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235.0話 呼び捨て part 3

 


 ―――12月15日(金)



 テストって終わった人から退室出来ればいいのにね。

 見直しも終わったし……。これ以上すると正解してるとこを変に直しちゃいそうだし……。


 …………暇……。


 ちらり。


 ……まだ憂は頑張ってるんだね。テスト期間中、離さないといけない机の距離が寂しい。


 …………………………。


 えっと……。


 憂は今日も蓼園さんのところ行くんだっけ……? そんなに危険? 考え過ぎてるんじゃないかな……?


 あの脅迫状の犯人4人は、男バスさんとの試合の翌日、自首。

 ……全然、ニュースにならなかった。いたずらって事で終わったみたい。補導されて停学処分だって。この辺は月曜日に、リコせんせが朝礼で教えてくれた。

 その朝礼の後には、『まだ終わってないでっせ』って、康平くんが注意促してたけど……。やっぱり、危険だ危険だって言ってるだけの気がして……。


 梢枝さんが言ってた『猫の人2人目』も何もしてこないし……。

 あの人って、生徒会選挙にも立候補してた。最近、知ったんだけどね……。

 生徒会の選挙って言えば、なんだかおかしな事になってきてるみたい。

 本気で生徒会長の座を狙ってた……B棟、だったかな? そこの2年の先輩に変な噂……。ミスコンでも準グランプリ狙ってたキレイな人なんだけどね。


 ミスコンって言えば!

 一芸披露って……聞いてないよ。何すればいいの? 家事くらいしかないんだけど……。

 憂は何するんだろ……? 何か出来る事あるのかな?


 きーんこーんかーんこーん。

 終わった! テスト全科目終了!


「はーい。お疲れ様でした! 裏返してそのままお願いします! 帰り支度してていいけど、表にしたらカンニング扱いですよ!」


 んー! 背伸び! 気持ちいい!

 テストは手応えあり! 剛さんが勉強見てくれたのが大きいって感じ。優しいお兄さんなんだよね。


 ……次の時、どうしよ?


「んーー」


 あ。憂も伸びしてる。佳穂も千晶も。振り向いてみたら勇太くんも。


「……どうした?」


「ううん。みんな伸びしてるなーって思っただけ」


 拓真くんは伸びないんだね。


「憂ちゃーん!」


 あ。凜ちゃん。憂は伸びたまま停止。インナーのシャツ見えてます。

 私も手を伸ばして、憂の右手を降ろしてあげたら、一緒に左手が下がっていった。同時に小首傾げ。


「今日……。カラオケ……行かない?」

「あ! ずるい! 私たちも遊び誘おうって思ってたのに!」

「あたしが喋る暇がないとかー!」


 佳穂うるさい。陽向ちゃんも元気になったよね。

 それにしても……どんどん、人が集まって大人気。男子も女子もほとんど全員集まってきちゃった。今週はテストだったから来てたけど、来週からまた来たり休んだりになる……。みんなそれを知ってるから、少しでも憂との時間を作りたいって……


「うぅ――ごめん。ようじ――あるから――」


 ……瀬里奈ちゃんも寂しそう。ダメで元々、成功したら儲けって感じでヒナちゃんが誘った感じ。ダメ元でも断られたら寂しいよね……。


 憂の用事。その行き先は毎日、梢枝さんが教えてくれてる。今日も総帥さんの本社……。

 ……少しは遊んでもいいんじゃないの?


 本当に憂は私たちと距離を置いちゃった……。

 学園来てくれた時は普通に話してくれてるんだけど、それでもやっぱり時々、今みたいにごめんなさいって顔して……。

 無理する必要ないのに……。もうちょっと経ったらもう1度告白してみよっかな?


「千穂ちゃん?」


「……どうしたの?」


 拓真くん、珍しいな。あまり1人だけで呼んでくれない。『お前ら』で佳穂千晶一緒に呼ぶ感じだから。


「今日……一緒に……帰らねぇ?」


「……え?」

「――え?」


 ……憂も驚いてる。

 でも、どうかな? 私は毎日、黒服さんの送迎だから……。


「えぇ。はい。千穂さんは徒歩で帰りはるので、そのように……」


 え? え? 梢枝さん、いつの間に電話? しかも対応早いし……。


「どうだ?」


 どうだって言われても……。もう、迎え無くなっちゃったんだろうし……。


「いいよ……?」

「え?」


 ……って言うしか。瀬里奈ちゃんも……『え』って言われても困ります。

 瀬里奈ちゃんは瀬里奈ちゃんで私と憂が付き合ってると思ってるから、不満そうなんだけど……。


「あたしらもいいかー?」

「佳穂? やめとこ?」

「なんでだー?」

「……ほら」


 千晶の視線を追うと……。お目々潤んだ憂が……。

 そんな目で見ても……。憂がそっちに行っちゃったんだよ……?


「ほら、お前らも散れ。帰っぞ。憂も行けねーじゃねぇか」


 微妙な雰囲気を感じたのかな……? 私たちの周りに集まってたみんな、ちょっとずつ憂を気にしながら離れていって……。

 勇太くんと圭祐くんがヒソヒソ話してる教室の端っこに、京之介くんも合流して……。

 佳穂は千晶に何か言われて、うんうん頷いてて……。梢枝さんも康平くんも傍に居るのに、憂は、なんかひとりぼっちに見えて……。


「憂さん? 行きますえ?」

「梢枝さん、今夜、チャットする」

「ええですえ?」


 凌平くんも、おかしい事に気付いた……。


「ワイは……どうしまっか?」


「――――――」


 ……小首傾げた。考え中、だね。

 拓真くんは……待っててくれるん……だ。

 そっか……。分かっちゃった。

 憂を慌てさせようとしてるんだ。


「……行こっか。憂? また……来週……ね?」


 ……寂しいね。憂も、でしょ?


「――まって!」


 …………!!

 憂が止めてくれた! 拓真くんとの帰宅が変えてくれた!?


「康平――おねがい――」


 ……え?


「仰せのままに……。やなくて、任しとき!」


 ……………………違った。


「千穂「千穂……」


 あーあ……。佳穂にも千晶にも……。仲間、みんなに見られちゃった……。つい出ちゃった笑顔がしぼんでく瞬間……。


「ワイは2人の後ろに付いていくだけやさかい、気にせんでええで?」


 怖い顔なのに、すっごく優しい笑顔。みんなが優しくて……ちょっと……つらい。


「……うん。よろしくお願いします……」


「憂、じゃあな」


 鞄を肩に担いで歩き始めた拓真くんの後ろ姿。バッグを持って、ロッカーまで急いで、コートをひっ捕まえて、小走りで追いかけると、後ろで康平くんの気配。「ばいばい――」って聞こえたから振り向いて、手を振っておいた。


 ……うまく笑えたかな?






 東門。出るとき、いっぱいいっぱいばいばいって挨拶されちゃった。親衛隊は不思議そうに見送ってくれたけど……。

 憂と離れても、私は学園内の有名人のまま。


 ……なんでかな? みんな知らないから、だよね。憂との恋愛関係が終わった事……。


「………………」


「………………」


 ……んっ……と。

 もう、結構歩いちゃったよ……?


「………………」


「………………」


 歩くペース。合わせてくれてる……。

 拓真くんは憂の時もそうだったよね。さりげない気づかいをしてくれるから。


「………………」


「………………」


 ……でも。


「………………」


「………………」


 ……何を話せばいいのかな?

 さっきの事……で、いいんだよね……?


「………………」


「………………」


 ……聞きにくいなぁ。


「……拓真くん、ありがと」


「……あ?」


 ……口癖なんだろうね。


「……悪い」


 無難なところ話そうと思ったのに……。家の方向違うのにごめんね……に、する予定だったんだけどな……。切り出せなくなっちゃった。


「………………」


「…………なぁ?」


「はい……!」


 私のバカ。これだと拓真くんも話しにくい!


「マジで……他のヤツ……探すん?」


 ……いきなりそこからなんだ。びっくりしたよ……?


「……うん。約束……したから……」


「……はぁ」


 ……ため息。横目で見たら、本当に呆れ顔。なんか、バカって言われてるみたい。


「じゃあ、他のヤツでもよくなったんか……」


 …………?

 もしかして……とか思って、もう1度見ても、やっぱり無表情。まじまじと見れないし……。


「………………」


「………………」


 ……また無言。


「わざわざ、ありがとね。大まわりになるのに……」


「構わねーよ。俺が誘ったんだしな。俺のせいで余計に歩かされてる黒い服の人と、康平よ。哀れなんは」


「……あはは。そうだね」


 ……こうやって歩くのって、久しぶり。寒いけど、空気がおいしい。

 憂と繋いでた手……。懐かしいな……。


「まぁた、憂の事、考えてんのか」


「なんで分かったの?」


 ……梢枝さん化してるの?


「んなに、左手見てたら勇太でも分かる」


「あはは。ひっどい」


 ……見てたんだ。前見てたはずなのに……。

 視界が広いのかな? もしかして、ずっと視界に入れてくれてるのかな?


「………………」


「………………」


「……帰る時……ね?」


「教室から?」


「うん」


「言葉が足りねぇ……」


「それ、拓真くんが言う?」


「ははっ。言えねぇよな」


 私、憂に話す感覚だったかも?

 憂はもう到着したのかな? 今日は誰と会ってるんだろうね? たぶん、聞いたら答えてくれると思うけど……。梢枝さんと康平くん( 2  人 )なら……。

 ……きっと、その人はどこかの知らない凄い偉い人だったり……。名前を聞いた事のある有名な人だったり……。

 そうしたら、もっと遠くに行っちゃうみたいで、聞けなくて……。佳穂も私のそんな気持ちが分かるんだろうね。聞きたがりなのに私の前では聞かないし……。


 ………………。


 あ……。また黙っちゃった……。


 …………。


 えっと……。そろそろいいかな……? あれ……? さっき、言おうとしたはずなのになんで? なんで聞けてないのかな?


「……さっきね?」


「教室か? 帰る時?」


 …………。


「…………うん。憂を慌てさせて……」


「……ん?」


『あ』じゃなくなった……。

 そうじゃなくて!

 ……ちょっとニュアンス違う? 慌てるじゃなくて……。


「あおって?」


「憂を煽って、千穂ちゃんの方を向かせよう……か?」


「……それ。ありがと。失敗だったけど……」


 ……話、早いよね。文乃さんと一緒。先取りしてくれる。話しにくいのに話しやすい。拓真くんは変わった人。


「……違う」


「またまた……」


 ちょっと笑っちゃった。意外と照れ屋さんなのは知ってるよ?


「マジで、違う」


 ……足、止めちゃった。私も立ち止まって、振り向く。拓真くんの口からは白い息。私からもだ。あはは……。


「単に俺が一緒に帰りたかった」


 …………本当に?


「疑ってんな。まぁ、しゃーねぇか」


 教室の後ろの席。振り向くとよく目が合うけど、前の人が振り向けば……普通、目、合わせるよね?


「俺は憂に真面目に……。いや、本気……か? 何て言やいいかわかんねぇ……」


 ……真剣だね。目を逸らさない私を真っ直ぐ見返してる。


「優が事故って……。病むほど、全力で向き合って……。俺は、そんな千穂ちゃんをマジで好きになった」


 …………また、だ。


「憂を好きな千穂ちゃんが好きだった」


 ……そんなに憂の事、大切なんだ……。みんな、憂のこと大切に思って……嬉しい、かな……。


「まだ、伝わんねーのか……」


 そう言われても……。『憂を好きでいて欲しい』んだよね?


 ……それは憂との約束違反なんだ……。

 ただ待ってるだけじゃなくて……お互いが幸せになれるなら……って。


「……それを俺に向けたい。憂みてーに寂しい思いをさせねぇ……。俺は千穂ちゃんに想われてぇ」


 ………………。


 伝わった……よ?


 どうすれば……いい?


 本気だ。拓真くんは本当に私の事……。


「……千穂ちゃんが憂の事……」


 うん……。はっきり言って、まだ新しい恋愛なんて探せない。そんな割り切れない。まだまだ憂の事、諦められない。


「待てんくなったら……」


 ……憂が新しい恋を見付けられなかったらいいな、って……ホントは思ってる。



 ―――絶対、憂も待ってて欲しいんだから。



「……そうじゃねぇな。とにかく俺は待たせねぇ。決めたからな。憂に遠慮しねぇって」


 佳穂と一緒? 私たちの……完全な破局待ち……?


「ごめん、ね」


 それは絶対、つらいよ? だから……。


「やめておいたほうがいいよ……?」


「俺は空気なんぞ読まねぇ……。振り向かせる努力はする。いいか? 千穂?」


 ……どきって……した。


「嫌、か?」


 頑張って……。がんばって笑顔を作る。憂と戦う意思は目を見れば分かる。


「呼び捨て……?」


「あぁ……。まずはその差を埋めておきてぇ……」


 だから「いいよ」って答えた。


 ……ホント。どうなるか分からないんだから! 憂のバカ!!


「なんでドヤ顔してんだ?」


 あっ……。


「それだ。千穂……って、自然に出るふわりとした笑顔と別に、作った時にもその顔するんな。ちっと違うけどよ」


 ……よく見てるね。

 こんなに見ててくれてた。気付かなかったけど……。


 …………。


 私、モテるんだよ。


 ……憂?


 あ……。でも、これって……。



 京之介くんの事、言えないや……。



 私、嫌な子だよね……。



 拓真くんとの距離が近くなったら、憂が戻ってくるかも……なんて、思ってる。




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