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160.0話 2つのスレッド

 


 ―――10月27日(金) 就寝前



 今日で1週間……かな?

 憂と、ご家族さんとの共同生活……。


 なんか……。広いVIPルームを女子で占拠してごめんなさい。

 お父さんと憂のお父さん、お兄さんはコネクティングルーム……だったかな? お隣の……付き人さんみたいな人が泊まる為の部屋……? そこで寝泊まりされてる。ここみたいに異常じゃないけど、結構広くて良かった。


 ……広いなぁ……。何度見ても広いや。


 幸さんは運び入れたベッドで。

 私と憂と愛さんはキングサイズのベッドに。3人寝ても余裕あるんだから凄いよね。


 憂は……。なんか、ずっとダブレットをポチポチしてる。うつ伏せで。何もしてないのに、ぽこんって突き出てるお尻が可愛い。

 愛さんは……。暗いまま。コンビニで何かあったのかな?


 ……コンビニも心配だけど……、それよりも……。


 ……引っ越し……か……。


 立花さんは今日、引っ越しを済ませちゃったって……。


 私の家も引っ越しが決定……。お父さんは私に聞いてきてくれたけど……。

 どう考えても私の為だからね……。心配してくれてるのが分かるから強く拒否できなかった。

 はっきりと宣言したワケじゃないけど、私は……。私と拓真くん。梢枝さんと康平くんは憂が優だって。隠してたって。それに協力したって。

 ……そんな立場だから危ないって。


 ……隠してた事って、そんなに悪い事なのかな? 今日も突き飛ばされたし……。


 何度考えてもやっぱり納得できない。理不尽だよ。憂は普通の生活を送りたかっただけなのに……。

 憂のお父さんもお母さんもお兄さんも……もちろん愛さんも。みんな私に謝ってくれて……。

 でもそれって違うと思う。憂の家族は何1つ悪くないよ……。憂も悪くない! だから「千穂ちゃん?」


 ……愛さん。


「はい?」


「引っ越し……。ホントにごめんね。これでもかって言うくらい巻き込んじゃった……」


 バレたのが性転換だけだったら……どうだったんだろうって思う。きっと、すぐに謝って……。全力で協力した私たちをフォローしてくれて……。それから時間をかけて修復していく。そんな予定だったんだと思う。


 ……でも、そんな予定は大きく狂っちゃって……。


 だから、「元々、その覚悟は出来てましたから大丈夫です。それに巻き込まれたとか思ってないですよ?」って。


 ……本当ですよ?


「……千穂ちゃん」


 ……愛さん。その気遣いの目、ちょっと嫌です。


「千穂ちゃんのお父さんは蓼園グループじゃないのよね?」


 上を見ながら『んー?』って感じの幸さんの質問に、「はい」って返事。迅さんには会長命令だったみたいなんだよね。今回の引っ越し……。

 ウチのお父さんへは依頼って形……? よく分からないけど、総帥さんからのお願い。

 私も消極的だけど、OKしちゃったから引っ越し後は憂とお隣さん。

 こんな形じゃなかったら嬉しいんだけどな……。なんか、逃げるみたいで複雑。悪い事なんてしたつもりないから……。


「千穂ちゃんとお隣さんねぇ。嬉しいわねぇ」


「……え?」


「お母さん?」


 ちょっと予想外の幸さんの言葉に思わず声が……。愛さんはちょっと怒った感じで目線を送った。


「嬉しい……ですか……?」


「だって! 千穂ちゃんがお嫁さんに来てくれるみたいじゃない!?」


 えっと……。

 ……それ、反応に困ります。


「本居さんが断固拒否しちゃったのが残念だけどねぇ。たっくんのお母さん、我を通す人だから」


 拓真くんのお父さんは蓼園グループの人。それなのに、会長命令を奥さんが拒否。問題にならなきゃいいけど……。


「お母さんは人の事言えない」


「あら? どうして?」


「どうせ、また昨日より今日がー。今日より明日がーとか言うんでしょ?」


「もちろんよ。今日が最悪だったのなら明日は今日よりもいいわよ」


 そう言ってにっこり。


 ……幸さんって強いな……。


 愛さんは「ふぅぅ」って大きな溜息。そのまま視線をうつ伏せのままの憂に向けた。


「憂? 明日……学園……どうすんの?」


「んぅ――?」


 愛さん。聞き取れなかったかもです。憂は明日も休むのかな……? あんなに学園大好きだったのに……。悲しいよ……。


「……聞いてなかったみたいだね。憂? 明日……学園は……?」


 憂はうつ伏せから、よいしょって体を起こして正座に。


「がくえん――いけない――」


 ……そっか。そうだよね……。真正面で気持ち悪いなんて言われたら……。私だってショックだったんだもん。


「……行けない? 行かない……じゃなくて……?」


 あ……。言われてみれば……。

 憂はうつ伏せから起きた状態のまま。誰も見てない。でも、その横顔は真剣そのもので……。状況にそぐわないけど、キレイだって思った。


「あした――きしゃ――かいけん――」


 そうだね。明日、病院は憂の現状のありのままを記者会見の席で伝える予定……。

 出来れば、憂にも出席して欲しいって……。姿を見せるだけで会見の効果は爆発的に上がるからって……。

 きっと、事態は好転するからって……。


「ボクも――でる――!」


「「憂……」」


 憂のお母さんとお姉さんの声がキレイにハモった。


「だから――まとめて――おかないと――」


 ……まとめる?


「ボク――りゆう――はなして――」


 話す? 記者会見で? 出来るの?


「みんなに――あやまる――」


 振り向いた憂の目はどこまでも真剣で……。


 どこまでも真っ直ぐで……。


 何よりもキレイだった。





 ……廊下。ちょっと寒いかも。もうすぐ11月だもんね。

 高山さんが今日の夜勤さん。ちょっとだけごめんなさい。なるべく早くお部屋に戻りますね。



 憂……。



 あれから憂は、いっぱい話してくれた。

 ずっとタブレットで話してたんだ……って。チャットの事だね。

 凌平くんに憂が口を開かないことには、事態はなかなか好転しないって指摘された事。それが切っ掛け。

 まず拓真くんに相談したって事。拓真くんは憂がしたいようにすればいいって言ってくれた事。

 梢枝さんには無理をしないでいいって言われたって。もう少し辛抱すれば事態は収束していくから……って。だから聞いてみたって。記者会見で話したら梢枝は楽になるのって。それに対する梢枝さんの答えは肯定。

 康平くんにも聞いてみたら梢枝さんと同じ意見だったみたい。


 ……それで憂は決心した。


 明日も学園は休んで、その間、話さないといけない事をまとめておくんだって……。

 優柔不断だけど、決めたら強いんだよね。()は……。



 千穂【憂が記者会見で話したいみたいです。力を貸して頂けますか?】


 梢枝さん……。憂が相談した人の中で1人だけ……、憂にとっては異性のはずの女性。どうして私には相談してくれなかったのかな……?


【きっとそうなる思うてましたわぁ。これで大方は元に戻りますえ?】梢枝


 ……それはいつから? いつからそうなるって思っていたのかな? 梢枝さんはすごい。すごすぎて……、その……、困る。


 千穂【憂は自分で考えて話したいみたいですけど、それで大丈夫なんですか?】


 嫌になっちゃうな……。

 憂を守れるのって、私じゃない。梢枝さんがいなかったらどうなってたんだろ?


【憂さんが憂さんの想いを話せば、それでええんです。憂さんの言葉は重いんですえ? 千穂さんもご存知でしょう?】梢枝


 ……知ってる。憂の言葉。あの時だって、憂が許すって言ったらクラスの雰囲気が変わった。みんなが許そうって雰囲気になっちゃった……。


 でも……。今回は状況が違いすぎるよ。


 それでも梢枝さんは信じられてるんだよね。


 本当にすごい。梢枝さんには何が見えてるんだろうね。私には分からない。どうなるか全然……。

 私は梢枝さんに敵わない……。


【明日の記者会見。お願いしますえ?】梢枝


 ……え? お願い……?


 千穂【私には何も出来ませんよ】


 …………。


 あはは。マイナス思考ばっかりだ。私も重症かも……。愛さんと一緒だよね。


【何を仰いますか? 千穂さん以外の誰が記者の質問を憂さんに伝えるんです? ご家族や病院の方が囁やけば、良からぬ誘導をしていると思われますえ? 千穂さんこそが適任ですわぁ】梢枝









 ―――10月28日(土)



 本日も活動参加者は俺を含めて4人……。もう意地の世界。だから決めた。対象者(ターゲット)周囲を囲み、護衛する。それしか方法は無い。


 我々のその行動は漆原さんにとって、励みになると信じる。憂さんは間違いなく休みだろう。おそらく憂さんは、この最悪な空気が払拭されるまで学園に姿を見せてくれない。榊さんのGOサインか何かで動いているはずだ。


「我々、『学園内の騒動を未然に防止する部』は、この穢れた空気を以前のものに戻す為、総力を以て漆原さんの警護に当たる! もはや、接近を避けている場合では無い!」


「「「はいっ!」」」


「良い返事だ! 昨日は憂さんの兄の送りで学園に到着した! おそらく本日もそうなる事だろう! 下車した瞬間より任務開始だ! 以上!」





 ……遅い。そろそろ45分……。


 漆原さんは朝礼に遅れるような真似を嫌う。一体、漆原さんに何が?


「千穂ちゃんなら休みでっせ」


 康平さん! 遂に接触を図ってくれた……が……。


「そんな顔せんでもええ。お前らに頼みがある」


 頼み!? 康平さんから!? ……久しぶりだなぁ。お前らも嬉しそうだなぁ……。いかん! (たる)むなっ! 油断すると以前の思考が顔を出す!


「なんなりと!」


「親衛隊の七海はんにも頼んだんやけど……、後になってすまん」


 親衛隊……! あの子は強かった。規模自体は以前より縮小したが、再び……。いや、新しくメンバーを加え、立て直している。今朝、C棟玄関への道を掃き清めていた。先輩である高等部の人間へ元気に挨拶しながら……。


「そないに怒らんといてくれ……」


「あっ! いえ! 別件です!」


「そうか?」


「部長! しっかりして下さい!」


「12号! 感謝する! して、ご用件は!?」


「今日の15時。憂さんが記者会見に出席する。テレビの生中継も入る。それを拡散してくれへんか?」


「ホントですか!?」

「憂ちゃん……!」

「憂さんは負けてなんかなかった……。信じて良かった……」


「お前ら……。素が出てるぞっ! 控えろっ! 康平さん! 全力を以て当たります!!」


 漆原さんの休みも記者会見の為かぁ……。良かったぁ……。


「部長……。部長がそんな顔すると俺らも……」

「そうだよ……」


 そうだ……。


 ……そうだ……な……。


「反撃開始だ! 4号! 9号! 12号! 付いてこいっ!!」


「「「はいっ!!」」」











「樹? お前はどうするつもりだ?」


 スマホいじりながら話し掛けてんじゃねーよ。


「もうとっくに分かってるだろ?」


 転室せずに居座ってるだろーがよ。俺は5組を離れんぞ。


「お前は簡単に手の平を返しそうだ」


「明日香ぁ? どう言う意味だ?」


 教室内だぞ? 俺が何した? 憂ちゃんグループさんは……。静観ね。

 ……にしても崩壊もいいとこだな。千穂ちゃんまで休んじまったよ。残り3人。拓真、佳穂、凌平。千穂ちゃんも居ねーんなら、護衛2人も今日は来ないね。

 教室の外に出る時は、男2人が佳穂ちゃんに付いていく形だ。たぶん、守るためじゃないね。あの佳穂ちゃんがキレないように。こっちだ。こっち。


「裏切らないか?」


 こいつ……!


「いい加減にしろ! 裏切らねーよ! 俺だってずっと見てた! 憂ちゃん、何度も何度も泣いてただろーが! その中に隠してるって引け目も混じってただろうよ! 俺は今でもあの子たちの為に動くわ! あそこでもそうしてるだろうが! どんだけ叩かれても構わねー! 俺は憂ちゃんへの誤解を解いてゅ……!」


 …………。


「……噛んじまったじゃねーか!」


 そりゃ、梢枝様に腹立ったさ! 最初はな! やっぱり優=憂ちゃんだったんじゃねーかってな。

 騙しやがって……とは、思わんかった! それよりも憂ちゃんと千穂ちゃんが頑張ってた姿が浮かんだんだよ。護衛2人もな!


「俺は俺の出来る方法で戦ってんだ! 黙ってろ!!」


「……そのお前も裏サイトのアクセス減ってるな。見てみろ……」


 あ……?


「今、戦ってるよ。梢枝ちゃんが名前晒して……」


 なんだと……?



 ……あのスレは分裂した。


 今でも【憂ちゃんをそっと見守るスレ】は継続している。保守派って呼ぶべきなのか? 憂=優の構図が知れ渡った後でも憂ちゃんを見守り続ける優しいヤツらは頑張っている。荒らしにも誹謗中傷にもめげず、スレは保守されている。匿名だからこその保守だろうな。実名だったらそうも行かないはず。それは教室を一歩出た空気と同じだ。


 もう1つとは違って……。


 ……憂ちゃんスレは、もう1つ建った。


【騙していた優を糾弾するスレ】


 こっちは見たくもない。チラッと覗いた事はある。酷い有様だった。これが匿名性の怖さって奴だ。言いたい放題。

 学園も取り締まったらどうなのよ? 画像以外は取り締まらねーの? 昔の退学者出したって騒動から推測するに、匿名でも特定出来んだろ? でも、しねーの。やりゃいいじゃん。


 ……なんだっけ?


 あ。そだ。


「……どっちだ?」


 明日香はスマホの画面を見せ付けてきた。罵詈雑言が並んでいる。


「わかんねーよ」


 いつものほうのスレッドに繋げるとそうでも無かった。


 641:今日の午後3時。記者会見!

 642:今日の午後3時。記者会見!

 643:今更、何を言っても無駄。信頼を損なったってのはそう言うもの

 644:今日の午後3時。記者会見! 絶対見ろ!

 645:千穂ちゃんの休みは同席の布石?

 646:今日の午後3時。記者会見! 憂ちゃん出席!

 647:今日の午後3時。記者会見! 憂ちゃん発言ある!?


 おいおい。すげー勢いだな。開いた瞬間でこれだけ増えたぞ? 匿名だから支持も余裕。ネットはこんなもんだ。

 んで。梢枝様のレス、ねーじゃねーか。どこで戦ってんだ?



 更新更新更新……。



 751:榊 梢枝:そんな貴方にこそ見て頂きたいのですえ? 今までの憂さんの想いを知ってから判断なさって下さい>643



 ……これか? 随分と亀レスだな。



 明日香を見ると頷きやがった。頷いた後、口を開く。


「『お前』が言ってやれ。こっちのスレまで手が回っていない。レスの遅さはもう1つも相手しているからだ。『お前』が降臨しろ。いつもの方はお前が戦え。手を貸す」


 ……明日香、お前……。


「みんな! 悪い! 俺、早退するわ! 明日香も付いてきてくれ」


「わかった」


「待ちたまえ!」


 ……?


「凌平? なんだ?」


「何か出来ることはあるか? 僕も仲間に入れてくれ」


 …………お前。感動したじゃねーか!


「凌平! お前も付いてこい!」


 お前の個別スレは、ほとんど荒れてないんだよな! そこに本人降臨! 協力者を増やして他のメンバーの個別スレで暴れてもらって……!


 なんだよ! 行けそうじゃねーか!!


「明日香! お前はまず、梢枝様のスレで梢枝様の孤軍奮闘を告知しろ! 何人か同調してくれるはずだ!!」


「……梢枝……様?」


 ……あ。しまった。





 後で梢枝様に聞いた話なんだけどよ。2つ目のスレは必要なものなんだとよ。あそこで不満をぶちまけるだけで危害を加えないのなら、それはそれでいいんだとよ。言われて見りゃ納得だわ。





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