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158.?話 学園休んで遊ぶ子 ~side総帥~

 総帥の動きまとめその2です。














 


「会長職復職、おめでとうございます。この部屋の主となるのも久しぶりですね」


 ほぼ棒読みだった。

 秘書・一ノ瀬 遥に感情の変化はこの時、見られなかった。復職は彼女にとって、驚くべき事ではなく、単なる通過点に過ぎない。これが理由の大半を占めているのだろう。


「……ふむ。ありがとう……」


 如何にも大物用の椅子と言った風情の高級チェアに深く座る総帥の返礼もまた、同様のモノを含んでいる。要するに適当なお礼だ。


「だが、少しは感情を籠めてくれると助かる」


 ……ごもっとも。社交辞令であろうとも、少しは感情的に伝えても良い場面であろう。


「それでは学園にでも向かって下さいませ。きっと何名もが貴方に取り入る為、黄色い歓声を上げてくれる事でしょうね」


「う、む……」


「憂さまに期待してはなりません。おそらく、状況の把握には至らず、『久しぶり!』のひと言で終わってしまいます」


「分かっておるわ!」


「…………」


「…………」


 注記しておこう。

 これだけの総帥いじりが出来るのは、この秘書だけであり、秘書も2人の時にしか行わない。所構わず行えば、彼の威厳は吹き飛んでしまう事だろう。


「ところで肇さま? 迅さまへの命令。感心致しません」


「……立花くんがあそこまで頑固とは思わんかった。憂くんの生まれ育った家。気持ちは分からんでもないが、のらりくらりと結論を伸ばしおったわ」


 怒りのオーラは放っていない。不出来な身内を叱るような気持ちなのだろう。


蓼園()綜合()警備()に任しておけば、問題ないと存じます。彼女を殺めようとせん(やから)など、数少ないのでしょう?」


 総帥の顔が渋いものに移り変わった。

 秘書の非難は『命令を下した事』に対するものであり、彼の回答は的を射ていない。梢枝の得意な話題のすり替えに失敗。秘書は会話を本流に戻してしまったのだ。


「……そうだ。少ない。攫い、研究したい者は綺羅星の如くだが、殺めれば価値は落ちる」


「では、何故?」


「……儂が心配でならんのだ! もしも海外(そと)に出る間に何かあったらどうする!?」


 ……紅潮してしまった。力説だ。その内容は実に情けないものなのが、残念である。


「それだけの為に住み慣れた我が家を追われる立花の皆様に同情を禁じ得ません。それどころか本居家、漆原家を巻き込もうなど、私は恥ずかしいです。しかも千穂さまのお父様に至っては、グループ外のお勤めです」


「……そう言うな。もちろん、それだけではない。これから憂くんが男性として生きるのか、女性として生きるのか……。考える時間となるだろう……」


 目を伏せ、少女を想い、哀しみに暮れた顔をしてみせた……が、「取って付けた言い訳など不要です」と、ばっさり切られた。その舌鋒は切れ味鋭く、日本有数のグループCEOさえ一刀両断である。


「嘘では無いわ!」


「……そう言う事にしておきましょう」


「そうしてくれ……」


「時に肇さま?」


 もはや、物凄く嫌そうな顔だ。目も合わせない。

 会長職復帰のこの日、総帥は人知れず秘書に可愛がられている。


「なんだ……?」


「いつまであのマンションに留めるおつもりですか? 籠の鳥には向かない方に思えますが?」


「少なくとも『連合』を創り上げるまでだ。以降は流れ次第。憂くんは表に出るべきだ。すれば衆目が守ってくれるだろうよ。あの子には限りない魅力がある。目を惹き付け、離さん魅力が、な」


「仕向けるので?」


「いや……。意思に任せたい……が、憂くんの歩みは遅い。時間の流れが儂ら常人とは異なるのだ」


 総帥・蓼園 肇には似つかわしくない表情が生じた。

 困り顔だ。可愛くはない。


「……時には干渉するかもしれん」


「解りました。そろそろ出立のお時間です。それでは、あらためて……。会長職復職、おめでとうございます。経済を陰で支配する瞬間……。長年の夢を叶えるその時が待ち遠しいです」


 最後にそう言った秘書の表情は口元の強ばりの1つも無く、柔和だったようにも見えた。


「……行ってくる。国内は任せた」




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