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186.0話 名無しアプリ本格再稼働

 


【それじゃ、明日は憂は検診があるから不参加なんだね】京之介


 千穂【うん。そうなるよ。ごめんね】


【監督、俺らに部活パスして憂の練習に付き合えって……。それでいいのか?ww】圭祐


【なんか女バスの顧問さんが、そうするべきって。男バスにとっても絶対、プラスになるからって……】千晶


【なんか尻に敷かれてんなw】圭祐


【それが男バスと女バスの確執の元々の原因だったりして?】京之介


【あり得るww】圭祐



 今日も憂のお部屋でまったり……。憂はお風呂上がり。私はこれから。前は憂の自由時間だったんだって。でも、もう憂は家では自由。独りの時間は他にもあるから、こうやってお邪魔してもだいじょうぶ……だよね?


 ……お隣さんになっちゃってから、憂の部屋にお邪魔してばっかり。

 なんだかライフスタイルに組み込まれてきちゃった感じ?


 ……私も憂が女の子って事に慣れてきちゃった証明……なのかな……?


 朝ごはんと晩ごはんを立花家とご一緒して……。

 これは……。いいね。大勢で食べるのって楽しい。なんだか、本当に家族が増えたみたいなんだよね。剛さんも優しいお兄ちゃんって感じ。勉強教えてくれるのも上手だし……。

 家庭教師の経験あるんだって。その時も高校生の女の子だったんだって……。

 何もなかったって、本人は言ってたけど……。剛さん、かっこいいから実は密かに想われちゃってたりとか? あるかも?


【んで……どうやって勝つんだ?】拓真


 来た……。拓真くんのコメント……。拓真くんは……ちょっと怒ってる。男バスの中にも憂を良く思ってない奴が居るはずだ……。危険すぎる……って。

 言われてみればそうかも知れないけど……。でも、憂のあんな姿見ちゃったら……やっぱり何とかしてあげたいじゃない?

 私の身勝手なのかな?


 千穂【私の見た感じだと、勇太くんと京之介くんさえ、入ってくれればいい勝負出来ると思っています】


 本当だよ?


「千穂ぉー?」


 あ。ちょっと怒った顔。

 久々の『1-5知った者倶楽部』でのチャットだから憂にも届いてる。パスワードもあの頃のままなんだよね。秘密を知り得た者たち……。


【読めないー!!】憂


 あらら。入力までしちゃった……。確かにみんな普通に漢字使って書き込んじゃってるよね……。

 憂は漢字を使った入力。ここが面白い。面白いって言ったらごめんなんだけど、面白いんだ。


【あ。わるい】圭祐


【ごめん】千晶


 憂が『よめない』って入力したら表示される変換候補。これを見ると『あ。これだ!』って、ちょくちょく分かるみたい。でも、『読めない』って、ただ書いてあったら読めないんだよ?


 ……例えに使った漢字が悪かった気がする。


【指摘しようとしてたら先に憂がキレたw】勇太



 ―――勇太くん。


 あの後、勇太くんから憂に話し掛けた。私たちの考えた作戦が上手くいったんだ。男バスの監督さんに、再戦の話を聞かされた勇太くんは、憂とまた同じチームで戦う事になった。だから憂と話す必要が出来ちゃったんだ。


 ……でも、それは単なる切っ掛け。


『勇太――今まで――ありがとう――』

『それだけ――いいたくて――』


 ……この言葉が響いたんだと思う。憂にお別れの言葉を言われて……。

 勇太くんの事だから、憂への偏見とかあるわけない。顔を合わせ辛かっただけ。


 ……って、そう信じてる。


 なのに、憂が先走ってお別れを告げて……焦っちゃったんだろうな。


『憂……。悪かった……。ごめん……』


『また……普通に……な?』


 この勇太くんのひと言を貰った憂は大泣き。号泣。声上げて泣いちゃった。嬉しくて感情が爆発したのは珍しい。初めて見たのかも?

 長い時間じゃなかったけどね。すぐにちゃこさんが物凄い勢いで走ってきて、勇太くんの頭を引っぱたいたから……。

 走ってきた勢いのまま、ジャンプしての引っぱたき……。凄かったなぁ……。勇太くん、背が高いから……かな?


 しばらく頭抑えたまま、勇太くんは悶絶。くちぽかーんな憂を尻目に、ちゃこさんは勇太くんに宣言。


『私、全力で憂ちゃんを守るからね! 泣かせる奴は敵だよ! 覚えてな!』


 勢い良く宣言しちゃった……。正直、告白した! ……って宣言されたらどうしようって思ってたけど、それは無くてひと安心。


 えっと……。


 ……憂って告白された事、解ってないんだよね?

 それから勇太くんが復活して、何故だか憂が勇太くんにデコピンする展開に……。これ、何なんだろう?


 ……聞いてみよっと。


 あー!! 考え事してたらログ溜まってるぅー!


【憂をPGにすえて、かつんだろ?】圭祐


【……きついんじゃない?】京之介


【まもると、憂のあたまのうえ、ねらわれるからなー】勇太


【憂ちゃんは、もっとまえで、まもればいいんじゃないの?】佳穂


【そうすると、ぬかれますえ? せっしょくを、じさないたいおうされると、きついです】梢枝


【トライアングルツー】憂


 ……あ。憂のコメント。トライアングルツーって……。


【それじゃ、どのみち、憂のうえをねらわれるよ】京之介


 トライアングルツーかぁ……。3人で三角形のゾーンを組んで、あとの2人はマンマークに付くディフェンスの方法。この方法だと、やっぱり京之介くんの言う通り、憂がネックになっちゃうんだよね。


 ……って、ログ追いついちゃった。考え事の時間の割には進行遅いかも……。憂も入力早いはずなのに……。


 憂……。今日はパジャマじゃない。時々、こうやって変化球を投げてくるんだよ。愛さんがね。

 キャミソール。ピンクのキャミソールにパイル地のショートパンツ。かなり短い、陸上選手が履いてるみたいなアレ。だからキレイな足の裏側が丸見え。うつ伏せで、タブレットいじってるからね。


 ……これ、産毛も生えてないんだよね。ムダ毛処理と無縁……。なんて羨ましい体質……。


 それより、なんで今日はパジャマじゃないんだろ? パジャマもいっぱいあるのに。

 愛さんからの無言のメッセージだったりして……?

 憂のお母さんも変な事言ってたし……。なんか、憂が性に興味を持ってきてるって……。


 これって……。私が誘惑されてる? ……まさかだよねー。


 …………。

 他の事を考えてないと変になっちゃいそう……。


 ……何か無いかな?


 私、キャミソールは、ちょっと苦手。憂の肩には2本の……あれ何? 肩ひも?

 ……その肩ひもが2本あるのが苦手。邪魔なんだよね。あ……ブラのひもがねじれてる。ちょっとごめんね……。


「んぅ――?」


 ねじれてた右肩のひもを直してあげると、憂がこっちを見た。自分も肩ひもに触れて「――ありがと」って。


 ……慣れちゃったのかな? 私が微妙なところを触っても反応薄くなっちゃって……。一緒に居るのが当たり前になっちゃったから……だよね? 姉妹みたいなもの……なのかな?


 ……あれ? 憂? 個別チャットしてる?


【んで。そろそろ、こたえをくれると、たすかる】


 ……? 相手の人は……圭祐くん?


「あ――!!」


「え?」


 ……隠されちゃった。『答えをくれると助かる』か……。それだけしか見れなかったけど、それだけ見えたら十分……。


 告白されちゃってたんだ。圭祐くんに……。



 ……憂は……。



 ……憂はどうするの?











 実は個別チャットの遣り取りは、憂と圭祐の両名だけでは無い。


 久々にまともに稼働した名前の無いアプリ。


 話したい相手が間違いなく居る状況を前に、そこら中で個別の通信が行われていた。これが『1-5知った者倶楽部』の進行が遅い理由だ。しばらく漢字の多い、憂への配慮の行き届かないチャットとなっていた理由もこれだ。個別での文章は憂に読めるよう、平仮名中心にする必要が無く、普通に漢字使用である。これが原因となり、混同してしまい。漢字が使われてしまっていたのだ。


 その個別チャット……。

 例えば、佳穂と勇太。ここは重い雰囲気である。


【憂ちゃんが許したから、あたしは何も言わない】


【あぁ……。オレ、逃げちまってたから。見損なったと思う】


【何も言わないって送ったばっかり】


 何とも険悪なムードである。佳穂は、千晶とは5組を離れた理由を聞き、完全に和解出来たものの、勇太が転室した理由は知らない。


 そんな勇太の情報を聞き出そうと通信している女子が居る。千晶だ。千晶は、1番でかい奴の相棒を捕まえている。


【ちっと想像すりゃ、わかんだろ?】


【それでもはっきりさせたいんです】


【本人に聞けばいいじゃねぇか】


【その本人に聞きにくいから拓真くんに聞いてるんです。わたしは佳穂と勇太くんの仲を元に戻したいので】


【俺も本人に聞いた訳じゃねぇ】


【では、推測をお伺いします】


【ったく、しつこいな。あいつは弟妹が5人も居るんだぞ】


【やっぱり、弟妹の為、でしたか。状況が良くなってきてからは、今日、憂ちゃんに謝った通り、戻りづらくなったから?】


【そうだろうよ。たぶんな】


 その千晶は、情報を個別チャットにて、佳穂に流している。逐一、勇太の相棒とも謂える拓真の予想を伝えている。

 佳穂と勇太のチャットに戻ってみる事にする。


【理由……。今、知った】


【え? どこから?】


【拓真情報、千晶経由】


【あいつ!】


【怒ってあげないで。千晶が無理に聞き出したんだから】


【約束はできんよ?】


【……約束しろよー? じゃないと許してあげない】


【じゃあ約束する】


【じゃあ許す】


【助かる】


【それで、いつ5組に戻ってくるの?】


【それはちょっとわかんね】


【どして?】


【憂の……その……】


【あ。察した。やっぱり学園中なんだね】


【あぁ。特にバスケ部の連中は憂への敷居が低いんだ】


【分かる気がする】


【だろ? どうにも難しい問題でよ……】


【みんな納得したら戻ってくるんだよね?】


【そん時は間違いなく】


【よっしゃ。聞いたぞ?】



 勇太と佳穂の問題はあっさりと解決した……ように見えるが、あくまで文面での遣り取りである。本心はどうだか解らない。


 個別チャットは『1-5知った者倶楽部』のメンバーだけでは無い。中等部の子も年長者に相談中である。


【梢枝先輩? あたし、憂先輩の事、本気なんです!】


【美優さん? 憂さんは不埒な輩に狙われています。危険ですえ? 危険なだけではありません。優さんの事を想い告白。万どころか億が一、奇跡が起き、美優さんの想いが実ったとしても、今の憂さんは女性です。世間の注目を浴びる憂さんと付き合えば、世間は貴女に何と言うと思います? 誹謗中傷の嵐ですえ? 諦めた方が賢明です】


 ……マジレスである。梢枝は『憂&千穂派』である。相談する相手が間違っている。梢枝は諦めさせようと、理論的に諭していた。


【でも!】


【例え、思いを遂げたとして、バスケ部で躍動されるおつもりであれば、憂さんは何と思われるでしょう? 憂さんはもう公式戦で戦えません。憂さんの事ですから間違いなく応援はしてくれますえ? けれど、それは本心からでしょうか? よく考えてみて下さい?】


 美優。この子がグループの参謀とも謂える和風美女による、かつてないほど強烈な説得が、机上の空論から成り立っている事に気付く日は来るのだろうか?



 この後、困った美優は兄に相談を持ち掛け、再びバスケを続ける続けないの話となってしまい、拓真は梢枝にクレームを付けたのだった……が、余談である。




 まだ、他にも個別チャットに勤しむ者は居る。

 この名無しアプリを『再構築』の発覚以降、唯一手にした女性だ。


 この時、その女性は総帥の部屋の隣、例のオフィス内で総帥秘書と共に在った。

 彼女から学園生のアカウントIDを受け取り、1人1人と接触を図っている。


 太藺(ふとい) 彩。


 彼女は、憂の為人(ひととなり)を学園外……。一般へと周知する重大な役割を担っている。もしも憂が、差別と偏見に(まみ)れた輩と接触した時、それは大きな危険を孕む。それを未然に防ぐ為、彼女は憂の仲間たちにインタビューのアポイントメントを取っているのだ。


「遥さぁーん! ……あの子たち、男子バスケットボール部と決戦するんですよね?」


 遥は珍しく眼鏡着用である。そのレンズには若干の色が付いている。PCの電磁波をカットするレンズでも入っているのかも知れない。


「ええ。そう伺っております」


 相変わらずの地獄耳である。梢枝情報なのだろう。


「じゃあ、きっと今日辺り、このチャットが動いてるはず……なんですけど……」


 この太藺さんも感度の良いアンテナを脳内に仕舞っているようだ。そうで無ければ、総帥の秘密に近付かなかったはずである。


「……言い淀む。余り感心出来ませんね」


 手厳しい。だが、彩への配慮なのだろう。この言い淀むと云う行為は誰よりも総帥が嫌う。


「……じゃあ、聞いちゃいますよ? あの子たちのチャット……。覗けません?」


 聞いた彩を隣に置き、聞かれた遥は……、ふっと笑った。ヤケに柔らかな表情であり、彩の瞳に焼き付いてしまった。

 だが、それも数秒の事だった。遥は鉄仮面を再び被ると、「不可能です。そのアプリの暗号化は絶対です」と断言した。


「なんでそんな完璧に作っちゃったんですか……」


「……私も後悔しています。個別チャットを覗く事が可能であれば、あの子たちの本心を覗けると言うのに。完全に失敗です」


 ……どうやら、遥は似た部分を見付け、喜んでしまったらしい。







 最後にもう1度、憂の部屋では……。


 2人仲良く憂のベッドにうつ伏せで隣合っていた。

 仲の良い姉妹そのものである……が、これでいいのだろうか?


「1度……。デート……してみたら?」


「――え!?」


 圭祐の告白を知ってしまった後の千穂の言葉である。

 定まっていたはずの決心は、またも揺らぎ始めてしまっているのだ。梢枝に圭佑。性別まで違うが、つまるところは千穂の遠慮……なのだろう。


「やっぱり……。男子との……可能性も……」


 千穂の言いたい事は解る。千穂は千穂で、夢であった子どもたちに囲まれた生活を諦める覚悟は出来ていたのだろう。事実、子どもは出来にくい体であると告げられている。


 ……だからと言って、憂が子どもに囲まれる将来を潰す理由にはならない。子どもへの想いが人一倍強い千穂だからこそ……な部分もあるのかも知れない。


 本来の健全な形は、千穂も憂も母になる事……。これなのかも知れない。



 ……結局、この後、憂と千穂はじっくりと時間を使い、話し合った。


 その結果、京之介の時と同じ、お試しデートへと進んでいくのである。




 

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