215.0話 バスケ部も騒がしい
―――11月26日(日)
うぎゃ! めっちゃ痛ぇー!
「おらっ! 1年っ! んな事じゃレギュラー取れねーぞ!」
かー! 酷いっすよ! 先輩!
思い切りぶつかっておいてそりゃないわー。
最近は、肘やら入るし、本格的にレギュラー見えてきてるな。これは。焦りが見えるっすよ。
でも、暴力的なの勘弁っすよ? オレ、そう言うの向いてないっす。
さぁて、ディフェンスディフェンス。残り時間ほぼなし。スリーだろな。
ほれきた……スリー……この辺……? ちろっと移動。
「勇太っ!!」
はいよっ! ジャンプのスペース確保OK。出番だっと!
「ナイスリバンっ! 速攻!!」
おー! 梅田先輩、超出足速ぇ! そりゃ!! ローングパース!
…………。
通った!
「梅! ナイッシュー!!」
ピピーっとな。休憩休憩。お疲れさーん。
京は相変わらず動き悪ぃなぁ……。千穂ちゃんへの告白失敗って言うより、憂とのバスケが出来てねぇって方が問題になってんじゃね?
憂に思ってる事は何だ? 信奉? それだけ? 違ったりして。
「梅田! いい動きだったぞー! 次の冬季大会の主役はお前だ! 打倒! 藤校!」
「っす! ありがとうございます!」
秋季大会決勝。またもボロ負け。どうすりゃ勝てるのよ? オレら中学時代、どうやって勝ったのよ? まぁ、あと2年近くあるしよ。ぜってー倒してやる! オレが勝たせてやんよ!
「憂ちゃん!!」
ん? 女子の声? ざわつく体育館入口側。
あー……。マジだ……。憂の奴、マジで来やがった……。しかも日曜なのに制服で。
んじゃ、急な思い付きみたいな突然の事じゃねーんか。
それより、あいつ男子制服よりセーラー服選んだって事か? それでいいんか?
「こんにちわ――」
ちゃこさんたち、女バスとOBにぺこり。女バスのが入り口に近いかんな。はは。取り囲まれてやんの。
「憂だ」
「あぁ……。用事は向こうか? こっちか?」
「マジで男バス戻ってこねーかな? マネージャーでもいいわ」
随分と変わってきたよな。これは京之介の努力の賜物だ。あいつ、マジで1人1人と何度も何度も時間かけて話してたからなー。先輩方にまで。
「おい! 京! 待て!!」
あ……。きょうちゃん逃げた! 圭佑のタックル! 2人とも転倒! ……って、何やってんだよ。阿呆どもか? 怪我すっぞ?
「ちょっと圭佑! 離して!」
憂は憂で女子の皆さんに捕まってるし……。
誰が付き添ってんだ? 憂の姉さんは見えたけど……。わかんね。どっかに梢枝さんも康平もいるっしょ。
じゃあ、オレ、拓真に連絡でも入れとこ。あいつは来てない。あいつなら女バスの中でも頭、抜けるだろうからなー。
ダンダンダン。
キュッキュッキュ。
「梅! ナイスパス!」
んで、観戦中。どうしてこーなった?
憂とお姉さんと梢枝さんと康平。内、梢枝さんと康平先輩はゲームに駆り出された。梢枝さんは女バスな。ちゃこさん、強引だからなー。
拓真は『すぐ行く』ってよ。やっぱ憂に気があるんじゃねーの? 拓真のヤツは。
「勇太――?」
ん?
「うい?」
「いつ――もどるの――?」
……ん? ちと、スムーズか? 話し方。こんなだったっけ?
C棟に戻ってこい……かぁ……。
「その内……な?」
きょうちゃん、置いてって大丈夫……なワケねーよな。
千穂ちゃんに告白して失敗とか……。無理に決まってんじゃん。阿呆がいた。阿呆が。圭佑も阿呆だしよ。憂が付き合ってくれるワケねーじゃん。
「うん――。まってる――」
もし、お前らが男女の交際始めたらよ。ちと進みゃ、憂は圭佑とチューすんだろ? うげー。あり得ねー……。
……って、これは5組出てから考え変わったんだよな。なんか、客観的に見られるようになったっつーか……。離れてよく見えるようになったっつーか……。
チューより先には……。圭佑とイチャイチャ……。一緒のベッド……?
ぐはっ! これは強烈だ。オレには無理っす。だからたぶん憂も……な。
「きょうちゃん――?」
「え!?」
声掛けられたくれーで慌ててんじゃねーよ。千穂ちゃん奪うつもりだったんだろーがよ。
きょうちゃんの考えにも一理あるってんのは分かる。分かるけど、健全だとかどーだとか関係ねーよな。だとしたら全国のジェンダーさんたち、どうすんだよ。
千穂ちゃんの事情……。こいつが厄介なんだよなぁ……。知らなきゃ良かった。
……ってか、きょうちゃん、まだ知らねーままだったっけ? だとしたら……。やっぱり女同士ってのが引っかってんのか?
「ち――」
口、つぐんだ。まぁた泣きそうになってんじゃねーか! やめろ! その顔で反則なんだよっ!
「ち、千穂と――なにか――あった?」
んー? 昨日はプンスカきょうちゃんに怒ってるばっかだったのに、なんか違うな。
気持ちの変化……? 告ったん、気付いたんか?
……そいつぁ、ちとやばいぞ? 憂ときょうちゃんの関係壊れかねん。それはダメっす。オレが許さん。
「ちょっと……ケンカを……ね」
言い出せんわな。
っちゅーか、もしも告白実ってたら、憂に恨まれてたんだぞ? お前。
「――なんで?」
やべー。話題変えにゃ……。
「愛さん? 千穂ちゃんは?」
変わってねーじゃん! オレのバカー!
まぁ、何もせんよりいいわな。実際、居ない事に違和感あるし? マジ一心同体だもんなー。
「今日はお留守番。置いてきた。千穂ちゃんちに佳穂ちゃん、千晶ちゃんが来てるから」
……あの告白のこと、相談でもすんのか? やめたほうがよくね? きょうちゃんの立場、もっときつくなるぞ? ……っつっても千穂ちゃんの勝手だわな。その話とは限んねーし。
「憂? 色々、あんのよ。優だって……あったでしょ?」
「千穂ちゃんに……告白……したんだ」
そうそう。
「「「………………」」」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
圭佑!? お前!?
「――え?」
「渓やん! お前!!」
ちょ!
「きょうちゃん!」
暴れんな! やめって!
「京!」
「やめろ!」
「落ち着け!」
……何なんだ。きょうちゃんが圭佑に掴みかかったかと思えば、わらわらときょうちゃんに乗っかって……。
先輩方のガチ試合、観戦してたんじゃないんか。今のクラスメイトたち。それよか憂が気になるんだろうなー。
「……みんな……よけて……」
死にそうな声出してんじゃん。生きてっか? きょうちゃん。
「……何してんだ? お前ら」
おっ! 拓真到着!
「折角、ガチでやって手の内見せてくれてんだろが。遊んでねぇで、しっかり見ろ……」
……あ。なるほど。それでおいらたち観戦側に回ったんかー。
やべ。全然、気付いて無かったわ。……つっても、オレらは手の内知ってんだけどなー。憂に……か?
…………?
「憂? どうした?」
ちっ……。拓真と同じ事思ったわ。
憂のヤツ、ニマニマ嬉しそうにしてやがんの。きょうちゃんが千穂ちゃんに告白した事、圭佑の馬鹿が教えちまったってのによ。
「――んぅ?」
んぅ? ……じゃねーよ。
「ったくよー! 俺まで巻き込むな!」
お。圭佑復活。巻き込むな……って、きょうちゃんキレたん、だいぶお前のせいよ?
「で、どうなん? 京の……悪事」
圭佑ぇ……。お前、聞き取れんかったかもしれん話題に戻しやがった……。
きょうちゃんも今度は大人しくしてるわ。A棟1-7、飛び掛かる気だしなー。2度目の不祥事起こしたらおおごとだ。
「――それ」
「可愛い声になりやがって……」
「分かる。変な気分になる」
オレも分かるけど、ちと黙っててくれんかなー? ……とか言っても、何年も優とバスケした連中だし、しゃーないか。
またニヤけてるわ。その顔で悪い顔すんな。
「千穂――ことわった――」
んあ?
「――へへ」
あー!! そう言う事かぁー!!
きょうちゃんが告白した怒りとかより、千穂ちゃんが断ってくれたって方が嬉しいんか!!
……それでいいんかよ?
まぁ、それで憂が納得してんならいーけど。
「……話終わったんなら観戦すっぞ」
……。
拓真先生、真面目過ぎっぞ?
「梅! 速攻!!」
梅ちゃん先輩、マジ攻撃力上がってんよな。
速攻、危険過ぎるわ。相対するんが憂なら特に……な。
その憂は出して貰ったパイプ椅子に座って集中。オレらは地べたよ。拓と京之介はステージ背もたれに片足投げ出して座ってら。態度でけー。
「ナイッシュー!!」
「勇太? リバウンド無理な時は俺が走るわ。もう拓真のリバウンドにゃ期待できねーしな」
拓真の身長はな。もうバスケ部戻って来た時、武器になんねー。ジャンプ力もウエイト増やして下がったんじゃね? まぁ、ポジション争いにゃ強くなったみてーだけどよ。
「それでもよー。圭佑が? 梅ちゃん先輩、速ぇぞ?」
「……なんとかする」
「そうじゃなくて、オレら5人の中で1番速ぇのきょうちゃんだろ?」
そのきょうちゃんは、愛さん混じえて拓真と会話中。何、話してんだ?
「じゃ、京にすっか? 速攻対策。梅ちゃん先輩以外の時は臨機応変? そんな適当で戦えっか?」
「……作戦考えんのオレら不向きよ」
「……だよなー。昔は優と京で作戦立てて、拓がそれ補強して……。俺もお前も聞いてるだけだったわ」
……圭佑の目も拓ときょうちゃんの2人に。お前ら、しっかり対策立てろよー?
「……謝っちまえ」
……ん?
「でも、ね」
「千穂ちゃんは、んなもん、ひきずらねぇ」
拓ときょうちゃん、違う話してんじゃねーか!! 拓! そりゃねーわ!
「……引きずらない事はないよー。でも、謝られて許せない子じゃないから、大丈夫じゃないかな?」
あ。そっか。バスケ部との試合の前にきょうちゃんが戻れない事には試合も何もねーわ。
んで、愛さんとしては京之介の告白はどう思ってんの? さすがに聞けねーけど。
「愛さんは京の事、怒ってねーんすか?」
圭祐……! 聞きやがった。あっさりと。
「……恋愛に口挟めないよ。私として、こうなったらいいな……くらいの事はあるけど、干渉しないよ」
その希望はやっぱり千穂ちゃんと……っすか? やっぱ聞けねーけど。圭祐、突撃しろ?
「……………………」
……黙りやがったー! 憂を見て……。あー。理解。愛さんの希望が千穂ちゃんとだったら……そりゃ、何も聞けんくなるわな。告白した圭祐からしてみれば。
…………憂?
お前……。何してんの? 試合に釘付けだけど……。スカートの中に手ぇ、突っ込んで……。モゾモゾ動かしてて……。
ん? 控え全員、憂を見てんじゃねぇーか!!
「……やべ」
「お前も? 何やってんだ? 憂のヤツ」
「外見、とんでもないだけに……」
……ヒソヒソ。何がやべーのよ?
「愛さん?」
何か変な事、なってんすよ? ……って、意味込めて憂に視線を送る。
あ。気付いた。目が怒ってるぞ……。
……そっと近付いてく。やべー。
「憂? おい! 憂!?」
……聞こえてねー。バスケに熱中するとダメかー。
振りかぶった。右手。
スパーン。
「――いたっ!」
いい音するなー。千晶ちゃんもそうだけど、コツでもあんのか?
「手!!」
「――?」
叩かれて、頭押さえる為に手ぇスカートから出てきたから……。無意識だったんだな。何の事か解ってねー。
「いたい――!」
「人前で……足、触るな!」
「――え?」
「ごめん! この子、こうなってから、足の感触好きみたいでさ! 忘れて……って言っても、無理だろうからやってたら叱って!」
「はい!」
「わかりました!」
「憂……お前……」
あーあー。赤くなっちまった。俯いたぞ? 耳、赤いんよ?
「脚……そんな気持ちいいんか?」
「そりゃ……女の子になったら……なぁ?」
「やめよ? マジこの会話やめない?」
……ちっせー声でも聞こえるからな。確かにやめとけ? 姉さんの前だぞ? 向こうで梢枝さんも見てるぞ?
「愛さんっ!」
びくった! 急に圭祐が立って、声張り上げた。
「なっ、なに!?」
愛さんも驚いてんじゃん。
「今日、憂をお借りしてもいいっすか? もちろん、部活終わってからになるんですけど、もうすぐ終わるんで」
「え……? えっと。即答はちょっと無理……かな? その前に本人に聞いてみてね」
「ういっす! 憂! ちょっと……こっち……来い……」
「わっ――!」
おー! 手ぇ取りやがった! すげーな、圭祐!!
「渓やん――? どしたの――?」
引っ張られながら話してるわ。やっぱ、症状軽くなったんじゃね?
愛さんも隅に移動開始。スマホを耳に当てた。簡単に外出出来ねーって大変だな。
「……どうなってるんです?」
お。梢枝さん登場。康平は……。ガチ試合で大変だな。わはは。
「あぁ……圭祐が」とか、拓真が梢枝さんに説明開始。任せた。
ぎゃはは。周りの連中、状況の変化に付いてけてねー。憂といたらこんなもんだぞ?
ピピィィ!
試合終了ー。部活も終了ー。梅ちゃん先輩含む、レギュラー組の圧勝ー。
かなぁーり強い。それでも勝てねーんだけどよ。藤校には。
康平、肩で息してら。あ。寝そべった。きつかっただろ? わははー。
結局、圭祐の誘いを憂は了承。なんて言って誘ったんだよ、こいつ。どうせ、『遊びに行かね?』くらいでデートとか言ってねーんだろうけど。ずるいわ。
憂のOKが出ると、愛さんからの許可も出た。あの秘書さんからのGOサインが出たんだろうな。梢枝さん……。死にかけ康平先輩のトコに。無理矢理起こした。酷ぇわー。笑いしか思わんけど。
ありゃ? 康平、マジな顔に変わった。
憂は……?
んー? こいつもマジな顔しちゃってんじゃん。何を思ってんだかね。
「勇太? ちょっと、いい?」
「どした? きょうちゃん?」
「明日……。5組に……」
「仕方ねーなー。一緒に付いてってやるよ!」
次のバスケ会ってなると土曜日だかんな。謝るなら早いほうがいいって!
「……助かるよ」
きょうちゃんはきつそうに笑った。
まぁ、しっかり謝れな?




