170.0話 周囲の周囲とその周囲
昨晩、『TS婆さんの話』の話の続編。『続・TS婆さんの話』をUPしていたりします。
そのまんまのタイトルですねぇ……。
チラリと読んでみて下さい。5分ほどで読めますよ(*´ω`*)
―――11月2日(木)
この日の前日。水曜日の放課後、千晶のバースデイプレゼントが応接室内で開封されていった。もちろん、千晶の同意の上で、である。その数、親しくない者から150と9つ。憂の誕生日に比べれば少ない。だが、それでも周囲を驚嘆させるには十分な数である。
千晶にプレゼントを渡した者にとっては、憂とそのグループへの支持表明と同意義だ。それはグループメンバーにとって、勇気づけられる贈り物なのだった。
実はこの数日間、学園内には、とある変化が見られている。
それは、一時期の流行は何処へ行ったかと思わせるほど、あの時を境に装着する者が激減したリストバンドだ。新たな動きは親衛隊から始まったものらしい。
強く憂とそのグループを支持する者は、リストバンドをわざわざ右腕の長袖を捲り上げ、或いは長袖の上に着用する事により、その支持を表明し始めているらしい。
ここ最近、憂から離れ活動出来るようになった梢枝からもたらされた情報である。
『今のところは、有り難いことですわぁ……』と言う感想だった。先のことを考えると違うらしい。
そのプレゼントの内容は1位がシュシュやらバレッタと言った、ポニーテールに由来するものなのであった。実にプレゼント総数の7割を髪飾り系で占めていたのである。その残り3割の半分はダイエット関連の品……、みんなよく見てるよね、と呟いたのは千穂であり、千晶を含めた全員……? いや、1名を除く全員が納得していたのだった。その1名とは、状況になかなか追いつけない子の事だ。
帰宅後に開封した、その憂からのプレゼントは、青いハンカチだった。
そのハンカチの何故か右端にポニーテールの千晶と思われる、白いセーラー服に紺のスカートの少女が刺繍されていたのである。間違いなく姉のフォローも入っているのだろう。それでも、不器用な右手を繰り返し繰り返し使い続けた、心の籠もりすぎた贈り物に、人知れず涙を見せた千晶なのであった。
なお、自宅で開封した理由は、憂が涙目で『ここで――こまる――』と懇願したからである。しっかりと上目遣いだった。狙っていた部分もあったかもしれない。
……他のメンバーの贈り物の中には、バッシュがあったのは語るまでもないだろう。
そして木曜。この日の朝、5組の人数が増えた。3名の少女たちである。かねてより、申請を出していた6組の150cmに満たない小柄で小動物的な可愛らしさを持つ、凛とその友だち2名である。残念ながら勇太と京之介の両名は未だ、戻ってきていない。
それはさておき、千穂が不機嫌である。あの日では無い。千穂の生理は先月の20日……、前回より数えてジャスト30日。婦人科医・蔵迫の指導により、適度な運動と栄養面のアドバイスなど、内服以外の方法を取り入れ、順調に経過している。よくよく考えれば、千穂の運動不足も多分に影響していたかも知れない。京之介の特訓開始から次第に良くなってきている……と、云えるの……だろうか? その辺りはよく解らない。
「お買い物したい!!」
朝からこればっかりである。
「……母気質もここまで来たか」
千晶の指摘はズバリ正解だ。後から聞いた話だが、千穂が行きたい店とは、洋服のショップでも無ければ、化粧品の類でも無い。スーパーに行きたいらしい。
「千穂さんは危険です。もう少し我慢しておくれやす……」
千穂と憂との距離感は誰よりも近かった。もはや、学園内に於ける超有名人の1人であり、優について隠していた張本人の1人なのだ。
『知っていた事の証明』に限りなく近い……と、謂える梢枝の動画にモザイク無しで出演した佳穂千晶の2人。だが、それを確実なものとする部分は無音声で構成されている。それを視聴したとして、嫌疑は掛かれど、確信は得られない。
『知っていたはず』であるが、そこそこ平気で出歩いている佳穂と千晶とは状況が違う。千穂は記者会見に姿を見せ、はっきり『知っていた』と語っているのである。
だからこそ、千穂の外出制限は解かれていない。『まだ危険。自制を』の一点張りな梢枝の牙城を崩すことが出来ないのだ。そのストレス……だけでは無い。売れ残っていたマンションの一室とは云え、それは新築マンションの一室だ。まだまだ大きな掃除の必要が無い。料理こそ幸からの手解きにより、楽しい時間となっているものの、メニューの考案や買い出しなど、行なえない。いや、『千穂ちゃん、明日は何にしよっか?』と問い掛けてくれるが、千穂は作りたいものを決め、買い物に出掛けるタイプではなく、その日、スーパーで見付けた売り出しの食材からメニューを組み立てるタイプなのだ。
つまり自分の思う家事がこなせない。これがストレスを溜めてしまっている原因なのである。
そして、現在、2時間目の美術の時間である。この授業は1時間目との連結授業だ……が、どうでも良い話だ。
「スーパーに行きたい……。お買い物カゴが恋しいよー……」
まだ言っている。なんとも厄介な子である。千穂は言い出したら聞かない部分を持ち合わせているのは、受診の是非を巡る騒動が示した通りだ。
しつこい千穂に「オバさんちっくなヤツめ」と、佳穂が要らぬ言葉を呟いた。
傍でデッサンしていた千穂に当然、聞こえたらしく、ゆらりと立ち上がった。
「あいたっ!!」
佳穂は容赦ない平手を頭部に受け、本気で痛がった。千晶のツッコミも良い音を生じるが、重さはまるで違うものらしい。佳穂談だ。事実、そうなのだろう。
千晶が「佳穂って、マゾなの……?」とは言ってみたものの、佳穂を助けない、慰めない。千晶も梢枝も……、拓真や康平たち男子隊も佳穂を慰めない。
……巻き添えはご免……なのだろう。
千穂がこうなると影響を受けるのは、憂の周囲だけでは無い。もちろん、憂ご本人が影響を受けてしまうのである。
「――千穂?」
誰も声を掛けられなくなった千穂に、恐る恐る声を掛けた。とっくに泣き出しそうだ。千穂のストレスも理解は出来る……が、やめてあげて頂きたい。
「憂? どうしたの?」
……一転、優しく微笑む千穂。どうにもダブルスタンダードだが、千穂にとって、憂は特別な存在、なのだろう。最大の原因は憂本人にとっては仕方が無いことだが、憂の変貌からの発覚である。そんな事は、どこかに旅立ったか、記憶から抹消されているかしているのだろう。
「千穂――ボク――ごめん――」
「……え?」
勘違い事案発生である。
「憂!? 違うの!」
ようやくそんな憂に気付いた千穂は、大慌てで否定を開始したのであった。
そんないつのもグループとは別のところでは、何やら珍しいグループが形成されていた。
いきなり目立ち始めた、クラス唯一のスポーツ特待生である結衣を中心に据え、委員長の有希、副委員長の優子の仲良しコンビ……と、委員長コンビとよくつるんでいる女子2名に、結衣のサッカー部の仲間である、さくら。本日、転室を果たした凛とその友人2名。裏サイト接続者の明日香も混ざっている。総勢10名。
……つまるところ、憂のグループメンバー以外の女子全員だ。
「あんたね。急に目立ち始めてどういうつもり?」
結衣に対し、『あんた』呼ばわりするのは、いつもさくらである。
「さくら、私が元は目立つ人って事、知らないから。あたし、話すの好き。憂ちゃんほどじゃないけど大好き」
「……そんな気がしてないけど、あんたと出会って半年ほどだからね。知らない部分?」
同じ女子サッカー部同士、付き合いは濃いらしい。2人の会話は濃密な……、それこそ、佳穂と千晶の両名のような付き合いとなっているのだろう。
「……目立ち始めた理由。憂ちゃんの為だよね?」
柔らかい微笑みで結衣に問い掛けたのは、巻き込まれ属性であり、癒やし系、ふんわり美少女と何かと千穂と共通点の多い副委員長さんだ。優子と千穂が2人だけで話せば、さぞかしほんわか空間を形成する事だろう。
「そんな事ない。ない。ないよ? 私みたいなのがね。ちょっと目立っただけで。憂ちゃんが霞むワケないじゃない。そんな事。ありませんよ?」
あからさまに怪しい反応だ。動揺を隠せないタイプらしい。
「……そう言えば、この前の練習試合。あんた、珍しくずっと前線に張ってたよね? それでハットトリックどころか5ゴール。相手が可哀想なほど無双しちゃってさ。センセ、喜んでたよ。やっと本気になってくれたってさ」
「おい、さくらさんや? 味方してくれないの?」
「あんた目立ちたくないとか言ってたしさ。もしかして、今まで目立ちたくないからって、わざと試合から消えてた?」
試合から消える。これはボールタッチなどの機会が減り、まるで目立たなくなる状況を言う。結衣は、その練習試合までは度々、そのような事があった、と言うことは以前、誰かが話していたはずだ。
「そんなワケない。それで負けたら私。怒られる」
「なるほどなー! 天才って言われて、それが嫌で目立たなくなろうとしてたってか! それで今は憂ちゃんの為に目立とうとしてるのか! すっげぇな! 確かに5組から日本代表選手とか出たら目立って、憂ちゃんへの注目も減るかもな!」
簡潔に纏めてくれたのは健太さんだ。サッカーの話だと察し、女子勢の中に飛び入り参戦なのだろう。頼りになる男、復活かも知れない。前回の選考では残念ながらユース代表候補止まりだった結衣だが、今まで能力を隠していたとすれば、年齢別代表も夢ではない。
「うぅ。ちょっとやる気出したらこうなる。なんで? 私、そんなに凄い人じゃない」
本人の言葉はさておき、結衣が目立てば目立つほど、憂への目は散らされる可能性がある。やる気に目覚めたタイミングといい、本当に健太の言う通り、憂の為……なのかも知れない。
「やる気になった理由。千穂ちゃんが凄いから。千穂ちゃんが頑張るから、私も頑張ろうって」
「「「……………………」」」
健太の言葉は外れなのかも……。そんな沈黙だった。タイミング的にも千穂の記者会見やら、憂欠席の日々もめげずに出席していた頃と被っている。どうにもはっきりとしない。
「憂ちゃんの為と言えば、セナヒナ」
ごちゃごちゃしてきたところで、さくらが話を変えた。結衣はやはり、変で面白い子のようだ。賢明な判断……なのか?
「瀬里奈ちゃんと陽向ちゃん? 突然だったからびっくりしたよね。2人がいきなり、あの事、持ち出したのも憂ちゃんの為だよね」
千穂そのものな発言だが、これは優子のものである。「持ち出したのもって。私は違うから」とか、サッカー少女が言っているが、みんなでスルーした。
「わざわざカミングアウトして停学受けて……、学園長先生のイジメには断固とした処置を……を、実証してみせたんだよね。本気で憂ちゃんのこと想ってないと出来ないよ。停学明けたら拍手で迎えてあげようね」
「そんな2人に対して私は……」
優子の説明ぽい言葉に凹んだ人物は委員長さんだ。彼女は他の転室者とは、全く違う理由でだが、苦境に陥る5組の面々から距離を取った。いや、優であったことに動揺し、憂から逃れる為に転室していた。
「まぁ、仕方ないよ。有希の場合、優くんのこと、好きだったんでしょ? 亡くなったと思ってたら生きてました。しかも、すっごく近くに居ました。今の彼氏と付き合ってる事も知られちゃってます……、だもんね。逃げたくもなるよ」
そう有希をフォローしたのは、委員長コンビと一緒に居る機会の多い2名の内の1人であり、転入当初に憂&千穂と昼ご飯を一緒した、ロングヘアーを真ん中から分けたおでこが印象的な子だ。沙智と言う。いい加減、一応、1人だけでも公表しておこう。
「健太が追いかけてきたせいで、みんなにバレるし、ゆっこは私が居ない内に、私が優くんの事、好きだった事、バラしちゃってるし……。憂ちゃんが分かってないみたいで良かったけど……」
「あれは……。ホントにごめん」と有希に謝ったのは、優子だった。
何でも優への想いを思い切りバラしてしまった有希と優子は、ほんの一時期、マジ喧嘩をしてしまったらしい。
「優子ちゃん! 大丈夫だ! 今はこの健太さんがいるから!」
そんな2人の仲を繋ぎ止めたのが、この健太さんだ。彼はグループを渡り歩くタイプの為、憂たちとの接触こそ少ないものの、人の繋がりを大切に出来る、小説の主人公に据えられるレベルのいいヤツなのである。
「あー。もう、ご馳走様。いいよねー? 付き合ってる人たちは」
「いいだろー! 憂ちゃんが居なかったら付き合う事なんか無かっただろうからなー!」
「健太……。後で……ね」
「おっと!? これは説教かぁ!?」
「チューかも。あぁ、憂ちゃんとチューしたい。でも、千穂ちゃんと憂ちゃんの2人。2人を引き剥がすなんて出来ない。ハリネズミのジレンマってヤツ?」
「「「…………」」」
結衣の発言にドン引きする面々なのであった。
……しばらくの変な空気の後。
「明日香ちゃんも憂ちゃんの為に動いてるよね? 梢枝さんの信頼度、めっちゃ高いんだけど……。樹くんと何やってるの?」と、話を振ったのは優子だ。意外と自分から話すタイプらしい。千穂との相違点とも言える。
「……裏サイト」
「裏サイト……。あるって噂は聞いてるんだけど、怖くってねー」
「教えない。禄でもない集まりだ。知らないほうがいい」
憂の周囲の周囲も憂の為に……、と動いていたらしい。現在進行系の者も居る。きっと、転室した者の中にも、周囲の周囲の更に周囲の者たちと戦っている者も存在している事だろう。
憂を取り巻く環境は少しずつ、確実に上向いている。
……学園内に関しては……、と注釈を入れねばならぬ近況なのだが、それでも発覚当初より、随分とマシなはずである。
前書きで語った短編投稿ですが……。昨日、ガガーっと書いた理由。
実はこの半脳少女がスランプだったりします。今まで平均で少なくとも2000字ほど書けてたものが、今現在、一日辺り500字ほどしか進まないという体たらくぶり……。
どこを書けばいいんだろう? ……からの、これでいいのかな? そんな具合です。
8月までこの調子だと、一時的に休止して、構想練り直してから……なんて事になるかもしれません。
もしも、そうなったらごめんなさい。
もう少しで半脳少女投稿開始、一周年なんですけどね。。