと思い出してみようね?

 何度目か忘れちゃったけど、それくらいしかないから……。


 ……て、誰に言い訳してるのかな?



 いいや。おさらい。


 白い車に乗った私は、少しの間、外国人2名とドライブ……。

 その時は怖かった。本当に怖かった。これからどうなるんだろう……って。

 スマホも乱暴に取り上げられちゃったし。


 それですぐに、知らない建物に入って……。


 降ろされた私は、そこにいた女の人。たぶん日本人! ……日系人だったかも? その人にボディーチェックを受けた。


 ……どきどきしたよ? 見付からないか怖かった。

 見付けられたら取り上げられちゃうから……。



 …………。



 トラックの荷台に乗せられてそのまま。


 移動し始めた。なかなか長い時間、移動。ごとごと揺れたりしてたから間違いなく。


 今は止まったまま。

 匂いも音も何もなくて、ここがどこかも全く不明。



 ……あはは。なーんにも分かんないや。



 丁重に扱われてるって実感は、このコンテナの中の様子から。


 薄暗いけど、電気で点くランプが用意されてた。

 電池式のコードのないの。

 首でも吊られたら困るから……なんだろうね。



 …………。



 奥にはベッド。

 小さいけど、私には十分のサイズ。小さいのが今になって役に立ちました。


 ……じゃなくて、これは私を調べてたから……だよね?

 だから小さいベッドでいいんだ……って。

 私の事を調べて……。こんなふうに用意してたってことは……。


 私を捕まえる必要があったってこと。


 やっぱり憂の関係……だよね……?



 …………。



 トイレもあるんだよ。入り口……って言うのもなんか変だけど、その近く。流せないからおまるみたいなものだけど……。それでも助かります。

 これって、使ってる時に扉が開いたら最悪だよね。


 うわ。考えるの禁止!



 …………。



 でも、もうちょっとで必要無くなっちゃう。

 もう正直、必要ない。



 …………。



 ベッドの傍には、小さな台。

 そこにお水も、ご飯も……。コーヒーまで用意されてた。缶はあまり飲まないんだけど……。私がコーヒー好きって情報からなんだろうね。



 …………。



 お腹……。ちょっと空いたけど……。


 食べる必要なんてない……ね。


 何度、状況を整理してみても……。


 考えないようにしてみても……。


 私は、これを飲むべきなんだ……って。



 …………。



 怖い。どうしようもなく怖い。

 遥さんから貰った薬。

 飲めば終わる。

 これが憂を助ける為の手段。

 憂が知ったら、絶対、助けようとする。

 その為には、たぶん私と交換……。

 でも、そんな条件を仲間たちは絶対、飲まない。



 ……それだと、憂は……。

 総帥さんとケンカしちゃって……。

 総帥さんと離れようとして……。

 そうすると、憂にとっては絶対マイナスで……。


 それは困る。

 総帥さんが居たから私たちは今まで無事だったんだから。


 もう残ってる選択肢……。

 選択肢になってないよね。1つだけしか残ってないんだよ。


 総帥さんは私の生死が不明だったら絶対に要求を受けない。そんなミスするような人じゃない……。

 私の生きてることを確認して初めて交渉のテーブルに着くんだよ。


 だから私が死んじゃってたら、話し合いにもならない。


 生きてたとしても絶対、交渉は決裂して邪魔になる私は……。





 だから……。




 飲まないと……。




 今の内に……。





 こんなことになるんだったら、変な意地張らなきゃよかった。



 憂にもう1度告白してあげればよかった。



 私の夢……。別の方法、色々考えてるんだよって言ってあげればよかった。



 憂と一緒でも大丈夫なんだよ……って。



 時間なんかいっぱいあるって思ってたから。




 あー。もう。


 ずっと頭の中、同じことがぐるぐる!


 何を考えてもまとまらないし、どう考えても行きつくところは同じだし!



 …………。




 嫌になっちゃうな……。




 ごめんね。




 みんな。




 このセーラーカラーの裏側。


 隠してたピルケースを取り出してみた。これで3度目。


 銀色。正真正銘の銀。魔除けになるんだって言う銀。

 銀のアクセサリー。実用性を兼ね備えた、佳穂が見付けたネックレスの先だけ。


 両手の指先でつまんで、くるくる回すと……。出てきた。透明なカプセル。白い薬剤。



 ……ご丁寧にお水もあるんだよね。



 移動する。一歩。また一歩。


 意外とキレイなベッドに座ってみた。

 とりあえず、横に薬もピルケースも置いておく。



 ごくり。


 唾を飲み込む音がヤケにはっきり聞こえて、余計に怖くなってきちゃった。



 ……この動作も3回目。



 2回とも失敗。これを飲み込んだら私はこの世界から消えちゃう。


 怖い。怖くて仕方ない……から、考え事でもしてみようね……。


 さっきまでの飲まない言い訳みたいなのじゃなくて、みんなへのメッセージって感じで……。



 ちょっと恥ずかしいな……。



 最初は誰がいいかな?



 えっと……。



 佳穂。


 私の親友。

 佳穂とは出会った時から仲良しだよね。


『ちほっていうの? どんなかんじ(漢字)?』


『ほ! ほがいっしょだ!』


『ずっとなかよくしようね!』


 あの頃の佳穂、可愛かったなー。

 ん? 子どもすぎるかな? 補正入れちゃってるのかな?


 ……いいや。このままにしておこう。可愛かったかほちゃんでいいよね?


 今は……。佳穂、エライ! ……って感じ。

 昔はあんなにおバカじゃなかったんだよ? 演じてるんだよ。自分がそうしていればみんなが笑ってくれるからって。


 ノッてあげてる千晶も一緒。


 千晶も一緒になっておバカしてくれてるんだよ?

 2人が変わったのは、私が落ち込んで……。落ち込むどころじゃないや。どん底だった頃からちょっと復活したら変わってた。

 私を笑わせようって、2人でボケてた。今は千晶がツッコミになっちゃったけどね。


 2人のテンポのいい会話は私の為……。


 ……だよね? 最後くらい、こんな風にうぬぼれても許してくれるよね?



 心配なのは佳穂。

 私がいなくなったら荒れちゃうと思う。

 だから支えてあげてね? 千晶?



 千晶繋がりで次は凌平くん。


 あれからどう思ってるのかな? 千晶のこと。佳穂のこと。

 生徒会入ったのは憂の為……だけど、それから先は白紙なのかな?


 もっと話せばよかった。

 もっと話して、本当に彼のこと理解してあげられてたら……。きっと違った対応をできたんじゃないかな……って思う。場合によっては、仲を取り持つことだって出来たかも……。


 ……。


 あのキザ男さんは将来、どうなっちゃうのかな?

 憂が変えたキザ男さん。見届けてあげられなくてごめんね。



 理解できない繋がりで拓真くん。


 ……最後まで解らなかったかも。

 でも、なんとなくは解ってるんだよ?

 私にしてくれた告白は本心からだと思う。たぶんだけど、拓真くんは私が憂に見せるような態度が好きなんだと思う。


 ほら、私って尽くしちゃうタイプだから。


 それで、拓真くんの裏側。

 表かもしれないんだけど……、憂が大事。大事すぎてどうにもならないほど。

 だから拓真くんは私が消えちゃった時、全力で憂を支えてくれると思うんだ。


 ……単なる希望じゃないと思う。私の勘って鋭い自信あるんだから。


 だからお願い。


 憂が『自分のせいで』とか『自分がいなければ』みたいな考え持っちゃったら……。全力で否定してください。

 本気でそう思った時、思い続けた時、もしかしたら脳が想いに応えちゃうかもしれないから。


 あ。憂はまだだよ? もうちょっと引っ込んでてね?


 次は勇太くん。

 憂が学園に戻ってきた頃に比べると、ちょっと距離が空いちゃった唯一の人。

 それって、佳穂のせいだよね? あと、大切な時に転室しちゃったって負い目。


 もう終わったことだよ? 憂の秘密がバレたあの頃って、みんなおかしかった。私も拓真くんも。あの梢枝さんだって。


 だからそんなこと、いつまでも気にしないで? 圭祐くんと一緒に『お前を全国大会に連れていってやる!』って宣言してあげて欲しいな。それも憂にとって、生きる希望になるはずなんだよ?


 それは美優ちゃんも一緒。

 憂にとって、バスケってそれだけ大事なもの。優みたいにできなくてもやり続けてる。これが証拠。


 ……憂を繋ぎ止めてあげて。バスケ部のみんなで。


 京之介くんもだよ?

 私のこと、好きでもないのに告白してきた彼だけど、京之介くんだって色々考えて、これがいいって結果、あーしちゃった。全部解ってるんだよ?

 あれから私に遠慮がちだったけど、私が消えた時、少しくらい悲しんでくれると嬉しいな。



 ……。



 んー。のど乾いちゃった。


 飲んじゃおうね。お水。




 ……と、お薬。





 カプセルに入ってるから、少しくらい時間残るよね?

 だったら飲んじゃおう。覚悟、決まったから。ありがとう。みんな。


 お尻の片方に体重を掛けて、台に置かれたペットボトルに手を伸ばす。


 ……届かな……届いた! もうちょっと身長欲しかったな。勇太くんの世界と私の見てる世界って絶対、違うもんね。


 んんっ! 固い! ペットボトルの蓋……!


 あ……。ゆっくりと蓋が時計の反対側に回る感覚……。開いちゃった……。開かなかったら飲めなかったのになぁ……。


 カプセルを手に取って……置いた。またベッドの上。


 絆を大事にしないとって思って……。蓋の緩んだペットボトルを足元に置いて、2つに分かれたピルケースを1つにして、いつもの場所に戻して……。



 …………。




 準備完了……。




 完了しちゃった。




 終わらせる為の準備が……。




 あとはこの薬を飲むだけ。だからカプセルを掴み上げた。


 口に……。口に入れて水で流し込むだけ……。


 飲まないと……。飲まないと酷い目に遭っちゃうかもしれないよ! 交渉決裂した後のこと! 想像もしたくないでしょ!?




 だから口に……。口に……。






 お母さん。




 どうか私に力を貸して下さい。




 私を貴女のとこに導いて下さい。




 カプセルを口に……。


 入った。


 ペットボトルの蓋を開けて……。


 んっ……。お水、美味しい……。


 もっと! いっぱい飲んじゃえ! あとのことなんかしーらない!!




 …………。



「ふぅ……」




 消えちゃった。


 お水と一緒にカプセルも。




「よいしょ……」




 体をベッドに横たえてみた。

 殺風景もいいところ。なーんにもない。

 これなら病院のベッドのほうがマシだよね。


 だから目を瞑った。

 あとは眠るだけだし……。





 ……もうすぐ眠くなるんだと思う。




 お母さん、ありがとう。

 お陰で飲めたよ?


 でもね。言いたいことがあるんだよ?



「お母さん? お母さんの気持ちはわかるよ?

 でも、こんなに重たい名前を付けてくれなくても良かったんじゃない?

 そのせいで、どれだけ悩んだと思う? 本当に胃に穴が空いちゃうかもってくらい悩んだんだからね?

 だから待ってて? いっぱいいっぱい話したいことがあるんだよ。文句もいっぱいある。これから行くから逃げないでね?」



 もうすぐ逢える……のかな? 死後の世界とかわからないけど、あったらいいなって今は思える。


 でも……。お父さん……。


 本当にごめんね。

 先に逝くなんて! ……って怒っちゃうんだろうね。



「ごめん。ごめんなさい。

 お父さんの望む通りの子どもになろうって頑張ってました。

 優のこと好きになって、この人といっぱい子どもを……とか、考えてました。それがお父さんとお母さんの希望だったから。


 ……でも、優が壊れて……。


 そこからは本当にごめんなさい。反抗期だったんです。今はもう反抗期も終わっています。社会への反抗とかそんなのじゃないんです。


 ……許してくれないと思うけど、何度でも謝ります。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい……」



 ……涙、出てきちゃった。


 お父さん孝行もっとすればよかった。


 ホント、後悔ばっかり。


 私、自分のこと良い子って思ってたのに、こんなにも『こうしておけば良かった』がいっぱい。



『お姉ちゃん』って呼んであげれば良かった。


 これだってそう。


 愛さんじゃなくて、お姉ちゃんって……。



「お姉ちゃん」



「お姉ちゃん?」



「お姉ちゃん!」



 欲しかったんだよ? きょうだい。妹だって言ってくれて本当に嬉しかった。憂が妹で私が真ん中。


 あ……。


 剛さん、ごめんなさい。剛さんも良くしてくれたよね。幸さんも。

 憂の家族みんな、私の事情を知ってて、家族みたいに扱ってくれたんだよね? お母さんと触れ合ってみたいって。お兄ちゃんだって、お姉ちゃんだって、弟だって妹だって欲しくって……。


 憂のお父さんは私のお父さんに遠慮してて、少ししか話さなかったけど、解ってます。


 優しい目で私と憂と、見てくれてました。




 あ……。





 …………。





 眠くなってきちゃった……。



 まだ、ダメ。



 リコちゃん、最高のセンセだったよ?

 康平くん、自分を責めたらダメ……。相手が本気だったら防げるワケないんだ……。

 絵里さんもだよ?




 今までありがとう。




 梢枝さん、憂をよろしくおねが……。


 …………。


 梢枝さんか拓真くん。

 2人にだったら憂を取られてもいい……かな?



 …………。



 ……ぃやだけど。




 ……。




 …………!



 あたま……。ぐわんぐわんする……。くるくるまわってる……。




 こんな……きゅうなんて……。




 ちょ…………っと……。




 まって……?



 ……そうすい……さん。


 はるか……さ…ん。




 ……ごめ…じかんが……。







 ゆう……。












 ……






 ゆ、う……。





 だ…い…………。






 ………………。






 …………。





 ……。







 ……。










 …








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