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25.0話 お菓子と恋文

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http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1492142/


詳細は上記、活動報告にて。

 


 ―――5月10日(水曜日)



 俺は、お嬢の到着を今か今かと待ち侘びている。


 今日はお嬢が通常の登校時間に初めて登校予定だ。



 来た!


 来客者用駐車場の白線内で切り返し、きっちりと神経質に止められる赤い軽自動車。

 運転席を降りたのは、姉の愛と思われる20代半ばの美女。

 暗い鳶色の長いストレートヘア、少しツリ気味の目元。描かれた眉はツリ目に沿った平行眉。勝気な印象を受ける。如何にも出来るキャリアウーマンと云った風情。さっき、スマホで確認した画像通りの外見だ。



 女性は後部座席のドアを開くと、中の人物に何やら話しかける。憂さんで間違いないだろうが、ここからでは見えない。聞き取れない。

 女性は後部座席に手を伸ばす。女性の手を白い小さな手が握った。小さな革靴。白いソックスに包まれた細いふくらはぎと順番に見えてくる。続けて白いスカートと、それに負けない純白の大腿。更には淡いシアンのパンツ……。



 慌てて視線を外すが強烈に脳裏に焼き付いてしまった。



 いやいや……。


 あの子は元は少年だ。


 忘れろ。


 ブリーフだと思え。



 頭の中で憂さんにブリーフを履かせてみた。浮かんだ姿は何故かブリーフのみの上半身裸の姿だった。



 そんな姿で「康平――?」と小首を傾げる。



 ぶはっ! 駄目じゃん!




 頭を振り回し、(よこしま)な妄想を打ち消す。


 軽自動車に視線を戻すと、白い制服に身を包まれた憂さんが、ぼんやりと佇んでいた。


 ……今日も可愛いな。

 変な趣味に目覚めそうだ……。

 小児性愛か男色趣味か。対象が憂さんの場合、よく分からない。


 いかん! 気持ちをリセットさせろ! 憂さんは護衛対象者だ!


 ひっひっふー。

 ひっひっふー。


 さぁ、本日のミッションスタートだ!




 俺はゆったりとした足取りで、広いC棟正面玄関に辿り着く。

 憂さんの足が相手だ。俺がゆっくり歩いても余裕で先に到着した。


 朝礼まで、かなり余裕のある、まだ人の少ない時間帯。騒ぎも落ち着いてきたとは言え、妥当な判断だと言えるだろうな。


 振り返ると憂さんが軽く右足を引きながら、ゆっくりと歩を進めていた。

 愛さんは正面玄関から離れた場所で見守っている。たぶん、彼女は憂さんの姿が見えなくなるまでそこを動かない。


 愛さんの行動を最後まで確認しても意味は無い。いや、無い事は無いが優先するべきは、憂さんの安全確保だ。



 正面玄関をくぐる。


 靴箱は正面玄関を入って左から1年の1~4組、2列目に5~8組、3列目に9~12組と続いている。それぞれ、1組2組と3組4組って感じの向かい合わせだ。


 俺は迷わず2列目に進む。



 そのまま1-5と表記された一角に歩み寄る。

 自分の下駄箱の扉を開き上靴を放り投げ、それを履く。履いてきたスニーカーを下駄箱に放り込むと扉を閉める。

 次は1-5の扉付き下駄箱の群れの一角。一番最後にある【立花 憂】と表記された下駄箱が目標だ。周囲には誰も居ない。今がチャンスだ。



 ……俺はその扉をそっと開く。


 昨日の朝も放課後にも入っていなかった色取り取りの封筒が何通か入っていた。


「恋文とは青春ですねぇ」


 なっ!?

 突然の声に……ぶっちゃけびびった。


「ごつい割りに小心者やねぇ。そないな事で大丈夫?」



 視界の端に映る黒のスキニーパンツにぴったりとした白の長袖Tシャツ、黒のカーディガンを羽織ったいつもと代わり映えのしない服装。


 何よりもその言葉遣い。該当者は一名。


「梢枝か。びびらせんといてや」


 顔を上げ、姿を見ると梢枝は腰に手を当てていた。なんや? 機嫌悪いんか?


「その言葉遣いなんとかならへん? 腹立つんやけど」



 これは俺のポリシーだ。黙れ。


 無視して、封筒を避け憂さんの上靴を確認する。封筒は4通だった。そんな事はどうでもいいが。


 小さな上靴を引っくり返すと中からいくつもの画鋲が落ちた。ついでに裏側を確認すると左右1つずつ。画鋲の針が靴底に食い込んでいた。

 俺はそれを引き抜いていく。梢枝はしゃがみ込んで散らばった画鋲を拾っている。


「くだらん事しはるわぁ。それより康平さん? わざわざばら撒かないで頂けます?」


「あ……あぁ………すまん」


 誰かが踏んだら騒ぎになる。片足ずつ受けながらするべきだった。すまん。

 周りには何人かの他クラスの生徒たちが、怪しい人を見る目で俺たちを見ていやがった。


「すみませんねぇ……。画鋲を引っくり返してしもて……」


 拾い残しが無いか確認しながら、中腰で履き替えのスペースのレンタルと思われるマットに目を凝らす梢枝の姿。



 いや……ホント……すまん。




「……ちゃんだ」

「あー………だ」


 なんだか外が騒がしい。


 俺は憂さんの上靴を元に戻す。封筒も元通りに。


 (きびす)を返し、出入り口が見える場所に移動する。


 玄関正面で憂さんが取り囲まれていた。たぶん。

 人垣への参加人数は10人くらい。全員が女子だけど、小さい憂さんの姿は完全に隠れてしまっているから、たぶんだ。


「可愛いねー!」

「ホントに1年生? 飛び級みたい」

「憂ちゃんの事知ってから会いたかったんだー!」

「これあげる!」

「あ! 私も!」

「憂ちゃん痩せてるからこれ食べてお肉増やしてね」

「はい! これも!」

「あ! ずるい!」

「ねぇねぇ! ハグしていい!?」

「ずるいって何よ!? 2年生! 私は3年! 先輩よ!」



 ……どんどん人が増えてまっせ。どっから沸いてきたんや? どないしよか?

 いやいや! 関西弁で考え事は禁止だ! 戻れなくなる!


「うわー! 何なに!? この人数!?」

「ちょっと押さないで!」

「憂ちゃんに被害行くからー!」


 阿鼻叫喚だ。何だこれ?


「あれは悪意やありません。好意からです」


「うわっ!」


 思わず声が出ちまった……。


 つまり、何もするな……と? 大体、お前はいつ隣に立った!?


「ちょっと! 通しなさい! 憂ちゃんに迷惑です!!」

「そうよ! 離れて!!」


 ん? 流れが変わったような?



 包囲網が崩れて、やっと姿が見えた。両手をそれぞれ別の先輩に引かれて、憂さんが近づいてくる。憂さんはポカーンと、何が何だかわからない様子だ。


 ネームのアンダーラインは2人とも黄。3年だな。1人は純正制服じゃん。マジで珍しいんだよな。女子たちにとって、そんなにハードル高い物なんか?



 その3年生は憂さんの手を引いて、1年の靴箱コーナーに。

 そう。こっちに歩いてきたのだ。


「あ――! ――梢枝! ――康平!」


 憂さんが俺たちを見付け、嬉しそうに声を掛けてくれた。


「憂さん、おはようございます」


 梢枝が挨拶した。


「――おはよ」


 …………あ。


「お……おはよう!」



 なんでどもったんだ俺!?


「お知り合い? 憂ちゃんをお任せしていいかしら?」


「生徒会長。ありがとうございます」


 梢枝が憂さんの手を引き継ぐ。

「………生徒会長?」


 俺の声に憂さんの手を引いていた2人と、その後ろで買い物に使う袋。あれなんて言った? まぁいい。買い物袋を持つ眼鏡の女子。3年生3人は驚いた顔をした。ついでに梢枝も驚いた顔をしやがった。俺、そんなん知らねえし。


 ……なんか……生徒会長? この子、梢枝に似てんな。


「この馬鹿には、後で説明しておきます」


 …………馬鹿だと?


 こいつは何時(いつ)こうなった? 年上を敬う気持ちが全く無い。昔はもうちょっと可愛げがあったぞ。



「気にしないでいいわ。それより憂ちゃんを」


「はい。失礼します。憂さん……こちらです」


 憂さんが俺の横を通り過ぎる。あれ? リュック、大きくなってね?


「憂さん。それ……持ちますわ」


 憂さんは立ち止まり、小首を傾げる。この姿。やっぱ可愛いわ。


「――ありがと――だいじょうぶ」


 そう言って梢枝と手を繋いだまま自分の下駄箱へと歩いていった。


「憂ちゃん、えらいね。優しい貴方にはこっちを」


 眼鏡の女子に大きめの……例の買い物袋を渡される。そこそこ重いぞ。これ。

 中身をちらっと見ると大量の菓子、駄菓子。


「……なんですか? これ?」


「みんなからのプレゼント。あはは! すっごい人気だね。会長様も負けてるんじゃない?」


「……余計な事、言わないの」


「あ。憂ちゃんのリュックにも、いっぱい入れられてたみたいだよ。軽いスナック菓子とかばっかり入れられてたのは、みんなからの憂ちゃんへの愛情だと思うよ」


「――なに――これ――?」


 会話の途中で憂さんのよく通る声が聞こえた。

 見ると両手でさっきの4通の封筒を掴んでいた。


「あら? ラブレター? いいわね。初めて?」


 はっきりとした声でしっかり区切りしゃべる、純正制服の生徒会長さん。

 憂さんは、ふるふると首を横に振る。早い反応だった。


「そう。そうよね。愚問……だったわ」


 憂さんは聞いているのか聞いていないのか? 何の警戒も無く靴を履き替える。俺らが居なかったらと思うと背筋が凍る。


 さて……どうやって、尻尾を掴もうか?


 ……って言うか、優くん時代にも貰ってんのか!?

 俺、そんな経験ないぞ!?


 あ!

 ……千穂さんかな?

 ……聞いていいのかな?



 ……憂さんは、靴を履き替えると、生徒会長たちにしっかりと頭を下げ「ありがとう――ございました」と挨拶した。俺らも会釈。


 生徒会長たちは微笑み、そして手を振る。


 俺たち3人は教室に向けてゆっくりと歩き始めた。












「……で、これは……何?」


 憂の机の上には大量の……それはもう半端ない量のお菓子の群れ。それを前にどこか嬉しそうにしていた憂。だが、千穂の言葉にその表情が陰り始める。


「誰に……貰った……の?」


 その変化に気付きつつも、千穂の追及は続く。彼女は静かに怒っていた。このメンバーに、こんな大量のお菓子を意味もなくプレゼントするような者はおそらく居ないと思う。従って、このお菓子の山は『知らない人』からのプレゼントと言う事になる。


 ちなみに今現在、到着しているのは憂と千穂の純正制服組。梢枝&康平の護衛コンビ。更には拓真の5名である。

 佳穂千晶のアレンジ制服ペアと、拓真と共に憂の親友高身長タッグを組んでいる勇太は、まだ学園に到着していないようである。



 憂の眉がしゅんと下がる。今にも泣き出しそうだ。


「憂? ……答えて」


「まぁまぁ、千穂さん。あの状況は仕方ありまへんて」


 堪らず康平が助け船を出した。出したのは良いが、すぐに撃沈される事になる。梢枝をも巻き込んで。


「康平さん。見てたんですね。という事は……梢枝さんも?」


「ウチは知りまへんえ?」


 千穂は康平が切り出した瞬間、梢枝が康平を一瞬だけ睨んだのを視界の端で捉えていたのである。


「へぇー。そうなんだ。憂に聞いてみますね」


「はい。すみません。見てました。見てただけでした」


 梢枝は京訛りを消し去り、即座に認めた。前日に千穂が佳穂をなかなかの威力で(はた)いた時の様子を見ていたはずだ。あれは喰らいたく無いのかも知れない。

 ついでに言えば、梢枝を庇うと云う機転を憂が利かせられるとは思えなかったようだ。



「3人とも……聞いて……下さい」


 憂を含む為、ゆっくりと千穂は話す。


「知らない……人から……貰ったら……ダメ」


 ゆったりとした口調が康平には堪える。怒鳴って貰ったほうがいくらか有り難い。そんな事を知ってか知らずか、千穂は続ける。


「こどもの頃……教わった……よね?」


 一旦、口を噤む。しばらく小首を傾げた後に憂はしっかりと頷いた。弾みで涙が零れる。千穂に叱られていると云う事実が辛いのかも知れない。

 康平は呆然自失だ。まさかの年下からの説教である。しかも内容が内容だ。


「貰っちゃ……ダメ……絶対に」


 憂が固まったのを確認し、年長者向けに切り替える。


「止めなかった人も同罪です」


 2人とも固まっていた。


「はい――ごめんなさい――」


 憂は10年以上前に教わった事柄を再度、強く認識したのであった。

 千穂は憂の頭を胸に抱く。そう言えば、千穂にハグされる抵抗感は無くなってしまったのだろうか?


「約束だよ」




 拓真は言った。


「俺の胸で良ければ貸しますよ」


 康平に向けて言うなり、にぃ……っと笑って見せる。


「拓真はん、それは殺生でっせ!」


「憂さんが1人やから、そうなります」


 しらばっくれて即バレして以降、初めて梢枝が口を開いた。康平の言葉は当たり前にスルーである。


「千穂さんがもう少し、はよう来てくれはったらええんやないです?」


 千穂は「ぅ……」と小さく呻き、了承した。転んでも只では起きない梢枝なのであった。結局、踊らされているのは千穂の方なのかも知れない。




「これ……なに?」

「すっごいお菓子……」

「あれ? なんだ? 憂ちゃんは、まぁたベソかいてんのか」


 残るグループメンバー3人が同時に到着した。


 千穂は一緒に登校した理由を聞きたい衝動に駆られたが、片付けるのが先だ。

 憂の頭を解放し、お菓子の山の説明をしつつ、丁寧にエコバッグにお菓子を詰め直す。康平が思い出せなかった『買い物に使う袋』とはエコバッグの事である。


 詰め直しながら朝の挨拶を行なう。


「おはよ」


 お菓子の群れを前に挨拶を忘れていた3人も「おはよー!」と挨拶を返す。

 拓真も梢枝も挨拶。憂も遅れて「――おはよ」と挨拶。涙はとっくに止まっているようだ。顔が赤い。やはり慣れてはいないか。抵抗しなかったのは千穂の胸を堪能したいと言う本能か何かか? それとも意識したのか? 答えは憂のみぞ知る。


「なるほどね。それで千穂に怒られて泣いちゃってたんだ」


 千晶は納得顔で千穂の手伝いを始める。その時である。仁義無き戦いは唐突に始まった。


「あー! 里のたけのこ発見! 誰からかなぁ? 分かってるなぁ……」と佳穂。

「分かってないよねー。山のきのこのほうが美味しいのに」と千晶。

「千晶って味覚おかしいんじゃないの?」

「何? きのこ派にケンカ売ってる訳?」

「先にケンカ売ってきたのは、きのこ派の誰かさんじゃなかったかな? みんなどう思う?」


 俗に言う『きのこたけのこ戦争』である。佳穂さんの最後の台詞は鬼畜の所業だ。人に振って巻き込むモノではない。


「ちょっと! 佳穂! 千晶! くだらない事で「「くだらない!?」」


 2人の剣幕に(おののく)く千穂。他のメンバーはそっぽを向いている。ナイスな判断だ。憂はケンカし始めた事は解っているらしい。オロオロしている。



 それから、しばらく幼なじみの少女2人の戦争は続いた。

 やがて、不毛な争いを続ける両名に、拓真から1つの提案があった。


「憂に聞いて……憂が選んだほうが勝ちでいいんじゃね?」


「望む所よ!」

「きのこの勝ちに決まってる……」



 憂は涙目である。オロオロするだけで何も出来ない自分が情けない……とか何かだろう。憂の涙目の理由は。可哀想に。

 公平を期して、千穂が涙目の憂に質問する。


「憂は……きのこ派? たけのこ派?」


 憂の緊張は高まり、涙は決壊寸前である。やめてあげて欲しい。どこからか『やめたげてよぉ!』と、何かのフレーズが聞こえてきそうである。



 憂は小首を傾げ思案した。そして言った。


「どっちも――おいしい――よ?」


 ……見事だ。


 万事解決である。戦争を回避する最良の方法は、互いに歩み寄り、認め合う事であろう。

 戦争をしていた当人らは不満そうである……が、続きは2人の時にどうぞ。




「で……一緒に現れた理由は?」


 千穂が後で聞こうと思っていた内容を拓真が勇太に問うた。休戦中の2人の今朝の接点であった勇太を(つつ)き、仲直りさせようとでもしている様子である。


「あー。たまたま玄関で会ったんよ。んで合流してきた」


 言いながら憂の頭を撫でる。泣いている子、泣いていた子を見るとそうしてしまう。勇太は6人兄弟の長男なのである。今朝も保育園が嫌、行きたくない……と、ぐずる5番目の妹の頭を撫でてあやしてから家を出た。


「ほう? 同じコンビニ袋をぶら下げてか?」


 拓真は目聡くパンの入った袋を見付けていたようだ。


「たまたまじゃね?」



 拓真の指摘に千穂の顔に焦りが浮かぶ。佳穂と勇太は気が合う。優と付き合っていた頃、千穂は彼氏の居ない佳穂に散々惚気(のろけ)た。近い内に猛反撃に遭うかも知れないと思ったのだろう。


 憂が小さな手で勇太の大きな手を握り、その手を頭から外す。勇太はその行動に当然、気付いたが拓真に「勇太」と声を掛けられ憂から目線を拓真に移した。憂は顔を上げると小さい口を精一杯に開く。そしてガブリと噛み付いた。


「いってーー!!!!」


「あははははは!!」


 拓真が珍しく大笑いだ。憂が噛み付こうとしている事を察し、勇太に声を掛けたに違いない。策士だ。


「痛いって! 憂! 悪かったって!!」


 拓真は腹を抱えて涙目になるまで笑った。憂はなかなか離さなかった。本気で振りほどけば噛み付きから逃れられるはずだが、無茶をすると憂がどうにかなるかも知れず、憂が離すまで耐えざるを得なかった。卑怯だ。憂にしてみれば、千穂に叱られた腹いせだったのかも知れない。


 憂が解放した時には、初日の噛み付きよりも深く跡が残っていたのだった。





 大量のお菓子の入ったエコバッグは、勇太の机に引っ掛けられた。憂の机は千穂の机と並んでいる為、片側しか使えないからである。


 お菓子を片付け終わると憂の机の上には、4通の封筒が残された。


 白い和紙で作られた縦長の封筒。白い洋封筒の中心をハート型のシールで封印した封筒。同じようなシンプルな黄色の洋封筒。派手な花柄の洋封筒。


 そこに千晶が一通の封筒をそっと並べた。可愛いクマさんがイラストされた封筒だった。


 新たな封筒をぼんやりと見詰めた後、不思議そうに千晶を見上げる憂に佳穂が話しかける。


「その手紙……(うち)で……読んでね」


 佳穂の言葉を受け、小首を傾げながら封筒に目を戻し手に取る。


 中央に書かれた【憂ちゃんへ】と、裏返して見付けた【from千晶&佳穂】の丁寧な文字。


「――わかった」


 憂は大事そうにリュックの奥底に2人からの手紙を忍び込ませた。


 ……それにしても、いつ2人は仲直りしたのであろうか?




「ところであの人はなんで落ち込んでるの? なんか顔と後ろに縦の効果線がいっぱい見えるんだけど」


 千晶が康平を見ながら言った効果線とは、漫画の画面に表現効果などを付与する描線の事だ。主に人物の感情や雰囲気、動きを表現するために描かれる。


「面倒やから気にせんでええ思います」


 梢枝は、ばっさり切り捨てたのだった。





ちなみに作者は「どっちもいける派」です。


きのこもたけのこも好きです。


……面白みの無い情報ですが。


…………そして意味も無い。

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