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237.0話 間に合わないプレゼント

 


 ―――12月20日(水)



 今日も憂は起きるなり、シルクなパジャマのまま編み物開始。女の子座りになっとるぞ? 本人、無意識なんだろうけどさ。座りやすいから自然にそうなる。理に適った座り方なんか? 骨格がそうさせるんかね?


 手編みのマフラー。梢枝(あの子)の性格なんだろうね。コートも着なけりゃマフラーもしない。見てて寒そう。


 ひと編みひと編み丁寧に……。やっぱ妹可愛い。最高。でも最近は生意気言わない可愛い弟も欲しいとか思い始めた。勝手だわ。私。


 あー。またか。


「憂? そこ、ダメだ」


「――え?」


 もう……。ここだ。ここ。

 指差してそこを示す……と「あ――」って、悲しそうな声。

 まぁ、難しいよね。右手、思い通りに動かせるのはいつの日だ?


「うぅ――」


 ……やっぱり焦ってる。ちょい貸せ?

 折角、編んだ部分が解かれていくのを泣きそうな顔で見てる。ちょいちょいと修正……。さぁ、こっからは自分で頑張れ!


「まにあわない――」


 今までなんだかんだ言って間に合ってたからね。今回は……無理かな?


「手伝おうか?」


 私らの手が入らなければ……ね。


「それじゃ――だめ――」


 ですよねー。今更、私の手が入ったとしたら出来がおかしくなるからねー。目が合わん。憂が編むと基本、緩いからふわふわマフラーだ。


「そっか。頑張れ……?」としか、言い様なし。さて、朝ご飯作るかー。








 1階。リビングに行くと、最近の憂のいつもの姿。女の子しててちょい困る。もうちょい、男だったって事を覚えておいてくれ。


「やってんな。間に合い……そうか?」


 毎日毎日、よくもまぁ、飽きもせんと出来るわ。


「お兄ちゃん――! ――むりかも――」


 ……そんな食いついてこんでも……。

 誕生日プレゼントかぁ……。ちょっとくらい遅れても仕方ないような。家に居る時間も短くなってんだし。


「……ちょいと急げば?」


「こりゃ! 要らん事言うな!」


 姉貴……。聞いてたんか。叱られたけど、なんで?


「でもさぁ。急がんと間に合わんのだろ?」


 もう既に手遅れかもしれんけど。


「急いでミスってそこまで戻って繰り返して今のこの状況」


「……はぁ」


 よー分からん。


「うん――。いそぐ――」


 素直になったよな。ちょっと可愛い……。


 あ。やべ。

 姉貴がガン飛ばしてた。


「ゆっくり……な?」


 ……どうせ間に合わねーんだし。

 姉貴……。俺の聞いて、今度は笑ってやがる。いいから弁当作ってろ。


「憂と話してると悩みが消えるみたいだね」


「あー……」


 ……よく見てんなー。


「ちょいとお姉ちゃんに話してご覧? お母さん、任せた」


「えー? 酷くないー? 1人にするなんてー」


 ……母さんよー。


「うるさい。家事化け物。語尾上げてJKみたいに話すな」


「ひっどーい!」


 姉貴、代弁サンクス。

 エプロンで手ー拭きながら「んで? 何の悩み?」だってよ。


「なんでもねーよ!」


「こいつ……。やっぱり可愛くない。憂を見習え。最近、自分の可愛さに気付いたのか、夜にゃ、髪型いじったりしてんだぞ?」


 そうなんか……? ちょっと見てみたい……って! 憂! じっと見上げてるじゃねーか! 上目遣いやめろ! 変な情報入って、変に意識が!


「手ー……止まってるぞ?」


「――あ」


 編み物の棒を使って、再開。母さんがやってんの昔見たけど……。それに比べてくっそ遅いな……。

 ん? 母さん、2本使ってなかったか?


「あ! 憂! そこ! 目が……問題……なかった……」


 ……なんじゃそりゃ?

 姉貴の指差した部分を棒を置いた左手でちょいちょい。隙間が消えた。緩かったんか?


「もんだい――ねーよ」


「「………………」」


「剛? 『ねーよ』禁止。いい?」


 腰に手ー当てて、腕をこっち伸ばして、指を上に向けた姉貴の何かしらん迫力についつい「……はい」

 そのまま憂に向くと「憂? 『ねーよ』ダメ。絶対」って同じ言い方。


「――なんで? もう――いいはず?」


 なんで疑問形よ? もういい筈。もう男だったってバレてるから、言葉遣いとか気にする必要ないだろ? ……か? 姉貴、どうすんだ?


「私が……我慢ならん」


 我がままじゃねーか!


「服装」


「――ふく?」


「自由に……させてんだ……」


 憂の手、止まっちまってんぞー。絡むなバカ姉貴。


「――うん」


「言葉遣いか……自由な服装か……どっちか?」


 まぁ、妹欲しいって公言してた姉貴にとっての妥協点なんだろうな。スカート履かせたり好き勝手してた割には着るもんに口出しせんくなったからなー。

 とか言っても、セーラー服なんだけどなぁ……。家におらん時の大半が結局スカートよ。


「うぅ――。ふくそう――」


「よっしゃ。『ねーよ』禁止。OK?」


「うん――。しかたない――」


 ……なんか不条理な気がするけど。憂の扱い巧いなぁ……。


「憂の外見。この容姿で男言葉はやばい。蓼学の小中学生だけならまだしも、予想以上に影響力あるみたいだからね。全国津々浦々で流行ったら……。ウチにクレーム来るぞ? それでいいんか?」


 ……それは……。


「だめっす」

「だめ『です』!」

「だめです」


 ……なんだかなぁ……。なんだかんだ言い訳するけど……。やっぱり憂を好き勝手してーんじゃね?


「愛ちゃーん? 話終わったなら手伝ってくれない? 朝ご飯とお弁当って、なかなか……」


「ごめーん」


 ……やっと行ったか。リビングなんかに近づくんじゃなかったわ。

 でもなぁ……。1人で居ると考え込んじまって……。


 ……樹里(じゅり)。あいつ、顔合わす度に家に連れてけ……って。

 憂が居るから無理だって言ってんのに……。もうちょいで独り暮らし始めるから待って言ってんのに……。

 あいつらの言う通り、憂が目的で近づいてきたんじゃねーかってよ……。

 違うよな? 考え過ぎだって……。


「あ――!」


 ……?


「どした?」


「んーん。ぬけたかと――」


 ……編み物の事、分かんねーって。

 変に詳しくなったよなぁ……。あんま女の子されるとやりにくいわ。








 愛【ごめん! 一応、持っていかせたから、チャンスがあったら見てあげて? もちろん、梢枝さんには見付かっちゃダメだよ!】


 お腹の調子が悪くって、お手洗いから戻ると千穂がスマホの画面を凝視中。

 ついつい、盗み見てしまいました。


「千晶ぃ? 何のメールだー?」

「チャット。謎のメッセージ」

「あ! 千晶、見た!?」


 左手で持ってたスマホの画面を右手で隠しながら、怒りのちぽちぽ。

 えぇ。見ましたとも。横顔でも分かるほど、ニマニマと気持ちの悪い。


「何のことでしょう?」


 誤魔化しますけどね。


 ついでに「愛さんも梢枝『さん』なんだよね。不思議」とか言ってみましょう。


「見たんじゃない!」

「気付いた。千穂なのに」

「怒った千穂も可愛いなー」

「棒読みやめてっ!」

「なんだよー。遊ばせろよー」


 うん。元気ですね。近頃にしては珍しく。

 今日は梢枝さんの誕生日。メールは間違いなくその関係です。千穂は憂ちゃんに絡みたくて仕方がないんですね。分かっていますよ。


「きゃっ! 佳穂っ! めんどくさいよ!」


 抱き付きですか。仕方ないですね。参加しましょう。


「きゃっ! 千晶まで!」


「佳穂! 胸触らないで!」


「千晶はっ! 下に手を! 伸ばさないでっ!」


 ……失礼な。お尻を撫でただけです。単なるスキンシップです。


「千晶って、容赦なく下触るよねー」


「そうだよ! 変態!」


 ……変態? 構いませんとも。


 おや? 視線が集まっていますね。解放してあげましょう。








 憂ちゃん来ると、最近、クラスメイト大勢集まっちゃって話す機会減ったんだよなー。学園にいる時間が減った分、鑑賞だけじゃなくて絡みたくなったんだろーね。

 あたしらでも、挨拶からの『今日はどーするの』くらいしか話せなかったし……。


 憂ちゃんが来るの遅くなったのも大きい。時間そのものが少ないんだー。


 千穂ー? そりゃ寂しいわな。


 ……あれ? あたし、何で千穂を応援し始めてんだ? 千穂と憂ちゃん別れたからチャンスなのに……?


 ま、いっか。難しい話は置いとこ。


「……佳穂?」


「……なに?」


 千晶と小声の会話。センセごめんね。


「梢枝さん……連れ出せない?」


「チャット」


 よっしゃ。頷いた。さぁ、誰に声掛けるかねー? 千穂はダメだろー? 梢枝さんと千穂以外、みんなでいいか。

 グループ作成……。何個目だー? 名前は……適当……でいいや。すぐ解散するし。


 招待、招待、招待、招待、招待……。めんど……。


【相談あり】佳穂

 京之介【授業中だよ?】

 千晶【静かにしていれば大丈夫です】

 勇太【なんだー?】

 拓真【何やってんだ? これだけ大勢動きゃバレるぞ】

 京之介【それもそうだね】

 康平【グループ名「適当」ってテキトーやな】

【千晶、なんて書いてあった?】佳穂

 勇太【圭佑のヤツ、気付いてねーw】

 千晶【しばし、お待ちを】

 京之介【圭佑の席、前だからねw】

【は・や・く。は・や・く】佳穂

【まだかー?】佳穂

 勇太【チャットでもうるさいww】

【悪かったなー(棒】佳穂


 ……まだかよー。あたしが打つほうが早かったかも?

 焦ってる。打ち間違えてるー! ははははっ!

 こっち見た。睨まれた。なんで?


 千晶【ごめん! あれ、持っていかせたから、チャンスあれば見てあげてくれない? もちろん、梢枝さんには見付かったらダメだよ!】

【おつかれー!】佳穂

 京之介【これは?】

 千晶【こんな感じです。これが愛さんから千穂にメールされていました】

【それで、千穂と憂ちゃんの時間を作ってあげたいのだ!】佳穂


 凌ちゃんはいっしょけんめーベンキョ中か? 真面目だからなー。


 勇太【梢枝さんへの誕生日プレゼント?】

 拓真【なるほどな。プレゼント、間に合ってねーのか】

 京之介【物はなに? 縫い物?】

 康平【あー。結局、間に合わんかったんかいな】

 勇太【凌平がこのチャットに気付かんの痛いな。頭切れるのに】

 千晶【わかりません】

 拓真【わからんって】

【千穂が教えてくれんかったんだー!】佳穂

 康平【手編みのマフラーや】


 ……なんだ、と? ヤバイ。マジ羨ましいぞー!? マジ卍とか、あたしは言わないけどっ!


 千晶【どうしてご存知で?】

 勇太【羨ましい! 誰か俺にも!】


 あ。確かになー。なんで?


 拓真【グループ内、女子2人。できそうなのは1人】


 くー! どう言う意味だー!?


【どう言う意味だー!?】佳穂

 康平【いや、ちょっと……なぁ……】

 千晶【わたしも編み物は……】

 勇太【そのまんまだろw】


 勇太ぁ……。ひっでーな! 確かに編み物なんか出来ないけど。


 …………。


 ……余計にむーかーつーくー。そんなんに告白したん誰だ!!


「センセ? すみません……。少し、具合が悪ぅて……。少し席外してええですかぁ?」


 ……梢枝さん? 日本史のセンセは「え? 大丈夫?」って憂ちゃんをチラ見。先生たちも護衛って知ってるからなー。


「……康平さん、頼みますわぁ……。教室外では半径1m以内で警護頼みます……」


 ざわざわし始めたぞー!? 梢枝さんと憂ちゃんは今日は4時間目まで受けて早退予定で……。

 梢枝さんには普通じゃいけない気がして、サプライズで昼休憩にみんなでおめでとするつもり。プレゼント渡せないかも!? ……みたいな?


「その内、よーなったら戻ってきますよって……」


「あ、あぁ。うん。ゆっくり休んで」


「ありがとうございます。失礼しますわぁ……」


 立ち上がって、すぐ傍のドアからお邪魔しました。

 ……ホントに行っちゃった。


 京之介【何人もでチャットしたから気分害した……?】

 康平【大丈夫やろ。空気読んだんや】

 千晶【さすがと言うか、何と言うか……】


 うひゃ! 突付かれた! 憂ちゃん! そこ! 脇腹弱い! ……って思いながら振り向いたら千穂かーい!


 顔が怒ってる。美人さんだ。卑怯な。


「梢枝――たいちょう――わるい――?」


 ……良かった。憂ちゃんに余計な心配させられないから。


「たんじょうび――なのに――」


 ありゃ……。寂しそう。なんかごめん。








 オレ、日本史好きなのに今回、めっちゃ長かったー。あれからチャットはストップしてもうた。


「それで……みんなで何してたの?」


 怒ってんなー。千穂ちゃんに説明しづらいぞー。


「勇太ぁ! 失礼な! 確かに編み物出来んけどっ!」


 佳穂!? 言っちゃうの!? ってか、そんなに気にする事か!? オレの予想通りなのに!


「……やっぱりその事だった」


 千穂ちゃんも案外、察しいいよなー。鈍そうなのによー。


「憂? 今、編もう……?」


「んぅ?」


「ほら……。梢枝さん……居ないから……」


「梢枝――だいじょうぶ?」


 横顔でマジ心配してんの分かるな……。相変わらず感情が顔に出てやんの。


「大丈夫や! 野暮用やで?」


「――やぼ?」


 みんな空気読んでくれてるなー。いっつもなら憂の周り、人集りなのによー。


「用事だ」


 拓真? 用事で分かるんか?


「ようじ――? からだ――だいじょうぶ?」


 ……分かったらしい。くそ。なんかむかつく。


「大丈夫や!」


「よかった――。じゃあ――あむ――」


「……間に合うかも?」


 ……千穂ちゃん? なにか名案でも?


「3,4時間目……。梢枝さんが抜けてくれてるなら……」

「あー! そっか!」

「そうですね!」

「名案や! おばちゃまや!」

「うん! みんなでお願いしよ!?」

「……じゃあ、俺は梢枝さんになんか相談する」

「そうですね。1人にするのは気が引けます」


 拓真は、スマホ出して……。


「そうだな。僕も彼女と話をするとしよう」


 あー。なるほど。梢枝さんとの相談タイムにしといてその裏で……ってか、表で家庭科の授業使って編み物って寸法。


「じゃあ、お願いしてくるね!」

「編み物。女子力アップ。いいね。付き合う」

「あー! 私も!」


 いいんちょコンビと結衣ちゃんが動いて……。これでひと安心……か?


「え? 憂? これって、まだ半分以上残ってる……」


 憂が取り出した編みかけのマフラーを見た千穂ちゃんのひと言。


 ……無理なん?








 おっきな机を挟んだ向こうで佳穂も千晶も編み編み。かぎ針使って編み編み。

 佳穂の真面目な顔って珍しい。

 向こうでは拓真くんと勇太くんがおっきい体でちまちまと編んでる後ろ姿……。ちょっと可愛いかも。

 拓真くん……。あれから何も言ってこない。でも、視線で本気なんだって伝えてきてる感じ……。本気じゃなかった京之介くんの時の告白と違うぞって目で宣言。


 それより。それよりじゃないけど!


 ……隣、って言うか、私と憂との間におばちゃまが。ちょっと圧力凄くて……。


「そう! 上手ねー! 可愛いわねー!」


 憂の手元を観察してのひと言。

 ……可愛い関係ないです。

 憂は頑固なんだ。今のペースじゃ間に合わないのに、自分で編むって……。手が変わるとダメなんだろうけど……とか思ってたらおばちゃまの視線が私の手元に……。ちょっと緊張……。


「まぁ!! 上手ねー!! 可愛いぃぃ!!」


 ……でっかい声。おばちゃまが見てる……。見られてるよ!


「……あの! やりづらいです……」


「千穂さん! 調理実習もお裁縫も完璧! 編み物も出来るのねー!!」


 ……あれ? 可愛いが無い……よ? ううん! 別に言って欲しいわけじゃないよ!?


「……手芸部に入ってみない? 憂さんも誘って……」


 ガラッと雰囲気の変わった先生が私に耳打ち。もしかして、憂がOKしてくれたら、一緒にいられる時間増える……?


「そう! リズムなのよー! 一定のリズムで動かしていくのー! 上手ねー! 可愛いー!!」


 ちょっと考えてる内におばちゃまの視線は憂に戻ってた……。


「ちっちゃくて可愛いお手々で編み物!! 部でも今度やってみようかしらー! きっと可愛いわ!!」


 どうかな……? 学園内の中と外……。部活するようになったら……。それはどっちなのかな?








 ……戻りにくい事、この上、ありませんねぇ。こう言うのは苦手……。

 家庭科室に戻ったら、きっとお祝いとプレゼント……。このまま帰ってしまいたい衝動に駆られますわぁ……。


 ……でも午後からは憂さんに同行。無理ですねぇ……。


 思いっ切り喜んであげるべき、ですよねぇ……。


 こんなに入りにくい教室なんて、初めてですわぁ。肝は大きい思っていたんですけどねぇ……。


「すぅぅぅ……」


「…………」


「はぁぁぁ……」


 深呼吸の内に鳴り始めたチャイムと同時に家庭科室のドアを横開き……。


「梢枝さん! 誕生日おめでとう!」

「「おめでとう!!」」

「憂ちゃんに追いついたねー!」

「「おめでとっ!」」

「あらー! 貴女、お誕生日なのね! 可愛い!!」


 ……クラッカーでも鳴りそうな雰囲気ですねぇ。

 ともあれ……「ありがとう……」やわ……。

 こないに祝うて貰ろうたん何気に初めてやし……。


「梢枝さん。これ、女子みんなからのプレゼントです」


 代表は有希さんですかぁ……。委員長さんやからねぇ……。

 大きくラッピングされた大きな箱。


「何やろか……。開けてみても……?」


「もちろん!」


 うわぁ……。見られすぎ。好意的な注目もきついんですねぇ……。親衛隊さんの総会以来や……。


 ……ラッピングってこないな場面で、破ってもええんやろか?


 ええかぁ。ウチの性格、みんな知ってはるし。


 抱えるレベルの箱の包装を容赦なく破り、箱を開けると……。



 出てきたのはコート。

 持ち上げてみると、ロングのコートやった。


 ……これ、カシミヤ? カシミヤ混ですかねぇ? それでも高かったでしょうに……。


「梢枝さん、いつもコート着てなくて寒そうって、みんなで話し合ったんだよ? 憂と一緒に居る事多いから、やっぱり注目集めてるんだろうし、中途半端に大勢で渡すよりは……って」


 千穂さん……。


「ホンマにありがとう……」


 感動してしもうた……。


「今度は男子からだ!」


 なして代表は健太さんなんですかねぇ?


「女子と違って帰ってから開けて!」


「はい……って、もっと大きいんですねぇ……。重っ……」


「あははは!! ワイが持って帰ったるわ! 他にもお前へのプレゼント受けとっとるで! 中等部……ってか、親衛隊は一本化してもうたさかい、数はそこまで行かんで!」


 厭らしいものじゃないよね? 何をプレゼント? そんな女子の声を尻目に康平さん。ウチは何故か中等部の子らに人気やからねぇ……。


 ……あれ? 千穂さん、どこ行ってしもうたん?

 康平さんに男子たちからのプレゼントを預けて、男子たちの隙間から様子を窺うと……。憂さんの姿。


 ……泣きそうな顔して編み物してはる。間に合わんかったんやねぇ……。


「あ。見ちゃいました? おばちゃまとか、スキルの高い人にだったら手を貸して貰っても仕上がり的に問題はないそうなんですけど、絶対に嫌だ……って、譲らなくて……」


「これから出かけるから編む時間ないって……。頑張ってたんだけどねー」


 千晶さんと佳穂さんが注釈を入れてくれると、憂さんまでの道が拓いた。その道を進むと、千穂さんの耳打ちで憂さんが顔を上げてくれはった。


「ぁ――ぅ――」


 目ぇ、泳いではりますえ?


「――梢枝――ごめん――」


 ……泣き出してしもうた。感情のコントロール……随分、上手になりはったんやけどねぇ……。


 編み掛けの赤いマフラー。

 憂さんもウチが寒いやろうて思うてくれはったんやね。


「……大丈夫、ですえ?」


「――でも――」


 ポタポタと涙が落ちては、手元のマフラーに染み込んで……。


「待ってます」


「――――」


 不満そうですねぇ……。


みんな(・・・)……憂さんの為……なら……待てますえ?」


 困った様子で憂さんの背中を撫でてはった千穂さんが驚いた顔に変わった。サービスですえ? 憂さんが気付くかどうかは分かりませんが……。


「――なるべく――はやく――わたすね――?」


「……えぇ。お願いします」


 ……伝わらんかったわぁ。



 ところで何で赤なんでしょうねぇ……? ウチも牛やろか?




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