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241.0話 ミスコン第2控室

 


 ふふ……。

 これは楽しいですね。

 ミスコンの裏側の撮影、最高です。やっぱりこちらの部屋の撮影が中心ですよ。なにせ、憂ちゃんの撮影ですので。これは憂ちゃんのメイキング映像みたいなものです。


「ただいま、時刻は13時30分です。ミスコン開催まで残り30分になりました。どうですか? 大守さん、緊張のほどは?」


 まずは普段からの姿で入場です。つまり、佳穂はアレンジ制服で、ですね。


「お前、むかつくー」


「おっと……。いつもより、1オクターブ低い声が聞かれました。緊張していますね。これはいけません」


 解きほぐしてあげないといけませんね。煽ると言い換える事も可能です。


「千晶? 私も怒るよ?」


「そうだー! 千穂も怒れー! この裏切り者に鉄槌を下せー!」


 わたしは何とも気楽な立場です。ですが、梢枝さんのお墨付きがあります。


『カメラの有用性。もう1度、着目してもええかもですねぇ。絶えず撮影しておけば、誰も何も出来ませんわぁ……。この点、ここにおられる皆さんもそうなります……』


 ぶっちゃけるとミスコン参戦回避の為に生徒会長に直談判したのですが、梢枝さんにとっては、わたしが構えるビデオカメラは有り難いものみたいです。


 ……B棟とO棟から立候補された、選挙重複者2名。内、1名は現生徒会所属者。憂ちゃんへの敵愾心(てきがいしん)から……かな? 変な噂が流れてるから。


 もうひと部屋。向こうの第1控室で過ごされるそのお2人には、カメラ付きで話し掛けてみたけど、そんな気配なかった。梢枝さんと顔を合わせた瞬間も噂の否定から開始……。どこから立ち込めた煙なんだろうね?


 あ。そう言えば、向こうの控室を撮影してきた時、生徒会長さんに謝られたんです。わたしには、追加候補の容認は出来ないと言っておきながら生徒会内部のいざこざめいたもので、追加候補者が出てしまいごめんなさい……。こんな感じ。


 わたしとしては……。もう5組に戻れているし、憂ちゃんの傍に居られているから問題ないんですけどね。休みがちの憂ちゃんが学園に来ていれば……って、条件付きですが。


 ……うん? 何か撮り忘れているような……。


「華麗なスルーしやがってー!」


 レンズを向けた瞬間に怒られました。この子、やっぱり緊張感無さすぎ。さすがは佳穂ちゃんです。

 千穂は……かちこちになっちゃってますね。目を閉じて、小さな胸に手を当て、わたしに聞こえる呼吸を繰り返しています。

 え? 『小さな』は余計ですか? 仕方ありません。本当の事ですので。


「佳穂ちゃんは一芸の披露、何をしでかすつもりですか?」


「……しでかすって」


 千穂ちゃんのツッコミが聞こえたけど、ここはスルーするところだよ?

 ちなみに、知ってる情報です。女バスさんに体育館の一角を借りて練習してました。ええ。付き合わされましたとも。


「あたしはバスケをしでかすぞー! 巧くなったから人に披露したくなっちゃって」


 テヘ。そんな感じでちょっぴり舌を出しやがりました。可愛くない。生意気にカメラ意識しやがって。

 どう考えても、ちゃこさんと被る芸なんですけどね。大丈夫かな? 佳穂ちゃんがちょっとだけ心配。ちょっとだけを強調しておきます。


「あ……、それはわかる」


 そうだね。それは「わたしもだよ」


 こんな会話をし始めたものだから、わたしたちの視線が憂ちゃんに。優子ちゃん含む。他の皆さんは思い思いに支度中だったり、化粧を直してたりしています。現場は、そんな大体育館控室の光景です。憂ちゃんの裏側を撮影する今回、他の人をリポートする必要はありませんが一応しておきました。

 生徒会から見ても最大スポンサーである蓼園商会は捨て置けない存在なのです。


「んぅ――?」


 視線が集まった事に気付いた憂ちゃんは、わたしたち1人1人に目を合わせて……逸らした。

 千穂と繋いでいる右手を。梢枝さんと繋いでいる左手を。ギュッと握りしめましたね。緊張しています。男子だったってみんな知ってるのにミスコン出場。それだけで恥ずかしいのに、水着審査……。一芸披露も。


 考えれば考えるだけきついだろうな……って。


「千穂さんは一芸……。何をなさるんですかぁ?」


 梢枝さんが問いかけました。もちろん知ってる情報です。撮影向けの台詞ですね。千穂の一芸は設営やら必要なものです。


「昨日、包丁物凄く研いだからきっと大丈夫。失敗しない……」


 ……言い聞かせているようなひと言。夜中じゃない事を祈ります。怖っ。想像してしまいました。お父さんも腰を抜かす光景です。夜、お手洗いに起きると物音が。覗いて見ると一心不乱に……。ホラーすぎる……。


 怖い想像はやめておいて、千穂は鍛え上げられた家事スキルの一部、包丁の扱いを披露ですよ。与えられた2分間延々とキャベツの千切りの山盛りを創り上げようとしています。ウケるの? それ?


「憂ちゃんは? 憂ちゃんのだけ知らないよ?」


 手先が器用な優子ちゃんは、ちっちゃい折り鶴を折るんだそうです。1センチ四方の紙……どころか、9ミリ四方だそうです。もっと小さいの折れるらしいけど、2分間だと9ミリがぎりぎりなんだって。ミリ単位の世界とか、わたしには想像が付きません。何気に凄い技を隠していました。優子ちゃんは。


「――ないしょ」


 ……とか言いながら顔が紅くなりました。一芸披露の時間は水着審査の時間を兼ねています。つまり、水着で行なう……。


 あ……! 千穂! この子、水着エプロンでポイント稼ぎ!? 策略家だ……。いつの間にそんな芸当を……。わたしはこんな子に育てた覚え、ありませんっ……!


「――ごめん――ね?」


「………………」


 憂ちゃんの頬を赤らめて上目遣い攻撃を受けた優子ちゃんは、衝撃で目にハートマークが浮かんでいます。優子ちゃんにはその気がないはずのに、さすがは憂ちゃん。


「……千穂ちゃん、知ってる?」


 矛先を変えましたね。賢明な判断です。下手をすると堕とされてしまいますので。


「知らないんだ……。私も内緒にされちゃってて……」


 淋しそう。千穂は憂ちゃんを諦められていません。間違いなく。でも、憂ちゃんは千穂を自由にしてあげないと。離れないと……って。


「意外。そうなんだ……。千穂ちゃんなら知ってるって思ったんだけど……。なんかごめんね?」


「ううん」


 ふんわり笑顔。秘密を共有していなかった友だちはまだ知らない。別れた事。


 離れたのは切っ掛け1つでした。

 なら、引っ付くのだって、また1つ切っ掛けがあれば……なんですけど、顔を合わす機会は減ってるし、その上、冬休みだし。冬休み明けたとしても、久しぶりに会うのはクラス全員なんだし……。


「…………」


「…………」


「…………」


 いけませんね……これは。まずい雰囲気になってしまいました。出番ですよ?


「みんなどんな水着にしたんだー?」


 さすが! 佳穂ちゃん偉い!


「言い出した佳穂さんは、どないな水着にしはったんです?」


 立った。立ち上がって、【大守 佳穂 様】って張り紙してあるロッカーへ。出すんですね。わざわざ。

 佳穂は自分の体形に自信を持っています。腹が立つ事、この上ありませんが確かに見事なスレンダーボディーです。マジむかつく。


 ファスナーの音やら、ガツンって、手をどこかにぶつけた音やら聞こえた後、「これだー!!」と、掲げました。ちゃらららん。気合いのビキニぃぃ! ……とか、幻聴聞こえた見せ方です。


 入念に化粧をしておられた先輩も、一芸の最終調整中の人もみんな手を止めて、佳穂ちゃんの水着に注目。うるさい……もとい、騒がしい七海ちゃんが向こうの控室で良かったです。居たら今頃、大騒ぎですね。


 うわ……。際どいの選んでる……とか、マジで……? とか、そんな心の声が聞こえました。

 グループメンバーは予測済みって反応ですね。優子ちゃん以外は。


「布の小さいの選びはったんですねぇ……。吉と出るか凶と出るか……。一定の票は集める思いますわぁ……」


「可愛い路線で戦っても一票も取れない自信あるからなー!」


「本当に自信ありそうに言わないで」


 しまった。ツッコミ入れてしまった。このDVD、総帥さんも見るはずなのに。


「5組だけで憂ちゃんはもちろん、千穂に優子ちゃんって可愛い系がひしめく世界! 違う路線で攻めないといけないのだー!」


 おや? 梢枝さんがロッカーに。お披露目会の様相を呈してきましたね。


「せやけど、佳穂さんのその路線はウチと被りますえ?」


 梢枝さんの水着! 予想通りと言うか何と言うか……。黒の競泳タイプですね。でも、前にプール行った時より……。


「は・はいれぐじゃんか……」


 佳穂ちゃん、絶望の表情。あはは。わたしが一票入れたげるから。ゼロはないよ? たぶん。

 たぶんじゃないですね。同じセクシー路線ですが、健康的な美しさ……って言うのもむかつくけど、そんな感じの佳穂ちゃんと、大人の魅力からなんですかね? 妖艶って言葉の似あう梢枝さん。同じセクシー路線でも別物です。


 ……なんだかんだ言ってもみんな結構、本気ですね。出るからには、まぁ、負けたくないですよ。憂ちゃんにはともかく、他の誰にも。


「ち、ちほ……は?」


「え……? 私は……わざわざ見せない……」


 そうでしょうね。千穂はそんな子です。自分の水着を見せびらかすよりも、さりげなく美味しい場面を持っていくタイプです。ちゃっかりしてる部分があるのがこの子の長所ですから。良い奥さんになりそうです。


「ずるいぞー!」


「憂の……水着は……?」


「優子ちゃんは? 優子ちゃんはどんな水着だー!?」


 やかましいですよ? 佳穂ちゃん?


「私のはねー」


 おや? 意外です。見せてくれるんですね。

 同じ控室になった2年生も3年生も見ておられますね。やはり、ライバルたちの戦略が気になって仕方がないんでしょう。


「これ」


 じゃーん! ……と、広げて見せてくれたのは、パレオ付きのワンピース水着。可愛い系の優子ちゃんらしいチョイスですね。高得点を望めそうです。


 ちらっ。

 ふふ。目を合わせてみたら逸しました。千穂ちゃんが。被りましたね。優子ちゃんと。


「みんな、ありがとね」


 ……? 優子ちゃんに感謝されてしまいました。わたしたち、何もしてないけど……。


「お陰で緊張解けちゃった。もう思い切って出ていくだけ」


 グッと両手の拳を握り締めて、がんばるぞぃ。気合注入する優子ちゃんに朗らかな視線が集まりました。みんな緊張感がどこかに抜けたみたいですね。佳穂ちゃん、相変わらず良い仕事してます。


「ボク――これ――」


 ……忘れてた。憂ちゃん、赤い顔してロッカー前に移動してた……って……。


「憂ちゃん、マジか」

「……嘘」

「思い切ったね……」


 佳穂、千穂、優子ちゃんも同じ感想。

 憂ちゃんが見せてくれたのは、小さな小さな水着。水色のワンピースタイプ。パレオ無し。

 でも、問題はそこじゃない。憂ちゃんが小さいから小さな水着なんじゃなくて……。

 あれって、相当、伸びる生地だと思う。


「皆さんの予想の通り、伸縮性のある水着ですえ? 水着と言うより、今回専用の見せる用のアイテムです。ブランド『YUU』のデザイナーさんが作ってくれました」


「……体の線、だいじょぶ?」


 佳穂ちゃんの生唾を飲み込みながらの発言。もちろん、佳穂のビキニだって、梢枝さんのだって、体のラインはモロに出ます。

 そうじゃなくて、裏の当て布はあるみたいですけど……。それでも、絶対、食い込んだりする。絶対。


「――だいじょ――ぶない」


 変な言葉になりましたが、言いたい事は解ります。ミスコン参加させられた経緯から普通の水着だと難しくて……。露出高めじゃないと、と思ってましたけど……。


「がんばる――」


 覚悟は出来ていたんですね。憂ちゃん、頑張れ。


「一気に妙な疑惑を払拭しますえ? その後の拡散次第では、学園外にまで憂さんはやっぱり女性であると認知させます。その為に、わざわざ憂さん専用に用意されていた控室をお断りしたんです」


 梢枝さんが描く予定を広げてみせると、わたしたち全員、5組以外の人たちにも目線を送りました。なるほど。この裏側の様子も大切なのですね。理解しました。


「あの少年も協力者ですわぁ……。皆さん、覚えていますえ? このミスコンに何故か立候補した初等部の男の子は、文化祭の2日目、憂さんが轢かれそうになった時、千晶さんに続いて、一瞬遅れただけで動き出す事の出来た子です」


「覚えて……ない……」


 佳穂ちゃん。心配要りません。


「わたしもです」


 過呼吸を発症してしまった時の話……でしょうけど……。梢枝さん、よく見てますね……。


「……私も覚えてない」


 ……千穂! この天然っ……!


「千穂は居なかったんだぞー?」


「そうです。轢かれかけて過呼吸起こして、あんたのところまで拓真くんが抱えて走ってくれたんじゃない」


「……あ」


 ……ボケボケもほどほどにお願い。


「まぁ、話を戻しますえ? その少年は同じ憂さんと水着を着用してくれはります。憂さんの為に自らの羞恥心を放り投げて下さったんです。千晶さん? 後ほど、彼の取材もしてあげて下さい」


 あぁ、すっかり忘れていました。

 この大体育館の控室は4部屋。この第2控室と、生徒会長やちゃこさん、七海ちゃんの居る第1控室と、憂ちゃんのも用意されていましたが、それは丁重にお断り。あと、男子用の第4控室。たった1人だけの。


 コンコン。ノックに反応して、わたしは控室の鏡の上の時計を確認。

 13:50。10分前。


「失礼します。そろそろ通路にて待機してください!」


「来たぁぁぁ!」


「いよいよだね……!」


「まぁ、適当に行きますえ?」


「憂? 行こ?」


「――うん」


「待って!」


 各々気合入れておられたら、ずっと黙っていた2年生の先輩の制止。


「みんなおいで」


 その先輩にみんな不思議そうに集まると「円陣!」って。


 千穂も佳穂も梢枝さんも優子ちゃんも良い笑顔で加わりました。憂ちゃんも手招きされて、輪の中に。


 これはベストショットです。


「恨みっこなしね。憂ちゃんのグランプリは間違いないけど、誰が準ミスになっても祝福しようね! 頑張ろ!」


「はい!」

「おう!」

「よっしゃー!!」

「――しゃ」


 ……とか、色々。応じる声は、見事にてんでバラバラでした。




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