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113.0話 千晶の独断と男子たち

 


 ―――8月9日(水)



 ……1人になっちゃったよ。超寂しい。


 千穂と憂ちゃんはお手洗い。憂ちゃん、あたしらと一緒に行くの嫌がるんだー。超寂しい。康平くんはいつも通りに憂ちゃんの後ろ、数メートルの位置じゃないかな? トイレに……って考えると、なんとなく変態さん? そう言ってあげたら可哀想かな?


 ……なんだかなー。

 相棒が居ないから変な気分なんだよ。


 千晶は男子勢……、康平くんを除いた……旧バスケ部のメンバーだね。4人を引き連れて屋上へ。誰も居なかったらいいんだけどねー。先客いたらどうすんだ? ウロウロ探すのか? まぁ、いいや。千晶、がんばれー。

 何気に梢枝さんも付いていったけどね。


 暇を持て余してスマホを開いてみる。【秘密を知り得た者たち】……と。

 これだよ。これ。

 あたしが1人になっちゃった原因は。実はうさぎっ子体質なんだぞ? 寂しいと発狂するぞ?



【拓真くんって、憂の事どう思ってるか聞いてる?】千穂



 あたしと千晶と千穂。3人だけのグループ。何でも話しちゃってるグループ。あたしが知らないだけでいっぱいグループはあると思う。


 保護者会でしょ? 護衛を含めた大人たちのグループ? 家族……。立花家と本居家もグループ作ってるはず。バスケ関係4人のグループと憂ちゃん含めた5人のグループなんかもあるかもねー。他にも病院関係者とか、医師会とか。意外な繋がりとかもあったりして? 憂ちゃんのお兄さん……剛さんと遥さんが個別で繋がってたりしたら面白いよね。美優ちゃんだって、まだ中学生だけど、恋模様に波乱を巻き起こしてくれるかも?


「珍しいな。1人か?」


「えっ!? うん!」


 ……おっと。サシでの会話は初めてだー。ちょいと緊張。今や5組の誇るイケメン男。


「幼馴染とは良いものだな。君たちを見ていたら本当にそう思う」


「千晶の事、どー思ってる?」


「……いきなり何を?」


 それはあたしが聞きたい。考えなしに聞いちゃったさ。千晶……。すまん。


「……なんでもないよー?」


「そうか……。それならいい「ところでさー」


 割り込みごめんねー。


「……うむ」


 強引に話を潰したのに、いい人だー。


「告白しないの?」


「佳穂ちゃん! なんて事言うの!?」

「凌平くん! ダメだからね!」

「絶対ダメ! それは有り得ない!」


 おやおや? 凌平くん人気なのか、憂ちゃん想いなのか? みんなのこれはどっちだ? くそー! 千穂が居ないのが惜しい!


 優子ちゃんは凌平くんに気があると見た。当てにならない勘だけどねー。違ったら憂ちゃんに気がある事に? それは困る。超困る。優くんは可愛い系が好きに決まってる。千穂がふんわり美少女だからね。


 ……イメチェンしようか?








 ……屋上は人が居ました。


 まさか更衣室に連れていけるはずも無く……。困っていたら梢枝さんがスマホを取り出し電話。C棟応接室を貸切状態です。


 ……学園長センセ、職権乱用じゃないのかな? ありがたい事ですけどね。


「このソファーって落ち着かないよね」


「すっげー分かるわ……」


 ちゃっちゃとソファーに座ったのは京之介くんと圭佑くんのコンビ。もっと背の高いコンビは難しい顔して彼らの後ろに。


 ……なかなか迫力のある構図ですね。梢枝さんはドアに背中を預けて腕組み。どこかで見た気がしますね。島井先生と初めてお会いした日だったかな?


「……それで、何が聞きたい?」


「憂のこっちゃろ? 人の居ない場所を探したって事は」


 話が早くていいですね。拓真くんは考えが深くて、勇太くんは空気が読める。ナイスコンビ。私と佳穂の関係に似てます。


「はっきりとお伺いします。今現在の憂ちゃんへの想いをお聞かせ下さい」


 千穂は拓真くんはもちろん、他の誰にも聞き辛いでしょうからね。佳穂も一緒です。聞ける人はわたししか居ません。梢枝さんと康平くんはその辺り、ノータッチを貫いておられますので。


「それは異性としてか?」


「話が早いですね。助かります」


 拓真くん。目付きがいつもより鋭くなってて、ちょっと怖いです。梢枝さん、いざとなったら助けて下さいね。いざ……なんて事には成り得ませんが。


「……どうして突然?」


「それがね……。突然でもないんだよ?」


「どーゆう事?」


「ごめん。詳しい事はわたしからは話せない。でも、聞いておきたい事なんだ」


 ……千穂の事情は……わたしの口からはちょっと……ね。不誠実かな? とんでもない事を聞いてる自覚あるし……。


「……ったく、お前ら3人も隠し事か。まぁいい。俺は憂を女性として見るように心掛けてる」


 心掛けてるって事は……。


「あぁ。まだ心掛けてる状態だ。聞きてぇ事、恋愛対象として……だろう?」


「……そうですね。それで間違いないです」


 やっぱり拓真くんは切れ者ですね。すぐに読み取られてしまいます。

 ……こんな聞き方したら分かって当たり前かな?


「恋愛対象として……。俺は無理だ。無理だ……と言ったが、その前に千穂ちゃんと憂の関係を応援してぇ」


 その千穂に問題があるんだけどね。こればっかりは言えないから仕方が無い……。


「次はお前だ」


「オレ? オレは……考えねーようにしてる。だから今、憂を恋愛対象としてって言われても答えられねー」


 勇太くんは拓真くんと違う意見なんだね。考えないようにって事は、裏を返してみたらそう捉えてしまう可能性があるからって……事?


「俺も勇太に同じく」


 圭佑くんも一緒……。憂ちゃんとバスケしてる時、本当に楽しそうにしてる圭佑くんも可能性あり……ですね。


 3人が話を終えると、当然ながら京之介くんに注目が集まりました。残すは貴方だけです。


「………………」


 ……おや? あっさり口を開いた3名とは全然違う反応ですね。


 顎に手を掛け、押し黙っておられます。京之介くんには似合ってる仕草ですね。カッコイイです。優くんとこうやって話し合ったりしてたのでしょうか?

 その優くんを恋愛対象として見られるか聞いているんですからね。我ながらとんでもない質問をしていると思います。


「僕は……」


「はい」


「ちょっと言い辛いね」


 苦笑い。これはもしかして……?


「千穂ちゃんに遠慮してる状態なのかも知れないよ?」


 脈あるって事!? でも疑問形……。


「この3人に変な目で見られるかも。でも、敢えて伝えておこうと思う」


「……変な目で?」


 おそらく正解。わたしの予想。

 男子が男子を好きなっちゃった的な……。レズビアンの対極。男子同士の恋愛として捉えられる可能性。でも、はっきりさせたいから今、ここで聞いておきました。


「聞くんだ……。厳しいね。千晶ちゃんは……」


「はい。大事な事ですので」


「性同一性障害の人に異性は恋をしてはダメなのかな?」


 男子3人へ向けての質問。3人は目を逸しました。


「聞いてる? 圭佑? 答えて?」


「俺かよ……。ダメって事はねーよな……。それと似た状況って訳か……」


 ……そうですね。似ていると思います。憂ちゃんの体は女の子。でも15年くらいは間違いなく男の子として過ごしてきたんだから、そう簡単には変われない。だから、性同一性障害の女の子は、状況的に酷似しています。


「ありがとう。次は勇太」


「そう言う言い方されると否定できねー」


「だよね? 拓真は?」


「……問題ねぇわ。んで、お前は?」


「千穂ちゃんに何か、憂を受け入れられない理由があると判断するね。レズ……って形になるって単純な理由かも知れないけど」


「はい。今のところ、そうしておいて下さい」


 ……やっぱり、女子も男子も憂ちゃんの心と体の不一致が問題なんですね。

 憂ちゃん……。可哀想だよ……。


「さっきも言った通り、千穂ちゃんに遠慮して考えないようにしてたんだ。その条件が取り除かれるのなら、僕は真剣に考えてみるよ。憂の事を知っているのは僕らだけなんだから、本気で考えてあげられるのは僕らしか居ないと思う。今、どうなのかな? ……って、聞かれると今は無理、だと思う。でも、異性として考え始めたら変わるかも知れない。それでいいの? 特に千穂ちゃんは……」


「それは……ちょっと待って欲しいかな? 今日の話はわたしの独断専行なんだ」


「ちょ……。ここまで聞いておいてそりゃないだろー!?」


「千晶ちゃん、ひでーわ……」


「そんな事だと思ってたよ。拓真?」


「あ?」


「勇太?」


「ん?」


「渓やん?」


「……」


「3人とも一度、真面目に考えてみてよ。それが憂への助けになるかも知れないんだ」


 その言葉に三者三様に頷きました。


 ずっと腕組みして目を伏せていた梢枝さんが「くれぐれも焦ってはなりまへんえ? 千穂さんの答えは揺れています。それが定まってからでも遅くありませんえ……?」って。その通りですね。


「可能性の1つとして、千穂に今日の話……してもいいですか? 元々は拓真くんの憂ちゃんへの想いを聞きたいって話だったんです」


「……ったく。構わねぇよ」


「同じく」


「オレも」


「僕のは……」


「ぼかしますよ?」


「……それなら」


 基本的にみんなは考えないようにしてた……。それだけの事だったね。


「みんな、答えにくい質問に答えてくれてありがとう」


 深くお礼をします。それくらいしか出来ませんので。


「千晶ちゃん? 終わった風になってるけど、僕から質問。千晶ちゃんはどうなったら最良だと思ってるの?」


 ……最良ですか。


「今、ここにおられる4名。あと康平さんもかな? 知っている誰かと相思相愛になってくれたら最高だと思ってます」


「他の男じゃダメなん?」


「ダメですね。それは憂ちゃん本人が絶対に認めません。あの憂ちゃんが元の事を隠したまま恋愛する事はまず有り得ません。誠実な子なので。秘密を抱えてる以上、誰が告白してきても思い悩んだ末にお断りするでしょうね」


 そんな子だから佳穂だって好きになっちゃったんです。ピュアなんです。憂ちゃんは。










 その夜。4人は4人とも悶々とした時間を過ごす事となってしまった。




(憂を女の子として……なぁ……。めっちゃ可愛いんだよ。あいつ……)


 勇太は保育園通いの5番目の弟を寝かしつけている最中のようだ。隣に寝そべり、トントンと胸を優しく叩いている。


(マジで女の子として見りゃ……。そりゃ惚れちまうわ。(あいつ)の性格も熟知してんだぞ? 前からちょいとヘタレで、それでも場の空気を気にして気配りして、練習なんか超頑張るヤツで、厳しい時もあるけど、基本、優しくて……。愚痴なんか1つも零さねーで、前向きで……)


 勇太は手を止めた。幼い弟は寝入ったらしい。


(やべぇ。それが女の子になっちまったらすっげーいい子じゃねーか! ホモか? ホモとして捉えられんのか!? くそー! せっかく、考えねーようにしてたのに! 恨むぞ! 千晶ちゃん!!)







(ケイ)。何ぼんやりしてんだよ?」


 京之介はリビングでテレビに目を向け、何も見ていなかった。誰かのようにぼんやりと考え事の最中である。


(千穂ちゃんの理由がいまいち判らないんだけどね……。憂が困っているのなら力になってあげたい。いつだって優は僕らの為に頑張ってくれてたからね……。その恩返し……って、言ったら変だけど……。そこから始まる恋愛ってのもあってもいいんじゃないかな?)


「おーい! 京? ……ダメだ。こりゃ。よっぽど出場時間ゼロが響いてんだろうなぁ……。鍛えてやっかな?」


 どうやら兄もバスケをしているらしい。何を隠そう、彼は藤校出身の現蓼園大学生……。私立蓼園大学は蓼学生と藤校生が融合する大学バスケ界の超名門大学だ。

 そこで2年生ながらベンチ入りを果たしたほどのプレイヤーなのである。


(なんにしても、憂の気持ち次第なんだよね。僕からアクション起こしたら絶対、引かれる……。あの容姿で『きょうちゃんが――へんたい――なった――』とか言われたら再起不能かも……)


「つい最近までPGに活路を見出す……なんて張り切ってたのに、何なんだ? こいつは?」


(僕らからは……動けないよねぇ……。千晶ちゃんはなんて難しい問題を出してくれたんだよ……)


「天才と一緒だったってのが、こいつの不幸なんかねぇ? ちと、置いて逝った天才に恨みを感じてしまわぁ……」


 弟想いの兄のようである。






(憂かぁ……。『渓やん! カッカしない!』ってか? 暴走しちまう俺を止めるのはいつも優だったなぁ……。今じゃ京之介(あいつ)に役目が回っちまったけどよー)


 お湯を掌に掬い肩に掛けた。圭佑は入浴中である。先に入った姉が入れた薔薇の香りの入浴剤が何とも似合わない。


(優……。憂……。可愛いんだよなー。なんであーなったんだ? 誰が見ても千穂ちゃんと羨ましいくらいの関係だっただろ? なのに親友の千晶ちゃんから、あんな質問されるとはなぁ……。上手く行ってねーの? そりゃ彼氏が女になりゃ複雑だろうけどよ……。中身一緒ならいいんじゃねーの? 意外と冷てーのか? 千穂ちゃんは)


 額から流れてきた汗を指先で拭うと、はぁ……と、溜息を付いた。


(……んなわきゃねーか。大切でなけりゃ、あそこまで面倒見れるワケねーよなぁ……。憂に男じゃなけりゃいけねー理由があるか、千穂ちゃんに女じゃいけねー理由があるか……。せつねーなぁ!! 難しい事考えずに元サヤに収まりゃいいのによー!!)


 バシャバシャと顔を激しく洗った。


(憂の事、応援してやりてーよなぁ……)


「ふはぁぁぁ……」


 2度目の溜息は相当に深ぁーい溜息だった。


(憂と付き合えるか? 俺に)


 また、ツイと頬を伝う汗を手の平で拭い取った。長湯しているらしい。


(……出来るな。どう見ても女の子じゃん。憂から言い出したらって条件付きだけどな! 俺から告白なんぞ出来るワケねー! あいつらになんて思われるか分かったもんじゃねー! ただよー。あれと付き合えたら……。ぶっちゃけ最高じゃね? 外見も内面も最高だぞ? 外見……? 完全に女の子って……?)


「あぁぁ!!」


 湯船に潜ってしまった。ブクブクと気泡が浮いてくる。


 ……何を想像したのか?






「……ちっ」


 拓真は舌打ちすると、ばさりとノートを投げ出した。普段は見事な集中を見せる拓真だが、この日ばかりはそうもいかなかったようだ。


(何年間、あいつと付き合いあると思ってんだよ!? 10年以上だぞ!? 男同士、今までの人生の半分以上の日で(あいつ)と顔合わせてんだぞ!?)


 立ち上がると椅子を蹴飛ばした。ガンと机に当たり、そこそこの音を発した。手加減したらしい。


(生きててくれた……。だから大事にしてやりてぇ……ってよ。憂にはそうやって接してきた。怪我1つさせたくねぇ。1度、死ぬほどの怪我したんだ。もう怪我する必要なんてねーだろ……)


 ベッドに寝転ぶと、頭の後ろで手を組んだ。


(千穂ちゃんじゃ無理だから俺らに付き合え? 簡単に言ってくれるよな。いや……簡単でもねぇか。マジな(ツラ)してただろ……。自分に厳しい目が向く。それを理解した上での行動だ)


 大きな体を転がし横を向いた。そちらは壁側です。


(『千穂も未来の旦那を探せる』だったか? 佳穂ちゃんが……告白した日に言った言葉は。告白したんだろ? すげぇよな。俺等は……男だった優の幻影に引きずられて……よ。それでいいんか? 今の憂を憂として認識して、1人の女の子として見てもいいんじゃねーか? 出来るか? 俺に?)


「出来ねぇ……な……」


(……どうしてもどっかで優と被せちまう。もし付き合うことになったらよ。あの優とイチャイチャ!? 無理だろ!!)







 ……こんな思考の渦が、彼らにとって長い夜の始まりだった。




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