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100.0話 プロローグの日

 ついに100話です! そしてプロローグの日です!

 ……感慨深いですね。個人的にはエンディングを迎えた気分です。いやいや、まだまだ続きますけどね。


 およそ65万文字。長いお付き合い痛み入ります。

 末永く……出来る事なら最後までお付き合い頂けると幸いです。これからもよろしくお願いします!

 



 ―――7月18日(火)



 私が声を掛けると、憂はポロポロと涙を零し始めた。

 傍に寄って、抱き込むように背中をさすってあげる。


 背中をよしよししてると意外と早く喋り始めた。


「――しらない――人から」


 あー。なるほど。いっぱい叱られたもんね。それで。


 憂は、巾着みたいに可愛くラッピングされた小さな袋を、泣きながら困った顔で見詰める。


「憂? あの子……さっきの子……憶えてない?」


 憂は小首を傾げて考え込んじゃった……。


 ……遅刻しそう……。じゃれてて遅くなっちゃったから……。遅刻は嫌なんだけどな。何故か私が責められるから……。


 あ。梢枝さん。


 スマホを掲げて、親指と人差指でOKを作ってみせてくれた。


 ……チャットだ。みんなに知らせてくれたんだね。助かります。


「千穂――?」


「ん? なに?」


「おぼえて――ない――」


 ……やっぱり。

 七海ちゃん、いつもすぐ走っていっちゃうから……。認識される前に走り抜けちゃったらダメだよね。憂には厳しいんだよ。


「えっと……ほら。運動会で……美優ちゃんと……」


「んぅ――?」


「ほら……。転んだ……子だよ……?」


 そう言えば、誕生日プレゼント。当日以降、一切来なかったよ。情報の広がる早さって凄いよね。


「おぼえて――ない――よ?」


 …………。


「えっと……前に……目隠し……『だ~れだ?』の……」


 涙は止まったね。ハンカチを取り出して拭き拭き。化粧も何もしてないから普通に拭き拭き。赤ちゃんの瞳みたいにキレイなお目々。


 憂は一生懸命。思い出そうとして固まる。


 ……これで遅刻決定。


 とりあえず背中を押して、東門をくぐっておく。この数メートルが大事なんだって。

 あ……。あの人って部長さんなのかな? 警備の皆さんもお疲れさまです。

 ……ごめんなさい。巻き添え遅刻……。


 拓真くんはあの絡まれた一件以降、憂との通学は控えてる。俺が居るとまた絡まれるって。拓真くんのせいじゃないよね。絶対に。

 その分、康平くんの会社から私服の人が身辺警護に追加されてるみたい。どの人かわかんないけどね。


 あ。戻った。おかえり。


「おぼえて――ない――です――」


 しょんぼり。


 ……これは困った。窓の外から、こんにちは……の時は、音にびっくりして振り向く事も出来てないし……。


「今度……ちゃんと……顔、合わせよ?」


 また首を傾げる。


 中等部……。昼休憩にでも行ってみよっかな? 騒ぎになっちゃうかもだけど……。


「でも――」


 手の中の巾着をじっと見詰める。小首は傾げたまま。言いたい事は分かるよ? それまで知り合いじゃない……でしょ?


「それは……ちゃんとした……贈り物」


 また待つ。小首を傾げてる間は頑張って考えてる最中だから。

 ……すっかり慣れちゃった。これも大切なコミュニケーション。大切な憂との大切な儀式って感じなのかな?


「でも――」


 ……また『でも』なんだね。


「後輩の……先輩への……贈り物」


 ――――。


 ――。


「おくりもの――」


 あれ? 語尾が上がらなかったよ? この反応は……何だろ? ま……気にせず……。


「憧れの……先輩に……」


 ――――。


 ――。


「あこがれ――?」


「うん。憂への……あこがれ」


 ――――。


 またちょっと待ってたら、首をふるふる横に振った。否定されてもそうなんですよ?


「お昼……。会いに……行く……?」


「うん――」


 今回は早かったね。


 これは私の推測。憂の反応の早さがまちまちなのは、その時、考えている事柄か違うか。この1点だと思う。今回は『会いに行きたい』って思ってたタイミングで私が聞いたから、すぐに反応してくれたんだよ。

 拓真くんとの会話が比較的スムーズなのは、付き合いの長さのなせる技。お互いが何を言うか、何を聞きたいのかをある程度、予測してるからなんだと思う。佳穂と千晶は、たまにすっごい短縮した会話して、何故だか成り立ってるけど、それに近いものがあるんじゃないかな?


「千穂――?」


「あ。ごめん」


「千穂――かんがえ――おおい――」


 ……えー?


 ……それを憂が言っちゃうワケ? ちょっとムカって。


 唇出てきた。むにゅっ……て、押し返してあげる。やっぱり、プクッとほっぺたが膨らんだ。可愛い……けど、ちょっと怒った顔を作ってみた。


「あなたに言われたくありませんっ!」


「あ――あぁ――うぅ――」


 憂はオロオロ。両手をパタパタ。挙動不審。動揺を全身で表しちゃった。


「あははは! かっわいい!」


「――あはははは!」


 憂も釣られて笑ってくれる。


 いいな! 楽しい!



 ……島井先生も愛さんも、いつかはバレるって……。



 その時、この楽しい時間は続くのかな……?



 私たちは変わらない。もう知ってるから……。




 だから……。大丈夫だよね……?








 きーんこーんかーんこーん。


「はーい! 今日はここまでー! 可愛いみんなー! また来週ねー!!」


 ……………………。


 パタパタと走り去っていっちゃった……。


 ……なんて言うか……。


 元気だよね。おばちゃま。


「ばいばい――」


 ……もう居ないよ?


「さぁ、昼飯だー! お前ら行くぞー!!」

「ちょ! 待てよ! 健太ぁ!」

「俺。まだ片付いてねーって!」


 健太くん。健太くんも元気。1-5って底抜けに明るいと思う。楽しいクラスなんだよ? 有希さんは優子ちゃんたちと一緒かぁ。ホント、有希さんと健太くんって、どうしてるんだろ?


 私と優は屋上とか中等部が持ってる園庭とか、そんな所で週に2回くらい会ってたんだよ? でも彼女たちにそんな気配は無し。謎のお付き合い。放課後も健太くんは部活で忙しいみたいだしね……。


「美優から電話。園庭のベンチ確保してるってよ。急ぐぞ」


 昼休憩に七海ちゃんに会いたいって、みんなに相談したら、拓真くんが美優ちゃんを通じて、七海ちゃんを捕まえてくれたんだ。親友だったね。彼女たちは。


 私たちは全員で移動。憂は何が何だか解ってないみたい。ちゃんと説明したんだよ? すぐに忘れちゃう困ったさん。説明する時間が惜しいから、そのまま移動。会っちゃうほうが絶対に早い!


 下駄箱に到着するとローファーに履き替えて、上靴とお昼ご飯を持ってドタバタ移動。


 中等部への連絡通路は無いんだよね。場所的に一番不便な所にあるのが中等部校舎。理由は色々あるけど移動が先。


 中庭で会うのに上靴持参なのは、ちょっと行きたい所があるから。これも梢枝さんから学園長に連絡済み。許可出てるんだ。


 急いでる理由も単純。高等部の昼休憩は13時から。中等部の昼休憩は12時半から。七海ちゃんの休憩時間の残りの問題!


 急げ急げー!!



 スマホの時計を確認。13:06。


「お兄ちゃん! こっちー!!」


「憂先輩! ホントに来てくれたー!!」


「嘘付くわけ無いでしょ!!」


 ……大声はちょっと……。


「うわぁぁぁ!! 憂先輩だぁぁ!!」

「え? どこどこ!?」

「嘘!? ちょっとマジ!?」

「やっばい! 超可愛い!!」

「ミキ!! 先輩に失礼だって!!」

「うわ! でけぇ! さすが、憂さん直属の護衛……!」


 ほら……。観賞タイムの始まり始まり……。

 動物園のパンダってこんな気持ちなのかな? あまり嬉しくない……。

 ちなみに拓真くんも勇太くんも護衛じゃありません。


「佳穂せんぱーい!」

「こんな間近で千晶先輩を見られるなんて……」


 最近、佳穂も千晶もみーんな知られちゃってるんだよね。


「あぁ……千晶先輩のジト目……」

「佳穂先輩、手ぇ振ってくれたぁ!」


 ……やめなさいって。


「あの! 梢枝先輩! 大好きです!」


 え!? いきなりの告白!?


 ……駆け寄ってきたのは女の子。勇気あるなぁ……。大勢見てるんだよ?


「お気持ちは嬉しいですえ? せやけどねぇ……。健全な恋をしはりやぁ?」


「はっ! はい! わかりましたっ!!」


 ……梢枝さんもすっごい。あっさり流しちゃったよ……。


 憂はソワソワ。緊張してるのかな?


「憂? 大丈夫だよ?」


「「「おぉぉ!!」」」


 ……な……なにかな?


「眼福じゃあああ!!」

「あれが噂の千穂先輩の囁き……」

「キレイ……」


 …………。


 ……さ……行こっか……。


 静かになったし。固唾を飲んで……って、ヤツなのかな?


「憂先輩! 皆さんもご足労ありがとうございます!!」


 七海ちゃんは勢い良くペコリ。礼儀正しいような、そうじゃないような……。なんて言うんだろうね? 色んな意味で空気読めない子?


「憂? この子が……七海ちゃん」


「「「おおぉ……」」」


 ……気にしない! 気にしない!! 気にしたら負け!!


「七海――ちゃん――?」


 これはオウム返しなだけだよね? あだ名的な『ちゃん』じゃないよ?


七海(一条)に会いにきたん!? なんで!?」

「ほら! 親衛隊の事じゃない? あの子が起案提出したんでしょ?」

「それじゃ……本人認定なのか!?」

「嘘でしょ……?」


「――はじめ――まして――?」


「違うってば!」


 あ! つい! 思わず……。


 ……怯えてない……良かった。この中で怯えられちゃったら……ちょっと、きつい。主に私が……。


「はじめまして!」


「七海? ゆっくり」


「あ。はい」




 それから10分。無事に面通しは完了。

 憂は思い出したんじゃなくって、憶えた。


 ……ややこしいね。


 思い出せなかったって言うのは憂の姿になってから、会った事をね。優の時には面識無し。廊下ですれ違うくらいはしてたかもだけど、それは除外。当たり前だよね。


 周りの子たちの言った『本人公認』は、梢枝さんを皮切りに全員で否定しておいた。憂の自由が無くなるから出来ればやめて欲しいって言葉を添えて。


 拓真くんにも勇太くんにも康平くんにもファンが付いてるみたい。

 それぞれ、名前を呼んでくれた子に説明して回った。短い時間だったけど、効果はあると思うよ?


 七海ちゃんは活動内容について説明してくれた。


 許可が下りたのは初等部、中等部のみ。隣の大学と幼稚舎はもちろん、高等部も却下されちゃったみたい。

 ある部と活動がかぶっちゃうから……って理由。『納得は出来ないけど、仕方ないです』って、七海ちゃんは笑顔を見せた。


 その活動範囲は私立蓼園学園の敷地内に限られてて、その上でC棟校舎内での活動は不可。それは……まぁ、高等部の校舎だからね。初等部、中等部の子たちが入り込むワケにはいかないよね。


『だから、ホントに活動範囲が狭いんですよー!! お願いです!! それだけでいいんで活動させて下さい!!』って。


 梢枝さんが朝みたいにOKマークを指を作ったのが見えたから、憂に話して、どこか不満げだったけど納得。そこでタイムアップ。学園長先生が降臨されて、解散を告げられた。いつもご迷惑お掛けしております……。


 結局、七海ちゃんは大喜びで走っていきました。本人の許可が降りたんだからね。これで学園と憂本人公認の親衛隊に格上げ。みんなが説明した分と、その後の公認がせめぎ合う展開になるって、梢枝さんは移動中に笑ってた。


 親衛隊の活動範囲がすっごく狭くなったのは学園長と梢枝さん、警備隊長さんたちとの話し合いで決まったんだって。

 いつの間にやら……って感じ?


 そんな話をしてたら中等部の屋上に到着。


 ……思い出深いトコなんだよね。

 私が告白した懐かしい場所。


 園庭を指定したのも屋上に来たのも記憶の扉をノックする為なんだよ。反応無かったけどね。


「懐かしいねー!」


「だね。たったの4ヶ月なのにさ……」


「憂……?」


「なに――?」


 小首を傾げて私を見上げる。

 反応……無いね。仕方ないんだよ? 私も解ってる。


「ギリギリまでここで過ごしますえ?」


 それからは無理に記憶の扉は叩かない。無理に中等部時代の話はしなかった。そのほうがいいかな? ……って、なんとなくそう思っただけ。


 そこからは持ってきたお弁当を食べながら、他愛の無い雑談をして過ごした。


 千晶も佳穂も心配そうな顔で私を見てたけど、大丈夫だって、笑顔を返しておいた。ホントに大丈夫だから。焦ることなんて無い。いっぱい時間はあるんだからね。


 お弁当を食べ終わったら時間ギリギリ。


 中等部の懐かしい階段を降りてる最中に憂が急に立ち止まって、後ろを歩いてた千晶がつんのめった。


 記憶に引っかかったんだと思う。中等部校舎や体育館。初等部にも通ってみないといけないね。どこに欠片が落ちてるか分からないから。


 玄関を通って、ローファーに履き替えて、もう1度、園庭を覗いたけど、反応無し。結局、階段での反応だけだった。




 時間やばいよ!?


 今日だけで2度目の遅刻は勘弁です!!


 そんなにゆっくりしてなかったのにね!

 中等部との休憩時間の違いが大きいよ!?


 私が右手、佳穂が左手を引いて早足。康平くんがピッタリと付き添ってくれてる。ごめん! 急いでるんだよ!?


 急ぎ足でC棟校舎に戻った私たちは各自、ローファーを脱いで上靴に。康平くんはいつも通り日課の憂の下駄箱の確認。

 私もローファーを捕まえて、下駄箱を開ける。


 …………?


 何か入ってた。記憶に無い真っ赤な巾着袋。


 ……何だろ?


 …………?


 えっ?


 なに!?


「千穂ぉ? どしたー?」

「それなに?」


 なに!?


 なんで!?










 千穂ちゃんが慌てふためき、巾着袋を放り投げた。


「やだ……なんで……」


 顔面蒼白となる彼女。


「康平さん!?」


 梢枝の声で俺は動く。千穂ちゃんが投げた巾着を拾い上げる。


 下駄箱内を拓真はんが確認する。5時間目の始業の鐘が鳴り響く。


 巾着の口を開き覗き込んだ俺もゾッとした。


 なんで○の頭(こんなもの)が……。


 千穂ちゃんは千晶さんに抱かれ小刻みに震えていた。憂さんも千穂さんの様子に近付き、その手を握った。



 ……拓真はんは一通の手紙を取り出した。


 この蓼園市で起きている()のへ連続事件が脳裏をよぎった。



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