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26.0話 ラブレター開封

えーっと。

今日も投稿しちゃいました。

お知らせする為に。


今まで18時に投稿させて頂いておりましたが、都合により21時と変更させて頂きます。

 


 時計を見ると8:48を指していました。


 さて……と。

 そろそろ朝礼の時間ですね。


 私は職員室を出ると、C1-5組に向かいます。


「あ。リコちゃんおはよー!」


 他クラスの生徒たちが挨拶してくれます。


「おはよう!」


 気持ちいいですね。私も元気に挨拶です。

 タメ口なんか気にしません。むしろ大歓迎です。距離が近い証拠ですから。年配の先生方は渋い顔をされてますけどね。私はこのスタンスを崩す気はありませんので悪しからず。


「せんせ! おはよ!」

「おはようございます!」


 反射的に挨拶を返します。私の姿を見ても他クラスの生徒たちは、自分のクラスに戻りません。


 理由は単純。


 ウチの学園は朝礼は義務じゃないからです。昨日みたいな配布物がある日は各クラス、朝礼を行います。でも今日みたいに何も無い日は朝礼自体を行わないクラスがほとんどです。


 私は何も無くても、こうやって5組に行きます。だって、みんなの顔を見たいじゃないですか。


 出欠状況は名簿を見れば分かります。でも顔を見ないと悩みとか、そんな事に気付いてあげられないと思うんです。一年間、一緒に過ごすんですよ。出来るだけ顔を合わせる時間を確保したい。他クラスの担任の先生方もそうするべきです。私は朝礼義務化推進派なのです。


 それに今日は気になる事があります。今日は憂さんが初めての通常登園。問題なく登園出来たか気になるんです。


「リコちゃんおはよー! 朝礼間に合ったー!」

「健太くん、おはようございます!」


 健太くんは前の方の席だから、前のドアから入るんですね。

 私は健太くんに続く形で5組に入りました。


「おはようございます!!」


 今日一番の挨拶をしました。

 一斉に返ってくる挨拶。この瞬間は何年、教師やってても嬉しいものですね。

 返ってきた挨拶の中にひと際良く通る声が混ざっていました。決して大きくない声なんですけどね。不思議です。


 あれ? 憂さんの机に……封筒? ラブレターかな?


「リコちゃん? みんな席、付いたよ?」

「なんか昨日辺りもこんな事無かった? 悩みあるなら相談乗るよ?」


 う……相談乗るって教え子に言われた……。喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか……。

 たしかに3日前から集中力ないかも。いけませんね。切り替えましょう。


「ごめん。何でもないですよ。それより……今日は……」


 教卓に両手を付きます。眉間に力を入れながら話します。何事かと皆の注目が集まります。ふふ。


「特に何もありません! 以上!」


 ブーブーと不満の声。やーい! 引っ掛かったー!




 しばらくすると皆、思い思いの行動を取り始めました。

 私は憂さんたちの下に向かいます。


「リコちゃん、どしたの?」


 彼らの中で教卓から一番近い佳穂さんが問いかけてきました。


「憂さんの登園が問題なかったかなって思ってね」


 敢えてフランクに話しかけます。授業中じゃないですからね。


「「………………」」


 あれ? 沈黙? 何かあったんですね……。

 憂さんと千穂さんを除いた全員の視線が千穂さんに集まり……あれ? 康平くんは俯いてますね。どうしたんでしょう?


 グループメンバーの多くの視線を受けて、不満そうに首を傾げる千穂さん。なんで私……? ……って、感じですね。それは良い事なんですよ? 頼られている訳ですから。


「えっと……大勢の女子に取り囲まれて、お菓子を貰っちゃったみたいです」


 なんだ、そんな事?

 ……じゃないですね。憂さんには色々と大問題なんですよね。その憂さんは封筒をぼんやりと眺めています。ラブレターで間違いなさそうですね。4通も。凄いな。


「男子生徒は?」

「えっと……」


 千穂さんは梢枝さんを見ました。ちょっとムッとしていますね。端正な顔立ちの人って、ちょっとずるいです。怒ってもそれが綺麗なんですから。


「梢枝さん! その場を見てたんだから梢枝さんが話してください!」


 見てたの? なんで千穂さんに振ったのかな?

 梢枝さんはいたずらっぽく笑っています。千穂さんを困らせて遊んでただけみたいですね。首を傾げた理由はそれでしたか。


「男子は遠巻きに見てはりましたよ。女子の集団に突撃しはる勇者様は存在しませんでしたわぁ」

「梢枝さんも遠巻きに見てたそうなんですよ」

「康平さんが()うたはずです。ウチらがするのは悪意の排除ですわぁ」


 なんか……ちょっと険悪な雰囲気ですね。喧嘩は駄目です。話を変えましょう。


「ところでどんなお菓子貰ったのかな?」


 その質問に顔を見合わせています。苦笑いを浮かべて。喧嘩じゃないんですね……。難しいな。


「これっす。これだけじゃなくて、憂のリュックにも」


 パンパンに膨れたエコバッグを勇太くんが見せてくれました。すっごい量……。これだけじゃなくてリュックにも?

 今時の女の子たちって、こんなにお菓子持ってきてるの?


 ううん。そうじゃない。ここは1つ言っておかないといけません。


「憂さん? 駄目ですよ」


 声をかけると憂さんは、封筒から私に視線を移動しました。


「知らない……人から……貰ったら」


「――ごめんなさい」


 早い反応に驚きました。でも適当に謝った訳じゃなさそうです。その目は真剣。素直に謝る事の出来る良い子ですね。「くっ」……って声が聞こえました。拓真くん、どうしたのかな? 気になるけど後回しです。


 ここで終わってはいけませんから。


「梢枝さん? 貴女は1人で見てたんですか?」

「いえ。康平さんと一緒でしたわぁ」

「それでは2人とも聞いてください。見て見ぬふりは同罪ですよ。憂さんの事を考えて、時には厳しくしてあげて下さい」

「クククッ……。あははははは!!」


 拓真くん、大爆笑。ううん。それに釣られたのか憂さんと康平くんの2人を置いて、皆が笑っています。

 千穂さんまで。


「どうかしましたか? 私、変な事言いましたか?」

「いえ……そうじゃない……ん……ですっ!」


 笑いを堪えながら千穂さんが否定します。何が起こってるんでしょう?


「それ、さっき千穂が同じ事言ったんですよ」


 いち早く回復した千晶さんが教えてくれました。同じ事ってお説教?


「クク……その年になって……」

「拓真さん、後生です! 言わないで下さい!」


 あぁ……なるほど。拓真くんと康平くんのやり取りで理解しました。


『知らない人から物を貰ってはいけません』


 ちっちゃい子どもに教える事だよね。これ。

 憂さんには仕方ないとしても、梢枝さんと康平くんには酷だったかな。

 特に康平くん。結構、落ち込んでるかも。


 ちらり。腕時計を確認すると9時前。1時間目の授業開始は9時……。


 ……よし。逃げよう。


「あ。ごめんね。1時間目、始まっちゃうから私、行くね!」


 早足に職員室に戻りました。


 背中で「あ! 逃げた!」とか声が聞こえました。でも遅れるから。ごめんねー。








 すたこらさっさと逃げ出した利子。

 利子は少し勘違いをしていたようだ。利子は康平と梢枝の真の年齢を知らない。それが原因である。彼らは書類上、15歳となっている。梢枝は隠す気が無いようだが。


 康平が落ち込んでいる本当の理由は年下の千穂に滅法、叱られた為だ。

 しかも内容が内容である。まさか20歳近くなって、知らない人に……などと年下に叱られるとは思っていなかった。更に言えば、憂を混じえて話した為、小さな子どもに言い聞かせるようにゆっくりとだ。彼は精神的にやられてしまっているのである。



「憂? それ……どうするの?」


 憂は小首を傾げる。ほとほと困ったと云った表情で口を開いた。


「――どうしよう?」

「とりあえず、読まないと……ダメじゃない?」

「そうそう! どんなのか……聞かせて!?」


 千晶は読ませて欲しいといった様子は見せなかったが、佳穂は内容が知りたいと言い切った。


「あ! オレも気になる!」


 憂は少し考えた後、白の和封筒に手を伸ばす。



 キーンコーンカーンコーン。



 そんなタイミングでタイムアップ。

 鐘の音と共に日本史の教師が入室した。憂は普段より幾分か素早く、机の中に手紙をしまい込んだのだった。



 キーンコーンカーンコーン。


 1時間目が修了した。強引な進行、申し訳ない。

 1時間目は特に何事も起きなかった。そんなに事件が起き続けても困る。ただ、憂がどこと無く、そわそわと落ち着きが無かったとだけ語っておこう。


 1時間目修了の礼が終わるなり、千晶は(はさみ)を取り出し、憂に手渡した。

 憂は少し躊躇った後、白い封筒の上部に鋏を入れた。真っ直ぐ切れて居ない。ゆらゆらと切れ目が揺れている。


「千晶も気になってたんじゃん。そんな風に見えなかったのに」

「そりゃね……気には、なるよ」


 白い封筒の表書きは几帳面な文字で【立花 憂 様】と書かれている。差出人の記載は無い。憂はまごつきながら白い便箋を取り出す。綺麗に三つ折りに畳まれている便箋を開いていくと、誰かの喉がこくりとなった。


 憂が目を通す。気になる面々だが、流石に覗き込むような無粋な真似をする者は居ない。


 憂はゆっくりと首を傾げると千穂に質問した。


「――千穂? ――これ――よめる?」


 一番上の文字を指し示す。そこには【拝啓】と書かれていた。


「え!? そこ!?」


 千穂の思いが手に取るようにわかる。読み終える頃には日が暮れる……。そう思っているに違いない。

 とりあえず指し示した文字の読みを「はいけい……だよ?」と、教えた後で憂に問い掛ける。


「読んで……あげよっか?」


 ――――。


「――おねがい」


 憂はあっさりと千穂に手渡した。通常であれば恋文を他者に渡すと云う行為には、躊躇いが生じると思われる。だが憂の場合は姉との会話で未だ千穂に想いを寄せている事が判明している。その為、新たな恋の可能性に興味が無いのであろう。千穂は呟くように小声で憂に囁いていった。周囲を気にしての事だろう。



 白い和封筒の手紙は長文だった。要約させて頂く。


 同じ1年生からの手紙で差出人の記載は文章内にも見られなかった。

 そんな差出人不明の手紙は恋文とは言い難かった。一方的な宣言文である。

 憂をひと目見て、守ってあげたいと思った事。その為に自分を鍛える事。相応しい男になったと自分が認めた時、あらためて告白する事。

 長い文章に切々と想いが綴られていた。


 ちなみに読んで貰ったものの、憂は理解出来ていない。小難しい表現や余計な漢字が使われている上、その文章そのものが長ったらしく、憂が理解出来るようにゆっくり読むと、それこそ日が暮れる事になる為だ。


 この手紙は緊急性が無い。後ほど憂の為にルビを振り、家でゆっくりと読んで貰う事に落ち着いた。



 それで流れが出来た。想定される緊急性。それは『今日の放課後、屋上でお待ちしています』と言った時間指定の内容であった場合だ。残りの3通を千穂、佳穂、千晶が流し読む。流石に躊躇いは見られていたが、已むを得まい。憂に任せていたら、相手が昼休憩中、待ち惚け……なんて事に成り兼ねない。


 千晶の読んだ白の洋封筒は前述の白の和封筒と似たような手紙であった。

 例によって差出人不明だ。流行っているのか?


 千穂の読んだ派手な花柄の洋封筒は、憂にひと目惚れしてしまったと言う2年の()生徒からの手紙であった。百合の趣味は無かったのに……と戸惑いの心情が綴られていた。手紙の最後には【せめて想いを寄せることを許して下さい】と締め括られていた。この手紙には記名があったが接触を図る意図は無かった。


 千穂が要約を伝え終わると、そこで時間切れとなった。



 残る1通は2時間目の修了後。憂と千穂、康平不在の中で佳穂が残るメンバーに要約を伝えた。憂がトイレに行く為、席を立ち、心配顔な千穂が付いていったのだ。康平は何も言わず、2人から離れた距離で追従した。落ち込んたままだが任務は全うする。生真面目で難儀な性格だと言える。


 閑話休題(それはさておき)、最後の1通の内容はいたずらとも取れる内容であった。これも女子からの恋文だった。自分は生粋のレズビアンであり、憂に惚れてしまったとはっきりと書かれていた。そして、近く告白する……と。


 いたずらと断定したのは梢枝である。


 折角、ラブレターを書いたのだ。告白するつもりがあるのであれば、この手紙の中で時間指定をするはず……と梢枝は指摘した。言いたい事はわかる。告白しようとした時、2通目の手紙が必要になる。いくらなんでもそんな手間は掛けないだろう。


 だが断定するには根拠が弱いように思われる。もしかしたら梢枝は手紙を出した人物を目撃していたのかも知れない。


 憂たちが戻ると、3,4時間目の移動教室の為、全員が簡単に荷物を持ち席を立った。

 憂の大きく膨らんだリュックは拓真が持った。基本的に寡黙な男だが、細やかな気遣いの出来る男なのである。


 移動の最中、千穂はラブレターの中に緊急性があるものが無かった事を、憂に時間をかけて説明した。理解し終えた憂は、やはり、さほど興味無さそうに見えた。むしろ興味あるのは……と言わんばかりに千穂を見詰めていた。


 そして余所見しながら階段に突入。案の定、段差に蹴躓(けつまず)き、周囲を慌てさせたのだった。





リコちゃんみたいな先生、居ましたか? もしくは居ますか?

私には残念ながら居ませんでした。


この先生は私の理想の具現化だと思ってます。たぶん。



文面強化させて頂きました。

予約投稿後に読み直したら、回し読みする嫌な子たちに見えたんで。。

表現不足ですみません……。

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