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178.0話 梢枝の日常

 


 ―――11月6日(月)



「憂ちゃん、おはよ!」


「結衣――おはよ――」


「千穂ちゃん、佳穂ちゃん、千晶ちゃん、梢枝さんも康平くんも拓真くんも凌平くんも圭佑くんも、みーんなおはよっ!」


「おはよー! 最初っから『みんなおはよ』でいいんだぞー?」


「それじゃなんか。味気ないから」


「わかる気がする。でも何故だか違和感」


 結衣さん、ホンマに目立つようになりはったわぁ……。


 さっきスマホで時間を確認した時には【8:42】を示していた。それが3分ほど前。もう5分もすれば、リコちゃん到着するよって……。安全時刻に突入できる……。



 本日も無事に蓼学に到着。親衛隊は今日も5組教室のドアまでの護衛で退散。

 学園内の騒動を未然に防止する部は1人戻って以降、人員の回復は見られず。部長を含めてたったの5名……。これでは活動もままならない状態やわ。


 でもねぇ……。これ以上の規模の拡大は難しい。憂さんに想いを寄せる人たちは、憂さんの気持ちを存分に考えはってる……。


 今まで、数々の告白をお断りしてきた理由は何か?


 1つ。元が男子だから。


 1つ。千穂さんの存在。


 1つ。後遺症により、恋愛どころではなかったから。


 1つ。隠していた事への罪の意識。


 ……こんなところですかねぇ……? あの部に所属していた方々が憂さんに対して思ってはる事は……。


 これから先、憂さんはまた数々の告白を受けられるはず……。どうするんやろかぁ? 千穂さん……、しっかりと捕まえてないと奪われますえ?


「たにや「圭佑」


 またやってはるわぁ……。なかなか覚えられませんねぇ……。


「けいすけ――。でこぴん――おしえて――?」


 …………デコピン?


「ん? あぁ……いいよ?」


「デコピン?」


 千晶さんも疑問系? 千穂さんも佳穂さんも不思議そうやわ。


 ……拓真さん。彼は何か知っておられますねぇ……。


「ほい。やってみ?」


 圭佑さんがおでこを突き出す。でも憂さんはふるふると首を横に……。


「わるいから――じゃんけん――」


 相変わらず律儀……。憂さんのストロングポイントの1つ。そないな可愛らしい外見で律儀やったら、そら人気者になりますわぁ……。


「………………」


 圭佑さんは色々と言いたそうですねぇ。解ります。ハンデ無しで憂さんとデコピンじゃんけん……。やりにくい事、この上ありません……。


「まぁ、いいわ。最初はグー。じゃんけん、ぽん」


 じゃんけんへの反応は以前と同様、スムーズ。蓄積された経験で動いてはるんやわ。


 憂さんはグー。圭佑さんはパー。


「うぅ――。てかげん――」


 もう涙目。なんでそないになってまで……? 憂さんは前髪を掻き上げて、ギュッと目を閉じる。


 パコ。


「いた――」


 物凄い手加減を見た……。


「圭佑くん! ひどい!!」


 また結衣さん……。憂さんの頭を後ろから抱き抱えておでこをよしよし。随分と手加減した圭佑さんが可哀想です……。


 ……でも面白いわぁ……。


「もう――いっかい――」


「さいしょはぐー、――じゃんけん、ぽん――」


 憂さんチョキ。圭佑さんグー。


「うぅぅ――」


「ほら。憂、でこ」


 また前髪を上げて、綺麗なおでこにパコ。「いたっ――!」と可憐な声……。これは……いけません……。おかしな気分になって……。


「――さいしょはグー! じゃんけん、ぽん――!」


 ……また、負けはった……。わざと……な、訳ない……ね?


「私が! 私が代わりに! 憂ちゃんのライフはゼロだからっ!!」


 ……いくら憂さんでも、そんなに削られてないはずですえ?


 パコッ。


「いたっ! なんで!? 軽くに見えるのにっ!」


「軽い……。10%も出してねぇ……」


 ……10%? それは本当? 拓真さんの顔は真面目そのもの……。本当みたいね……。


「憂ちゃん! 代わりにじゃんけんしてあげる! 勝ったら憂ちゃんが!!」


 結衣ちゃんのおでこをよしよししてはる憂さんに佳穂さんの宣言。

 それは聞き取れませんよ?

 それにしても結衣さん、嬉しそうです……。憂さんに絡むようになってから、活き活きしてはる……。今まで、抑えてた……ん?


「ぎゃー! 負けたー! じゃんけん強すぎー!!」


「佳穂ちゃんかぁ……。3割ほど出していい?」


「ぐっ……。結衣ちゃんの時の3倍……! どんとこいっ!!」


 パコンっ!


「……っ!!」


「佳穂――! なんで――!? たにや「圭佑!」


「あぁぁ!!」


 なしてわしゃわしゃさせるんですか……。圭佑さん……。


「はーい! みんな、おはようございますー!!」


 ……リコちゃんセンセ到着ですねぇ……。圭佑さんの1人勝ち……。なんとも気まずそう……。





「先週の生徒会のアンケートの集計結果が出ました! この5組では全員賛成だった文化祭のおかわりは……。

 残念ながら過半数に僅かに届かずで、ちょっと難しそうです……。生徒会選挙と別口の開催なら出来そうなんですけど、生徒会は選挙との同時開催を外す気が無いそうです。気持ちは解るんですけどねー。この蓼園学園創設以来の伝統なので……。なんとか5組の総力を投入してバックアップしてあげられないかな……なんて思っています!! ご意見ありましたら私か生徒会の方に提案お願いします! 私は、おかわりしたいです!! 今日はそれだけですね。それじゃ、また2時間目に! またね!」



 ……リコちゃんセンセの言いたい事は、よくわかる……。開催途中で中止になった最大イベント。その原因の中心は憂さん……。もちろん、個人で生中継した輩や、雑誌の記者たちの暴走が主な要因なんですけど……。それでも憂さんの為にも『おかわり』を成功させたいんですわぁ……。


 あぁ……。あの生放送の主さんは垢バン喰らって晒し上げられて、画像を見せ付けられた生徒の両親との間で訴訟問題にまでなりかけ……、現在は親御さんと示談交渉中。マスコミを敵に回す気のない学園は訴えるつもり無し。それを好意的に捉えた記者たちは学園寄りの記事を並べ始めている……。


 そんな事はどうでもええ……。


 強制参加の文化祭に対して、おかわりでは任意参加にせざるを得ない……。そこが生徒会の弱み……。それに対して学園の回答は、生徒会が選挙との同時開催を掲げる以上は、最低でも過半数の投票を確保する事……。これで間違いないはずです……。


 せやねぇ……。


『文化祭おかわり』の注目度を高める方法はある。でも、それは憂さんへの敵意を増大される恐れが……。どうしたもんやろかぁ……?


「じゃんけん――ぽん!」


 また始めはった。何がしたいんやろか? 折角、髪を梳いて貰ったのに……。


 梢枝【どういうことです?】


 個チャ。教えてくださいな……。


「また――まけた――」


 相変わらずよう通る声ですねぇ……。声帯が幼児のように幼いんですかねぇ……? 幼児の声は守られる必要があるよって、よう通る。それと一緒……?


 まぁええわ……。解らないものは解りません……。


「――だめ!」


 ……ダメ? あぁ……、でこぴん受けの代理ですかぁ……。早う個チャ返して下さい。まだ入力中……。こないな距離じゃなくて、憂さんの近くに行きたいんですよ?


【憂は勇太と京之介に会いに行くつもりだ】拓真


 ……A棟へ? それとデコピンにどんな関係が? チャットだとマシだと思ってたけど、やっぱり言葉不足は否めませんねぇ……。


「いたっ――!」


 ……。


 もう我慢出来ません。



「もう、やめとけ? コツ……教えてやっから……」


「そうだね。軽くでも赤くなってるし……」


「圭佑くん、さいてー」


「マジ酷すぎるー」


 圭佑さんも可哀想ですねぇ……。そろそろ助けてあげないと……。


「待て待て! あれだけ言ってあげてるし、手加減もしてる! 圭佑は悪くない!!」


 へぇ……。健太さん、相変わらずええ人ですねぇ……。女子への気後れも無い彼は、なかなかええ男かも知れません。


「オレと勝負だ!!」


 ……とは言えども、女子の皆さんも冗談のはずなんですけどねぇ……。


 ……。


 ……冗談ですよねぇ?


「ん? 全力でいいん?」


「健太……。やめとけ……」


「最初はグー! じゃんけんぽい!! よっしゃー!!」


 勝ちましたねぇ……。圭佑さんの負けは初めて見ました……。


「OK。憂……? よく見とけ?」


 憂さんが頷くと、健太さんにそのコツを伝授し始める……。


 おでこに人差し指と薬指をセット、左手で思いっ切り中指を引っ張り、中指はゴムのように力を蓄える……、その中指を引っこ抜くように、更に左手で引っ張り、離す。


 バシッ! ……ええ音したわぁ……。


「てー」と、おでこを擦りつつ、圭佑さんは「どうだ? わかった?」と憂さんに優しゅう問い掛ける。ええ人やねぇ……。


「もう――いっかい――」


 ……そのおかわりは、どちらかにダメージ行く……まぁ、ええわ。じっと見入る憂さん、綺麗やし……。


「おっけ! もう1回! 最初はグー! じゃんけんぽい!! あいこでしょ!! ぎゃー! 負けたー!!」


「ケケケ……。憂? よく見てろ……?」


 うわ。めっちゃ悪い顔してはるわ……。

 圭佑さんは同じように右手の第2指と第4指を健太さんのおでこにセットし……、左手で引っ張り、右手の中指を発射……バコッ!!


「っっ!!!」


「「「………………」」」


 えげつない……! 拓真さんがやめとけ言うた理由がよう解る……。そんな拓真さんは「ククッ……」と1人だけこっそり笑っておられますわぁ……。


「そんなに痛がるなよー。まだ全力じゃねーんだぞ?」


 ……え? それは嘘ですわぁ……。


「……だな」


 拓真さん!? 本当なんだ……。怖い……。


「どうだ? 憂?」


「ひっ――!」


 ……憂さん、怯えてはる……。貴女が言い出した事なんですえ……?









「じゃあ、今日の授業はここまでですっ! また明日っ!!」


 2時間目……。終わりましたねぇ……。授業が退屈でいけません。リコちゃんセンセの授業はまだマシなんですけどねぇ……。初めて聞く事柄なら相当、興味持てる授業なんやけど……。

 ウチの場合、2度目やから……。教科書違うても、似たようなもんだし……。


 ……なんか、標準語で考え事出来なくなった気が……。


 まぁ、ええわ……。


 ……ええのかな?



 ……康平さん?



 ウチが先行……? まぁ、無難だね。憂さんたちは任せましたえ?




 憂さんのお手洗い……。憂さんは多目的トイレを使ってはる。自分を嫌がる人間に嫌な思いをさせない為……。そんな気ぃ使ってやる必要など……。


 ……だからこそ惹かれる人が続出するんや。ウチらは黙って憂さんが遣りたいようにやらせてあげるだけ。憂さんの想いは皆さんにいつか届くはずです……。


 足早に教室から出て、6組側へ……。


 あん時の背ぇ高い女子やわ。山垣さん、でしたねぇ……。凜さん、転室しはった事、どう思って……。気付かれた。

 ……ええ目、してはるわぁ……。少しも考え変わってへんねぇ……。何度でも『話し合い』ますえ? また今度が残念ですねぇ……。


 7組、8組を通過……。敵意を見せ付けてくる方は減少してます……。そろそろ変わってしまいますわぁ……。今の内にやめはったほうがええですえ?


 8組横のトイレを通過し、階段へ。一瞬、上級生たちと邂逅する危険なポイント。康平さん、しっかり頼みます。憂さんはエレベータの使用を善しとしません。障がいを全面に押し出す大人たちとは裏腹に、憂さん本人は障がいを言い訳にした行動は避けてはる。


 全面に出す人たちが汚く思えるほど……。本当の平等を憂さんは解ってはるんやろねぇ……。まぁ、ウチの思う平等なんやけどねぇ。


 ウチは我が物顔で歩道のど真ん中を通り、健常者を避けさせる電動車椅子とか嫌いや……。どちらも少しずつ避ければええんやないですか? 互いが互いをリスペクトしてこその平等やあらへんか? 健常者が遠慮し、言葉は悪いけど、障がい者が増長する世の中はおかしい思う。


 …………。


 どれが正解なんだろうね……?


 階段を右に折れると、東校舎に……。おばちゃまの家庭科室、音楽室、美術室を通過すると多目的トイレと普通のトイレ……。エレベータはまだ先……。作りの悪さが目立ちます。D棟も同じ作りなんやろかぁ? ほぼ完成してるはずなんやけどねぇ……。今度、覗かせてもろうてええやろかぁ?


 来年の新1年生は今年より少なくなりますわぁ……。創設以来、初の前年割れの気配……。まだまだ憂さんの事、学園関係者以外には周知出来ておりません。もっと、知って頂かないといけません。


 多目的トイレにひと足先に……。以前は部長さんの指令で部員さんが行なっていた安全確認ですけどねぇ……。車椅子時代には、盗撮しようとしていたらしいピンホールカメラを発見しはった部員さん……。ええ仕事してはったのに……。部長さんが元部員さんの説得に動いて今は活動休止状……。なんや?


 …………?


 ……変なコード。それを辿ると案の定、カメラを発見……。どこの変態の仕業ですかねぇ……? 指紋など出ないでしょうから……。めんどくさい手合。バレたら退学確実……。それでも憂さんに興味がお有りなんでしょうねぇ……。


 あから様なカメラ……。このトイレは少し広いですねぇ……。これはダミー。最低、もう1つはどこかに……。洗面台……? いえ、まずは便器内……あった……。上手いこと隠してはるねぇ……。


 抵抗のある場所に、よくもまぁ……。まぁええわ……。ここを使うのは憂さんくらい……?

 ……それと、憂さんがここしか使っていない事を知っていて、同じ便座を使いたい変態。要らん事、考えてしもうた……。便座とか舐めてない事を祈ります……。


 あぁ……。嫌やわぁ……。へぇ……くっ付けてはるんか……。


 はぁ……。タイムアップですねぇ……。


 開くスライドドアと姿を現す憂さん。


「――梢枝? ――なんで?」


 ……便器の穴に手ぇ突っ込むウチ。遣る瀬無いわぁ……。


「梢枝? どうした? 間に合わんかった……か……」


 憂さんの後ろから覗き込んだ康平さんの言葉は尻すぼみ。千穂さんも憂さんとドアの隙間から……。拓真さんもその上から……。佳穂さん、千晶さんまで居はる……。総出で、こんにちは……。


「隠しカメラ……発見……」


「え!?」

「梢枝さん! ホントに!?」


「まだあるかも知れへん。手伝ってくれますかぁ……?」






「……気持ちわりぃな」


 結局、総出で見付けたカメラは3台。1つは防水、超小型の高級品。

 蓼園商会本社か中枢関連企業の重役のボンボンの仕業ってところですかねぇ……?

 その線で当たってみますかぁ……。変態は死んでもええですわぁ……。


「――ボク――を――?」


 変態と言えば、以前の通学路の無職ニートの通販男……。ついにボウガンなんて物を手に入れはった……。ウチからの報告を受けた遥さんは、張り込みを1人から3人に増員。そろそろ軽犯罪法違反で捕まる予定……。そこからストーカー規制と総帥さんの力で潰す方針……。


「そうや。憂さんには……男の娘の……疑惑が……」


 ……康平さん?


 いえ……、知って貰わねばなりません。何でも隠してしまうウチの悪い癖ですねぇ……。また、やってしまうところでした……。 


「だったら――いいのに――」


「ホントだよね……。だったら、こんなに……苦労しないよ……」


 千穂さんと憂さんも一緒に……ですね……。


 ……この男の娘疑惑の払拭、どうしましょうか……。



 …………。



 やっぱり、お会いしますかぁ……。生徒会長さんに提案ですわぁ……。湧いた敵はウチらが排除すればええ……。それだけの事……。


 忙しくなりますわぁ……。


 憂さんとも少し離れる機会が増加……。



 ……寂しいわぁ……。





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