表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/317

244.0話 千穂も決意?


【612:無様に逃げた様子さえ可愛かった。卑怯だw】 


【613:我らが憂ちゃんの小さなお胸が上げ底だった事に衝撃】


【614:おまいら、誰に投票したん?】


【615:水着美少女たちを堪能した。まだ夕方だからいいけど、夜は人が減りそうだなw】


【616:七海ちゃん、可愛すぎだろー!!】


【617:千穂ちゃんに一票。可愛くて料理レベル高いとか最高じゃね?】


【618:おいらはせいとかいちょに入れた。やっぱりキレイなんだよなー】


【619:桜子先輩の宣言に感動した】


【620:千穂ちゃんに入れた】


【621:>613 貧乳だと思ってたが無乳レベルだった。最高だわw >614 無効票って解ってても俺は憂ちゃんに入れた】


【622:七海ちゃん、中等部だぞ? このロリコンめ……】


【623:憂ちゃんはお世話してくれそうにないからなw 愛でるなら憂ちゃん。結婚するなら千穂ちゃんな>617】


【624:それな! 俺は桜子に一票! もちろん選挙も!】


【625:>621 多いよな。このスレの住人のほとんどなんじゃね?】


【626:何気に憂ちゃんもロリぞ? どう見ても隊長さんのが大人っぽいだろ】


【627:ここまで佳穂ちゃんの名前なし】


【628:むしろ憂ちゃんをお世話したい】


【629:それは言ってはならん! 憂ちゃんは高校生だ!>626】


【630:頼む。そこは言うな>626】


【631:桜子宣言ね。私を次期の生徒会長に据えて頂けた場合、生徒会は立花 憂さんを全身全霊をもって支援させて頂きます。だっけか? 俺は好かんわ。憂ちゃん利用してんじゃねーぞって感じ】


【632:バスケ部OBのちゃこさんにゃビビったわ】


【633:変態は消えろ>614】


【634:佳穂ちゃん、良かったぞ。格好いい体型っていうんか? ただインパクトが弱かった感】


【635:最後の少年のブリッジが目に焼き付いてる。隠しても隠しきれない何か】


【636:でも桜子が生徒会長なったら憂ちゃんを守ってあげられる訳だろ? このスレの住人としては票を入れざるを得んだろ? 今の生徒会、憂ちゃんへの肩入れ控えてたしよ】


【637:わかるわww 茶谷さんがミスコン最大のインパクト。全部持ってかれたわw 意外と票、入るんじゃない?】


【638:わかるわw はっきりくっきり形が浮き出てたなw 陰影まで出てたしw すげー勇気だw 感動したぞw ある意味ww】


【639:裏では色々と動いてるって話だぞ? 山城 千晶と生徒会長が密談したって話、知ってるか?】


【640:いきなりだったもんなw ステージ上、道化になってたちゃこ先輩、お笑い枠だーって笑い取りに行くしかなかったのに。もうどうにもならん状態からの、いきなりの告白よ。あれ、引退した男子バスケ部のエースだってよ。「全生徒がお前を笑っても俺だけはお前を笑わない。俺はお前のいい所を知ってる」だったか? イケメンすぎるわ】


【641:あー! 憂ちゃん愛してるー! だが、憂ちゃんにその気配なし】


【642:千晶ちゃん詳しく!】


【643:結局、ここの住人は生徒会長:桜子:千穂で1:1:1ってとこか?】


【644:お前がTSしたとして男子とチューできるか? そんな話だ。気配なくても仕方ないだろ】




 樹の目が続々と投稿されるコメントを追っている。憂の名前が少ないが、実は【憂ちゃんをそっと見守るスレ79】である。


 スレ内がこんな調子なのは、憂の辞退宣言に起因する。


 ミスコンの最後、出場全員が再びステージに揃うと、1人1人がマイクを片手に想いやら意気込みやら、参加するに至った経緯などを自由に語った。


 その19番目。

 憂はマイクを握ると、今回の参加は妙な疑惑を払拭する為の出場だったと言う事。

 自分の境遇への同情から、生粋の女子たちに、もしかしたら勝ってしまいグランプリを獲る事になると申し訳ないから……と、ここでリタイアを申し出。ステージを後にしてしまったのだ。

 運営はこの事態に急遽、協議。立花 憂への投票は無効票とすると発表したのだった。そんな経緯があり、憂よりも他の少女たちへの話題に移ろってしまっている。しかも復学当初の勢いのレベルで。


「落ち着いたみたいだ。明日香、そっちは?」


 樹の隣には明日香の姿。彼女は別のスレ、ミスコン関係のタイトルを持つスレッドを探っている。

 何を隠そう、ここは樹くんの家の自室である。2人の趣味には共通点が多く、急速に距離を縮めているのだ。


「こちらも問題はない。梢枝ちゃんの予想通り、最初が肝心だったという事だ」


 例の男性のシンボルを隠してしまうと言うタック。

 それを指摘し、男の娘疑惑は全く払拭されていないという意見は、予想の通り、やはり出た。この2人が隅々まで確認中のこの裏サイトに。


 ―――そのタックという技術を使い、男性である事を隠している可能性がある。


 そんな意見に真っ向から反論してみせたのは、裏サイト・憂ちゃんスレの『お前』こと、この樹くんだ。


【79:タック? それやって憂ちゃんに何の得があんの? 考えてみろって。性別に未練があって一時期、男子制服着て通った憂ちゃんだぞ? 今も竿やら玉やら付いてんなら、男子生活満喫してるわ】


『お前』のこの発言以降、タックの話は下火となった。この為に憂の男子制服希望は受け入れられた。セーラー服は陰謀めいた策略(クリーニング)()用いられ(出され)、1週間、着用したのだ。


 タックとコメントした者は納得していないかもしれないが、梢枝は問題ないと言う。若干名に男の娘疑惑が残ったとしても、徒党には繋がらない。強引な手段を用い、憂の体を確認しようとしてもそれは防げる。コメント投稿者を特定する手段は、裏サイトを使うほとんどの者が知らない。その裏サイトで協力者を募ったとすれば、学園から間違いなく処分が下される。タックしてんじゃないの? ……と思ったところで確認のしようがない。多数が疑惑を抱えていた事が問題だったのだ。もはや剥かれる危険性は皆無に近いほど無くなったと梢枝は言った。


「……これで変な疑惑ともおさらばだなぁ」


「そうだな。しかし、妙な疑惑が生まれたものだ。どう見ても憂ちゃんは女の子だろう?」


 ……とは言っても、この嫌疑は一時期とは言え、佳穂も千晶も抱えた。『あれ? 本当に女の子なの?』へは、自然と多くの者が行き着いただけだ。


「だよなー。ま、解決したんだし、もういいだろ」


「……そうだな」


「………………」


「………………」


 樹と明日香が協力体制を敷き、【憂ちゃんをそっと見守るスレ】は完全に元通りとなった。

 もう1つの憂のスレッドは大幅に人数を減らしており、コメントも日に数件のみだが、未だに継続している。梢枝はそちらに手を出す必要はないと言った。


 悪意の炙り出しに使えるから……と。


 これは樹も明日香も重々承知している。

 樹と明日香は過不足なく、梢枝に与えられたミッションをこなしてみせた。もう、これ以降、このスレに介入する必要は無くなったのだ。


「なぁ、明日香?」


「……なんだ?」


 口調に似合わぬ丸顔を樹に向ける。2人の距離、ほんの10センチほど。

 裏サイトを操る2人の協力体制。これが2人の物理的な距離を大きく縮めた。精神面でも……だろう。


「……終わったけどさ。これからも2人、こーやって並んで、裏サイト覗かない?」


「調子に乗るな」


 即答だった。

 樹は「はは……。だよなー」と力無く笑った。


 告白失敗……。


 かと思った瞬間、「たまに、だぞ」と、はにかむような笑顔を見せた明日香。


 正にツンがデレた瞬間だったと言えよう。





 ……それから10分後。



「おー! この表情いい!」


「樹もわかるか! 隣で千穂ちゃんが呆れた顔をしているところがポイント高い!」


「めっちゃ分かる! やっぱり2人揃うと可愛さ倍増するよな!」


 学園生活を写真に収めるアルバイトを開始してから、既に何万枚に及ぶのかと言う、憂の画像を2人仲良く閲覧中だ。

 この2人。先程、付き合い始めたようだが、どの道、憂大好きっ子なのである。


 ……。




 もうこの2人はご馳走様状態なので、切り離し、鬼龍院家を覗いてみる事とする。


 康平宅のパソコンは、ミスコンで出場者を大写しにしていた映像を映し出している。何気に千晶の撮った憂の舞台裏と、再生中の映像の両方を持っているのは、学園長やあの御方くらいのものだろう。


「桜子さん、当選しそうな勢いですねぇ……。生徒会長選出にも得票数は大きく関係すると聞きましたわぁ……」


 映像はラストの全員揃ってのステージの様子を映し出している。ここでの服装は自由だった。制服にジャージ。水着のままの者など入り混じっていた。

 映し出されるほぼ全てが美少女。正に百花繚乱である。


「そりゃそうだろ。今回の補選は言ってみれば衆議院選挙みたいなもんだろ? 民意がこの人をーって示したと同じなんやし、実際に生徒会長選ぶ現生徒会も無視できんわ」


 桜子は、このラストステージで与えられたスピーチ時間を使い、選挙での自身への投票を呼びかけた。


『私を生徒会長に据えて頂いた暁には、そちらにおられます立花 憂さんを学園の総意として、全身全霊を以て、支持、保護したいと考えております。私が立候補を決めた理由は、これに相違ありません。どうか私にお任せ下さい』


 これを聞いた時、映像には映っていないが、制服姿に戻っていた梢枝は顔をしかめた。

 スピーチでも先頭だったこの前髪ぱっつんの和風美女は、様々な意味を籠め、『蓼学が1つである事が望ましい』と語った。


『1つになりましょう』


 本当にこれだけだった。

 あとは聞いた者の判断に任せる。

 支持の強要は、反発を招くだけだ……と。


 それを逆手に取られた形なのである。


「そうですねぇ……。あの人、憂さんの支持を前面に押し出して何がしたいのか……。自分の動きも取りづらくなりますえ? 意味が分からないのが腹立たしいです」


 だから敵とは限らんって……。


 これは康平が思っている事だが、従妹は自分の考えを盲信する傾向にある。指摘するだけ無駄なのだ。今までにした同じ指摘で思う存分、理解している。


『一発芸でも失敗だから。私はやっぱりお笑い枠でした』


 そんな音声が耳に入り、両名の目線がノートPCへと動いた。この時の展開を思い出したのか、康平の口元が緩んだ。梢枝も心なし、表情が柔らかく変化している。


 ちゃこ……。茶谷 杏子は、綺麗でも可愛らしくもない自分の出場は、お笑い枠だと自嘲した。見せ場のバスケも失敗。道化だった。


 ところが掲示板での話題の通り、そんなちゃこに救いの神が降りた。


 突如、『そんな事ない!!!』と大声で男子生徒が乱入したのだ。

 そんなハプニングにも運営は冷静だった。その男子生徒に向け、運営の1人が駆けるとマイクを手渡し、多数の観客の前での告白に至った。ちゃこはしどろもどろで返事を保留したのだが、近い内にOKするのだろう。そんな雰囲気を纏わせていた。


 次にマイクを受け取った優子は、自身が出場する事になった経緯を語っただけだ……が、尚も水着姿だった。少しでも得票を伸ばし、出場した事に意義を見出したかったのかもしれない。

 昔、5組で千穂と双璧を成すと言われた。憂が来てからは話題に上がらなくなった。それを気にする様子はまるでなかったが、ここに来て多少の野心が顔を覗かせた……のか? 相棒の有希が彼氏持ちとなった影響も大きい筈だ。



『文化祭の5日間。無事、確保できた事を嬉しく思います。しかし、夏休み以降の行事の多くが中止に至った事。これは私の不徳の致すところであり、この場をお借りして深くお詫び申し上げます』


 純正制服の生徒会長、文乃が画面の中で深く腰を折る。顔を上げた時には、涙さえ湛えていた。万感の思いと言うよりは、やはり言葉の通り、不甲斐なさを嘆いたという印象だった。

 それでも『次期生徒会長の候補を決める大切な選挙。よく考え、投票をよろしくお願いします』と、生徒会長の最後の晴れ舞台らしく、最後まで蓼学の行く末を案じるものだった。


 ……そんな文乃に暖かい拍手が捧げられる。その暖かさに思わず目頭を抑えた生徒会長が画面の中に佇んでいた。


「後は次の生徒会長の任命を終えたら引退か……。この人にも随分お世話になったよなぁ……」


「そうですねぇ……。でも、この方とはこれだけで終わらへんのちゃいます? 就職先は蓼園商会ですえ?」


「あぁ……。そういやそうだ。総帥さんの事だし、憂さんに関わる仕事を振りそうだわ」


 文乃、卒業後はどうしているかの話で軽く盛り上がると、佳穂が大写しになった。プロポーションに自信のある―――胸は自慢できるサイズではない―――子だが、いつも通りのアレンジ制服に戻っていた。

 最後のステージに上がる直前まで、ちゃこより巧くいってしまった一芸披露に凹んでしまっていたのである。仲良くしたい彼女ならではの気にしようなのだ。

 ところが、佳穂はステージ上、静かに佇んでいる状態で華麗な復活を遂げていた。


『バスケが上手く行かなくても彼氏が喜んでくれましたねー! 良かったー! ちゃこさん、おめでとー!』


 まさかのちゃこ。先輩いじりである。

 映像を眺める2人とも声は上げないものの、楽しそうだ。佳穂が沈んでいると調子が狂うのは、今やこの身辺警護もなのである。


『ちゃこ先輩が凄い所見せてくれて、あたしは軽く失敗して、お笑い枠GETするつもりだったのに、枠どころか美味しいところぜーんぶ持っていった茶谷先輩に皆さん、盛大な拍手をもう1度ー!!』


 煽りスキルに関しては、負けそうな気もし始めた梢枝さんなのであった。




 桜子以外の選挙重複立候補者も桜子に続く形で、憂への差別的な言動の噂を掻き消すように憂の支援を訴えたが、桜子の後手に周り、人気を掻っ攫われ、時既に遅し。そんな演説となってしまっていた。


「何か別の切り口で桜子さんと話してみなければいけませんねぇ……」


「そうかい。まぁ、頑張れ」


 ……段々と返答が淡白になっている。まぁ、康平としては、しつこい。めんどくさい。こんなところなのだろう。以前にも例を挙げたが、桜子は憂に対し、敵対する姿勢は今まで1度たりとも見せていないのである。


『親衛隊のみんな! 投票する相手を間違えたらダメだよー!!』




 元気な声がスピーカーから漏れた。中等部から唯一の参加。元気印の七海さんだが、この時は良かった。憂への投票を呼びかけ、自らの責務を果たした……筈だった。


 ―――憂の辞退宣言までは。


 憂が退場すると、彼女はパニクった。相も変わらず、不測の事態に弱いタイプなのだ。20名の輪から抜けていく憂を止める事も、マイクを受け取った最後の少年から奪い取る事も出来ず、壇上でオロオロとしているだけだった。


 その最後の少年は、再び女子制服姿に変身していた。

 そんな格好で『変な趣味に目覚めてしまいそうです』と語った未だ小5の少年には、限りない可能性を感じた。

 女装に関して、だと思いたい。違うとすれば、露出やら羞恥責めやら、そちらの方面と云う事になる。



 ……が、流れる映像は千穂を映し出している。


『今回も憂に巻き込まれちゃいました』


 こう切り出し、苦い笑いを会場に披露した。


『友人の1人として、憂を応援してくれて本当に嬉しいです』


 千穂らしい、思いやりのある言葉だった。




 ―――次の言葉までは。



『……でも、私は憂のオマケじゃありません。私も1人の人です。付属品じゃないんです。たまには私も見てみて下さい』


 この台詞は、彼女が大きな一歩を踏み出した瞬間だったのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックマーク、評価、ご感想頂けると飛んで跳ねて喜びます!

レビュー頂けたら嬉し泣きし始めます!

モチベーション向上に力をお貸し下さい!

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ