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225.0話 学園長の悩み相談

 


 ―――12月6日(水)



 キーンコーンカーンコーン……と、始業の鐘を背に受けて……。

 背に? どっから鳴ってんだ? スピーカどこや?


 まぁ、ええわ。


 中央管理棟ね。

 1人で来るのは初めてだ。

 今までいっつも梢枝が居たわ。

 んで、いっつも梢枝が話して、ワイは黙って聞いて……。


 学園長、ワイ……じゃなくて俺の事、頼りなく思ってんじゃなかろうか……。


 まぁ、大丈夫だろ。あの人も優秀な人だ。じゃなけりゃ、このドでかい蓼学の学園長なんか務まらんよ。

 策もほとんど当たってるしな。失敗したのは、夏休みの終わり頃に取材受けて、憂さんの画像が拡がった時くらいか?

 あれも結局、秘書殿の差し金だったみたいだけど。


 俺、千穂ちゃんたちの傍におりたいんやけどなぁ……。

 学園長はん、スマホの操作は苦手って……。そうは思えんけど……。

 顔を見て話したいタイプか? 顔見て話しゃ、言葉以外の情報も拾える。これだろうな。たぶん。


 ……離れて大丈夫か?


 まぁ、学園内は大方、落ち着いたしええやろ……。拓真と凌平はんに千穂ちゃんたち3人から目を離さんように依頼したし。トイレ言われたら表までは付いてけって。拓真は思い切り嫌そうな顔してたわ。はは。あれはきついんよ。女子トイレの中がなるべく見える位置で異変がないか監視。周りから見りゃ変態よ。


 ……。


 中央管理棟に到着。ここの客用スリッパってキレイなんか? 水虫とか嫌だぞ……。



 ……なんだっけ?

 あぁ、千穂ちゃんだ。


 まぁ、空気あんまし読まん凌平はんおるし、心配ない、か?


 ただ心配なんは、あの子らに付いていけるか……だ。

 憂さんは現状、休みがちだ。今週、月曜と今日が休み。明日は検診だしな。

 その影響で、クラスは男女別々に過ごす機会が増えてきている。それは秘密共有メンバーにまで及ぶ。

 千穂ちゃんたち女友だちと、拓真たちバスケ仲間は、憂さんという共通点を失った時、距離が空いた。今日も男子はバスケの話。バスケ部との決戦の日が近いし。女子は明日香ちゃんのカメラが被写体不在で寂しそうとか、そんな話。

 確かにやっと学園にクラスメイトたち戻ってきたってのに、被写体の憂さんが居ないんじゃ、カメラも泣くわ。


 そんなこんなで、男女の近かった距離は少し空いた。


 年頃の子たちだしな。


 …………。


 俺も近い年齢だけど。


 戻ってこられた理由は昨日の梢枝の発言が拡散されたからだ。

 その情報とは、脅迫状の送り主の特定完了。警察の内偵調査。そんな情報をあいつがクラス内に流した。安心感を与える為に他ならない。

 その効果は絶大だった。昨日も半数が休んでいたのがたった一日で、憂さん以外の全員出席。現金なもんだ……とは、言えん。親御さんが心配するのは無理もない。危険なら家に。安全なら学校に。当たり前の応対をご家族がされたまでだ。


 その梢枝が流した情報は、ぶっちゃけると一部に過ぎん。

 犯行に及んだ人間は3名。男子2名、女子1名の棟も学年もバラバラの生徒たちだった。

 少なくなっていたとは言え、一夜でC棟1年5組ほぼ全員のポストに投函。複数人の犯行だろうと踏んだ通りだった。そう踏んだのは梢枝だけなワケがない。当然、警察もそう考え、動いていたはずだ。


 ここからは俺ら護衛の推測となる。

 内偵調査を受けている、謂わば容疑者の彼らはSNSなどを通じ、雇われたと言っても良い奴らだ。雇い主からの大金を餌に、何とか少女誘拐への道を作ろうとした。愚かな手段を以て。

 この蓼園市のこの学園の生徒であった事。彼らが誘惑に絡め取られた理由はそれだけだ。


 ……彼らは詳しい事は何も知らされていないんだろう。たぶん、犯行を指示した大元(・・)には繋がらない。梢枝も同じ意見だった。



 お……! あぶな……。学園長室、通り過ぎかけとったわ。


 すぅ……はぁ……。

 深呼吸。ワイの肝、(こま)いんかいな? 梢枝とか拓真とかが異常なだけだよな?


 こんこん……と、ノックすると扉が開いた。1秒で。姿を現す執事みたいな学園トップ。


 ……扉んとこで待ってたんか?


「お待ちしておりました。授業中のご足労、感謝します」


「いえいえ。こちらこそ」


 さぁて。学園長先生からの俺ら護衛へのSOS、しっかりと聞きとげまっせ!





「本日、立花さんは何処に行っておられるのですか?」


「ずっと蓼園市の中ですよ。午前中はLGBTの団体の会長さんがわざわざ都内からこっちに来て、ご対面らしいっす」


 ……まずは、無難に憂さんの話か。


 憂さんの今日の欠席の理由はLGBT団体の会長さんとの対談。

 午後からは太藺 彩さんの蓼園IMでの会議出席の為。


「LGBT……。Lがレズビアン。女性を愛する女性でしたかな? Gがゲイ。男性が男性を。Bはバイセクシャルでしたか? 男性でも女性でも愛すことの出来る方……と、いう認識で宜しいですかな?」


「正解ですわ。学園長はそちらにも理解が?」


「いや、正確なものとしては、残念ながら立花さんについて考える内に得た知識ですよ。最後のTはトランスジェンダー。これが少し理解が難しくて困っているのですよ。性別の不一致……でいいのですかな?」


 ……どうなんやろ?


「すんません。ワイもそんな感じ……としか、言えないですわ」


「……立花さんはこのTに当て嵌まるかもしれない?」


 性別の不一致……ね。


「そうですね……。そう言えると思いますわ」


「良い話が出来ると善いですな」


 相手、その道の専門家なんか。憂さんの複雑な気持ちを完全に理解できる可能性のある人物……ならええな。


「午後は?」


「えーっと。憂さんブランドの立ち上げの会議だそうです」


 フトイさんの蓼園IMの会議室で。


「ブランド……とは?」


「ファションブランドですわ。憂さん、メンズの服が着たいのに、サイズが全然なくて。ほいで、無いなら作ってしまえって総帥さんの意向です」


「……そんな大きな話を簡単に……」


 呆れるの分かりますわ。

 何でも憂さんが言ったらしい。


『僕のサイズのメンズ服が欲しいのに、見付からなかった』


 むくれた顔で言ったんだろうな。想像出来過ぎてやばいわ。


 ほいで、無いなら立ち上げよう。

 ……そんな簡単な話じゃないやろ。

 コンセプトはボーイッシュ……。違う。メンズ服のガールズ化。これも違う。


 ジェンダーフリー。性別不問。レディス5Sからメンズ5Lまでのサイズを網羅する性別を問わない服装……だそうだ。

 よーするに、少年の恰好したい女児も、女児の格好したい大きなお友達も、みんなが着たい服を着られるように。


 ……ヒットするんか? これ? いくら憂さんの名前がブランド化してても、憂さん自身がジェンダーフリーだったとしても……。需要が無けりゃ意味がない。


「鬼龍院くんも呆れているようだね」


「……そりゃまぁ……」


 幾ら動く事業か解らん。億単位の話? ワイ、一般人やからわからん。


「……………………」


「……………………」


 急な沈黙。そろそろ学園長先生の悩み事相談か?


「……そろそろ限界を感じてきておりましてな」


 ほら、きたぞ?


「この私立蓼園学園は、今まで交換留学生を受けいれていません。そんな打診すら滅多になかった。これも大きさは兎も角、単なる一地方都市の学園に過ぎない為。ところが、この1ヶ月間、交換留学の打診が相当数に……。全ては、立花さんと接触する為なんでしょうがな……」


 …………?


「断ってしまえばええのでは?」


 そんな難しい話じゃないだろ?


「無論、断り続けております」


 …………?

 何が言いたいんだ? 梢枝の不在が悔やまれる……! 梢枝はずっと憂さんの傍だからなぁ……。俺は1人で警護するには向いてないんよ。トイレとか同行出来んから。


「………………」


「………………」


 学園長は俺を覗き込むように見て……、それから切り出す。


「フランス人講師が辞めました。彼だけではない。他の外国人講師も干渉を受けている様子です。代わりの者を雇おうにも、信頼を置ける者で無ければ……。どんな裏事情を抱え、紛れ込んでくるかも知れず……」


 …………。


 そうか! 交換留学生の打診と同じか! 新しく講師を雇い入れた時、それがもしもどこかの政府の密命を受けた者かもわからない!


「……ご理解頂けたようですね。正直、手詰まり感が否めません。海外の圧力はおそらく鬼龍院くんと榊さんの想像を超えています」


 ……あー。この学園長はん、マジで味方で良かったわ。

 でも俺らに言われても、な。やっぱりあの人に相談「総帥は頼る事が出来ません」


 …………。


「……なんでですか?」


 1番、手っ取り早い。どう考えても……。


「これまで私は立花さんの秘密に関する協力者として振る舞ってきました。ここで彼を頼ってしまえば、学園は立花さんに関して、協力者でなく傘下となってしまいます。そうなると、いざ総帥が強欲に動いた時、立花さんを守る術を失ってしまいます」


 その強い言葉と意思を宿した目は、総帥さんとでも戦おうと言う覚悟を示していたように見えた。


 ……もしも。もしもだ。

 あの総帥が憂さんの事を考える事なく、自分たちの利のみで動き始めた場合、この学園を総帥に対抗する勢力と位置づけている……。


 この人は本当によく考えて、自分の理念、信念に沿って動いているらしい。

 俺らの足並みの揃わない理由はこの人があってこそ……。

 いや、島井先生も総帥に服従する事なく、立ち回って……。


 コンコン。


「ん? どなたですかな? この時間、面会の予定は入っていないのですが。少々、失礼……」


 タイミングええわ。ちょっと頭の中、整理せんと……。


「……どうぞ?」


 ……だから総帥さんを頼らず、新しい信用出来る講師を……。んで、俺らに相談。なるほど。

 俺らの社で身辺やら調べ上げて、紹介してくれって事か。

 さて……。話終わったら速攻で社に報告だ。その前に梢枝か? 社に上げたらそのまま総帥に伝わりかねんし。


「君は……? 授業中ですよ? 休憩中ならば幾らでもお話を伺います」


「え? 授業をサボる。これも自由ではなかったですか? 御心配には及びません。私は自立の準備を着実に進めております」


「君の言う通りですね。自由です。自立の道を拓く事が出来るのならば、私は授業など不要だと考えています。しかし、申し訳ないが、今は……ね」


 チラリとこちらを伺う学園長。

 誰っすか? その子。ヤケに丁寧な話し口の女生徒……。ドアに隠れて見えんけど。学園長も俺らへの肩入れはなるべく公にしたくないんだよな。


「ちょうど良いのです。現在のお客様は鬼龍院さまでしょう? 先日、報道されました脅迫犯の情報を提供する為にお伺いしたのです」


 ……え? なんで俺がここにおるの知って?


「……どうしたものですかな? 鬼龍院くん? こちらの生徒が……」


 なっ!?


 東宮(ひがしみや) 桜子(さくらこ)! 梢枝がマーク対象にした猫娘!?


「お久しぶりです。先日は私のC棟2年4組(クラス)をご訪問下さり、ありがとうございました」


 なんだ!? どうしていきなり接触を!? ここ学園長室だぞ!?


「……どうなさいました? そんな怖いお顔を……」


「鬼龍院くん……?」


「いえ! それで……その情報提供ってなんでっか?」


「いいのですか? それではこちらに掛けて下さい」


 ……優雅な振る舞いで「失礼致します」と、お辞儀をするとソファーまで歩む。生粋のお嬢は俺の横、学園長の斜め前に腰掛けた。


 ……今現在のこの子の屋敷は猫で溢れかえっている。完全な数字は貰えないが、30匹ほどはいるらしい。調査した奴が調べ切れんかったのか、俺らがマークした事に勘付き、以降で増やしたのかは不明。

 勘付くってのもおかしな話だ。あのイラストは梢枝が言うには挑発行為。だとすれば、マークされて当然。その直後の調査で猫は数匹のみ。それから保健所やNPO団体から引き取った猫の数の帳尻を合わすように増えた猫……。


 ……何がしたいんや?


「……また難しい顔をなさっておられます」


「あ、あぁ……。すんません」


 間違いなく美人。ミスコンへの立候補も納得できる容姿。成績は上位。上位って言っても、特進の中で上位。学園内では超優良。次期生徒会長との呼び声も聞かれる存在で、この土地の古くからの名家の娘。この土地に新たに居着いた蓼園グループ。その蓼園グループの一角である蓼学への入学は、地元をざわつかせたって情報だ。


「……実は私の家の向かいには、1年5組の子の実家があるのです。報道を見て、何か力になれないかと思い、防犯カメラを確認したところ、投函される様子まではっきりと映っておりました」


「警察には?」


 ……いかんわ。警戒心が膨らみすぎてぶっきらぼうな話し方になってしまう。

 冷静になれ。第2のキャットキラーの可能性は学園長も知らん。落ち着いて話せ。


「もちろん、確認に参られました。提出もしております。でも、鬼龍院さまがたも探しておいででしょう? 犯人を」


 そらまぁ、探した……けどな……。淡々とした言い草で何を考えているのか、表情でも感じられない……。


「3人ではなく、間違いなく4人居ますので、ご注意下さいませ」


 4人? カマ掛け……か? 意図が読めん。第一、その言い方だと内偵中なのが3人って知っているような物言いじゃないか……。


「捕まりそうな4名をけしかけるような者もいるかもしれませんので。必要ならば、その4名の氏名、写真など提供させて頂きます」


 何やなんや? どこまで知ってんのや!? このお嬢、何を考えているんかさっぱりわからん!


 くそっ! 横から覗き込みやがって! 長い髪を掻き上げて、ちぃとセクシーなんが余計にむかつく!


「……お困りですか? それならば警察へ情報提供致します……」


「ちょっと待ってくれや」


 ……。


 矢継ぎ早に畳み掛けてくる少女に俺は判断を保留した。こいつは手強い……。あいつに任せたほうがいい。


「突然過ぎました。ごめんなさい。必要があれば、全力でご支援致しますので、ご連絡下さいませ」


 そう言うと、猫娘は学園長室を辞した。




【大変な事になったわ】康平


 梢枝【千穂さんたちに何か?】


【いや、そっちは問題ない】康平


 梢枝【何や、驚きましたわぁ……。大変だったのはこちらもですえ? 会長さんがものごっついオカマさんやったわ】


【そんな事より、東宮 桜子が俺に接触してきた】康平


 梢枝【詳しく! いえ、通話しますわぁ】



 それからこんな梢枝とのチャットを経由し、電話で話した。



『それは……。康平さん、試されたんですねぇ。呆れられたんやないです?』


「……そうかもな。いきなり現れて動揺が隠せんかった」


『まぁ、馬鹿にされなかっただけマシと考えるべきですえ?』


 こいつやっぱ腹立つわ。頭いいか思って、チャンスがあったら見下しやがる。


『もう、接触を避けている場合やないですねぇ。けしかけると言う言葉が気になります。今夜、康平さんのお部屋を訪ねます。対策立てますえ?』










 ツイッターにて「東宮 桜子」の読みを聞かれたのでルビ振りました。

 確かに「きょうのすけ」くんこと、「きょうちゃん」なのに本当は「けいのすけ」とかやってる作者ですので、お困りかと……。

 今後、新規登場キャラが居るかは分かりませんが、なるべく入れるようにしますね。

 

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