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202.0話 三者面談一日目

 


 ―――11月17日(金)午後



「このクラスは……。特別なクラスって言えてしまうのかもしれません。あのニュースを境に変わってしまったんです。それでもこのクラスに留まって下さった沙智さんは、本当に良い子だと思っています」


 私の言葉に沙智さんは、恥ずかしそうに目を伏せました。お母さんも嬉しそうですね。私は本心を打ち明けただけなんですよ?

 憂さんの傍に残った子たちは、自分で考え、自分の意思で残った子たち。本当の優しさを有している子なんですよ?

 もちろん、お友だちの優子さんや、梨華さんの影響もあるんでしょうけどね。この子たちに限らず、みんなどこかで必ず話し合っているはずです。

 このクラスを出ていった生徒たちは、グループ単位で出ていってしまった子たちが大半……。

 残った生徒たちは逆。グループ単位で残ってくれた子たち。


 憂さんたちを除くと、例外は沙智さん、梨華さん、有希さん、優子さんのグループだけ。


 委員長の有希さんは、一度はクラスを離れちゃったんだから、一緒に出なかった沙智さんは本物です。一緒に出ていくって選択肢を捨て去った子なんですからね。


 ……あれ? お母さんの表情が曇ってしまいました……。


「……実は、私も主人も、一度は転室を勧めてしまったんです。それでもこの子は絶対に嫌って……。いつの間にか自分の意見を言えるようになってて、驚いたんですよ……」


「母さん……。もう大丈夫よ? もう解ってくれたんだし、それでいいから……」


 ……色々、あったんですね。憂さんと距離を置くべき……と諭したと言う事は……。

 そんなご両親を説得してくれて……。この5組に残ってくれたんだ……。


 あ。ダメ。泣けてきました。


「リコちゃん? クラス……。明るいクラスに戻って良かったよね。あとは少しずつ人数を戻すだけ……かもだけど、あたしはこのままの人数でもいいんだよ」


 微笑み、長い黒髪を掻き上げた沙智さんはどこか大人びて見えました。綺麗な丸いおでこしてるよね……。


「リコちゃん! おでこに注目しないでよっ!」


 ば! ばれた!!


「沙智! 先生に対する言葉遣い!」


 わわっ!! これはいけません!!


「お母さん! 私はこの方がいいんです! 沙智さんは他の先生方にはきちんと敬語を使えてますのでっ!!」




 ……ふぅ。1人目終了……。この三者面談だけは何度やっても慣れないです。時間通りに終わってしまいました。1人辺り10分間。私の5組は人数の都合で連続での面談は行わず10分の面談を行なっては10分の休憩。私が勝手にこうしちゃいました。これなら20分間話す事も出来るんです。


 成績について。授業態度について。部活とか時間外のお話。そして、このクラスに残留してくれたお礼を兼ねての『良い子』のひと言。

 本当は、こんなちっぽけな言葉だけで済ませられないんですけどね。


 自慢の教え子たち。

 あの時、このクラスに残るって選択は……正直、勇気が要ったと思う。憂ちゃんの傍にそれでも居続けるって選択は、色んな目で見られる事になるって解り切ってた……。

 凄い。今の5組に居る子たちって本当に凄い。


 私だったらどうしただろう? 私は逃げちゃいけない立場だったから、嫌な目で見られても立っていられた。


 ……逃げられる立場だったら?


 逃げてたかも……。


 私は……。資格があるのかな? そんな子たちを指導とか……。私なんかより、あの子たちは自分の意思を持ってる。強く輝いてる。


 それって……どうなんだろう……。


「リコちゃん!!」


 ………………。


 ……びっくりした。


「こら! 健太! あんたいきなり開けて! どう言う了見だい!?」

「だってさー。外の椅子、ウチのクラス俺らだけよ? さっちゃん、帰ったしー。もう始めちゃっていいんじゃね?」

「それは先生が決める事じゃないさ! 先生、すみませんねぇ……」


 頭をグイッと無理に下げさせて……。

 あはは……。「いえ! そうですね! 始めちゃいましょうか!」とか言いながら、健太くんのお母さんって、有希さんに似てるかも……。

 今更ながら、そんな事を思いました。



「でさー! 母ちゃん、テスト見せても信じねーの! 俺の成績右肩上がり! 英語、92点よ!?」

「どうせカンニングでもしたんだろ!? あたしゃ信じないからね!」

「お母さん? 本当なんですよ? このクラスにはハンデに負けず一生懸命勉強する子がいるんです。その子の姿を見て、みんな頑張ってたんです。だから、特進クラスを除いた平均点は一学期期末テストに続いて、2学期の中間テストでも1位を堅持しているんです」


 豪快なお母さんです。漫画とかドラマに出てくる肝っ玉母ちゃんそのものです……って、そんな疑わしく見ないで下さい……。


「母ちゃん! 憂ちゃんの事! いっつも話してるだろ!?」

「あー! 例の子! あの子、そんなに勉強熱心なのかい!?」

「熱心って言うか、なんて言うんだ? とにかく頑張ってるんだよ! それ見て俺も負けてられるかって思ったワケ!」

「へー? 詳しく教えて……無理かい?」

「大丈夫です。憂さんのご家族に憂さんの事をクラスメイトのご家族に話しても良いと、許可を頂いていますので」


 触れないとこの子たちを褒めてあげられません。愛さんは『そんなに持ち上げなくていいですからね……?』と仰られたけど、私は持ち上げている訳ではありません。ありのままの事実をお伝えしてるだけです。


「憂さんは障がいの影響で、クラスの平均点に反比例し、成績は下降線を辿っています。それでも必死に頑張る健気さが、クラス中に波及しているのです。健太くんは全て本当の事を言っています」


 お母さんは……やっぱりジト目じゃないですか! ここまで言ってるのに、ジト目で健太くんを凝視してます。ちょっと怖い。

 でも、負けてられません!


「健太くんは本当に良い子に育っておられますよ? 憂さんが、優くんだった事に戸惑い、離れてしまったクラスメイトをわざわざ追いかけ、連れ戻してくれたんですから!」


「良い子じゃないね」


「……はい?」


 あ。つい。変な声出ちゃった……。


「普通さ。男なら困ってる女の子の力になるのは当たり前の事さね。何も良い事なんかしてないさ」


 ………………。


 なんか……。健太くんが良い子に育った理由が解った気がしました。







 ……暇。健太くんが早く覗いてくれたお陰で、その分早く終わって……。次は……。佳穂さん……か。

 いよいよ、憂さんのグループの1人と面談ですね。

 彼女たちには……。他の子たちとは、ちょっと違う対応が必要なんですよね。高等部の……もしかしたら大学も、かもですけど……。


 ……。


 憂さんとの付き合いは普通に考えてそこまで。

 彼女たち、このままでは人生を憂さんに捧げてしまう事になります。

 それでいいのか……。本当にいいのかはっきりとさせておかなければなりません。


 さて……。行きますか。


 立ち上がり、何度開いたか分からないスライドドアを横に。


「佳穂さん! 放課後ぶりです! どうぞ!」


「リコちゃん、ちょっとぶりー! 変なの2人も連れてきたぞー?」

「変なのとは何だ! お父様に向かって!」

「変なのは1人よ? 間違えてはダメよ? ところで誰がお父様? 顔と相談したことある?」

「どう言う意味だ!」


 …………。

 …………。


 ……。

 ……。


 凄い……。健太くんのお母さんに驚いたばっかりなのに……。

 入る隙が見付かりません……!


「リコちゃんセンセ!?」

「あっ! はい!」

「そろそろ教室入れて貰えると嬉しいですよー?」

「はい! どうぞ!」


 ……ペースを保って。大丈夫。ずっとこんなペースな訳がないんです……!




「成績きゅーじょーしょー!」

「佳穂! お前はやれば出来る子だったんだなー!」

「今まで何でしなかったのかしら?」

「やる気が無かったからー」

「そうか! パパと一緒だな! パパだってやれば出来たんだぞ! しなかったけど!」

「ダメじゃん」

「この人はやる気になってもダメよ? 能力が足りてないのよー?」

「なっ! 母さん! それは言いっこなしだ! それより、パパってとこにツッコミ入れてくれ!」

「で、ママの感想聞いてないんだけど」

「そうねぇ。この子が勉強に目覚めるなんてね! 始めた頃は梅雨の頃だったわよね? 今年の梅雨、雨が少なかったのはやっぱり佳穂のせいじゃないかしら?」

「普通、雨が降るって言うんだぞー? 逆じゃないかー!」

「天変地異起こしたんだから同じことよ」

「悪かった! 悪かったからスルーしないで下さい! 二度とパパなんて言いませんからぁー!」

「うざい」

「えぇ……。うざいわね」


 ぜ、全然話に参加出来ない……。このご両親が居て佳穂さんが……。何だか妙に納得……。


 ……って、言うか! 三者面談ですよ!? 三者漫才しないでください!


「「「……………………」」」


 あれ!? 3名ともこっち見てた!? いつの間に!?


「……えっと」

「はい」

「お願いします」


 …………?


「何でしたっけ?」


「あはははは!!」

「嫌ですよぉ。先生? ご冗談を……」

「あははははは!!」

「成績のお話が終わったところですよ?」

「お父さん! 笑いすぎ! リコちゃん、ごめんね?」

「いたたたたっっ!! 母さん! (つね)らないで!」

「佳穂さん、大丈夫です……。でも、ちょっと時間下さいね?」

「「「………………」」」


 えっと……。えっと……!!

 じっと見るのやめて下さい!


「じっと見るのやめて下さい! 思い出せませんっ!」


 言っちゃった……。もういいですよ……。

 ノートをぺらり。


「センセがカンニングした」

「佳穂が上手い事言った」

「そうね。70点」

「厳しいぞー?」

「嫌ねぇ。高得点よ? 75点満点なんだから」

「なるほどー」

「「「………………」」」


 喋って……いいんですよね?


「なるほどー。静かになったタイミングで話せばいいんですね」


 3人揃って、うんうんって……。


「佳穂さんは、進路について、何か考えておられますか?」


 あ……。真面目な顔になった……。


「ずっと憂ちゃんの傍に居るつもりです。憂ちゃんにいらないって言われるまでは。憂ちゃんが進路用紙が白紙だったから、あたしも白紙なんです」


 ……予想通り、ですね。 佳穂さんは本気でそう思ってる……。あれ? ちょっと揺れてる。


「リコちゃん……。あたし、ね?」


 不安? 目が潤んできちゃいましたね……。


「迷ってるの?」


「ううん……。憂ちゃんと一緒に居たい」


 もしかして……恋心? 憂さんは男の子だっ「でも……」


「でも……?」


 憂さんに恋心を抱いてて、それで一緒に居たい……なら説得力出たんだけど……。佳穂さん、俯いちゃって……。不安そうで……。


 ……そうですよね。憂さんは今は女の子……。

 あ! 千穂さんから奪う事になるんだ!


 ……千穂さんとの仲が壊れる可能性……か……。

 それは……つらい、ね……。


「あたし、何の役にも立ててない……。憂ちゃんを守りたいのに! 梢枝さんも康平くんも拓真くんも……。千穂も凄くて……。あたし、何も出来ないんだ……」


 …………?


 ちょっと状況を整理しないと……。


「佳穂さん? あなたは恋人として、憂さんの傍に居たいの? そうすると千穂さんとの仲が……って事?」


 それにしては、どうにも違和感が出てきてしまうんです。


「リコちゃん。内緒だよ? 得意だよね? あたしも先生も守り抜いたんだから……」


「……そうですね。得意です」


 佳穂さんが小さく言った『守り抜いた』は、憂さんの秘密を……です。一緒に守った人とは……。私も学園長先生と繋がった訳ですし……。佳穂さんとも、みんなとも特別で繋がった気がしています。

 迷ってるね。言ってもいいのか、悪いのか、かな? ご両親は、そんな佳穂さんを優しく見守っておられます。


「……ホントに内緒」


 声のトーンが一気に落ちました。佳穂さんの本気に「はい」と本気を以て応じます。


「憂ちゃんには……。もう告白して、失敗しちゃってます。だから今は、千穂が憂ちゃんを離す時まで待ってる状態です」


「え?」


 ちょっと待って下さい。


「それじゃ、そんな状態で将来を憂さんにって……? それは如何(いかが)な物か……と、言わざるを得ませんよ……?」


 ……やっと言えました。担任教師として、伝えてあげないといけなかった戒める言葉を……。


「……あたし。あたしと千晶……」


「はい」


 重そうですね……。口を開きかけてはやめて……。


「佳穂? 私が教えてあげようか? 『あの日』の……。私たちに教えてくれた秘密の事……でしょ?」


「……お母さん。大丈夫だっ! あたしが自分で話すからっ!」


 あっ……と。しっかりと目を合わせてくれましたね。


「憂ちゃんの……。優くんの事故は、あたしと千晶がナンパされてたとこに通り掛かったから起きたんです」


 …………………………。


 ………………。


 ……。




 佳穂さんは何度も何度も泣きそうになりながら、涙を拭って……。話してくれました。


「だから……。あたしは憂ちゃんを守らないとダメなんです。千穂と憂ちゃんがずっと一緒にって決めても、あたしも憂ちゃんと一緒に居て、憂ちゃんを守るんです」


 ……責任。感じてしまっているんですね……。

 これは、じっくりと……もっと時間を掛けて話してあげないといけません。

 今、この場で思い付いたような簡単な答えじゃダメです。


「でも……」


 ……でも?


「あ、たし……。ひつ、よう……ないの、かなって……」








 ……自己嫌悪……。独り暮らしのアパート。コンビニ弁当が1人だって印象を強めてくれて、胸を余計に締め付ける。


 なんて言ってあげれば良かったの?


 そんな事ない!


 言うのは簡単……。でも、その励ましは佳穂さんの将来を奪っちゃうかもしれなかったから……。

 きっと、憂さんは……。正直な話、総帥さんが守ってるから……。学園内でも守られてるから……。必要か? ……って聞かれると、必要ない……かもしれない。


 大切な恩人。

 憂さんは佳穂さんと千晶さんにとって、そんな存在だった。

 単なる友だちだったら……私は憂さんと将来的に離れる道を迷わず勧める。それが担任の勤めの筈だから……。


 今日の最後の1人。千晶さんの面談はもっと複雑。

 お母さんは千晶さんが一時的に5組を離れた理由を教えて下さった。

 そこからは佳穂さんと同じ。同じ苦しい想いを抱えていた。


『センセ? わたしには、居場所が見付けられないんです。憂ちゃんの周り、凄い人ばっかりで……。敵わなくて……。わたしはそれでも憂ちゃんの傍にいていいのかな……?』


 佳穂さんの時と同じ。私はその質問に答えてあげられなかった。


『ごめんなさい。聞かれても困りますよね。でも、今のところ、まだ憂ちゃんの傍に居たい気持ちが勝ってますので』


 だから……。憂さんと同じ白紙のまま……。



 こんな事で明日、大丈夫!?


 明日は憂さん、千穂さん、拓真くん、圭祐くん、瀬里奈さん、陽向さん……。

 どうすればいいのよぉぉぉ!!!


 ……今日、佳穂さんと千晶さんの間に入った、有希さん、明日香さん、樹くん、優子さんも……!

 きちんと面談できた自信がない……。

 6組からの転室してきてくれた子たちなんて、『だと思います』連発で……! 断言なんか出来なくて……。


 ……転室者、多かったから……。他の先生方もそうだよね……?


 明日、教頭先生かどなたか相談しよっと……。


 転室は教師殺しだよぉぉ!


 でもでも! ちゃんと、5組に転室出来た子は、厳しい審査を突破出来た間違いなく良い子だって、伝えてあげられたし大丈夫……の筈。





 11/22 明日、23日も投稿致します。

 現時点のまとめ的な部分ですのでぱぱっと突破していきますね。

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