234.0話 謁見の間
リレー小説に参加してます(2度目)
今回もまた2番手です。得意の起承転結の『承』に当たる部分ですね。
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飛びにくいと思うので、私のお気に入りユーザの3ページ目の『キクチ様』へどうぞ。
先生の『あべこべチャンプルー』面白いですよー。
―――12月14日(木)
期末テスト終わって、これから蓼園本社行って、最後に健康診断……じゃない定期検診。
この子も何かと忙しいねぇ。
「平仮名で……ええんです……」
「でも――」
「社会の……テストは……時事が……」
懐かしいなー。確かにあった。社会のテストの最終問題。時事問題について。10点満点の問題。今でもあるんだねー。
どんな時事問題があるか、特定の事柄についての考察と感想。これなら確かに漢字きつくても点、取れるわ。そこにその設問があるって分かっていればね。
憂は随分と読める漢字は増えてきてるし、前回のテストみたいなどん底は抜け出せそうだね。でも、読みが2つあったりすると混乱すんだ。この子は。
それでも優秀な家庭教師も付いてくれたし伸びるよね?
……って、言っても移動中とかスキマ時間とか、そんなくらいだから思いっ切りは伸びないんだろうけどさ。
今は、黒服さんの運転で蓼園商会に移動中。後で車の回収……。ちと面倒。
付いてきたのは私の我儘だし、そこはしゃーない。
「おぼえ――られない――」
ニュースをか。忘れられない事件なんぞいくらでもあるだろうが。
「早い話……自分の事……書けばええんです……」
お。同じ見解だ。
「じぶん――の?」
「憂さんに……起きた事……書けばええんです……」
そうだね。憂の『再構築』は世界の3大ニュースに入ったとかニュースでやってたし。自分に起きたことならめっちゃ書きやすい。
「わかった――ありがと――」
にっこり。でも、前に見せてた笑顔とはちょっと違う気がする。
千穂ちゃんとの件、たっくんとの件、この子も色々と抱えてるんだよね。
ありふれた言葉で申し訳ないけど……。
「頑張れ!」
色々と、ね。
「うん――。がんばる――」
ありゃ? 教科書に目ー落とした。
「梢枝――?」
「地理は……捨てますえ?」
丸暗記だからね。地理とか。
「こんにちは!」
「こんにちは! 憂ちゃん! 今日も……可愛いね!」
蓼園商会受け付けのお姉さんお2人。超いい笑顔。座ったままなのは、きっと憂への配慮。ちっこいから。私も梢枝さんもしっかりと返礼。後ろの黒服の存在感を感じながら。
「こんにちは――」
困った笑顔のちっこいの。
そのちっこい、寒がりの憂は玄関前に車を止めて貰ったのに、コート、手袋、マフラーのフル装備。過保護な梢枝さんが全部、お手伝い。マフラーは女子高生仕様。あのめっちゃクルクル巻く奴。
憂の顔って相当小さいからマフラーがでっかく見えて、確かにちょーかわいー。
「少々、お待ち、下さいね?」
にっこり。可愛いお姉さんのにっこり笑顔に憂は赤面。
この人たちも……きっと、蓼学特進出身。受け付け仕事してる人に失礼かもだけど、そんな人材が受け付けやってるとか。とんでもーな企業。こんな人材豊富にしたのは蓼園のおじさん。先の事を考えまくってる総帥さん。
……なんで、憂と千穂ちゃんを離す方向で動かれたんだろう? いい方向に向かうって信じたい、けどさ……。
受け付けのお姉さんは慣れた手付きで、内線番号をプッシュ。
「………………」
「………………」
………………。
……あれ? 隣のキレイなお姉さまって感じの人に首を横に振ってみせる。するとアイコンタクトが通ったのか、もう1台の電話の受話器を取って、長めの電話番号をプッシュしていく。ぜーんぶ記憶してんだろか? 一切、視線を落とした気配なし。あ。切った。2人とも。
お姉さん方の目線を追うと、小走りの総帥さんと秘書の遥さん。
「すまん! 遅くなった!」
「申し訳ございません」
あの遥さんが深々と頭を……。何これ、めっちゃやりにくい。肩書上はウチのお父さんのが上だけど、遥さんは事実上のNo,2だぞ?
私らは、憂のオマケだからしっかりと頭を下げ返しただけ。邪魔しちゃいかんのだ。
「ううん――。きょうは――?」
「謁見だ! 憂くんは……話を聞いて……やればいい」
……どこのお姫様?
「愛さん? 後ほど、話が……」
小声で話す梢枝さん。だけど、総帥さんと秘書さんを尻目に会話し辛いから、小さく頷いておいた。
「当方の信者が大変なご迷惑をお掛け致しました……」
土下座。マジ土下座。憂へのお目通りが叶って、自分の身分を明かすと即、土下座。最初からそんな雰囲気だったけど、まさかホントにするとは。
遥さんが憂の耳元に。
下賤の者の……なんだっけ? 直奏……だったかな? それを許さず、遥さんが間に入って伝えてるみたいな光景。あんた、いつそんなご身分のお姫様になったのよ?
もちろん、憂に分かりやすく噛み砕いてくれてるんだけど、きちんと相手に説明してるんだろか? なんか憂の印象悪くなりそ……。
「――なにが?」
……そりゃそうだ。憂の耳に入れてない。
救世主を差し出せとか。変な宗教団体の信者から。
「私が説明しても宜しいですか?」
マジで? 長くなるよー。
「はいっ! お願いしますっ!」
20分コース……かな? 理解できればいいけど。
20分間。やっぱり時間掛かった。遥さんもよく憂の事、理解してくれたんだろうなー。
よっ……と。座り直し。部屋の隅で見てるだけの私と梢枝さんは気楽なもんだ。
教祖さんは93歳。末期癌。肺癌だったかな?
だから奇跡の復活を果たした憂を救世主と位置付けてしまった。
……もう、十分に生きてきたと思うんだけどね。んで、固執。この人は暴走する信者さんを頑張って止めてくれてた立場の人。それで今回、蓼園さんに接触。憂の直接の言葉を頂きにきた。
「ボク――かんがえ――あって――」
おっと、聞こうか。
「さいこうちくが――ふつうに――なっても――」
「再構築の研究が進み、コントール可能になったとしても」
遥さんが通訳。言葉足らずだからね。私も剛の時にしたっけ。
「えっと――。その――ごめんなさい――」
「………………」
通訳入らず。憂の背後の遥さんも、隣に座る国王様も。
憂の言葉を誘導しないんだ……。信頼してる……から……?
「だれでもだと――せかい――へんに――えっと――」
「申し訳ありませんが、希望に添えません。誰でも再構築可能な世の中へ変貌を遂げた時、世界は乱れ、狂う事は明白です。ですから不慮の事故、幼くして患った病気、このような場合にのみ、使用可能な技術とするべきだと考えています」
……まぁ、大体の言いたいことは正解かな? 少し、誇張されてる気はするけど、遥さんは偽りなく、憂の言葉を汲み上げてる。
それにしても憂……。あんた、めっちゃ成長してんじゃん。毎日の本社通いや病院内での対話。他にも施設訪問とか……。見識を広げるって凄いね。
「お言葉、ありがとうございます……。救世主からのお言葉、教祖にも信者にもしかと伝えて参ります……」
そう言うと、その男性はようやく土下座を解いた。上げた顔は晴れ晴れとしたもので、彼の中で何かの踏ん切りが付いたんだろうと思う。
「丁度良い」
国王様……じゃなくて総帥さん。自己紹介しただけで黙って聞いてたおじさんがやっと口を開いた。
「君がダイレクトメールを送った相手は、そこに居る憂くんの姉だ。隣の部屋で話してみるといい」
えぇ……? もう解決したし、いいのに……。
「ウチもご一緒して宜しいですか?」
こりゃ心強い。だから「はい。こちらへどうぞ……」なんて、なんか国を憂うどこかの誰かみたいに言っちゃった。
……隣の部屋は対面のソファーの置かれた部屋だった。
向こうは総帥さんの言葉通り、謁見の間みたいだったんだけどね。少し薄暗いのも雰囲気作りなんだろうね。
「本当に申し訳ありませんでした!」
「あ、いえ、もう脅迫紛いの事さえなければ、こちらも事を荒立てる気はありませんので……」
……で、いいんだよね? 私が思う通りに答えていいはず……。いいんだよね?
隣の梢枝さんに目を向けたら頷かれた。梢枝さんはどこまで総帥さんと話してるんだろ?
「はい。それは間違いなく……! 教祖さま……いえ、教祖も……その……。立花さんの反応が余りにもない為、意固地になった、のだと思います。憂さまのお言葉は、正にその通りとしか言い様がありませんでしたので……」
……あれ? わたしゃ、この宗教団体はしつこかったから返信した記憶があるんだけど。
まぁ、憂『さま』とか付いちゃったくらいだし、悪いようにはしないでしょ。これでまた1つ解決、かな?
「ええですか? 今回、赦された理由は憂さんも、こちらの愛さんもお優しいからですえ? ですから、あの総帥閣下もお赦し下さったんです。もう1度、おかしな接触があれば全力で潰されるかもしれませんえ?」
うわ。怖っ。
この前、小説で読んだ『口が三日月を成した』って表現がこれだ。
「は、はい。それはもちろん……」
こうやって護ってくれてたのか。学園でも。うん。よく理解した。
最後にふかぁ~くお辞儀して、退室されてった。
めでたしめでたし。
「愛さん? 何か聞きたい事が?」
……え?
「なんで分かったのん?」
嬉しそう。嬉しそうに笑うと梢枝さんが梢枝ちゃんだ。可愛い。
敬語、そんなに嫌だったんか。千穂ちゃんに敬語使われて寂しいんと一緒かな?
「半分はそうやないか……半分は当てずっぽう……。前に言いましたえ?」
「覚えてるけど、納得してないから何度でも聞くよ?」
「……本当の事やのに、どうしろ言わはるんですか」
ありゃりゃ。困り顔だ。
「ごめん」
「いえ……」
ニヤリ。こやつは……。掴みづらいキャラしてからに。
「総帥さんの遣り方に疑問……。そんなところですか?」
標準語のイントネーション。急に切り替わったね。
「そう、だね。正直、憂を使って何をしたいのか。本当に憂の事を考えて行動してくれているのか、そこが疑問」
……その人たちは隣の部屋。だから小声。こんなところで話す事柄じゃないかもしんないけど、面と向かって話したいじゃない?
「……ウチも近いうちにもう1度、秘書さんとお話しないと、と思っておりました」
「もう1度?」
……そこじゃないって突っ込まれそうだけど、気になって……。ごめんね。
「ええ。もう1度、です。1度目は発覚前の事でした。そこで遥さんはウチに向け、全てを公にするべき、と話されました。
ウチとしては、発覚後しばらくの間だけですが、憂さんが偏見の目に晒される事が許せず、抵抗し、戦ったんですけどね。
……それからしばらく。島井先生のPCからアレが削除された聞きました。『勝った』思うて安心したのも束の間、あの記事に至ったんですわぁ……。あ、すいません。また舞妓さんみたいな喋り方になってしまいました」
「話しやすいほうでいいよ?」
……ってか、ホントに1人でほぼ勝利まで行ってたんだね。凄い。この人。あの2人よりも凄いのかも。権力抜きで立ち回ってたんだからねー。
「いいですか?」
……思考が落ち着いたのを見計らってくれた。
「遥さんはウチに話した通りの行動を取ってくれています。
秘書さんは中途半端ではなく、全てを曝け出し、『再構築』を白日の下に晒す事が憂さんを護る上で絶対に必要だと説かれました。
ですから、秘密の隠匿が不可能となった時、ウチは秘書さんの動きに同調したんです」
何で私たち家族に教えてくれなかったのか。これが疑問その壱、なんだけどねー。上手く行っちゃてるんだよ。これがまた。
「……なので、ウチも愛さんも疑問に思っているのなら、もう一度あの秘書さんと話してみます」
……梢枝さんの疑問ってどこの部分?
「ウチの疑問は、憂さんと千穂さんの仲を裂こうとも取れる動きが、です」
めっちゃ便利。脳内覗いてくれるから楽……。なワケないっ! 怖いわっ!
「お2人の仲睦まじい姿は、人を惹き付けます。これによって自分たちを護っておられた部分はある、と思います。ですので、こないに千穂さんから離れるよう誘導された事に違和感を禁じ得ません」
それが疑問その弐だったり。先取りしてくれてるんかな……? たまたま?
「何よりも憂さんと千穂さんが引き離される現状に納得がいきません」
「……そうだね」
私はどうしたらいい?
「梢枝さんと一緒に聞いたほうがいい?」
「いえ、ご家族の前では本心を明かさないかもしれません。ウチにお任せ下さい」
「……そっか。何だか……。いつもごめんね」
「こちらの台詞ですよ? 本当に申し訳ないです……」
「………………」
……色々と話せたな。
チャットでもいいんだと思う。けど、やっぱり面と向かって。これは私だけじゃないはずだよねー。少し、任せてみよっか……。
「それじゃ、戻ろっか? ありがとね」
「……はい」
ちょっと照れてくれた。梢枝ちゃんをもっと見せて欲しいかも。
「おぉ――」
謁見の間に戻ると変な絵面だった。
胸筋……じゃない。男性に付いた胸を憂は触ってた。でかい。なんだありゃ? メロンか?
「いいのよぉ。もっと触ってもぉ。みんな気になって触りたがるんだからぁー」
分厚い化粧なのに残る青髭。真っ赤な口紅。広い肩幅に……。やっぱ目の行くでかい乳。牛か?
……ってか、誰なの? 筋肉質な……オカマさん? 下はどうなってんだ?
「2度目の面会ですわぁ……。LGBT団体、NPO法人『愛と性別』の代表のHIROこと、遠江 信司さんです」
「HIRO入ってないしっ!」
「なかなか面白いおと……。むぅ? 人間だぞ」
思わずツッコミ入れたら国王の有り難いお言葉。戻ってきたの、気付いておられたんだね。そっと戻ったんだけどさ。
「梢枝くん。君の学園の教師もなかなかどうして良い人脈を築いているな」
「……そうですねぇ。変わり者の先生です。愛さん? 家庭科の「おばちゃま!?」
なっつかしー! そ言えば憂のパーティーにも来てくれてた……って、憂!?
「おぉ――」
……触っちゃった。股間部分。
「アタシは去勢だけ。竿は残ってるのよぉ……。中途半端だと思うかもしれないけど、人の考え方って色とりどりなのよぉ? 『愛と性別』にも色々な人がいるわぁ……。今度、憂ちゃんが来てくれるといいかもね。貴女にも十分に入会資格はあるわ……」
「そのおばちゃまの紹介です。憂さんの助けになる……と」
……確かにそうかもしれないけど、インパクト強すぎるわ。




