243.0話 さぁ、見せ付けろ!
着替え完了。退勤処理も済んだし、後は差し入れだけ! それでやっとこさコンビニ業務終了! なんでこのコンビニは裏口作らなかったのさ? いちいち、店内通らにゃいかんとか、ちょい面倒。
「お疲れさん! よろしく頼むよ!」
「お疲れ様です! ありがとうございます!」
だから何度もお疲れ様。朝もそうだね。店に入っておはようで制服に着替えて勤務開始したらおはようだ。
「年内の勤務はあと明後日だけ?」
「はい。そうです」
よく把握してるなー。
まぁ、私も『良いお年を』の為に、仕事仲間の勤務状況チェック済みなんだけどさ。
んで……。正社員としての勤務は明後日が最後。
正社員からパートさんに格下げまであと勤務1日だけ。年末年始は流石に蓼学でも閉まってるからね。来年からは憂に合わせての勤務時間。来たい時に仕事すりゃいい。我ながら良いご身分だ。あはは。
「ほら! 妹さんが初代・ミス蓼学になる瞬間、見逃しちゃいけないよ! さっさと行きな!」
「山田さん……。発表は明日なんですよ。今日、退場する時に投票して、明日の朝にはっぴょ「いいから行きな!」
……敵わないなぁ。
「あんたが正社員から籍変えるせいでウチが昇格する羽目になっちまったんだ! 来年から仕事振りまくるからねっ!」
「……はーい。行ってきまーす」
ヤマさん、凄いわ。嫌な会話に持ってって私を追い立てた。たぶん。こういうところ、本当に頭が下がるよ。
よっしゃ。大体育館にGO! うわ。めっちゃ重いし。
……来年からは仕事の掛け持ち。大変そうだね。二重生活。
コンビニのパートと、憂のマネージャー……みたいなの。蓼園さんからの提案。
『憂くんが知らぬ所で動き、心配なのだろう? だとすれば太藺くんのところで働けるよう話を通しておく』
……やっぱり、味方なんだよね。総帥さん。親身になってくれてるんだよ。思いっ切り。
……。
……しんど。両手に飲料ぶら下げてのダッシュ。
……きついわ。年齢的なものかね?
あー。息上がったー。
大体育館の中。選手控室ってどこだっけ? こっち……?
千晶ちゃんみーっけ! なして外に居るんだろ?
……。
足音消して接近。そーっと……そーっと……。
「や! どうなってる?」
「ふぁ!?」
あははー! ビクってなったー! かわいー!
「愛さん……! 驚きました。入場出来たんですね」
「そ。コンビニ従業員だからーって、強引に話を通してくれたんだよー。差し入れついでに鑑賞。見ての通り、観客席じゃなくて裏のほうなんだけどね。憂の傍だし、つくづく有り難い」
「あはは。ラッキーですね……? ちょっと違います……?」
「そうだね。ラッキーじゃなくって、持つべきモノはコネクション……かな?」
「あ、それは分かります。わたしも生徒会長さんとお知り合いになれて……」
はて? 何があったんだろうか? ま、何にしても力持った人は有り難いよね。
「憂は?」
「中に居ますよ」
「……千晶ちゃんは?」
あ。苦笑い可愛い。こう言う顔すると可愛いんだよね。この子って。特徴的な丸いお目々がふにゃってなってさ。
「……追い出されました。憂ちゃんに」
「え?」
思わず素が出た。すまん。
「もう水着に変身した……んですけど……。ヤケに体の線がはっきり出て……。それでカメラ回すわたしは『出ててー』『撮らないでー』って……」
「ありゃりゃ。やっぱりか」
「やっぱり? ……ですか?」
予想通り。あの水着は憂の置かれた状況を重視して考案された仕様。可能な限り、体に沿うようにした上でスポットライトに照らされるとね。光沢の陰影でお尻の形どころか肋骨まで浮き出るぞ。もちろん、お股や胸の先っちょとかには気を付けてるけどね。
それを説明すると千晶ちゃんは「男の娘疑惑……ですね。でも、憂ちゃん、これで出るくらいなら疑惑残ったままでいいくらいの勢いで……」だって。
これもまた予想通りの展開。恥ずかしいのか何か知らんが、試着さえ渋った憂が悪い。
コンコンってノック。
『どうぞ?』
この声は梢枝さんかな? 「失礼しますー!」っと。
憂に近い人を傍に置いてくれてるんだよね。つくづく感謝。
「愛さん! 憂が出ないって!」
千穂ちゃん、久々なのに食いついてきた。あはは。相変わらず可愛いわ。
「はい! これ、皆さんにコンビニからの差し入れー! 重いよ?」
近くのお嬢さん、よろしく。
憂は……と。
鏡の前に立って、水着ではっきり見える体のラインを隠そうとどうにかならないものかって感じで引っ張り回しておる。無駄だ。そんな事でどうにかなる代物じゃない。
……ってか、どんな水着でも無理でしょーに。
「お姉ちゃん――!」
お。気付いた。鏡越しに不満げな顔。
「待った!」
でもストップ。
「千晶ちゃん」
「――――?」
……こやつ。こういう時に首を傾げられたらさ。可愛さアピールして、許して貰おうみたいな姑息な態度に見える。違うんだろうけど。
「外!」
「――う」
こやつ。本当に追い出したのか。千晶ちゃん流の誇張表現かと思ったのに違うらしい。
「入って貰う……ぞ?」
それにしても圧巻だ。水着の女の子だらけ。憂にとってパラダイス違うんか? 大好きな千穂ちゃんも水着だぞ?
……んな余力がないか。
正直、可哀想だとは思う。でも、あの夢みたいにみんなに傷付いて欲しくないんだ。夢の中で男の子は暴力に晒された。守ろうとした女の子たちもトイレの床に制圧された。憂は……剥かれた。現実にする訳にゃならんのだ。
私だって、憂の細っこい体の線を全校生徒……の大半になんか見せたくないよ。この子の葛藤だって悲しみだって理解してんだからさ。
「――うん」
「よっしゃ。千晶ちゃーん! 入っておいでー!」
ドア越しに声を上げるとノブが回って千晶ちゃん入室。
「千晶? 私も撮らないでね」って千穂ちゃん。今、その話はちょっと……。まぁ、千穂ちゃんだし?
「ウチは少し、ステージを見てきますわぁ……」
梢枝さん、退室。なんてマイペースな皆さん。任せたってか。
「優子さんも来て下さります?」
「あ。そろそろ桜子ちゃんの番だね。一緒に行くー!」
ありゃりゃ? まぁ、いいか。
「さて……。憂?」
とりあえず、お股の前の手はやめろ? 余計にあれだぞ?
「でない――。はずかしい――」
おやまぁ……。先取りしてきたわ。成長してんだねー。
でも譲れない。
「忘れてるかも……だけどね?」
「なにを――?」
これから話すんだろうが。それは。
「戸籍で……私ら……欺いてた」
「あざむ――?」
むぅ。解らんか。じゃあ、ちょいと違うけど……。
「騙してた」
「ぁ――うん――」
……蚊の泣きそうな声だ事。忘れてなくて良かった。
「疑惑。解かんと……千穂ちゃん……たちまで、だぞ?」
おっと。小首傾げた。説明難しい。
うぅむ……。
憂には戸籍偽造やらそんなので白い目が向けられた。私や友だちにまで、それは及んだ。
ここで辞退して男の娘疑惑が残れば、千穂ちゃんたち含めて、妙な目で見られ続ける……ってワケなんだけど……。
お。考えてた千穂ちゃんが囁き開始。任せた。
「憂……? 私たちの為に……出られない?」
端折った!! めっちゃ端折ったよ! 千穂ちゃん!
「お願い!」
あはは……。むっちゃ卑怯じゃんか……。
「うぅ――うん――」
んで、解決? そんなんでええのんか?
「ありがとっ!!」
おっ! ハグした!
「ち、ちほ――!?」
動揺しとる動揺しとる。もう付き合うとか付き合わないとか何も考えなくていいんじゃないの?
「こ、これは回さねばなりません……!」
「可愛い系美少女同士の水着抱っこ。千晶、同意しとくぞー」
ありゃ?
「佳穂ちゃん、居たの?」
「はい。居ましたよ。ずっと。凹んでましたけど」
「凹んで?」
「めっちゃバスケ巧くいっちゃったんですー!」
…………?
ええ事ちゃうんか?
「説明が必要ですね。今回のミスコン出場者の中に茶谷先輩って、3年生がおられるんです。バスケの全日本ユースに選出されるほどの人なんですけど、佳穂と同じくバスケの技能を披露しようとして………………」
……この説明は随分と時間が掛かりましたとさ。
要するに茶谷先輩の顔を丸潰ししたんだね。佳穂ちゃんが。
あれから時間流れて、エントリーナンバー17番。
千穂ちゃんの出番……なんだけどさ。
千穂ちゃんの千切り速度すっごい。水着エプロンで家庭的な姿を見せるとは。さすが、あざとい。スクリーンに写ったパレオ無しでエプロンの隙間から見えるお尻が可愛い。後ろからの映像好きかも。これも狙ってるんか?
ステージに向かう直前まで、眉間に皺入るほど苦悩してたから違うかね?
優子ちゃんと完全に被っちゃったからとか言って、パレオ取っ払ってたし。なんで子どもっぽく見えるオレンジ水着? 誰か入れ知恵したんかね?
……意外と策略家な面を持ってるからそれかね? 子どもっぽいなら子どもっぽさで勝負か?
『速い速い! 見る見る内に出来上がる千切りキャベツの山!』
実況さん、それ2度目。まぁ、他に何言えばいいか分かんないよねー。あはは。
2玉目ー。ガッツリ真ん中ではんぶんこ。んで、千切り。無心になってるね。
……シュールだ。スポットライトに照らされた水着エプロン美少女が、無言で延々と千切り。凛々しい顔してカッコ可愛いけど……。
『10! 9! 8!』
残り時間か。6、5、4!! ……て、大合唱。盛り上がった。凄いな千穂ちゃん。
しゅーりょー。
いっぱいの拍手と、それに手を振って応える千穂ちゃん。いつの間にか成長してるわ。大舞台に強い。踏んできたこういう舞台の場数……かなぁ?
『手応えはいかがですか?』
……何の手応えやねん。千穂ちゃんに向けられるマイク。
『……えっと。2玉攻略出来なくて残念です』
わはは。ドッと湧いた会場。こりゃ、初代ミスは千穂ちゃんもあるかもね。他の人のを見てないけどさ。
『大いに盛り上げて下さり、ありがとうございました!』
『いえ! こちらこそ!』
会釈もそこそこに戻ってくる千穂ちゃん。退場を残念がるような大きな拍手。
「……終わった」
へにゃへにゃして、両膝に両手を付いた。
「千穂、お疲れ!」
こっからだと、まだあっち側の客席から見えるぞ? お尻突き出してたりしたら、今晩のおかずになるぞ? オレンジ色のお尻、目に焼き付けてる男子いそうだぞ?
まぁ、いいけど。労っておかんとね。
「お疲れ様! めっちゃ千切り速かったよ!」
それはもう、我が家の母様も負けてるレベルで。
「千切りは得意なんです。得意だからやりました」
……そりゃそうだ。
こりゃ! 憂!
「何か言わんか!」
大好きな千穂ちゃんが頑張ったんだ!
「うぅ――できる――できる――」
……いっぱいいっぱいだ。だいじょぶか? この子?
ここに居る千穂ちゃんも千晶ちゃんも、運営の子まで心配顔じゃないか。もちろん、女子ね。ミスコンなだけに裏方は女子ばっかり。
お。演技開始。千穂ちゃんと憂の間に入ってやりにくそうなポジションの子。新体操だね。新体操部なんだろか。ちょっと憂と被った。光沢感ある水着まで。レオタードのイメージかな? 袖無しのレオタードなんかも知れん。
「憂? 私も……出来たよ?」
演技見てる場合じゃなかった。千穂ちゃんの声に目を戻すと、両手を繋いで向かい合ってた。覗き込むようにして、憂に言い聞かせてる。
「う――」
「私より……よっぽど……力出せるよ?」
そだね。バスケの試合でも注目集めてて、憂になってからも見られまくって。出来ない筈がない。頑張って練習してただろ?
「憂なら……ね?」
「――うん」
さっすが千穂ちゃん。不安そうなのは変わりないけど、いっぱいいっぱいじゃ無くなったね。
『素晴らしい演技でした!』
うわ。2分って早いな。
「立花さん、『GO』でステージに向かって下さい!」
『持てる全ては出せたと思います! 私にも1票くらい入れて下さい! お願いします!』
拍手ー! なかなかでっかい。千穂ちゃんが盛り上げてくれたからねー。
「はい――」って憂の返事。何とか聞こえたレベル。
んで、さっきの子が退場……。
段々と、小さくなっていく18番さん。
「GOです!」
「憂ちゃん、頑張って!」
「憂! 行ける行ける!」
千穂ちゃんと千晶ちゃんに背中を押されて、憂はステージに向けて進み始める。
……カチンコチンじゃないか。
マンガみたく手足揃わんで良かった。揃った瞬間、コケる。憂なら。
「憂? 力、抜いてけー!?」
お。聞こえた。振り向いて……頷いた! よっしゃ! 行け!
うわぁぁぁぁ!!! ……って、なんだこりゃ!? 割れんばかり……だねー。大歓声。憂を応援する声……だよね? 憂へのマイナスイメージな全部を払拭してくれる。そんなたくさんの声援。憂を理解しようとしてくれた子たちがこんなにたくさん。
……マジ、嬉しい。
「……もう学園内では誰かが傍にさえいれば大丈夫ですねぇ……」
……梢枝さん。来たんだ。制服姿。
うわ。憂の尻、やっぱ形どころかお尻の間、臀裂部までしっかりと出ちゃってる……。食い込んでるわぁ……。
まぁ、そういう水着だし……ね。開き直れ。どうだ、可愛い尻だろう!!
食い込み直した。でも食い込む。すまんね。
それにしても、いつの間に食い込み直しなんぞ覚えた?
「出来そうですかぁ?」
……どうかな?
「フィフティ・フィフティ……かな? 次善の策を出すかも。憶えてれば」
「……まぁ、失敗してもええんですわぁ。今日で憂さんへの支持は確固たるものに戻ります」
「あの……憂、何をするんですか……?」
それは……ね。
「Y字バランス!!」
……なぁーんて、かっこよさげに言ってみてあげてみた。
『さぁ、トリを飾るのは蓼学どころか世界的な有名人になってしまったC棟1年5組の立花 憂さんです!』
『――よろしく――おねがいします――』
……めっちゃ声が震えてる。両手は股間の前……。太ももすり合わせてモジモジ。しゃーないか。これくらいは。むしろプラスに働く? 絶対出てくるタックって謎技術の話。この辺は裏サイトで、だろうね。対策はしてきた。タックがなんぼのもんじゃい!
『それではお願いします!』
水色水着は白光り。テッカテカ。スベスベ系の生地。そこまでハイレグじゃない。スク水よりは……程度の代物。
ステージの上の大画面が憂の女の子な姿を映し出してる。ホントに体に貼り付いてる水着。
とんだ羞恥プレイだ。疑惑のせいで、じっくり体を見られてる。憂も体を観察される事は理解してる。
…………。
……動かんぞ。ここまできて、何もせんつもり……? 両手はまだ股間の前。薄いけど、胸はあるって証明された。でもこれだけじゃ、思春期に発症する事が多いっていう、女性化乳房じゃないのー……とか言われる。
真剣な顔付きに変わって、可愛いから綺麗に変化。
観衆は息を潜めてる。すっごく静か……。
「憂ちゃん!! がんばれー!!」
お。佳穂ちゃん、来たんかー。
佳穂ちゃんの声に押されて、至るところから優しい励ましの声。
……憂が頷いた? ……気がする。
息を大きく吸った。
…………。
……吐いた。
手を……前から外した……。
草原で一陣の風が草花を揺らしたような声のかたまり。
今、きっとそこら中でやっぱり女の子になっちゃってるんだとか、囁かれてる。疑惑の大半が払拭された。あとは足を上げれば、股の間に隠しているんじゃないって声を潰せる。タックって技術を知っているのは、ごく少数だから。
右足を上げて……あっ! バランス崩した!
「憂……」
千穂ちゃんの心配そうな声。両手、握りしめてるね。
大丈夫。ちょっとくらい転んでも平気だよ。どこかから落ちなきゃ早々、脳震盪なんて起こさない。
2度目のトライ。
右足のかかとを右手で掴みにかかる。実はここが1番の難関。掴みさえすれば後は右足を伸ばして、強くなった左足で耐えるだけだ。めっちゃ体は柔らかいんだからさ。
ほら……。隠してないっしょ……? これでも納得してくれない?
爪先に手がかかった……。
あー! 転んだ! バランスを崩して右に! 練習ではそんな事なかったのに! 緊張感と羞恥心のせいか……。家でも水着で練習させれば良かった。今の特製水着じゃなくても少しは違ったかも。後悔。
……なんか転んだ弾みで随分と足の間が見えた気がする。
これで成功しなくても良くなったような……。まぁ、せっかくだ。成功させとけ?
顔は真っ赤。
これだけ大勢に憂が嫌いな水着姿見られて、しかもミスって赤くならないワケがない。元々、赤くなってるって部分は気にしない。
3度目。
同じように爪先に。そのまま踵を……持った!
右足をグッと伸ばす……! あっ! よたついた!
「もうちょっと!」
「……耐えて!」
「憂ちゃん……! 頑張れ!」
「もう少し……!」
佳穂ちゃんも千穂ちゃんも千晶ちゃんも応援してるぞ! なんか運営の人まで!
……。
祈りが通じず。ふらついた左足はバランスを戻せず、離した右足が着地。Y字バランス失敗……。
でもまぁ……、転んだお陰で、隠してないのも分かったっしょ……。あとは梢枝さんにお任せ、だね。これで男の娘疑惑問題解決……。
泣きそうな憂が、バランス整えた体勢のまま停止。
お!? あの子……! 次善の策、覚えてた! いっぱいいっぱいでしょーに!
左手を床に付いて、足を前後に開く!
……途中でぺたんってお尻が落ちたけど、そこは右足が弱いから……。ご愛嬌って事で。
前後開脚成功。おー! いっぱいの拍手ありがとー!!
ここから、90度だけ体の向きを変えて……。180度の開脚だ! 柔らかいだろっ! さぁ、最後! そのまま、ぺったん! 今日、1番の歓声が憂に!!
今のは康平くんの提案。『股下に隠して、あんな動きしたら玉、潰れますわ』だってさ。Y字より股間見せられない分、別路線で攻めたもう1つの方法。
ありゃりゃ。すぐに解いた。
女の子座りになって、自分の体を抱くように両手で隠して……。ぺったん。
恥ずかしかったなー。よく頑張った。お姉ちゃん、感動したぞ?
今度は千穂ちゃんの退場の時みたいな柔らかな拍手に変わったね。
インタビュワーが駆け寄ってく。
『凄い柔らかいですね! 驚きました!』
さっきの新体操部の子も出来たんだろうけどね。憂への補正値は超でかい。
でもインタビューは……。今、無理かも?
『――はずかしい』
ん? 左手で床を突いて……立った。
あ! ステージから脱走! お尻と前を隠しながらこっちに……。あはは……。なんてみっともない姿……。転ぶなよー。
『皆さん、不自由な体ながら素晴らしい柔軟さを披露してくれた憂ちゃんに、もう1度、盛大な拍手を!』
大サービスだね。司会の子に感謝だわ。
「憂! お疲れ様! 頑張ったね!!」
走って帰ってきたけど、転ばなくて良かったわ。
「うぅ――ぐすっ――おわった――」
泣いてるし。
『それでは最後の出場者! 初等部から参戦の迫田 祐希くんです!』
……この子か。また頭が上がらない子が増えてしもうた。
彼はこれから柔軟体操してくれる予定。憂と同じ体のラインが出る光沢激しい水着でね……。
本当は同じY字バランスが良かったんだけど、残念ながら出来なかったんだって。
もちろん理由は、憂が女の子だって事を強調する為。隠せるものじゃないんだぞーって……。
私が投票できるとしたらこの子に入れるわ。
マジでありがとう……。




