表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/317

223.0話 思い切ってみたけれど

 本日、この223話と同時に202.5話を挿話しております。

 例によって、お読み頂けなくとも問題ない仕様です。

 1000字程度の短いものです。

 部分に直すと225部分ですよ。








 ここから本文です。


    ↓

 



 デスクトップタイプのPCの液晶画面が鎮座する机に備え付けられたオフィスチェア調の椅子。そこに佳穂は逆向きに座っている。背もたれに跨がる形のアレだ。ズボンならでは……だが、佳穂ならば、スカートでもやるかもと思わせる。なのだが、意外に恥じらいを持ち合わせている。そんな純情な部分を持ち合わせている不思議な少女だ。


 そんな背もたれに両肘を突き、両手に顎を乗せて佳穂は、梢枝のベッドに浅く、ちょんと座る小さい子に妖しく問い掛ける。


「憂ちゃん……すべすべ……好き?」


 憂は意外にも落ち着いていた。千穂と2人だけで過ごす時間が多かったので、何気に耐性が付いてしまったのかもしれない。

 真相は本人の心の内だ。


「――う、うん」


 否定はしない。今や学園関係者のほとんどが知る事実となってしまっている。

 1度切りだったが、お姉ちゃんがはっきりと公言してしまえば、そうもなるだろう。


「憂ちゃん……触らせて?」


 キキ……と、背もたれが悲鳴を上げると同時に立ち上がった。憂に妖しげな笑みを見せつつ、迫っていく。


「――え!?」


 可哀想に。折角、落ち着いて過ごしていたのに瞬間的に沸騰してしまった。

 現在の憂は残念ながらパンツスタイルだ。黒のストレッチジーンズ。スキニータイプ。ヤケにぴったりとフィットするアレだ。それでいてストレッチ性が高いのは、近年の技術の革新か何かだろう。

 自室に戻ることなく連れ出されてしまっては、着替える暇もなかったのである。

 制服じゃないのは、定期検診の時に着替えさせられたからだ。あの時、脱がされる事を姉は知ってしまっている。


 憂のスキニーフィットに対し、佳穂のチノパンはやや緩めに見える。佳穂はゆったり気味のパンツを着用する事が多い。締め付けが苦手とかその辺の理由だろう。


 ベッドに浅く腰掛けていた憂の腰が引けた。だが、そんな事は一切気にせず憂の隣に座ると、憂の躰が跳ねた。佳穂の右手が大腿。しかもかなり上に置かれたのである。


「――佳穂!?」


「よりによって脱がせにくそうなズボンだ。スカートなら良かったのに」


「――え?」


 憂には聞き取れない速度でペラペラと、本日の憂の服装にクレームを付けると、「腕で……いいよ?」と、左腕を取り、上げた。


 そして、白のYシャツのような服の長袖を中のインナーごと捲り上げた。手首部分にはボタンが付いていたが、憂の細い腕では引っかかる事もなく、スルリと()したる抵抗もなかった。


「ちょ――」


「あー……。これは……気持ちいい……」


 撫でられた。体毛の非常に薄く、雪のように白い腕を。


「仕方……ないね」


「――なにが――?」


 ……完全に佳穂のペースである。誰もが憂を相手に本気で主導権を取ろうとすれば容易い。よく憂を守ってくれている障がいだが、この場ではマイナスに働いてしまっている。相手が譲ってくれなければ完全に飲まれてしまう。


「こんなに……気持ち……いいなら……ね?」


 ……あくまで腕の感触の話である。ついでに言えば二の腕だ。

 余談であるが、この『二の腕』とは誤用である。元々は一の腕と言われていたそうだ。おそらく上腕二頭筋の二から誤用されるようになってしまったのだろう。


 何となく誤魔化してみたが、要するに本来の『二の腕』を佳穂がさわさわしている。


「もっと……上は……?」


 腕まくり部分を広げた。憂の現在で言う二の腕が露わにある……が、憂は大人しくなってしまった。じっと佳穂の手の動きを追っている。

 理解が追いついていない訳では無さそうだ。


「おー! スベスベ! 超やらけー! これは凄い!」


 何気に興奮してきたらしい。

 触られた瞬間、ピクリと反応した憂だが、黙ってやりたいようにさせている。

 理由は次の瞬間、明らかになった。


「――きもちいい――よね?」


「うん。これは仕方ない! 産毛もほとんどないから抵抗もなくってすっごい! きめ細かい肌してるなー!」


 佳穂の早口に憂は、目を逸らし、恥ずかしげに笑った。

 やりたいようにさせた理由。同意が欲しかったのだ。ほぼ間違いなく。スベスベフェチと呼ばれる言い訳的な何かだ。


「……憂ちゃん?」


 ピタリと悪い手が止まった。

 隣に座る直前に見せた、獲物を狙うような妖しい目付きが蘇っている。


「――なに?」


 そんな佳穂の悪い顔に憂は気付いていない。

 何気に上機嫌に目を細め、リラックスしている様子だ。


 ……佳穂と2人切りの時は警戒心を持つべきである。とは言え、本気で襲われては抵抗も出来ないだろう……が、この場では大声を出すと言う選択肢もあるので問題ない……のか?


「他の……女子の……知ってる?」


「んぅ――?」


 憂が隣のスポーティな少女に目を戻すと、絶賛、トレーナーを捲り上げている最中だった。

 当然、素肌が見える……が、夏服ならば普通に見えている部分であり、何も問題ない。


「……触って……いいよ?」


 このひと言が無ければ……だ。


「――ぇ?」


 元・男子。そこを巧く突いた作戦だ。

 女子の肢体に興味がない訳がない。

 しかし、そこはヘタレ。触ってもいいよと言われても手を出せない。事実、千穂と()とは手を握り合ったくらいが関の山だ。


「どうぞ」


 言葉と行動は別物だ。どうぞと言いつつ、佳穂は憂の手を取り、袖を捲り上げた自分の腕へと導いた。

 そして、上下に……。


「ぅぁ――」


「スベスベ? ムダ毛処理しといて良かったー。憂ちゃんほどじゃないけど、あたしの肌だってなかなかのものだー」


 照れ隠しなのか、独り言が過ぎるようだ。

 言っている事も当たり前だ。16歳になったばかり。皮膚疾患の類いの可能性すら見せていない若い肌だ。むしろ老化していたら困る。


「憂ちゃん? スベスベ?」


 千穂の肌に触れたいと思っていた。姉の肌でもいいや、と思っていた。

 それが憂にとって思わぬ形で叶った。佳穂の肌で。


「ぅ――ぅん」


 ふいに妖しい瞳が輝きを増した。何気に自分で動き始めた憂の左手から逃げると、立ち上がった。立ち上がると2歩ほど進み、ベルトを緩め、緩めのチノパンを降ろした。


「――佳穂!?」


 突然の奇行でも何でもなく、佳穂の一連の誘惑……なのだが、憂にはいきなり始まったストリップにでも見えている筈だ。現に、それでなくとも高い憂の声が、ひと際、上擦っていた。


 憂はすぐに目線を外したが、焼き付いてしまった事だろう。

 佳穂の引き締まったお尻を柔らかく包む、白黒縞々の布が。


「太もも……触ってみて?」


 ……お尻ではないらしい。

 千穂に比べ、肌はベージュが強い佳穂だが、冬に入ると白くなってきている。夏場、しっかりと焼けていた肌は見る影もない。新陳代謝の激しい少女時代ならそんなものだ。

 そのベージュの頬を赤く染め、憂を見下ろすと、むぅと片頬を膨らませた。

 佳穂の癖だ。本当に不満な事がある時……だけでは無さそうだが、ごく稀に出現する千晶さえも癖とは気付いていない癖だ。


「……いいよ?」


 押してみるが、ベッドに腰掛ける憂の頭の向きは、出入り口のドアに向けられたままだ。当然ながら憂の顔はピンク色に染まっている。佳穂より顕著だ。


「千晶の嘘吐きー! 憂ちゃん白黒の縞々が好きなのかもってー! いっぱい増やしたんだぞー! 白黒ばっかり履いてたんだぞー!」


 佳穂の白黒ボーダー下着をよく履いている理由が判明した。

 その時も今と同じパジャマパーティーの時だった。

 全員で昼寝をした。

 憂が昼寝から1番に目を醒ますと、千穂は下着姿だった。その時、履いていたショーツが白黒ボーダーだった……はずだ。

 憂の目は千穂のお尻に吸い寄せられた。目が離せなくなった。


 ……とは言え、佳穂は爆睡中だった。佳穂の言葉通り、そのエピソードを千晶に教えられていたのだろう。


「――ぁ――の」


 この部屋に居ない千晶に怒っているだけだが、憂には聞き取れない。勘違い開始の瞬間だ。

 自分が怒られたと思ったのか、目が泳ぎ始めた。


「……憂ちゃん?」


 一転、優しい声音だった。千晶と対する時の地声より、幾ばくか高かった。

 狙ったものでは無いはずだ。単に千晶へと憂への声の差異だ。


「――はい!」


 向いた。憂は優しい声で怒る姿でも想像してしまったのだろう。アレは確かに怖い。稀に姉が見せる怒り方だ。


「……目が合っても……ダメなんですけど?」


 背筋を伸ばし、両手はお膝で、お行儀良く、じっと見上げる憂の瞳は涙目だ。状況的に已む無し……か?

 佳穂は佳穂で、お尻を愛する少女に向けたまま、正面に顔を戻し、どうしたら見てくれるんだと困り顔になってきた。


「………………」

「――――――」


 憂が考え始めたのか小首を傾げた瞬間、佳穂が振り向いた。


 ……すぐに戻った。憂の頭の位置が。


「……よっと」


 姿勢の良くお行儀している憂と反比例するかのように、行儀の悪い子が出来上がった。

 梢枝のベッドに片足を上げたのである。


「……触りたくないはずがない」


 言い聞かせるように独りごちると、憂の左手を掴んだ。

 憂の目はまん丸と化した。驚くと出る事が多いが、緊張感でも出る癖のようだ。


 憂の小さな手は、佳穂自身の導きにより、引き締まった大腿部に……。


「……どう? さすっても……もんでも……いいよ?」


 触れると同時にまん丸お目々を佳穂のおみ足に向けてしまった憂は、もはや釘付けだ。

 魅入られたかのように唯々(ただただ)、見詰めている。もちろん、目を丸くしたまま。


 佳穂の悪い手は、憂の手を動かし続ける。


「ひんやりしてて寒い」


 そりゃそうだ。憂の手は冷え込み以降、冷たくなってしまった。この辺りの事は千穂が詳しいだろう。

 憂はここまでお膳立てされて、ようやく自分の意思で動き始めた。指定された部分のみだが、さすってみて……、揉むまでは行かないものの、時に指を曲げ感触を楽しむ。


 ……時間が経つにつれて、徐々に熱中していく。その行為に熱を帯びていく。

 佳穂の健康的な大腿が撫で回される。

 足を挙げたままの、はしたない少女は緊張度合いが高まり、じっとしているのみだ。


 この構図は如何な物か。

 ベッドに横座りしている少女を跨ぐように、片足を上げ、脚部を触らせているこれまた少女。喜ぶ人はとことん喜ぶ構図かもしれない。


 変な画のまま、3分ほど時を刻んだ後、佳穂は遂に作戦の最終形態を発動させる。


「憂ちゃん?」


 即座に名前を呼ばれた子の左手が引っ込んだ。思わず、たはは……と、困ったように笑って見せると、「もっと……触りたい?」と聞いてみた。


「う、うん――」


 実に素早い回答だった。きっと支配されている。今の憂の脳内はスベスベな感触を楽しみたい。こればっかりなのだろう。


「こことか……」


 胸に手を当てた。自分の手だと強調しておこう。

 妖しい笑みに失敗したのか、ぎこちなく笑って見せると、その手はもっと下に降りていった。縞々の辺りに。


「……こことか?」


「――――――――」


「………………」


「――――」


「えっと……」


 返答は無く、最後に示した部分をガン見中だ。


「……恥ずかし」


 ちっさな声でヘタレた。上げたままだった脚を降ろすと、片手で前面を隠し、そっぽを向く……が、それでも「触りたい?」と繰り返した。性的には未熟な佳穂にしては、よく頑張ったと褒めてあげたい。


「――――」


 声は出さなかったものの、確かに頷いた。佳穂は嬉しそうに目を細める。やはり、少しぎこちないのはこの際、仕方ないのだろう。


「……いいよ」


「――え?」


 ダメ元で頷いただけなのだろうか。憂の釘付けだった目線が上がり、頬の上気した佳穂の顔を捉えた。


「恋人……同士なら……」


 佳穂は羞恥心との戦いを終え、作戦は完遂した。

 2度目の告白は、憂の苦手なストレートではない告白だった。



 ―――恋人同士なら良いよ―――



 如何に理解の悪い憂でも、流石にこれは解ったようだ。

 理解した途端、憂の顔の向きが変わった。下に、だ。

 そんな憂を見て、佳穂はこっそりと1つだけ大きめな息を吐いた。極小の溜息だったのだろう。


「佳「いつでも……いいよ?」



 佳穂の瞳に薄く涙の膜が張っていたのは、気のせいではないはずだ。



「触って……みたく……なったら……ね?」



「付き合って……ね?」






 こうして、再び『憂のストック』入りを自ら果たした佳穂は、憂と一緒に……。憂と手を繋ぎ、重苦しいリビングに戻ってきた。もちろん、ズボンは履き直している。


 佳穂の左手と憂の右手。


 繋がれた両者の手を見た瞬間、千晶が驚きに満ちあふれた顔をしたが、あっさりと佳穂は「やっぱ、ダメだったー!」と失敗を告げる。

「作戦を千穂が実行してたら成功してたんだろうなー! ……とか思うとめっちゃむかつくー!」とも。


「……いきなり冗談とは大した人やわぁ」


「梢枝さん。わかる。解りますよ」


「冗談じゃないかもー?」


 四角い簡素な座テーブル。憂を含めて5名。憂を空いている一角に座らせると、佳穂は何故だか千穂のお隣に座った。


「……おかえり」


「たらいま」


「――ただいま」


 佳穂を挟んで憂と千穂の間に、ほのぼの空間が形成されると、佳穂の様子が変わった。どこか諦観したようにも見えた佳穂の眉尻が上がったのだ。


「最終手段じゃー! 千晶、手ぇー貸せ!」

「ちょっと! なに!?」

「よし。貸してあげましょう」

「千晶まで! なになに!?」


 佳穂が千穂を羽交い締めにし、座テーブルから引きずり出すと、千晶は千穂の足元へ。


「もうあんたしか無理! 可愛い千穂ちゃんの魅力で憂ちゃんを繋ぎ止めるのっ!」

「そりゃ! 脱がせ! 可哀想だからパンツは残せー!!」

「きゃああ! やめて! 梢枝さん! 笑ってないで助けて下さいっ!!」

「太ももだっ! その太ももで誘惑しろっ!」

「そうよ! そうすれば憂ちゃんとまた付き合えるのっ!」


 千穂にとっては生憎、スカート着用だった。しかし、黒タイツ着用。

 そのタイツを狙い、にじり寄った千晶は「千晶! 怒るよ!」と言われつつ、ゲシゲシと蹴られ、「痛い! 千穂! もう! 解ってよ!」と無理な難題を押し付けようとしていたのだった。




「絶対、痣になる……。本気で蹴られた」


「……自業自得だよ」


「あはははー! 明るく笑って過ごそうぜぃ!」


 蹴られ続けた千晶が退散し、騒動は終了した。

 人が本気になって抵抗すると暴力や脅し抜きでは、早々、襲い切れないと言う良い見本となった場面だったのかもしれない。しかも少女同士だった事が大きい……のか?


 それはともかく、憂は一時期、釘付けになってしまった。


 スカート着用で座ったまま蹴りを入れれば、中身が見える。

 きっと、見ていたのだ。冬仕様なのかデニール高めのタイツの奥に色付く、白いパンツを。

 白なので色は付いていないが、そこは雰囲気を重視したい。息付くと表現すると、何気に厭らしい。


 梢枝の寝室での遣り取りもあり、その流れでそっぽを向く事なく、凝視していた。が、千穂は気付いていない。僥倖である、のか?


「そーだ。憂ちゃんの腕、めっちゃスベスベだぞー?」

「……梢枝さんの部屋で何してた?」

「ほら! みんな触ってみろー?」


 千晶のツッコミはスルーされ、憂はガン見していた罪悪感からか、抵抗する事なく、千穂と千晶、再び佳穂に散々、腕をさわさわされてしまったのだった。


 その後は、お返しに……と、千穂も千晶も二の腕……。上腕部までを触らせ、次第に憂のテンションは上がっていった。もちろん、スベスベなものを触ったからだろう。しかも、千穂付きだ。

 だが、梢枝だけは謎のお触り大会に参加しなかった。


 ……きっと、ムダ毛処理をサボっていたのだろう。




 2回目のパジャマパーティー序盤で見せた、女の子たちのちょっとしたお触りは、エスカレートする事はなかった。

 以降は普通に入浴―――憂にとっては羞恥の時間だが―――し、普通のパジャマに着替え、普通に眠り、終了してしまったのだった。


 佳穂の『あたしの魅力で、憂ちゃんの目を仲間に向けよう!』大作戦は、無意味に終わった訳である。

 だが、重苦しい雰囲気に始まった事を加味すると、普通に終えられたのは彼女の功績と言えるのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックマーク、評価、ご感想頂けると飛んで跳ねて喜びます!

レビュー頂けたら嬉し泣きし始めます!

モチベーション向上に力をお貸し下さい!

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ