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27.0話 お裁縫

さて……ついに次回より3日に1話投稿です。

前書き後書き確認したら書いてなかったので本日も投稿です……。。

最初の宣言よりは頑張りました。


追伸

700ブクマ突破しました。大感謝です^^

 


 毎週、水曜日は3時間目、4時間目連結の家庭科です。


 蓼園学園では保健体育以外は男女の分け隔てが無いんです。

 最近の傾向らしいですね。他の学校では保体さえ、男女の壁が取り払われてきているとか。

 ……そんな事、どうでもいいですね。



 今日は男子のテンションが低いんです。本日の家庭科は裁縫。巾着袋を作るって先週の最後に先生が言ってたんです。エプロン持参でよろしくねって。エプロン持参は2週連続なんだけどね。

 裁縫は……男子にとっては苦痛の時間なのかな? 私は苦手じゃないくらいのレベル。



 そうそう。家庭科の先生。結構、年配のおばちゃんなんですけど、可愛い物大好き。無類の……って付けていいレベルだと思います。


 先週の調理実習でも、プチトマトを見て可愛い。サラダの盛り付けを見て可愛い。包丁を慣れた手付きで扱う千穂を見て可愛い。ぎこちない手付きの佳穂を見て可愛い。思考回路が可愛いに支配されてるみたいなんです。


今の5組で可愛いと言えば、憂ちゃん。


 わたしはもう憂ちゃんが心配で心配で……。




「千晶? さっきのどう思う?」


 佳穂が急に話しかけてきました。いきなりな質問ですよね。


「さっきのって移動中の?」

「そ。あれって……あれだよね」

「うん。そうなんじゃないかな? わたしは応援してあげたいよ。佳穂はどうなの? わたしは推奨しないけど」

「あたしは……なんか……わかんない」

「そう? まとまったら教えてね?」

「うん。そうするー」


 何の話か他の人にはわかりにくいと思います。

 わたしと佳穂の付き合いは0歳時の頃から。物心付いた時にはとっくに友達。保育園、初等部、中等部、そして高等部って、ずっと一緒なんですよ。クラスが離れることは何度もあったけど、今でもこうやって親友ポジション。腐れ縁って奴ですね。だから、こんな風な略しまくった会話も成り立っちゃう訳なんです。

 でも、2人の時しかしませんけどね。千穂でも置いてかれちゃいますので。



『千晶、さっきの憂ちゃんの熱い眼差しの事、どう思う?』

『さっきのって移動中のだよね?』

『あれって、千穂の事、まだ想ってるってアピールだよね?』

『うん。そうなんじゃないかな? わたしは応援してあげたいよ。佳穂はどうなの? 憂ちゃんの事、けっこう本気なんでしょ? わたしは推奨しないけどね』

『あたしは本気なのかな? わかんないよ』

『そうなんだ。気持ちの整理が付いたら教えてね』

『うん。そうするね』


 訳す……って言い方も変だけど、略さずに言ったらこんな感じの会話でした。佳穂は違ったりして。大丈夫だとは思うんですけどね。




「皆さん、お久しぶりでーす! 1週間ぶりですねー! 当たり前ですけどー!」


 出た! 特殊なおばちゃま! まだチャイム前なんですけどっ!

 160cmくらいの身長ながら80kg超えと思われる、ふとっ……いえ。豊満な肉体。頭の先っぽから出てそうな甲高い声。

 原色たっぷりのカラフルな衣装。


 そんなおばちゃまがキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロ……。

 相変わらず、落ち着きのない先生ですねー。

 先生の目的の人物は……千穂が隠してますね。さすがに無駄だと思うよ。千穂さん?



 きーんこーんかーんこーん。



 始業のベルは完全無視でウロウロし始めました。

 すぐに目標を補足したようです。


「………………」


 ……あれ? 反応無し?


「ウキャア♭ァ#aÅ!! かワイいぃぃィ!! ――――――!!」


 反応ありました。硬直してただけみたいですね。奇声です。半端ないです。やかましいです。耳を塞ぎました。

 でもね。おばちゃま。憂ちゃんに大声は駄目なんです。怯えちゃう。

 知らないのか、興奮で我を忘れているのか。どっちかはわかりません。


 怯える憂ちゃんに、奇声を上げて吶喊(とっかん)していく家庭のおばちゃま。『科』を消すだけで嫌な言い方ですね。あはは。


 憂ちゃんと千穂の前に立ちはだかった康平……さん? くん? どっちでもいいや。彼はおばちゃまの腹圧に吹き飛ばされて。

 千穂はその巻き添えに。転ぶまではいかなかったね。ひと安心……なのかな?


「うやゃぁぁぁぁぁぁ!!! ○×△!?」


 憂ちゃんの悲鳴を気にせず、おばちゃまが恰幅のいい体でガバリ。

 憂ちゃんの顔が豊満な胸に埋もれちゃって……息、出来てんの? じたばたしてるのはわかるんですけど、振りほどけられる訳ないですよね。腕力、中学生以下みたいだし。


 ちなみに、わたしと佳穂はでっかい机を挟んで反対側。周りは唖然とするばっかりですか。頼りになりそうな梢枝さんも静観の構えです。仕方ないですね。


「先生! 憂ちゃん、苦しそうです!」


 なんかこう言う時に動く機会が多い気がします。わたしって、あんましテンパらないからなんですかね?


「あららららら!!! ごめんなさいね! つい興奮しちゃって! ごめんね!!」


 物凄く慌てて謝るおばちゃま。憂ちゃんは肩で息をしてますね。やっぱり息できてなかったみたいです。


「――しぬかと――おもった――」





 改めて授業開始となりました。今はチクチクと巾着袋を手縫い中。

 さっきの憂ちゃんのセリフに、かなりの大勢が固唾を呑んで見守る……なんて事があったんですけど、平気だったみたいですね。

 むしろ、わたしとしては大勢がリコちゃんの言葉を覚えていた事のほうが意外でした。


 フラッシュバックが……とか。


 とにかく何も無くて何よりですよね。



 それよりも憂ちゃんのエプロン姿! かわいい! 似合いすぎ!


 リュックのお菓子をかき分けて出てきた巾着袋。

 その中から出てきたのは、手作りと思われる白いドットの入った黒いエプロン。裾にあしらわれたフリルと、各所に散りばめられた白い蝶結びのリボンがアクセント。

 単体でも可愛いけど、これは白い純正制服との相性抜群!

 トータルコーディネイトを意識した良い仕事です!


 本人は巾着から取り出して広げた瞬間、固まってましたけどね。

 着用を急かすおばちゃまや、周囲の女子のパワーに押されて、渋々とエプロンを装着。現在に至ってます。


 不器用な手付きで針を扱う憂ちゃんの下に、何度も何度もおばちゃまがやってきては、手を取って教えてあげてます。

 かわいい憂ちゃんに少しでも接するのが目的なんでしょうけど、その指導は的確そのもの。調理実習の時もそうだったけど、この先生。たぶん普通にしてたら凄いんじゃないかなって思います。えっと……本人としては普通にしてるんでしょうけどね。


 憂ちゃんの手付きも指導と慣れてきたのもあって、最初とは比較にならないほどスムーズに……って、ちょっと待って!


「憂ちゃん! ちょっと待って!」


 あ。かわいい。小首を傾げるいつもの仕草。そばで千穂にするのは、よく見るけど見詰められる当事者になると……。


 ……って、そうじゃない!


「憂ちゃん! ……血!」


 ――――。


「――ち?」

「……え?」


 千穂が憂ちゃんの左手を掴みます。ぷくっと赤い球体が指先に……できない。


「あれ?」


 千穂は憂ちゃんが縫ってる巾着袋を借りると確認。わたしも気になるから席を立って移動。佳穂も同時に動きました。

 縫いかけの巾着に、ところどころに小さな黒い点々。紺だから目立たないけど、血の跡……です……よね?


「憂……痛く……無かった?」


「どうした?」


 別のテーブルに付いてた男子勢、拓真くんたちも何事かと集まってきます。


「いたく――ない――ボク――」


 千穂が指先をまじまじと確認して、「止まったのかな?」って。ちょっと刺しちゃっただけみたいですね。


「憂? 気をつけ……てね……」


 ――――。


「――うん――わかった」


 わたしも見せてもらったけど、ホントにちっちゃな傷でした。各々、自分の席に戻って作業開始。じゃないですね。なんか勇太くんがわたしと佳穂の間に乱入です。


「佳穂ちゃん! オレ苦手でさー。教えてくんない?」

「無理! あたしも苦手ー!」

「えー。女子力低くね? 料理できる?」

「うっさい! 女子力担当は千穂! 千晶はそこそこ!」

「オレ、料理は少しは出来るよ? 」

「うそ!? それはショック……」

「焼く炒める茹でるくらいだけど。ところで千晶さん? ちょっとお尋ねしますが」


 なんで敬語ですか? いきなり振りますか? お付き合いしますけど。


「何ですか?」

「結構、慣れた手付きですね」

「佳穂と比べて頂けるとは、ありがたい限りです。助かります」


 千穂は女子力高いんで困ります。将来の夢はお嫁さんを具現化させてるような子なので。


「教えて頂けますか?」

「佳穂には放置プレイ開始ですか?」

「あたしも一緒にお願いします!」

「放置になりませんでした」


 仕方ないですね。


「わたしを(あが)めなさい」


「「ははー」」


 ノリがいいですね。あはは。




「ほら! それじゃ指を縫っちゃうよ!」

「え? え?」

「勇太くんのほうが上手じゃない! 佳穂は女子1年生かっ!」

「15年生です……」

「千晶ちゃん、スパルタの住人だったとわ……」

「日本人です! ポリスの住人じゃありません!」

「知的な会話で置いてかないでっ!」

「世界史で習ったでしょ!」


 佳穂ってこんなにボケボケじゃなかったはずです。勉強は嫌いで出来る子じゃないけど。勇太くんの影響かな? わたしがいつの間にかツッコミ担当ですよ。お陰様で。


 佳穂は憂ちゃんに勇太くんに……なんか、忙しいね。彼氏居ない歴=年齢に終止符を打つのは佳穂が先かも。憂ちゃんだったらノーカンで良いと思うんですけどね。


 その前に千穂はどうするんでしょ?

 わたしには想像できないです。

 彼氏が女の子になって、その上、お世話が必要だとか。あの子、家で泣いてないかな?

 それとも嬉しいのかな?


 ……やっぱり想像できないです。


「ちょっと……憂?」


 …………?


 千穂が憂ちゃんの左手を捕まえています。さっきも見ましたよね。デジャブ?


 あ……。


 血だ……。


 親指からツーって濃い赤。深いんじゃない!?

 憂ちゃんは親指を咥える。千穂は慌ててて、役に立ちそうに無いね。

 親指咥えてる憂ちゃん可愛い。ちょっとそれ反則。


 じゃなかった。えっと……バッグの中に消毒と……。


 あった。昨日の放課後、急遽、用意した気持ち程度の応急処置セット。



 それを掴み取って、憂ちゃんの側に駆け寄ると、先に到着してる人が居た。梢枝さん。

 わたしのより大きな応急処置の箱。わたしのは小袋。梢枝さんのバッグって、そんなに大きくないのに。一体、何が入ってるの?


「千晶……梢枝さん……憂が……」


 そんなに動揺しなくても。針が刺さったくらいじゃ人間どうにかなりません。痛いとは思いますけどね。特に神経が集中してる指先ですから。


「わかってる」


 とりあえず、千穂。落ち着きなさい。


「千晶さんはウチと似た人種かも知れませんねぇ……」



 …………?



 そんな事より……。


 梢枝さんが憂ちゃんの手を取って、口の中から親指を引っ張り出しました。


 消毒液を染み込ませたガーゼで赤を拭います。

 でも、すぐに新しい赤が……出ない。


「……止まってはる……」


 わたしもじっくり見てみました。しっかりと小さな穴が空いてます。痛そう……。

 でもまぁ、保健室に行くほどじゃないですね。

 梢枝さんは困惑の表情で消毒中。


「痛とうない訳あらへん……」


 梢枝さん漏らした独り言。そうですよね。あの傷。あれって刺さってから手を引かずに、そのまま更に深く刺したような……。じゃないとあんなに深く刺さらない。


 ……たぶん、だけどね。


「あら大変! 怪我しちゃったのぉー!? 見せて!? あら! 痛そうねぇ!」


 おばちゃま登場。憂ちゃんに聞きたい事あるのに。困ります。言い換えると邪魔です。


「消毒してくれたの? ありがとねぇ! いい奥さんになれるわよ! あなた!」


 言われた梢枝さんは、迷惑そうな心情を隠そうともしてません。すっごく嫌そうな顔。

 ……似てないです。わたしには、そんな度胸ありませんから。


 おばちゃまはどこからともなく絆創膏を取り出して、憂ちゃんの親指をくるりと一周。なんか乙女チックなやつ。小さなハートマークがいっぱいプリントされた、可愛いピンクの絆創膏。

 おばちゃまは可愛い可愛いってうるさいです。


 それを見て憂ちゃんも嫌そうな顔。気持ちは分かる。こんな可愛い女の子だけど、心は男の子なんだからね……って、あれ? そうなんだよね? 憂ちゃん見てると分からなくなる時があります。


 とにかく、嫌な顔……隠しましょうよ。そう言うところ、梢枝さんと憂ちゃんって近いんじゃないのかな? 我道を行ってるんですよね。




拓真(たく)ー! ほいよー!」


 拓真をタクと呼んだのは、現役バスケ部の男子。(たに) 圭佑くん。


 圭佑くんが何か拓真くんに投げて渡しました。


「渓やん、サンキュ」

「今度、バスケ付き合えよ」

「あぁ、わかった」


 拓真くんは憂ちゃんの前で腰を屈めると、慣れた手付きでベージュのテープを絆創膏ごとクルクル。これってテーピング? 親指に厚めにテープを巻いたら次は人差し指。

 なるほど。これなら刺しにくいよね。


「よっしゃ。どうだ?」


 憂ちゃんは指を曲げたり伸ばしたり。へぇ。あんなに巻いても動かしやすそう。テーピングってそんな物なんですかね?


 何事かと集まっていたクラスメイトたちも、ざわざわしつつ、自分の席に戻ってますね。男子も女子も何か見せ付けられてる気分なんでしょうね。わかる。わかりますよ。


「――うごき――にくい」

「文句言うな」


 憂ちゃんは唇を突き出して不満そう。


「憂さん……痛く……なかったんです?」


 梢枝さんの横槍。そう。それ。わたしが聞きたかった事。

 憂ちゃんは小首を傾げて思案。


「いたみ――ないから――」


「…………え?」


 ちっちゃい声でした。たぶん、周りの人には聞こえないくらいの声。隠したいのかな? そうかも。


 あっけらかんと、とんでも無い事を言った憂ちゃん。梢枝さんの驚いた顔って珍しいです。

 あれ? 昨日も見たかな?


「へぇ……いい……訳ないか……」


 佳穂もとっさに、イイねって言おうとして尻すぼみ。

 良い訳ない。憂ちゃんは怪我をしても気付かない。


 誰とも無く、顔を見合わせて頷き合う、わたしたち。



 この時の……わたしたちの気持ちは1つだったと思います。



 ちなみに家庭科の残り時間、やけに熱中してたのは当の憂ちゃんでした。










 その日の放課後、今日も憂の迎えに来た島井に千穂は、家庭科での出来事を話した上で、痛みについて質問した。


 島井は頭を掻きながら「言ってなかったですか?」と聞き返した。

 利子も無痛の事は知らなかった。

 憂の症状については話さねばならない事が多過ぎた。その中で抜け落ちていた……と島井は弁明した。

 そして島井は誠意を持って謝罪していたように見えた。本当に失念していただけなのかも知れない。



 憂のグループのメンバー以外への周知については保留となった。

 島井が1つの例え話をした為である。



 それは子供の無邪気さ故の残虐性。



 時に虫を捕まえ、足や羽をもぎ楽しむ。

 時に蟻の行列に石を落とし笑う。


 この残虐な行為は虫を見た時、その虫の痛みを感じられない為に起きる事であると島井は語った。


 実際には虫や魚の痛覚については諸説あり、解明されていない。

 虫の無痛に関しては否を唱えるものも居るだろう。しかし、それも根拠は無い。


 痛みを感じない憂に敵意が向いた時、それは次第にエスカレートする危険性を(はら)むと説いた。


 だが、相手は幼児では無い。高校生である。公表してしまっても問題は無いのかも知れない。公表した上で憂を守る体制を確立したほうが良いのかも知れない。


 しかし公表してしまえば後には引けない。公表はいつでも出来る。


 これが保留となった根拠であった。




1話辺り5000字以上を目標に書いてるんですよね。

短くすれば、1日1話をキープ出来るんですけど……今更ですよねぇ(笑

最近は3日で1話書いてる感じです。


ストック貯まる事があれば投稿ペース速めますので……。

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