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125.0話 千穂への手紙と憂の思いやり

 ここのところ、活動報告で作者間のバトンリレーにて当作の紹介をしております。

 気が向きましたらどうぞ。








 


 ―――9月5日(火)



「――あ! ―――そうだ!」


 それは突然でした。何事かと憂ちゃんに注目が集まりました。現在、保体への移動中です。


「憂? 段差……」


「――あ!」


 躓いた憂ちゃんは、咄嗟に千穂と佳穂の2人に支えられました。ドジっ子属性は、どうにもならないのかも知れませんね。

 ……憂ちゃんが声を発したタイミングが悪かったのか、軽く躓いた拓真くんが無表情です。人のせいにしてはいけませんよ?


「拓真はん……。今、躓いたように見えたんやけど」


「……気のせいだ」


 康平くんはよく見てますね。意外と……って付けたら失礼ですか?

 ……って言うか、何で誰も聞かないんですか?


「憂ちゃん……なにかな?」


 だからわたしが聞いちゃいました。


「あと――で――」


 ……なるほど。今、この場では出来ない話なんですね。わざわざ声を上げたのは忘れた時の保険かな? これだけ居れば誰かが憶えてるでしょうからね。梢枝さんと凌平くんって記憶力のいい2人も居る事ですし。

 凌平くんは一緒の行動を始めたんですよ。『知った』から問題なくなってしまいました。お陰で佳穂がうるさくて嫌になります。

 別にいいんですけどね。


 そして到着しました。更衣室。


 今回は他の女子の裏の裏。グラウンド横の部室みたいな更衣室です。何しろグラウンドには、こっちの方が近いですからね。


 男子勢と2つに別れて入室……。案の定、誰も居ません。今頃、C棟体育館更衣室では『やられたー!』って騒いでる事でしょう。

 憂ちゃんがどこで着替えるのか?

 何でもゲーム感覚にしちゃっています。楽しい方がいいですよね。


「ほらほら。憂さん、入りますえ?」


「うぅ――」


 男子組の皆さん。そんな憐れむような目で見ないであげて下さい。羨ましいとか思ってる男子も居るのかもですけど。





 この空間に入った憂ちゃんは、いつも硬直。きっと1人で着替えたいんでしょう。でも無理です。転ぶ可能性。襲撃される可能性。色んな可能性を考慮した場合、全員で入室。みんな居る中で着替えるべきです。

 やっぱり可能性って言葉は、とてつもなく便利ですね。TVが多用するくらいですから。99%でも限りなく0に近くても可能性は可能性なんですからね。


 さぁ、着替えましょう。


 わたしも髪が伸びてきてしまいました。そろそろ切りたいとは思っていますけど、切ったら切ったでうるさい……。特に佳穂ちゃんが。


「どしたの?」


 おっと……。気付かれてしまいました。


「憂ちゃんを視姦しないか監視? あたしだって分別あるよー?」

「大外れです。出直してきなさい」

「なんだとー?」


 視姦しないか監視……。上手な言い回しをされてしまいました。佳穂ちゃんの癖に。


「千晶、禿げるぞ?」

「……はい?」


 いきなり予想外な事を……。


「ポニーテールとか、ずっとしてると前髪とその間の髪の毛減ってくぞ?」


 ……知ってます。でも、これがわたしだと知れ渡ってしまってるんです。今更どうすればいいんですか?


「たいく終わったらいじったげるー!」


 たいくでは無く、『たいいく』です。体を育てる……とは、なんて嫌らしい言い回しでしょうか。文部省にはそんな人ばっかりですか? 単なる偏見ですが。


「な? 今日は髪を下ろしてみろ?」

「うん。お願い」


 ぶきっちょ佳穂ちゃんに出来るかどうか、(いささ)か不安ではありますけどね。


 おっと……憂ちゃんもお着替え開始ですね。いつも背中を向けています。可愛いお尻を見慣れてしまいました。何気にちょっとセクシーな下着なんですよね。憂ちゃん、スベスベフェチですから。

 ……何気に今日はスカートを先に脱いじゃってますね。指摘してあげないと、よくこうやって普通に脱いじゃいます。スカートガードすれば、恥ずかしさも和らぐはずなんですけどね。男子の頃にはそんなテクニック知らなかったんだから仕方ない……の?


「お尻……可愛い……」


 ……なんですか? その恍惚とした声は。ちょっと引きますよ?

 あ。赤くなった。聞こえたんですね。ほんのりピンクだった肌がピンク色です。

 ……あれ? 千穂が迎撃態勢に入りませんね。やはり、昨日のお昼から様子がおかしいです。


「可愛いぃぃ!!」


 あ! しまった!!


「わぁぁ――!」


 こらこら。お尻を鷲掴みにしてはいけません。


「おしり――やめっ――!」


 あ。やめた。深入りはしない良い子……な、ワケないですね。


「佳穂ちゃん? おいで?」

「はい!」


 素直な良い子です。ギュッと目を瞑り、ツッコミ待ちです。


「ていっ!」

「はぅ!!」


 チョップしておきました。そのまま佳穂は目を開けて、目配せ。解ってます。千穂が何も言ってくれないのなら問い詰めましょう。抱え込んだままは許しません。

 佳穂の先程の犯行は千穂の反応を窺う為です。憂ちゃんを襲っても反応しませんでした。重症です。


「ていっ!」

「あいたっ!」


 今度は顔面平手です。千穂の様子を見る為とは言え、この子は役得とか思ってますから。


「……忘れ物してしもた。教室に戻ってきます……」


 ついに梢枝さんが動きました。憂ちゃん以外のプライバシーには、可能な限り配慮しているんでしょう。でもこれ以上は……ってところですかね。やはり佳穂ちゃんぐっじょぶです。それならわたしたちは様子を見ましょう。


「よしよし」

「にゃー!!」


 ……何故威嚇しますか……。








「じゃあ、1度だけやってみましょう!」

「5組の棟代表種目は圧勝だよねー!」

「リコちゃんたち先生グッジョブ過ぎねー?」


 体育祭は棟対抗の形が取られます。その中に棟を代表する形でクラス単位が出場する種目が沢山あります。5組の、その棟代表種目は人間バトンリレー。C棟の先生たちの会議で決まったものです。


 利子ちゃん先生たち、たしかに見事な選択です。

 なんせ我がC棟1年5組のバトンは軽いのですから。


「うぅ――はずかしい――」


 まぁ、仕方ないですよね。C棟の勝利の為に我慢して貰いましょう。勝利したら……特に何もありません。自己満足です。

 6組さんもこの前、千穂と憂ちゃんの3人で3人4脚をしてくれてた子がバトン係ですね。当然、ちっちゃい子が選ばれます。


 ……とは言っても6組さんの場合は5組のお付き合い。これが終わったら今度は5組が6組さんのお付き合いです。6組さんはスウェーデンリレーみたいですね。全員が出場するワケじゃない種目です。400mとか何人も走ってたら時間がいくらあっても足りません。

 ウチも全員じゃありません。男女各10名が100mずつ走ります。憂ちゃんをおんぶして。でも、今回ばかりは全員でお試しです。


「なんかめっちゃ緊張してきた」

「お前も? 俺もやばい……」

「男子ー! 憂ちゃんのお尻触っちゃダメよー! それでなくとも恥ずかしがり屋さんなんだから! さ! 行ってきなさい!」


 あはは。センセに釘刺されてるし。

 男子のみんなは、200mトラックの向こう側に移動開始です。


 ……何故だか、女子の間にも緊張感が漂ってるんですけどね。


「――しつれい――します――」


 女子一番手の有希さんの背中にぴったり。複雑な気持ちなんでしょうね。女子の中で一番小さいからって女子に背負われるんですから。赤くなっちゃって可愛いです。


「赤くなってる。可愛い」


 ……佳穂ちゃんは、どうにも憂ちゃんの恥ずかしがる姿に弱いみたいですね。わたしもですか? 認めましょう。可愛いものは可愛いんです。


「よーい! スタート!」

「いっくよー!」

「わっ――わっ――わっ――」


 ……悲鳴が揺すられてるせいで途切れ途切れに……。


 いってらっしゃーい。


 おー。速い速い。6組のバトンの子も小さいけど、それでも10kgは違うでしょうからね。これは優勝候補かも知れません。



 200mトラックの向こう側に到着。


 男子1番手がスタート。健太くんだね。速い速い!! すっごい!



 戻ってきた!


「――あははは!!」


 ……楽しそうで何よりです。






 ……次々と出発。現在、女子7番手。佳穂ちゃん出撃。あの子、張り切っちゃって……。


「……柔らかくて……小さくて……。俺、やばい……」


 戻ってきた男子諸君の反応は揃ってコレ。健太くんもそうだった。彼女に伝えちゃうよ?

 次は凌平くんかー。これで6組を周回遅れにしちゃいそう。


 ……あれ?


 出発しませんね。憂ちゃん、降ろされちゃいました。


「憂!!」


 千穂がダッシュ。Bボタン押してる感じ。


「あ……」


 判っちゃった! 千穂が走った理由!!

 憂ちゃんは立っていられなくて、ストンと腰を落とした。おぶられて、揺すられて……。たぶん脳震盪!



「――あはは――ごめん――」

「無理……しないで……?」


 立とうとした憂ちゃんは足に力が入らず、またぺったん座りに。千穂が支えた。

 これは……わたしの失態。梢枝さんは不在。千穂の状態。わたしがしっかりと見てあげないといけなかった。


「保健室に!」


 先生が動揺しては困りますね。


「あたしの出番だ。よい、しょ……っと」


「わ――」


 既に輪が出来上がっていて、わたしは近づけません。千穂はたぶん、無我夢中で人を掻き分けたんだろうね。

 以前と……机に頭をぶつけた時と同じように佳穂がお姫様抱っこ。


「大丈夫でっか? 走ったばかりでっしゃろ?」

「だいじょぶだいじょぶ。憂ちゃん軽いから」


 薄っすら汗かきの佳穂が抱っこ。千穂と康平くんが両サイドで保健室に……。


「……悪い」


 ……拓真くん。


「……ごめん」と返した。


 悪いのは拓真くんだけじゃないよ?






 ……憂ちゃんは4時間目の開始の直前に元気に走って戻ってきました。笑顔です。梢枝さんも居ますね。


「みんな、ごめん……」


 開口一番、千穂が謝る。


「ワイもや……」

「この空気やめよー? 予想外だし仕方ないでしょー?」

「……だな。佳穂の言う通りだ」


 佳穂と勇太くん……。やっぱりお似合いなんだけどな……。


「一応、島井先生に連絡しておきました。少しでも変わった様子があったら迎えに来て頂けるそうです。それまではウチらで、様子観察です」


 ……これは、島井先生からの信頼度の向上を感じてしまいますね。



 それから5組は、しばらく話し合い。

 新しいバトンの候補は憂ちゃんの次に軽い千穂。


 そんな中「ボク――でるよ――?」って可愛い声が響きました。


 色んな視線が集中する中、憂ちゃんは言葉を続けました。


「これくらい――しか――できない――から――」


 ……だから恥ずかしくても頑張っておんぶされてたんですね。相変わらずの頑張り屋さんです。感動してしまいました。

 結局、話は体育の先生の預かり。リレーの人数を減らせないか掛け合ってみるそうです。男女10名ずつって多いですからね。

 何よりも憂ちゃんが『やりたい』と意思を示した。これは何よりも大きい事なんです。





 4時間目の体育の授業、憂ちゃんに変化はありませんでした。軽い脳震盪で済んだみたいで良かったです。

 ……更衣室に入ると、早速とばかりに梢枝さんが「千穂さん? お伺いしますえ?」と切り出しました。


「バレちゃった。憂に言えないよね。私もすぐに態度に出ちゃうから……」


 そうですね。下手したら憂ちゃん以上に分かり易いです。憂ちゃんは時々、妙に上手に躱しちゃいますから……。


「……まだバレておりません」


 …………まだ?


「まだって?」


 佳穂が代弁。便利な幼馴染です。


「探すん……苦労したんですえ? まさか、手紙を弁当箱の包みに隠してはるとは思いませんでした……。探った事……。すみません……」

「いえ。私も気付いて欲しかったんだと思います」

「気付いて欲しいのに気付きにくいとこに? 何だそりゃ?」

「佳穂ちゃんは静かに!」

「はい!」


 手を挙げての良いお返事です。日々の調教の成果ですね。


「ウチも驚きました。(いつき)さん……。彼の推理は完璧です。しかし、その推理を盾に千穂さんに交際を迫る遣り方は気に入りません。……ですから、悪いようにはしません。お任せ頂けますか?」

「樹? 樹……って、あの窓際最前列の? よくあたしら見てる人だよね? あいつ……そんな事……」

「佳穂ちゃん。どうどう。佳穂が出るとややこしくなるから……ね?」

「ぐるるる……」


 また威嚇されちゃいました。今は茶化すシーンじゃありませんよ?

 それにしても、憂ちゃんの謎に辿り着いた人が現れてしまったんですね……。隠し通すにも限界があるって事を、まざまざと見せ付けられた気分です……。でも、まだ推理の段階なんですよね?


「……はい。一緒に来て貰えますか?」


「「……千穂」」


 ハモりやがった。佳穂なのに。


 ……気持ちは一緒かな?


 梢枝さんは『任せて』って言ってくれたのに千穂は『一緒に』だった。


 強くなったね。千穂。









 そして放課後の屋上。


「すみませんでしたぁぁ!!!」


 千穂と共に姿を見せた梢枝。

 その梢枝が冷笑を彼に向けた瞬間、土下座である。


「魔が差したんです! 急いで書いたら思わず良からぬ事を書いてしまいました!」


 千穂からのお断りの手紙を受け取った彼は、その日の内に更にその返答を……。その段階で、憂の秘密への推理を混じえてしまったのだ。


「……推測の根拠は? 回答次第では2度と千穂さん、憂さんのお姿を見る事、叶いまへんえ?」


「なんとなくです! 勘です!」


「……勘とは何とも曖昧ですねぇ……。千穂さん、どうします?」


「私は……手紙でお返事したように、今は誰とも付き合う気はありません。そっとしておいて欲しいです……」


「はい! ごめんなさい! 嫌わないで……」


「……随分と勝手な言い分ですねぇ……。妙な憶測を書き、それを盾に交際を……。貴方は千穂さんを強請りはったんですえ?」


「もうしません! ここに居させて下さい!!」


「……しばらくお話させて頂きますえ?」


「……はい」


「もう1度、聞きます。何を思うて、そないな突拍子もない結論に至りはった? 常識で考えはりやぁ? 性別が変わる……。有り得まへんえ? 憂さんの秘密は教えられません。探ってはいけません。名誉毀損どころか、この国に住めなくなりますわぁ……」


「はい! 2度と興味は持ちません! だから……その……」



 彼は、梢枝の長い時間を掛けた説得(・・)により、理解(・・)をしてくれたようだった。

 そして赦されると、屋上への出入口で康平に物凄い形相でメンチを切られた。


 千穂を落とせば、憂も一緒に釣れるかも……。


 そんな邪な考えで手紙を1回と半分だけ往復させた彼は、この日、相当な恐怖を味合わされたのであった。


「……梢枝さん」


 千穂は梢枝に批難の目を向けた。遣り過ぎだと言う事らしい。


「彼の事は調査済みでした。こう言う行動に出る恐れがある事も把握しておりました。秘密にここまで近づいたのは想定外でしたけどねぇ……。彼は凌平さんと違い、突発性の発作のように真実を吹聴する恐れがあります。これくらいで丁度ええんです」


 真顔でこうお返ししたのだった。







 その頃。教室では佳穂と千晶が泣いていた。千晶は珍しくおさげになっている。佳穂によっていじられ、千穂によって修正された。品が出て愛くるしい印象に変わった。


 それよりも。


 体育への移動中の件を憶えていた千晶は、憂に問い掛けた。


『そうだ! ……って』


『あ。千晶良く憶えてたなー』


『なん――だっけ――?』


『ほら……。体育の……移動中……』


『んぅ――?』


 拓真と凌平は席を立った。教室のスライドドアをくぐり、監視体制を取った。これから憂の口を付いて出て来る言葉は、秘密に抵触する事柄なのは間違いない。


『千穂に……段差って……』


『あ――!!』


『思い出したみたいだー』


『千穂の――おもい――だした――!』


『千穂の……告白……?』


 千穂の事で一番思い出そうと奮闘していたのが告白の時の事である。その為、千晶はすぐにピンときたらしい。


『――うん』


 憂は恥ずかしそうに俯いた……が、その可愛らしい口元は綻んでいた。


『良かった……ね……』


『――うん!』


 今度は満点笑顔を見せた。そして千晶は問うた。事故の切っ掛けとなった出来事の記憶を。姉は以前、思い出しているはずと言い、彼女らの心を溶かした。

 しかし、『はず』だった。何としても確信が欲しい千晶は、遂にその記憶について、問うたのだ。


『憂ちゃん……。事故の……前の……事……』


『千晶!?』


『聞いておかないと! 忘れてるのなら知って貰わないと! いつまでもこのままじゃダメなんだから!』


『……わかった。あたしも逃げてちゃダメだよね……』


『じこの――まえ――?』


『わたしと……佳穂が……ナンパ……』


『ぁ――うん――。おもい――だしてる――よ』


『憂ちゃん! ごめん……。わたしたちが……』


『そう……。事故の……原因……なんだ……』


『そんなこと――ない――!!』


『憂ちゃん!?』


『…………』



『ボクが――かってに――たすけた――!』


『ボクが――かってに――おちた――!』


『ボクが――かってに――!!』


『ボクが――ぅぐ――ボクが――』


『佳穂も――千晶も――』


『――わるく――ない――!』



 ところどころ躓きながら、堪えきれない涙を溢れさせ、懸命に言葉を紡いだ。


 それは憂の思いやり……だろう。


『わるく――ない――』


『ぜったい――』


 こうして佳穂も千晶も泣かされたのだった。



 そんな時に千穂たち3名が戻ってきた。先に帰ったはずの(いつき)くんだが、教室のドアを封鎖するように立ちはだかる拓真と凌平の2人を見て、退散したらしい。彼はまだ安息の我が家に帰ることは叶わない。


「なに……? この状況……?」


「これは……知らん間に困りますわぁ……。ビデオに収めておりまへんえ?」


 そう言うとスマホを起動し、動画撮影を始めた。こう云うシーンが欲しいらしい。


 ……梢枝はともかく。


 3人と拓真、凌平が目にした光景は憂に縋り、さめざめと泣く2人の姿だったのである。


「うぅ……。千穂……。憂ちゃん、思い出したって……」

「ふぇ……。恥ずかしいトコ見られた……。千晶のせいだ」

「ぐすっ。……異論はありません」

「思い出した……?」


「――うん! てがみ――よんで――!」


「手紙? え?」


 略しすぎだ。言葉が足りなさすぎだ。ひと言で思い出と言っても、千穂には該当が多すぎる。

 憂は涙の跡も乾かぬまま、その類稀な美貌を見事に花開かせている。少し紅潮しているのが何とも可愛らしい。


「――こくはく――の――」


「……ホント……に?」


「嘘付かねー。行け」


 拓真は千穂の背中を押した。混ざれと云う事だろう。


 そして促されるまま、千穂も3人に混ざって行ったのだった。


「ええ画ですわぁ……」


 言った梢枝もまた良い笑顔なのであった。





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