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216.0話 圭佑とでぇと

 


 憂と圭佑くんは徒歩で出発。

 デートなだけに遠目からの見守り体勢。

 少し……どころか、かなり怖いかも……。変なのが捕まったばかりだし、大丈夫だよね……?


 向かった先は東門を出て、右手。モールに行くのなら左手だから、いつもの場所は消えた……。

 どこに行くかくらい聞いておけば良かった。

 今からでも遅くないかな? でも、何だか悪いよね……。付けられてるのは知ってても話し掛けたら邪魔だし。


「愛さん? 行き先に不安ですかぁ?」


 ……なんで解ったんだか。梢枝さん、どこ見てんだろね。


「最初の行き先は靴屋さんですえ? これ、どうぞ」


 ……えっと。

 渡されたのはイヤホン付いた……なんだこりゃ?

 とりあえず耳に。


『やっと……OK……くれたな?』


 おぉぉ!! 盗聴じゃんか! いつの間に!?


「盗聴やありませんえ? 圭佑さん、了承してくれはってます」


「そっか。違うんだね。良かった……って、何故解る?」


「その口調、嬉しいですわぁ……。長う敬語で話されていたので、もしかして年上かと思われていたのか思いましたえ?」


「またややこしい言い方してからに。梢枝さんに敬語だったのは……尊敬、かな?」


「……そないに大した人やありませんえ?」


 んなわきゃない。凄いよ。

 康平くん。大丈夫。そんな目で梢枝さんを睨まなくても気付いてるから。


「私にとってはそうなの。ところで、なして考えてる事判るの?」


 2度目だね。話逸らそうとしてからに。そうはいかんぞ?

 それにしても歩くん遅いわ。私らゆっくり歩くと不審な目で見られるんだけど。


「……失敗しましたねぇ。ミスは無かったはずなんですけど……。掛からない人は珍しいです」


 ……また。そうやってはぐらかそうと……。ジト目だ。受け取ってね。


「……すみません。本当の事()うと、半分は当てずっぽうです。半分は想像して、そうなんだろうな……みたいな感じです」


 そんな曖昧なのか。違うっぽい。誤魔化し?


「……納得いかないけど納得しとく」


『しつこい――から――』


 おっと。反応遅いぞ? 歩きながらはまだ難しいのか。最近、見てる夢はどんな夢なんだろね? 夢見て、どっか回復……。聞かないと言わない子で困るね。昔はそんな事無かったのにさ。


『ちと……傷付いた……ぞ?』


 圭佑くんは回復に気付いてない、か。この辺は話した数だからしゃーないね。


『あやまらない――よ?』


 お。強気だな。男の子たちを怒らせるの怖いはず。でも、そんな素振りなし。信頼度、高いんだね。彼は。


 ……彼はって言うか、バスケ部5人衆の間柄では……かな?


『……別に……いいよ。無理して……くれてんの知ってるから』


『むりして――なに?』


『なんでもねーよ! ……って!!』


 ……こけそうになってやがんの。ちょい焦った。

 んー? マンホールのちっさな段差かな? 


『あぶねぇな。ほい、手』


 千穂ちゃんが繋いでくれてる理由の1つは、こうやってつまずいた時にフォローする為……。私はちょっとくらい転んでもいいと思ってるから繋がないけどさ。


『――むり』


『…………』


 時間止まった。はは……。すまんね。圭佑くん。未だに男の子気分なんだよ、その子。


『いいから!』


 やるな! 青春しちゃってから! 千穂ちゃん居なくて良かったわ。昔ならともかく、今だと怒りそうだし。


 おっと。抜かれた。蓼学(うち)の子か。ペース遅いからね。こっち、駅の方角だし。同じ部活終わりかな?


『よくない――のに――』


 でも、振り払わないね。

 ん? 康平くんがさっきの男子に付いてった。どしたのかな?


「……リストバンドしてませんでしたねぇ」


「そうだった……?」


 ……よく見てるね。2人ともさ。

 憂支持をしてない人な訳ね。学園内、二分とかマジごめんなさい。


 憂と圭佑くんは歩み再開。


『手。冷たいな』


 そう。そうなんだよね。意外。憂は冷え性だったのよ。冷え性になったって言うべき? 優の頃は違ったから。


『寒く……なった……からな』


 うん。いきなり寒くなった。だから憂はコート着用。前に買ってあげてた白いダッフルコート。千穂ちゃんとお揃いで買ってあげちゃった。

 2人とも白似合うし。黒も似合うんだけどね。


 おぉー!! 憂の手を自分のパーカーのポッケに持ってった! ドキドキする!!


 ……挫折。身長合わんかった。折角、胸キュンしたのに。


「なんや、こっちが恥ずかしゅうなりますねぇ……」


「わかる」


 とか言ってたらまた2人組に抜かれた。男女ペア。


「あ……。こんにちは」


「こんにちは! 仲良くお帰り?」


 2人で手、繋いじゃって。


「あ……。はい……」


 やっば。ちょー可愛い。恥ずかしいそうに「失礼します」って逃げてった。青春っていいなー。私、んな記憶無いぞ?


『憂? 気にすんな?』


 …………?

 憂? 手……離して貰ったんだ。さっきの少年に変な目で見られたってところかな?

 憂が男だったって知って、その憂が男子と手を繋いでて……。


『――うん』


 あの少年に聞きたい。じゃあ、どうしろって言うんだ? ……って言っても、変な目も予測でしかないんだけどさ。

 そのまま少年は行っちゃったし……。気にしない方がいいんだよね……?




 あれから30分。

 靴屋さんに到着。こんなところにお店あったんだ。知らなかった。


 ……もちろん、色んな人とすれ違ったり追い抜かれたり……。

 みんなが1度は憂を見る。表情は余り伺えないけど、有名になった憂に対しての考えは、本当に人それぞれなんだと思う。


『憂? 靴……サンキュな』


『ううん――。ひとりで――あそんだから――』


 例のお土産ね。男子には財布やら靴やら。圭佑くんは靴だったか。思い出した。圭佑くんと美優ちゃんには革靴だったね。美優ちゃんは高校生になるからローファー。サイズは梢枝さんも遥さんも把握してた。何者ですか。彼女たちは。


『お礼に……靴……』


 店内にイン。さ。急ごうか。

 ……康平くん、速っ! ピューって店内に入っていった。




『わるいよ――』


 困り眉なんだろうね。たぶん。


『女の子に……貰い放し……嫌だ』


『あ――ぅ――』


 上手い。これは圭佑くんお見事。そんな男心を憂はよく理解してるよ。きっと中学生の頃の優も千穂ちゃんに奢られっぱなしにはしてない。


『俺、ショートブーツの……子、好きなんだ』


 へぇ。たしかに可愛いよね。ショートブーツ。

 でも、サイズあるか? 最近は子ども用もデザイン充実してるし大丈夫か。

 ……憂が子ども靴のところで()ねなきゃね。


『しょーと?』


『ほれ、こっち』


 ……自然に手を取った。圭佑くん、何気に慣れてるね。イケメンってワケでもないのに。


『あ――これ――』


『なんだ? 憶えてんの?』


『千穂に――』


 買ってあげてたね。今日、届いたんじゃないかな? 本革の黒ブーツ。ハイヒール選ばなかったのが憂らしい。そんなの千穂ちゃんが履いたら余計に身長差広がるからね……。


「愛さん? イヤホン外しても聞こえますえ?」


 …………。


 そりゃそうだ。そんなに大きいお店でもないし、棚を挟んで向こうだし。


「…………千穂ちゃんか」


 ポソッとひと言。デートしてるこのタイミングで千穂ちゃんの名前出るときついよね。


「おそろコーデ……みたいで……いいぞ」


「おそろ――?」


 首傾げて覗き込むように見てんだろなー。あれはあざとい。本人にその気はなくてもあざとい。


「ペアルック……みたいな?」


 圭佑くん、マジで上手だね。女の子の扱い……。憂の扱い?


「それ――!」


 ……。

 なるほどね。女の子同士で千穂ちゃんとお揃い可愛いって思ってたけど、憂が嫌々……。こう言えば乗り気になってくれるんか。今度、使お。


「Sでいいんか? まぁ……履いてみて?」


「えっと――」


 周りキョロキョロ。たぶん。憂は座って履きたい子だ。

 こっちじゃーん!


「憂。こっち……」


 おっと。そそくさと棚を挟んで入れ替わり。こっち3人。大変だ。私服さんはいいなー。入れ違った人もガードマン。のはず。


「ほら……座って……」


 前の京之介くんの時より、いい感じなんでない? デートに見えてる。


「――うん」


「ぶーつ――女の子の――」


 ぐふっ! 不意打ちやめい! 吹き出すとこだったわ!


「憂!? 足、上げんな!」


「――ぁ!」


 ボテッと物音。ブーツ落としたみたい。

 ……パンツ見えたな。今日は純白パンツだ。

 憂はなんで女性用のショーツを履いたままなのか。疑問に思ったから試してみた。私が剛のトランクス履いて。

 あれは無いね。違和感ありすぎ。それとプラスで憂のフェティッシュな部分、かな? スベスベサテンフェチめ。


「どうしました?」


 低い声。店員さんが駆け付けてきたんだね。


「あ! いえ! 何でもないっす!」


「そうっすか。困ったら声掛けてね?」


「はい」


 ……フランクな店員さんだ。あんまり人の事、見てないタイプ?


「――ぶかぶか」


 だよねー。早々、19.5は見付からんよ。苦労してんだ。シンデレラサイズ。プチサイズでお探し下さい。


「そっか……。あの! すみません!」


「はーい!」


 店員さん呼んだ。私は店員さんって苦手なんだよね。好きに選ばせて欲しい……って。まぁ、お店出るほどじゃないけどさ。ホントに苦手な人は出てっちゃうらしいね。


「あの……この子の足に合うサイズのブーツってありませんか? あ! ジュニアじゃなくて……!」


 そこね。サイズ的にも見た目的にも問題ないんだけど、ジュニアって小学生向けってイメージだよね。中学生、高校生も十分にジュニアなんだけどさ。この辺はショップの難しいところなんだろうね。なんせ子どもに見られたくない微妙な年齢。


「カタログ持ってきます?」


 ……おや? 適当な店員さんって第一印象だったけど違うんだね。





「渓やん「圭佑」


 ……いつになったら覚えるんだ。こやつは。初めて聞いたのってVIPルームに来てくれた時だよ。


「――圭佑――ぶーつ――ありがと――」


「いんや。喜んで……くれるなら……これくらい……」


 靴屋さんの次に入ったのは、コーヒー屋さん。少し遅いけど、しっかりとランチタイム。

 お洒落なお店知ってるじゃない。私もこんなエスコートされたい……なんて事ないよ!


「あ」


「愛さん?」


 思わず漏れた私の声に超小声で康平くん。憂が私たちに気付いてるか不明だから。

 目は合わないけど気付いてると思うんだけどなー。千穂ちゃんの誕生日プレゼントのラッピング買う時も何気に気付いてたし。


「……どうしたんです?」


「コーヒー美味しくて……ごめん」


 ランチセット550円でこのクオリティ。これは穴場だわ。しっかりと下調べしてるね。

 サンドイッチもひと口。BLT。一時期流行ったヤツ。ベーコン・レタス・トマトの三拍子。うまっ! パンがいい! ここ凄いわ!

 私服の人たちも同じ事思ってそう。これから人気店になっちゃったり?

 ……今日は黒服居ないね。しかも私服さんたちも尾行状態だし……。何もなければいいけど……。


「届いたら……渡すから……」


 ショーツブーツはカタログ取り寄せ。いいのあったみたい。身長コンプレックスだからヒール高いの選ぼうとした憂に圭佑くんは『そんなん、女の子女の子してるぞ?』って。憂の中の男子の気持ちを上手い事コントロール。ヒール高いの履いたらコケるわ。絶対。


「うん――おねがい――」


 観葉植物越しの憂は、穏やかな表情。警戒なんかしてないって感じだね。男は野獣かも知れんのだぞ?


「千穂には――」


「ん。内緒、な」


「――うん!」


 圭佑ー! 憂の心を鷲掴みかぁ!? でも、男子からのプレゼント……って、お返しなんだけど、それを千穂ちゃんに知られたくないって、恋敵に塩を送るみたい。納得してるのならいいんだけどね。

 ホットドッグにあーん。あーあ。精一杯、口開いちゃってるわ。


「――おいし」


 ほうほう。ホットドッグも美味しいのか。次の機会があれば頼んでみよう。


「ちっせー口」


 噛んだ跡が小さい。いつもの事。それでも随分、食べ方上手になってきてるんだよね。相変わらず麺類ダメだけどさ。

 んぐんぐ。モグモグ。ごっくん。


「くちだけ――大きくても――」


 たしかに。圭佑くんはそれ聞いて苦笑い。怒ると思って言ってみたのにってとこ?


「まぁ、バランス……いいわな」


 女の子としての外見か。ちょっと聞いてみたい。ありがたや。


「――――」


 何も言わんのかーい!


「かわいい――?」


 え……?


「お、おう……」


 聞いた本人が戸惑うレベルのストレートな切り返し。私も驚いた。梢枝さんも康平くんもじっと聞き入ってる。


「ホント――よかった――」


 ……良かった? 可愛くなって? ちょっと可愛いくらいだったら、そんなに目立たなかったんだけど?


「ちょっと――しっぱいしたら――」


 ………………?

 梢枝さんはどんな予測をしてるんだろうね。言いたいこと……。憂のも解るのかな?


「ばけもの――だった――」


 っっ……!!

『再構築』の話してたんか! 気づかなかったよ!

 もしも再生の途中で再構築が終わってたら……。憂は表を一生出歩けなかった……。


「……で?」


『で』って言った圭佑くんは……。本当にそんな表情してて……。私には無理だ。私なら必死に否定してる。


「失敗……してても……」



「どんな……化け物……みてーな……姿でも……よ」



()なら……俺()ね。変わんねーよ?」



「たぶん、だけど。人の気持ちなんてわかんねーから」






 圭佑くん。憂を任せてもいい……くらいまで信頼度高まったよ。

 カッコつけ。女たらし。


 ……男前。


 圭佑くんの言葉を咀嚼するには時間が掛かった。ちょっと長かったからね。

 理解すると泣き始めた。私も憂の立場だったら泣いちゃうひと言だったかんね。

 泣いてる憂には1つも声を掛けず、じっと待つだけ。これが彼なりの配慮なんだろうね。


 昼を過ぎて、少し暖かくなった。晴れてるからね。

 コート着て歩いていたら汗ばむ程度に。


 圭佑くんは憂のコートを抱えてくれてる。憂には大荷物になるだろうって。反対に自分の着てたパーカーを憂に貸してくれて。女の子への優しい気遣い。憂はそれを受け入れた。今は、2人、手を繋いで学園に戻る最中。

 あれから会話は弾んでない……けど、なんだか繋がっちゃった感じ……?


 その優しい彼はなんで京之介くんの事、バラしたんだろう? 憂と京之介くんの関係も圭佑くんと同じように深いから? だから大丈夫だと思った?


『圭佑――?』


『なんだ?』


 ……久しぶりの会話だね。


『それでも――ごめん』


 ……唐突だわ。ずっと考えてたんかな?

 繋がれていた手を離して貰っちゃった。


『……そっか。千穂ちゃん……好きか』


 圭佑くん。まだ日が浅いんだよ。男の期間の10分の1にも達してないんだ。

 憂が男性を好きになれるようになるには、もっと時間が必要なんだよ。今はまだ人の目も気になってるんだよ。


『うん――。でも――千穂も――まだ――』


『まだ? まだって? 相思相愛……じゃん』


『そうし――?』


 あ。足、止まった。


『好き……同士って』


 そうなんだよ。2人は今も相思相愛。ちょっとした難題が立ちはだかっているだけ……。


『うん。でも――』


『……何だよ?』


 声のトーンが下がった。イライラするのは解る。でも仕方ないんだよ?


『いまは――むり――』


『ボク――ねらわれ――ないように――』


『なって――から――』


 合点がいった。研究所に張り切って行った理由。

 憂は研究を早く終わらせて、自分の価値を下げようとした。

 憂の体の謎が解き明かされて、それが普通の医療技術になったら、憂は狙われる事が無くなる。


 ……憂は憂で出来る事をしようとしてるんだね。お姉ちゃん、ちょっと感動したわ。



 そこからは学園に戻って解散。


 こんなに短くていいの? ……って、聞いたら「憂を連れ回せないっすよ。憂の言う通り、もっと状況が良くなってからで問題ないっす。俺、諦めないっすよ。今日、話して確信しました。やっぱ、元が男っての抜きにして考えりゃ、俺にとって最高なんすよ。憂は。あ。愛さんが付き合ってくれるなら将来的には憂も妹だし、愛さんもキレイだし、それでもいいっすよ!」


 冗談まで混じえて理由を教えてくれた。



 ………………。




 ……冗談だよな?






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