閑話 勇太の家は毎日が騒がしい
レビュー1ダース&感想250件突破記念記念として、挿入させて頂きます(*´ω`*)
そのレビューも13件へと増加しました!
何気にユダの数字で気持ち悪いので、どなたかレビューお願い致しますw
キリスト教の人じゃないんですけどね。
……と、冗談はさておき。
本当に感謝に絶えません。感想、レビューを下さった皆さま、ありがとうございます m(__)m
もちろん、追いかけて下さっている声無き読者さまにも感謝です m(__)m
もう1つ閑話を今月中(H29,10時点)に……とは、思っているのですが、どうなる事やらです(´・ω・`)
全ては筆が乗るか次第で御座います。
番号付きの話とは違って閑話は面白くなかったり、萌えがなかったりしたら無意味ですので……。
ここよりスタートです。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
―――8月20日(日)
「立花――憂――です。よろしく――ね?」
時間が止まった。ピタリと止まった。勇太の姉弟たちも両親も固まった。愛は苦笑いを貼り付けた。ひと筋の大きな汗でも描かれそうな笑顔だが、生憎、汗と言えば暑いからこそ掻いているだけである。
「おねえちゃん、やっぱりキレイ! すき!」
沈黙の中、トテトテと歩いてきた就学前と思しき女の子がギュッと抱き付いた。白では無いが抵抗しない。ちっちゃな子のハグは問題ないらしい。
「はじめまして! あたし、3番目の『さや』って言います! 勇兄ちゃんの友だちにはもったいないくらいです! あたしのお友だちになって下さい!」
この日、憂は勇太に誘われ、彼の家に遊びにきた。しきりに下の子2人が憂に会いたがっているとの事だった。
この日の来訪は、勇太が吹聴していたらしく新城家総出の出迎えである。
勇太は6人兄弟の長男として、姉弟たちの人気者だ。気さくで話しやすく、ドでかい。何よりも面倒見が意外と良い。そんなこんなの長男坊がクラスメイトの女の子を家に誘った。これは大事件だ。勇太と言う長男坊には今まで女気1つ無かったのだ。
もう1点。
実は父親と三男、三女は憂と面識がある。5番目と6番目の子は球技大会の残念会で当時、車椅子の憂に纏わり付いた事がある。車椅子どころか、パジャマのままだった気までする。
それはともかく……。
憂の姿を見た事のある大人と幼児2名のベタ褒めも相俟ち、新城家は大歓迎だったのである。
この新城家の兄弟事情を簡単に紹介しておこう。
1番目の子は言わずと知れた背の高い長男・勇太である。
その長男坊を筆頭に、中学2年生の次男、小学6年生の女子であり、真っ先に自己紹介した長女、更に次女が小学4年生。少し、年が離れて年長さんの三女、年中さんの三男。
見事に三男三女の男女比1:1……だが、母のお腹には7人目の子が入っているらしい。今はまだ、さほどお腹の膨らみは目立っていない。
きっと新城家の両親は日本の将来を憂い、2人で少子化対策中なのだろう。
挨拶と自己紹介は中略させて頂く。数が多く、時間が掛かる。憂が絡むほどえらい事になる。
憂は居間に通された。畳張りなのでリビングとは何とも形容し難い。大きなちゃぶ台のような座卓が中央に鎮座しており、そのローテーブルの周囲に各自が座り、一家で食事を摂っているだろう雰囲気だ。
それは古き良き日本の家庭を彷彿とさせている。核家族っぽいのが何とも残念……だが、勇太の話によると近所に父方の祖父母が住んでおり、よく孫たちの面倒を買って出てくれているとの事だ。
余所様の家庭事情よりも憂の事。
「おねーちゃん、げーむしよー?」
「だめー! おままごとするのー!」
……いつも通りの大人気である。ゆっくりと話してはくれない。兄弟が多ければ多いほど、ゆっくりしては負け……なのだろう。子どもの多い大家族では、おそらくこうなっている家庭が多いはずである。
「こらこら……。憂には、ゆっくり……だぞ?」
勇太が就学前の一家のアイドル2人を諭す。姉は辞した。午後2時に迎えにくる手筈となっている。その時間は憂のお眠の時間である。
「勇太――だいじょうぶ――」
憂の目が優しい。何気に小さい子と遊ぶのは好きなのである。優の頃には、たまーに……だが、遊びに来てはこの子たちや小学生の子たちと遊んであげていたのである。
大丈夫な理由も単純だ。三男はおそらく兄のお古である携帯ゲームを、三女は姉から引き継いだと思しき人形を憂へと見せ付けているのである。
「だいじょうぶってー! げーむしよー?」
「こっちー! おねえちゃん、おにんぎょうさんよりきれい!」
「うぅ――」
……大丈夫では無いらしい。健常者でも天才でも携帯ゲームとお人形遊びの両立は不可能である。
「大丈夫……違うじゃん……」
憂と勇太の一対一での会話は早々ない。たまにある程度……だが、そこは『最初の3人』の1人。憂との付き合いの長さ分、憂との会話には慣れている。
わーわー。ぎゃーぎゃー。
下の2人の騒ぐ様を見て……と言うより、オロオロし始めた憂を見て、長女が動いた。
「それじゃあ、ゲームしてるお姉さんをお人形さんにすればいいじゃない!」
名案だ。これ以上の案は梢枝でも出せないだろう。憂は、そんじょそこらの人形よりも優れた造形を持ち合わせている。
「あ。お姉ちゃんナイスぅ」
それは次女の賛同が示した通りである。
「それでいいんか……?」
でかい兄貴の言いたい気持ちは分からんでもない。
そして、おままごと兼ゲームのプレイは開始された。いや、並べ替えておこう。ゲームのプレイ兼おままごとは開始された。単なる並び順の問題だが、おままごとのプレイとも捉えられる。何となく嫌だ。
長男坊が見繕ったゲームは日本中を電車で旅する古来よりあるゲームだった。何気に貧乏神の進化が半端ないヤツだ。
「はい! おねえちゃんのばん!」
「うぅ?」
ゲーム機を受け取った憂は不器用な右手でボタンを押す……と、サイコロが振られた。振られたかと思えば、勇太に手渡された。憂には何気に小難しいゲームなのである。
「おねえちゃん、おけしょうするぅー!」
女の子たちがキャッキャと髪を梳き、その時はトロンとしていたが、その髪を整える段階となり、憂は耐える羽目になった。
女の子の中で1番下の子が、『わたしがするのぉー!』と姉たちに譲らなかったのだ。
5番目はまだ年長さんだ。器用に丁寧に髪を纏められるはずがない。
グイグイと細く柔らかな長い髪を引っ張り回される事となった。
『お姉さん、ごめんなさい』
『言い出したら聞かなくて……』
何としっかりしている6年生と4年生か。下の子が出来ると子どもは大人びるらしい。それかもしれない。
『ぅ――だいじょ――いたっ――』
痛みが無いのは頭痛であり、しっかりと頭皮には痛覚が通っているようである。
そこからの化粧タイム……。どう考えても苦痛以外の何者でもないだろう……が、憂は文句を言わない。自分が幼い頃、姉や兄を捕まえ、無茶をした記憶でもあるのかもしれない。
「おねえちゃん、どーぞ!」
ゲームをしつつじっと耐える憂をじっと見詰める瞳があった。
「こら! お化粧品は持ち出したらダメ! 必要になった頃、きちんと買ってあげるから! 憂ちゃん、ごめんなさいね……。いつも騒がしくて……」
どうやら、おままごとサイドでは救いの神が降りてきたらしい。母が自らの化粧品を持っていった娘たちから奪い返したのである。
うわーんと泣き始めてしまった三女だが、母にとってはいつもの事。
「ベソベソする子はお姉ちゃんに嫌われるよ!」と叱り飛ばし、グッと堪え、その頭を「おー。よしよし」と勇太が撫で付けたのだった。
これが原因だ。このようにベソを掻いた憂の頭を撫で付けては、彼女の噛み付き攻撃に遭っている。幼い兄妹同等に扱う勇太が悪い。たぶん。
「おねえちゃん、おもしろくない?」
膝丈スカート着用の為か、正座の憂を末っ子が見上げ、問い掛けた。ゲームの事だ。
憂は小首を傾げる。聞き取れなかったからだろう。
そして、面白いはずはない。自分はよく分からず渡されたゲーム機のボタンを押し、勇太に手渡す作業を繰り返しているだけである。
その首を傾げた様子を勘違いしたのか、「ほかのことしよー?」とか言い出した。おままごともお化粧の段階で母の横槍が入り、止まったままだ。切りが良いと思ったのか、勇太は「よっしゃ! 出掛けるぞ!」とお出掛けを宣言したのである。
目的地は勇太の家のすぐ傍だった。
そこに広い公園があったのだ……が、遊具が少なく、どこか殺風景で、ボールを追いかけキャッキャと喜ぶ歩き始めたばかりの幼児とその両親が居るだけだった。
事故のあった遊具から撤去され続ける日本の流れに沿っている。
「よっしゃ! ほりゃ! 取ってみろ?」
勇太は慣れていないのだろう。足で一生懸命にボールを操る。彼は球技全般得意と云う訳ではない。バスケが上手いだけだ。おそらくバレーでも固い壁を築く事だろう。つまり……身長に物を言わせている。
幼児2人が必死に奪いに行く中……。
「勇太――ずるい――!」と、憂も奮闘していた。
本日は残念ながらバッシュでは無い。普通のスニーカーである。よって、足の運びが悪い。本人もそれは解っているらしく、無理はしていない。
女子小学生の3番目、4番目はどちらでもなく、応援している。2人ともお兄ちゃん大好きなのだろう。憂贔屓という訳でもない。
憂の右足がボールに触れる……と、勇太の長い足がぬぅと伸び、奪い返していった。
「ずるい――!」
何度もずるいと連呼しているが、何1つずるい事などしていない。勇太は自身の長い足を活かしているだけに過ぎない。
―――そんな時だった。
今まで、憂を遠巻きに見ていただけの次男坊が動いた。
勇太の側面に張り付くと、兄の動きを阻害しつつ、兄がキープするボールを奪取した。完全にサッカー経験者の動きだった。
「うわ! シン! お前、ずるいぞ!」
……ずるくはない。体を寄せただけで、無味な接触はしていない。バスケでも日常茶飯事なレベルの接触だ。それでファールが成立してしまうとゲームが成り立たない。
「少しも手加減せんからだろっ! 憂さん、可哀想じゃねーか!」
幼い顔付きの割にそれなりに低い声だった。変声期は超えているらしい。それでも身長的に勇太とは大差がある。父も母もさほど背は高くない。きっと、長男坊は突然変異なのだろう。
「憂さん! パス!」
パスと言われ、咄嗟に両手が動いたが、そこはバスケ脳ゆえだろう。気にしないでやって頂きたい。
そのパスは憂には鋭すぎたようだ。右足でトラップしようと、足を出し、大きく弾いてしまった。弾いただけなら良いが、小さな体のバランスを大きく崩した。傍にいた勇太が手を伸ばし、左の二の腕を捕まえ、事なきを得た……が、少し妙な雰囲気に成り代わってしまった。
「おねえちゃん、だいじょうぶぅ?」
「シンにいちゃ、いけないんだぁー!」
ちっちゃい子たちが憂に纏わり付く。
「知らねーよ!」
責められた次男坊は顔を赤く染め、自宅へと逃げていったのだった。
「……あいつ、惚れちまったか」
シン君を止めることなく見送った後の勇太の感想である。
自宅で遊んでいる最中には、何をするでもなく、憂に時折視線を送っては、考え込んでいた。その前、自己紹介の時には、どもり、まともに挨拶できなかった。
憂をからかうかのように、勇太がボールをキープし続け、それに腹を立てた。奪った直後には憂にパス。
……間違いないだろう。
そんな中学2年生の心に響いた憂は……。
ちっちゃい2人とルーズボールを追いかけ、一緒になって笑っていたのであった。
「はーい! もういいよー!」
母は言うなり、ヘラを2本使い、ペタンペタンとひっくり返していく。
「おぉ――」
なんて事はない。お好み焼きをひっくり返していっているだけだ。しかも2度目の裏返しである。最初の時とは違い、難度は低い。
しかし、憂は憂となり、初めての目撃である。立花家ではカセットコンロを使うと言えば鍋くらいのものなのだ。ホットプレートなど出てこない。母の料理上手が原因だ……が、台所に近づかない憂には知る由もないだろう。
ちなみに今回は2台のホットプレートが別のコンセントから引かれている。子どもが多く、待てないからこその苦肉の策なのだろう。
「憂ちゃんも……したい?」
母の言葉を聞き、首を傾げ……3秒ほどで花を咲かせた。
「どうぞ」
返事を聞くまでもなく、母は憂にヘラを手渡した。
「……だいじょうぶ、か?」
勇太の心配はよくわかる。解りすぎる。右手……。利き手の不自由な憂には難しいかもしれない。
憂は「ありがとう」と喜々としてヘラを両手に受け取り、構えた。
様にはなっている。如何にも成功しそうだ。さっきまで目を皿にして、勇太の母の動きを追っていた。
隣の鉄板の上では、次女……。10歳の少女がクルリを上手にお好み焼きを回した。
各鉄板4枚ずつ。小さめのお好み焼きを大量生産していくスタイルなのだろう。
憂の目は真剣そのものだ。その澄んだ瞳は目の前の円形の粉モンに吸い寄せられている。
お好み焼きの両サイドから鉄板との間にヘラが差し込まれた。ここまでは何の問題もない。問題があったら大変だ。
そのお好み焼きが持ち上げられた。弱い右手はプルプルしている。変に力を入れているせいだろう。
「一気に……行け?」
勇太の言葉に目で返事をした。声を出す余力も無さそうだ。
……後は手首を返し、元にあった場所に落としてあげるだけ……だった。
「せーのっ!」
勇太の合図で動いた憂だったが、右手の手首の返しが甘く、側面から鉄板に落ち、哀れお好み焼きは折れてしまった。
「うぅ――ごめん――」
……そして、しょぼくれた。
「あーあ。まぁ、だいじょう……お?」
勇太が最後まで続けられなかった理由……。
次男坊が憂の手からヘラを優しく取り、折れたお好み焼きを整えた。無言だ。作業に集中している。
整え終わると「はい」と憂に手渡した。
「――ぅ? でも――」
またやってしまいそうだ。自分が落とした分は自分で食べれば問題ない。だが、次のミスは誰かのお好み焼きを破壊してしまう行為となる……が、理解しているか定かではない。
次男坊の次の行動は両親やら兄やらを驚かせた。
……憂の白く小さな両手を後ろから取ったのである。
「憂さん? もう一回」
「――うん」
再び憂の綺麗な双眸はお好み焼きを捉え、次男坊のフォローにより、そっと持ち上げられた。
「「「………………」」」
静かになった。キャッキャと騒いでいたはずの向こうのホットプレートに群がっていた幼児も父も母も息を潜めている。
「行くよ?」
「――うん」
「せぇのっ!」
半分以上は背後の少年の力だったかもしれない。
後ろから抱き込むように体を寄せてくれたお陰か、お好み焼きは見事に引っくり返った。
「――できた!」
憂は感動に打ち震えている。
ヘラを置くと、振り向き満面の笑みで感謝の言葉を伝えた。
……だがしかし。感動のシーンにも思えるが、これはお好み焼きをひっくり返しただけの話なのである。
余りの至近距離に次男坊は真っ赤に染まってしまったのは余談である。
「起きてて貰おうと声は掛けていたんですけど……。すみません……」
14時。時間ぴったりとなり、姉が再度、新城家を訪問した。憂のお迎えの為である。
「あちゃ……! 寝ちゃいましたか……!」
「愛さん、どうします?」
勇太も出てきた。さほど困った感じは母と違い、見せていない。
「……どうしよっか」
愛は困っている。そんな愛を見て、「まぁ、とりあえず上がって下さい。可愛いもんっすよ?」と笑ってみせた。
居間に通された時、その理由を理解した。
憂は……三男と三女はもちろん、次女までも一緒になり、スヤスヤと気持ち良さそうに眠りこけていたのである。