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175.0話 氷解

 1年前の今日、この半脳少女の投稿を開始致しました。

 処女作でもあり、本当にドキドキワクワクしながら投稿した事を憶えています。

 初期の頃には、どんどんと伸びるポイントに驚きつつ、次々にレビューを頂き、その敷居の高さを勘違いしてたのは、懐かしい記憶です。


 ……この半脳少女も折り返し地点は過ぎております。

 本年度中の完結を目指しておりますが、予想以上に文字数行ってしまう作者ですので、どうなる事やら……。


 それと、前話の前書きでも触れましたが、見直し、改稿作業に取り掛かりたいと思っています。

 その影響で、しばらくの間、更新ペースが落ちますが、ご容赦下さいませ m(_ _)m









下記より本文です。


   ↓

 


 主役2名、いずれも不在の誕生日会の中……、リビングでは大いに盛り上がっていた。もちろん、梢枝や拓真たちはヒソヒソ語り合っているのにも関わらず……だ。


「じゃあ、2人は付き合っているのかい!? まだ高校1年生なのに凄いね!」

「ホント! 私たちの頃なんて、そんな事、バレたら冷やかされ続けて大変だったわよ!」


 それもその筈、この両親にして、佳穂あり……と、言えば良いのだろうか?

 つまり……、2人ともが騒がしい。


「2人は健太くんの勘違いから付き合い始めたんですよ」

「ちょ! 優子ちゃん、バラすなよっ!」


 みんな喋る事に一生懸命になっており、用意された肉も野菜も一向に減る気配が無い。折角の料理たちが可哀想である。野菜スティックもどこか萎びた印象を受けてしまう……が、気の所為だろう。


「詳しく!」と話に乗った佳穂母に、有希は「ちょっと! 勘弁して下さいっ! ゆっこ! あんた口軽すぎ!」と突っかかったが、それも単なる笑い話にしかならない。


「それで2人はやっちゃったのかい!?」


 とんでもない事を娘のクラスメイトに聞いたのは佳穂父だ。大守家は、さぞかし夕飯時など喧しい事だろう。

 問われた2人は赤くなり沈黙した。沈黙して同時に「「そんなワケっ……!」」と取り繕った……が、もう遅い。優子も凌平も結衣もはっきりと2人は経験者と認識したはずだ。


 ……何がかは良く判らない。


 色々と有希に聞きたそうな顔をした優子と結衣だったが、それは未来へ持ち越しとなった。


 カンコーンと、どこかが鳴り、来客を告げたのである。


「はいはーい! もう! いいとこなのに!」と、佳穂(・・)母が玄関に向けていった。


 すぐに梢枝も動き出した。脱衣所に向けて……だ。すると、脱衣所から出てくる千晶とばったりと遭遇し、何故だか残念そうに眉を下げたのだった。少し、覗いてみたい気持ちがあったのだろう。

 梢枝は、憂の汚れてしまったドレスを受け取ると、千晶と共にそのまま玄関へ……。先程の相手は梢枝が呼んだらしい。



 玄関に到着すると、とんでもない男がそこに居た。今回の海外行脚では国内に留まらせ、存分にその腕を揮わせていた女性と黒服の男……、更に、どこかで見た顔を伴って。


「お久しぶりです。わざわざご足労、すみませんねぇ……」


「はい。それではお預かり致します」


 そのとんでもない男の傍らの女性が憂のパーティドレスを受け取り、黒服に手渡すと、「たしかにお預かりしました。それでは私はここで失礼させて頂きます」と消えていった。その為だけに連れて来られたらしい。


「は、はじめまして。どうぞ、お上がり下さい」


 困惑し、慌てる佳穂母だったが、男の事は知っているらしい。知らないほうがこの街では珍しい。





 梢枝と千晶、佳穂母は男と女性2名を連れて、リビングに突入した。佳穂母にとっては勝手知ったる我が家のようなものなのかも知れない。いや、一応、山城の娘がいるから問題ないのだろう。


 学生たちに緊張感が漂った。子どもたちだけではない。佳穂父もカチンコチンに凍った。


 この誕生日会に顔を見せた男とは……、毎度、お馴染みの愛嬌のある割に特徴は突き出た腹……。それでいながら格別の存在感を放つおじさん。蓼園 肇、総帥閣下である。


「久しいな! 諸君! おぉ! すまん! 君たちが千晶くんの両親か!? 初めましてと言っておこう!」


 盛大に勘違いをしている……が、それも仕方ない。佳穂の父母は、まるで家主のようにこの場に存在しているのだから。


「肇さま? こちらは佳穂さまのご両親に御座います」


 対する秘書は把握済みらしい。彼女の情報収集能力は侮れない。


「う、む? そうか! すまん! 佳穂くんのご両親どの!」


「は! はじめまして! 噂はかねがね……「違うでしょ! あはは! すみません……。失礼な主人で……」


 しどろもどろな挨拶は、佳穂の両親だけではない。健太や有希たちは誕生日会で見ただけだ。直接、話した事などない。千晶でさえそうだ。


「あ……! その! お久しぶりです!」と健太が慌てて挨拶すれば「あのっ! ……はじめまして……?」と有希が挨拶に困った様子を見せる。


「えっと……。はじめまして……?」と優子も似たようなものだ。そんな中、「こんばんわ!」と元気に挨拶した結衣には限りない可能性を感じる。


「お久しぶりです」

「お久しぶりです……」


 拓真と千晶の挨拶は落ち着いたものであり、ほう……と、総帥は口腔内で賞賛の声を漏らした。更に肘でせっつかれた美優が「こんばんわ……」と、兄とは対象的に消え入りそうな声で宵の挨拶を行なった。結衣に倣ったのであろう。


 康平は「お久しぶりです」と良い笑顔だった。愛も同様。「こんばんは。いつもお世話になっております」と、どこか安心したように頭を垂れた。


「ふむ。健太くんに有希くんだね? 君が結衣くん、優子くん。君は拓真くんの妹だったな? 美優くん。拓真くんも康平くんも梢枝くんも千晶くんも、よく憂くんを守ってくれた。感謝の必要など無いと言われるかも知れんが、やはり儂には感謝の気持ちが湧いてくるわ。愛くん、君にも苦難の道を歩ませてしまっている。済まない」


 蓼園氏は、愛に案外、しっかりと頭を下げると、挨拶の遅れた最後の1人に目を向けた。


 最後の1人はその目を真っ向から見据えると「はじめまして……で、良いですか? 総帥閣下?」と、どこか挑発的に聞こえる口調で他者に倣った。


「うむ。直接、話していないのであれば『はじめまして』でも構わんだろうよ。君も精力的に動いてくれたそうだな? 感謝する。凌平くん」


 学生……、憂の周辺の人物は全て把握していると謂わんばかりだった。実際にそうなのだろう。彼の手元にはリストがあるはずだ。


「色々とお伺いしたい事があるのですが、その前に……そちらの女性は? どこかで見た気がしますが……」


 秘書・一ノ瀬 遥の事を言ってる訳ではない。もう1人の、どこか居心地の悪そうな女性に向けられている。特に特徴も無く、黒髪を後ろで1つに纏めたスーツ姿の女性だ。凌平は口ぶりとは違い、その女性が誰であるか知っていると雄弁に顔が物を言っている。


「お気付きの方もいらっしゃるようですが、紹介させて頂きます。こちらの女性は、()芸真ジャーナル社の社員であり、その手口を内部告発する事により、正義を蓼園総合病院に与えて下さった、太藺(ふとい) 彩さんです」


 紹介された元・記者は、口を利かぬまま、深く深く頭を下げた。10月21日……。今から丁度、2週間前の発露の責任を一身に抱え込んでいるようにも見えた。挨拶というよりは、贖罪に近かったように思える。


 そんな彩が顔を上げ、口を開こうとしたその時だった。


「あ――! そうすい――! ひさしぶり――!」


『あ』と聞いた瞬間には、総帥の目尻は下がり始め、『久しぶり』と聞き遂げると同時に「おぉ! 憂くん! 久しぶり!」とお返しした。






 突然に来訪者3名は、ほんの10分ほどで撤収していった。自分が居れば盛り上がり辛い事を総帥は承知している。ある意味、不憫な男である。


 蓼園氏は、憂&千穂の癒し系コンビと語らっただけだ。


『憂くん! 千穂くん! 記者会見! 見たぞ! 見事だった!』


『憂くんは……! いや! 千穂くんも女神を支える天使だった!』


 彼の中で、もはや完全に憂は女神に進化したらしい。千穂も天使へとジョブチェンジしたようだ。

 この両名、千穂が喰ってかかったあの一件以降、初めての接触だった。

 総帥は大人であり、千穂もそこまで子どもではない。互いに歩み寄り、両者に残っていたであろう、わだかまりを瓦解させていったのだった。


 総帥の裏で動く秘書は、憂のキーパーソンである愛に1つの打診を行なった。

 姉は、その打診を保留とした。自身の一存では決め難い、心情的に父にも母にも弟にも相談しておきたい事柄だったのである。


 去り際となり、改めて彩が口を開いた。


『憂さんにも、ご家族、ご友人、関係者の皆様に本当に申し訳ない事をしました。勝手な話だと言う事は重々承知しております。でも、憂さんの力になりたい……。可能であれば……、先程の遥さんの依頼……、お受け頂けるのなら全力を出し切るつもりですので、どうか宜しくお願いします……』










「こ、これはマジか!?」


 千晶の両親と佳穂は、総帥たちが帰ってから1階に戻ってきた。動揺のひと言は総帥が置いていった佳穂へのプレゼントを開封後、しばらくしてから発せられた。


「……こんなの、お返し出来ない……」


 少し遅れて開封した千晶も、さも困ったと呟く。同じ胸中になった事のある者たち……、つまり彼からの贈り物を頂いた事のある愛と千穂は揃って、困り顔で乾いた笑いを見せている。


 総帥のプレゼントは、千穂の時と同じくネックレスだった。そのネックレスは雫のような銀色が先に付いている。

 2人のネックレスを組み合わせると、ハート型になると云う、小洒落た物だった。総帥の耳に入る情報により、彼は一心同体、2人で1人……のような印象を佳穂&千晶に抱いていたのだろう。


 石も付いておらず、パッと見……と言うか、単純な石と鎖の金額では千穂への贈り物のほうが高いだろう。


 問題は、それが入っていた赤い箱だ。ブランドだ。【 Cortier 】とロゴが入っている。時計で相当、名を売っているブランドだ。


 最初は『またお高い物を……』で済んだ。『いくらするんだ?』と健太が発した不用意なひと言から各自、スマホを取り出し、検索を始めた。しかし、同じデザインの物がどこにも見付からないのである。


 一点物……。いや、2つだが、2つで1つのようなデザインの為、2つ合わせての品と受け止めさせて頂く。

 つまり、高級ブランドにオーダーメイドした品であるのだ。いくら掛かった物か誰1人、想像出来ない。何度も言うが、セミオーダーではない。完全オーダーだ。


「ホント、金額的なお返し出来ないからさ。総帥さんの誕生日、いつかみんなでお祝いしましょ……?」


 愛の提案に佳穂も千晶も……、千穂までコクコクと何度も頷いたのだった。




 それからようやく食事会が始まった……と言うか。再開されたようなものだ。


「おなか――すいた――」と、涙目の子が出現したからである。

 とは言え、乾杯も済んでいた……が、何となく乾杯をもう1度する運びとなった。


 再開された誕生日会は大いに盛り上がった。


 佳穂の父母はそれぞれ盛り上げ役に適任だったのである。笑顔が絶えない。そんな誕生日会となったのだった。













「……楽しかったね」


「……だね」


 本日の主役2名は、ゲストたちを見送ると余韻を引き摺ったまま、千晶の部屋に引き篭もった。意外な気もするが、可愛い小物に溢れた女の子女の子した部屋である。


「それ……。憂ちゃんのプレゼント。開けてみて?」


 佳穂の傍らには、誕生日プレゼントたちが並んでいる。その中に可愛らしい紙袋で梱包された、薄っぺらい贈り物があった。それが憂からのプレゼントである。


「でも、憂ちゃん1人でって」


「うん。そうなんだけどね。憂ちゃんにとって、わたしたちの間に隠し事なんてないんだよ。だからそう言ってプレゼントしてくれたんだよ。間違いなく」


「……?」


 千晶には何やら確信があるらしい。佳穂は訳が分からず、小首を傾げながら「じゃあ、開けてみる……」と幼馴染の言葉に従った。


 白い地に黒のドットの入った紙袋を封印するマスキングテープには、バスケボールが並んでおり、佳穂はクスリと頬を緩める。


 そっと壊れ物を扱うように、マスキングテープを剥がし、中身を取り出す。


 ドットの紙袋から現れたのは、青いハンカチだった。


「やっぱりそう……なんだ……」


 幼馴染の言葉を理解出来ず、佳穂はハンカチを広げる……と、佳穂のようなショートカットのセーラー服の何かが左端に刺繍されていた。拙い仕事だ。急に上達するはずもない。


「これ……、あたし、だ……」


 もう佳穂の声は震えている。瞳は潤み、今にも零れ落ちそうなほどだ。憂が頑張った補正は揺るぎない。




 千晶は勉強机から一枚の青いハンカチを大切に取り出すと、ふわりと広げた。広げ、佳穂が持つハンカチの横に合わせた。







 ―――2枚のハンカチと云う舞台の中で佳穂と千晶は手を繋いだ。






「ち、ちあっ……。あ、たし……ごめ……ん。ぜん…ぶ、きいた……。おとう、さんに、はなされ、たんだ……って……」




「そっか……。お父さん、根性見せたんだ……。お母さんが無理矢理……かな? ……それでも少しは見直した。ほんのちょっとだけどね」




「ごめ、ん……。あたっ……、し、ひどい……、こと、ち…あき、に……いった……」




「佳穂……? また、仲良くしようね。本当に仲直り……。いい?」




「ゆっ、ゆるして、くれ…る、んだ……」




「佳穂の事、元々怒ってなんかないよ。わたしも佳穂の立場だったら……ね?」




「あり、がとっ……」




「昔の佳穂だったら絶対に謝らなかったはず。憂ちゃんって凄いよね」




「うんっ……。うんっ……!」




「おいで……?」




「ちあきぃ!」





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