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192.0話 事件の一報

 


 ―――11月11日(土)



「ようやくHPの開設準備が整いました。申し訳御座いません。予定よりも時間が掛かってしまいました」


 総帥は自身のオフィスに居た。手元の資料の一枚をギョロリと睨み付けている。


「気にするな。憂くんの画像の選定、十分に時間を掛ければ良い。彼女の魅力を損なってはならん」


 秘書への返答は、資料とは別物だ。マルチタスクな能力をこの男は持ち合わせている。


「有り難う御座います。開設は当初の予定通り、月曜で宜しいでしょうか?」


 手元の資料は、とある政府機関から送られた資料だ。わざわざ日本語に翻訳し、送りつけられたものである。


「うむ。嵐が起きるぞ。起きねば起こせ。市長に伝えておけ。『今までご苦労』とな」


 資料には、ある国で起きた事件の顛末が記されている。

 憂の髪の毛や爪、細胞に血液。それらを求め、暗躍を始めていた研究機関を取り締まったと云う。人権保護の観点にて我々政府は危険因子を排除したのだ……と、恩着せがましく綴られていた。


「畏まりました」


 実際に、逮捕はされているのだろう。そこは調べてみれば答えが出る事だ。だが、これが眉唾ものである事をこの男は理解している。

 蓼園グループは世界中の注目を集めた。憂の利権を一手に握り、資金を集め、(例の子)の実の父親の主導により、製薬会社を買収した。


「して、次の市長の候補は、お決まりですか?」


 その後の利益は独占しないと表明した。医学の発展に努め、買収劇の際、資金提供した企業や個人への還元は元より、人類未来に寄与すると書面で取り交わしている。


「はははっ! 当たり前だ! 憂くんの為ならば、命を顧みない人間を据える!!」


 故に製薬会社買収発表後も引っ切りなしに、非公式な接触が相次いでいる。これから提携する企業を……。憂の盾、そして矛と成り得る相手を見定めている。

 その中、各国政府からの干渉は、全て蹴り続けている。動かねばならない時まで、いずれの政府もを相手に動くつもりはない。


「まだ、お教え下さらないのですね」


 秘書は淡々とした口調で非難の声を上げた。だが、表情に変化はない。いつもの事なのだ。


「儂は君の驚く顔が見たいのだ! 済まんな!!」


 豪快に嗤う男を前に、秘書の口元が僅かに緩んだ。


「……楽しみにしております」


 男は満足したのか鷹揚に頷くと表情を一変させた。


「……憂くんの様子は?」


「お元気で在らせられます。本日も無事、学業を修められた後、バスケ会へ参加なさっております」


 それを聞いた途端、威厳は吹き飛んだ。好々爺のように目尻を下げ、破顔した。


「良い。憂くんは笑っていれば良いのだ! そうだろう? 遥くん! その為の体制は!?」


「かのバスケ施設には、探偵社より5名、もちろん、直属の身辺警護2名を除いてです。その他、蓼園綜合警備(TSK)より、15名。こちらは自宅マンション周辺、私立蓼園学園敷地外、その他、憂さまの行く先々、24時間体制の警護を維持しております。リストに入っている連中には近付く術がありません。しかし、リストに入っていない者への対応は後手を踏んでしまう旨、ご了承下さいませ」


「ふむ。それは已むを得ん。SPなど傍に控えれば自由を損なう。あくまで近辺警護だ。目立たせるな」


「心得ております。しかし、半径30m外での警護……。苦労しているようです」


「リストの拡充を図れ。多少、関係の無い人間の名の混入も構わん。データが増え把握不能となれば、増員すれば良い」


「畏まりました。仰せのままに」


 綺麗に腰を折り、上げたその時には、一抹の悲しみを湛えていた。それが憂を想っての事か、主を想っての事か、判断は付かない。


「……淋しいぞ。儂は」


「ええ。私も、です」


 憂に逢いたい。あの天使のように笑う少女に。

 だが、舞い込む状況の変化がそれを許さない。男の恋慕に似て否なる焦燥は、男の心に燻っている。いつか爆発し、突然、憂の下へと馳せ参じるのだろう。今はまだ自制心により、保たれている。











 私もバスケットボールの扱い、上手になってきちゃった。真っ直ぐ進むだけなら、ちょっとくらい目を離しても大丈夫になっちゃったんだよ。

 ……毛嫌いなんかせずに、優に教えて貰ってたら、きっと楽しかっただろうな。

 もちろん、憂とのバスケも楽しいよ? 楽しいけど、もしも優とバスケしてたら、いい思い出になってたんだろうな……って。


 その憂は、今、トライアングルの頂点でディフェンス中。


 憂がチャットで宣言したトライアングルツー。みんな、マンツーマンに回るツーのほうに憂が入るんだと思ってた。私もね。でも、憂はディフェンス練習を始めると、ゾーンの方に入ったんだ。予想外。


 憂は自分の頭の上からスリーポイントを打たれる可能性を排除したんだ。ホント、バスケの事になると、よく頭が回るんだから。


 中等部時代のレギュラー5人vs康平くん、梢枝さん、凌平くん、佳穂、美優ちゃん。


 PG役の梢枝さんに京之介くん。

 SGの美優ちゃんに圭祐くん。


 後の3人のオフェンスに憂、拓真くん、勇太くんの3人で守る。私も初めてみる形なんだよね。きっと、5人も初めての経験。そもそも優はマンツーマンを除けば、ゾーンディフェンスのてっぺん以外が初めてのはず……。


 梢枝さんはマンマークの京之介くんに必要以上に近付かず、迂回しながら右サイドに展開する美優ちゃんへ。美優ちゃんはドリブルで切り崩すと見せかけて、更に右。佳穂にパス。勇太くんが少し離れた距離でディフェンス。これは高身長の有利さ。離れたとこからでもシュートをはたき落とせるからね。佳穂が下がると、勇太くんも合わせるように外へ。勇太くんが抜けたポジションに美優ちゃんが入り込んだ。でも、パスは出ない。勇太くんの圧力凄すぎ。梢枝さんが右サイド、佳穂のフォローに入って、ボールはその梢枝さんに。


 狙ってた!!


 梢枝さんに入った瞬間に京之介くんと圭祐くんがダブルチーム!! 梢枝さんは自分で打破出来ず、ハイポストにボールを投げた! 運任せのプレイ!


 でもそこには憂だけ! 憂がボールをキープ!


 トライアングルツー! しかも変則ディフェンス! 上手く行った!


 憂は一旦、拓真くんにボールを預けた。狙われない対策……なのかな? 実際、康平くんと凌平くんが奪取に動くような構えを見せたし……。


 それより!!


 今度は憂たちの攻撃! 梢枝さんたちは男バスさんを想定したゾーンディフェンス。拓真くんからボールを受け取った憂がゆっくりとボールを突いていく。梢枝さんは……少しポジションを下げた。あの時の先輩と同じようにじっくりとディフェンス……。梢枝さんが憂の正面なのは、あの時の先輩を想定して。身長的に同じくらいだから。離れても平気なのは、憂に3Pシュートの可能性がないから。


 憂は……あ! さっさと京之介くんにパス! その京之介くんから勇太くんに! いきなり美優ちゃんの頭越しにハイポスト!! でも、康平くんが背中に張り付いてターンさせない……。仕方なく、勇太くんはポジション下げた憂にリターン。また憂はすぐに京之介くんに預ける……。


 ……これって?


 京之介くんは今度は逆サイド。圭祐くんに凄いパス! 圭祐くんから即、拓真くんにバウンドパス! 反転早い! シュート! 入った!!





 ……いける!


 最初はそう思ったけど、現実は厳しい……ね。

 次のディフェンスで梢枝さんはハイポストにパスし始めた。

 そこは憂が守備に付かないといけないポジション。そこから康平くんも凌平くんもショット。拓真くんと勇太くんの高さがあるから落とせない重圧があって、少しは率が下がってるけど、それでもなかなかの確率。着実に得点を積み重ねていった。これに加えて、男バスには拓真くんより大きい人、居るから……。正直、ディフェンスは厳しいかも……。


 攻撃は当分の間、ワンパターン。憂から京之介くんへ。そこから京之介くんの憂に鍛えられたパスで攻撃。まぁまぁの攻撃力。京之介くんのスリーポイントが封印されたのと、憂の攻撃能力で実質、4人でのプレイみたいなものだから……。


 ……とか、思ってたら騙されました。私も男バス想定の5人も。


 必ず最初に行われる憂から京之介くんへのパスを封じようと、京之介くんに美優ちゃんのマークが付いた瞬間だった。美優ちゃんの上がったスペースに憂が切り込んで、そこから憂の至近距離からの拓真くんと勇太くんへのパス。じっくりと腰を据えたディフェンスじゃない時の憂のパスはやっぱり有効だった。


 堪らず、京之介くんのマークを外してゾーンに美優ちゃんが戻ったら、今度は京之介くんからの展開。


「きょうちゃん――! すりー!」なんて指示からのゴールもあって、しっかりと攻撃出来るんだって事を教えてくれた。


 よくよく考えたら、京之介くんと圭祐くんのオフェンスポジション、前と逆なんだ。憂が京之介くんを自分の左に置いたのは、京之介くんに引っ張りだされたスペースに自分が入り込む為。憂の右手のパスは……あれだから。だから実戦仕様。計算されてた事だったんだよ。


 凄いなぁ……。みんなで話し合ったのかな? あの時の5人でチャットして……。





「おーい! みんなー! ちょいと休憩ー!!」


 あ。(お兄)さんだ。彩さんも。あれから1時間。入れ替わり、立ち代わりでの練習。お買い物に出掛けてた愛さんも合流。今日のところは男バス相手の想定は終了。みんな……って言うか、私たちの練習を兼ねて……じゃないのかな? 私たちのレベルアップの為の練習……?


 ……まぁ、いいや。


 疲れたなー。そろそろ憂もお眠だろうし、ちょうどよかったのかも。

 ぞろぞろとお兄さんと彩さんのとこに。今日はお兄さんがインタビュー受けたのかな? 私はまだ。圭佑くんと凌平くん、もちろん愛さんもインタビュー受けたんだって。


「はい、どぞ。飲料と、ポッキリ」

「あ! ども!」


 …………? 彩さんから勇太くんに手渡されたのは、見慣れた青いラベルのスポーツドリンク……と、お菓子。

 大量の1リットルペット入りの袋を両手にぶら下げてた剛さんは、手の平見つめてにぎにぎ。わかります。重いと痛いですよね。


「はい、お疲れ様。スポーツ飲料。それとポッキリ」

「ありがとうございます」


 京之介くんにも。次々と手渡していく。


 あ! そっか! 今日、ポッキリの日だ!


「はい。憂ちゃんにもポカリとポッキリ」


「――んぅ? ありがと――?」


 憂は渡されたポッキリのパッケージを不思議そうに見詰めた。もちろん、首を傾げて。

 ……今のやり取りの事、教えてあげたほうがいいのかな? 憂は知らない人からのプレゼントを許可がない限り、受け取らない。だから、受け取って貰った彩さんが憂に憶えられた証明……なんだけどな。



 全員にポッキリとジュースが行き渡っても、憂はパッケージとにらめっこ。そんな憂に彩さんが近付いていく。誰もまだ(・・)憂に教えてあげてないんだよ? 彩さんに憂と話すチャンスを……って、みんな相談したわけでもないのに、実行中。


「今日は……11月……11日……だから……えっと……」


 ……難しいですよね。短く説明するのって。


「じゅういちがつ――じゅういちにち――?」


「棒が……4本で……ポッキリみたい……?」


 彩さんが困ったように、私に視線を……。どうかな?


「……行けると思います」


 たぶん。


「うぅ――?」


 あれ? 固まっちゃった。困った顔で考え中……。


「ちょっと……待ってろ……」

「う――?」


 拓真くんがポッキリを開封……? あ。なるほど。


「手が足りないよね?」


「ん? あぁ……千穂ちゃん、助かる」


 私も開封。がさごそ2本取り出して、1本ずつ両手に……。


「憂? 見ろ?」


 拓真くんもポッキリを両手で2本並べた。私もその隣に。


(いち)(いち)(いち)(いち)だ」


「――うん」


 ……解ってないね。これは難題です。

 みーんな、微妙な作り笑い。梢枝さんも困ってる。


「――だから?」


 だから……11月11日はポッキリの日……なんだけどなぁ……。



 ……いっぱい説明してみたけどダメ。『棒が……いっぱい……ですえ? 今日……みたいに……』って、梢枝さんがこれ以上短く出来ないって感心させられるほど、短くしてくれてもダメ。

 形が似てる……。比喩って言うの? 何となくの見た目? そんな感じのを憂は理解しにくいみたいだね。初めて知ったよ。ポッキリ1本を数字の()として、認識できないんだね。


「なんで――ポッキリ――?」


 ……いい加減泣きそう。憂も。私たちも。彩さんなんて、『余計な事してごめんなさい』って、顔に書いてあるし……。


「突然ですが! ポッキリゲーーム!!」

「却下」

「当たり前」


 急に変なこと言い出した佳穂をすぐに愛さんと千晶がストップ。早かった。


「却下早すぎですよー!!」


 およよよ……みたいに崩れ落ちた佳穂だけど、これは彩さんへのナイスフォロー。


「あはは――!」


 憂も笑ったからね。何のこと話してたか忘れてくれたらラッキー。


「ひあき、あい」


 ……佳穂。ポッキリ咥えて千晶にチョココーティングされてる側を向けてる……。本気だったのかも……。


「えい」

「っっ!?」


 みんな大笑い。向けられたポッキリを正面から押したんだよ。千晶が。喉の奥に刺さらない程度だけどね。


 ポッキリゲームなんてするものじゃないよね。両側から食べ進めていったら、キスすることになるんだよ? 遊びでも良くないよ。

 ……あれ? 遊びだと良くないのかな?


「はい。リコちゃんセンセ、どうなさいました?」


 …………?

 梢枝さんの声に振り返ると、通話中でした。


「……それで?」


 …………。


 みんな注目。梢枝さんの顔が真剣そのものだから。


「ええ……。はい。それでは事態は収拾させてくれはったんですえ?」


 梢枝さんがスマホを離してタップ。ありがたいです。みんなに聞こえるようにしてくれたんだね。


『はい。学園長も教頭も中等部長も高等部長も各棟の棟長も……学園内の偉い先生方が動いてようやく……』


 ……なんか深刻そうな話。梢枝さんに電話が掛かってきたってことは……憂の絡んだ話……なんだよね?


「学園長が……? それで首謀者は……?」


『大人しく捕まったそうです。今、理由を伺っている最中ですよ。必要があれば、憂さんとお姉さんにご足労お願いしちゃうかもです。ごめんなさいね! まだ電話しないといけないところ多いから切ります!』


「……結構、大勢聞いておりましたえ? 憂さんの姉・愛さんにもいつものメンバーにも必要ありません」


『……早く言って欲しかったかな? 誰が居るの?』


 私たちの名前を並べていく梢枝さんの傍で拓真くんと凌平くん、圭佑くんの3人が目配せし合っているのを見てしまいました。


 ちなみに、この後、康平くんのスマホにも警備隊の人からの電話があったみたいで、不在履歴に入ってて……。

「マナーモードにしとったわー……。ミスったー……」と、落ち込んでいました。


 ……あれ?


 康平くんのスマホが着信受けなかったら、梢枝さんにも着信あるはずだよね?


 何も知りませんって顔してるけど……絶対、梢枝さんもマナーモードのままだったんだよ。


 ん? なんで1番に愛さんじゃないんだろう?







 ご報告致します。


 以前から痛めていた右手の薬指が、またおかしくなってしまいました。

 弾発指(バネ指)と言うものだそうです。

 今までの2回はステロイド注射で抑えましたが、医師に『次は手術』と言われておりまして……。

 これに伴い、執筆を自粛せねばならない状況となりました。


 この『半脳少女』については、ストックが10話ほどあります。そちらを放出していきますので、当面は変わらず投稿出来ます。

 しかし、今後、ストックが切れてしまった場合、活動休止の可能性となります旨、お伝えさせて頂きます。


 だがしかし。

 エタらせない。


 これは約束させて頂きます(*´ω`*)

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