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95.0話 全面協力する理由

 本日、『カクヨム』での活動を休止いたしました。

 一応、報告させて頂きます。


 それとは別件です。

 連載完結済みの別作品『双子の秘密の入れ替わりの果てに』が『TS婆さんの話』より伸びないとは思ってもいませんでした(苦笑

 反応もほとんど無く……。

 さみしい……(´;ω;`)



 ……失礼しました。気を取り直して下記より本文です。


           ↓

 


 ―――7月10日(月)



 最近の悩み。憂の日焼け対策。


 必要ないのかも知れないんだけどねー。この前の運動会の日焼け。あの真っ赤になった日焼けは既に跡形も無いんだからね。やっぱ、この子の新陳代謝って凄いんだよ。


 ……とは言っても、乙女の肌に日焼けは大敵。折角、真っ白なんだからね。維持してあげないといけない。


 でも、日焼け止めは憂が嫌がる。


「ベタベタ――いや――」ってさ。まぁ、気持ちは解る。特にこの子の場合、スベスベフェチだからね。自分の肌触りまで好きなくらいだし。


 だから、とりあえず今日は白のアームカバーにUV加工の黒ストッキング。ちょっとオバサンっぽい……。


 これは失敗だわ。やけに足元強調されちゃってるし。白すぎるんだよ。純正制服。まぁ、今日はそれで勘弁して。また、今日にでも買い物してくるよ。次は上も黒にして足元を中和? それともストッキングをベージュに? ベージュのストッキングって、ホントにUV効果あるのかね? UV加工って事は効果あるんだろうけど、いまいち信じられないんだよね。


「お姉ちゃん――?」


「あ。ごめん。行こっか?」


「――うん」


 ……良かった。昨日の事があるし、行きたくないとか言うかと思ってた。それ以上に人が好きな訳だ。いい子。


 単に忘れてるんじゃないでしょうね?





「お姉ちゃん――これ――?」


 玄関を出た憂に日傘を手渡すと受け取った後に小首を傾げて、青空を見上げる。雨傘じゃないよ? 見れば分かると思ったんだけどな。

 どう言う基準で物を覚えているのか、未だによく判らないんだよね。


「日傘。日焼け……痛いの、嫌でしょ?」


「――うん。いたいの――いや――」


 即答かい。正直だこと。憂は四苦八苦しながら日傘を開いて、肩に掛けた。うん。黒い日傘で黒ストッキングが中和されたね。行く時はこれでいいかも。でも、いちいち着いたら脱ぐって動作が……。黒が浮いちゃうからね。本人的にはどうでもいいんだろうけどさ。


「おはようございます!」


 お。千穂ちゃん到着。


「はよっす」


 たっくん……拓真くんも到着。


「――おはよ」

「おはよ!」


 憂の直後に私も挨拶。憂に先に言わせると遣り取りがスムーズになるんだよね。


「憂は今日から日傘なんですね」

「優が日傘……」


 たっくん。()って……。今、こっちの優で言ったよね?


「たっくん! めっ!」


「……勘弁して下さい」


「千穂ちゃん、憂……どうかな? 変じゃない?」


「そうで「あははは――! たっくん、めっ!!」


 思わず3人で顔を見合わせた。千穂ちゃんも拓真くんも頬が緩んでるよ?




 そのまま『行ってきます』して、4人で通学。美優ちゃんは今日からまた朝練。部活してると大変だよね。優の頃を思い出すよ。

 憂の文化部巡りはまだまだこれから。まぁ、何かゆっくり見付けなさいな。


「――お姉ちゃん?」


「なに?」


「なんで――いる――の?」


「居たら……ダメなの……?」


 泣きそうな顔してみた。


「あ――! ごめん! そうじゃ――なくて――」


 ちょっと待ったら慌てた。

 ……もしかして、お母さんが『付いていく!!』って、泣き真似でもしてたら通学問題なんか、あっさり解決してたのかも? 

 ……まぁ、いいけどね。友だちとの時間は大切だよね?


 結局、憂はそれ以上、私を強く拒否出来ず……。一緒に学園へ。


 ……それにしても、こんなに人が付いてくるとわ。怖くなるのも仕方ないかもね。ちょっと憂に同情……。でも、愛されてる訳なんだよねー。どうしようも無いし。



 憂たちを見送って、次に向かったのは中等部体育館。やっぱりこの体育館はでかい。観客席無かったら大体育館よりでかいよ。これ。沢山ある運動部が纏めて練習する訳だからねー。


 途中で中等部の先生に不審な目を向けられた。保護者を含めて、普段はここまで入れない。でも今日は大丈夫。昨日の内に首からぶら下げる入園札を貰ってるからね。



 ……やってるやってる。朝練の少年少女たち。青春だねぇ……。


 えっと……昨日の先生は……?


「おはようございます!!」


 うひゃ!!


「憂さんのお姉さん!」


 ……ちょっとビビったよ? 美優ちゃん。


「おはよ。顧問の先生は?」


「監督は朝練には来ませんよ? 自主練なので……」


「あちゃ! そうなんだ! ……参ったなぁ」


「優せんぱ「あ! 憂先輩のお姉さん……ですよね? 昨日はすみませんでした!」


 ……こりゃ。美優ちゃん、危ない会話になりかけたぞ?


「……部長」


 部長さんなんだ。ショートカットの気の強そうな子。


「憂先輩、大丈夫でしたか!?」

「ごめんなさい!」

「すいませんでした!」

「すみません! あたしたち憂先輩の気持ちを考えもしなかった……」


 わわっ……。大勢集まっちゃったよ。憂が取り囲まれるって聞いてたし。実際、昨日見たけど、これは凄いね。


「みんな! 繰り返す気!?」


 部長さんの声で輪が解けた。やるじゃん部長。


「みんなは練習続けてて! 美優! 美優は居てくれないとわたしが困る!」


 ……まぁ、中学生だもんね。1人でほぼ初対面の大人とか、話しにくいよね。


「部長さん。昨日はごめんね」


 だから、私から切り出した。この子たちも悪気は一切、無かったんだしね。憂の精神的に弱くなった部分を、運悪く突付いちゃっただけだから。


「いえ! とんでもないです! 謝られると困ります! ……あの……。美優からある程度は聞きました。でも……本当に大丈夫ですか? 憂先輩……」


 ……本当に心配そうな顔。いい子だね。ほとんど初対面の後輩にここまで心配されて……憂は幸せ者だよ。


「大丈夫だよ。次の日曜も試合を見に来たいってさ。迷惑じゃないなら……だけど」


「迷惑な訳ないです! ……良かった。嫌われたんじゃないかって不安で……。みんなも練習に身が入らなくて……」


「嫌う訳ないよ? 憂はそんな子じゃない。あの子は人を嫌う事が出来ない子なのよ」


 ……苦手な人くらいは居るかもだけどね。


「だから、練習が身に入ってない子たちに伝えてあげて? 憂は大丈夫だよーって」


「はい! ありがとうございます! 伝えてきますね! 失礼します!!」


 うんうん。いい笑顔だよ。しっかりした子。


「りっちゃん……。何の為にあたし残したの……?」


「あはは! そう言えばそうだね! ……美優ちゃん、ありがとね。部活、頑張って」


「はい! 行ってきます!」


「うん。行ってらっしゃい!」


 部長は『りっちゃん』なのか。なるほど。





 次に訪ねたのは中央管理棟。『コンビニ』だー! なっつかしー!!


 ……違う。用事があるのは学園長室。昨日の事は突然の個別チャットで少し話した。既に学園長先生は把握しておられた。


 続きは学園長室で……って。スマホの扱いが苦手なんだって。



 到着する直前、学園長室から出てきた昨日の顧問の先生と遭遇。先生も憂の事を気にしておられた。同じようにまた応援に行きたがってる事を伝えたら、嬉しそうにされてた。学園長先生からも発破をかけられたみたい。


 ……これで中等部の女バスさんは大丈夫だね。ひと安心。



 学園長室前に着いた私は、こんこんとその豪華なドアをノック。


 すぐにガチャっとドアが開いた。


「お待ちしておりましたよ。さぁ、中へどうぞ」


 学園長先生って、私の頃と変わってない。相変わらずの紳士さん。



「憂さんが人を怖がっているようですね……。具体的に言うと、人との身体的接触を……ですか」


 ソファーで向かい合うように座った学園長先生と私。ちょっと緊張……。私が蓼学居た頃から学園長だから……。


「……そうなんです。仕方ない子で困ってます」


「まぁ、彼女の気持ちは良く解ります。自分が彼の立場なら……と、置き換えれば答えは簡単でした」


 ……良い先生。私も想像してみた事がある。目が醒めていきなり小さな女の子になってて、後遺症付き。そりゃ怖いわ。襲われたらって考えるだけでゾッとする。しかも憂の場合は性転換付きなんだからね。


「今、結成の動きのある親衛隊についてですが」


 あ。話を変えてくれた。ちょっと考え過ぎちゃったし。


 ……私からも聞きたい事があるんだけどな。


「はい。伺っております」


 中等部の子たちを中心に直接、憂を護ろうとしてくれてる子たち。気持ちは嬉しいんだけどね。危険……かな? 色々な意味で。近づかれ過ぎたら秘密があるし、いざバレたらそれこそ、その子たちにとって危険なワケだし……。


 学園長先生も難しい舵取りですよね。ホントに申し訳ございません……。その学園長は『はぁ……』と溜息を吐いた後に表情を引き締められた。


「……認めてしまおうかと考えております」


「え?」


 ちょっと意外……かな?


「但し、学園内の活動に限ると云う条項を加えた上でです。親衛隊の結成を学園が公認するとなれば、またもや学園創設以来の前代未聞となりますがな。秘密を鑑みた時、これが最良である……と、私の判断です」


「非公認で動かれるよりはマシ……ですか?」


「はは……そうです。かつてこの親衛隊と云う物は幾度となく産まれましたが、これだけ大規模な物自体が前代未聞なのです。憂さんの親衛隊の結成は中等部の子から挙がった声だったのですが、すぐに初等部に拡がり、高等部にまで賛同者が現れ、隣の蓼園大学にも伝わり、幼稚舎にも。ははは! 可愛らしいものですな!」


「嘘……」


 あっと……いけない……。ついつい、素が……。学園長先生は思わず漏れた声に笑みを止めて……ちょっと……そんな優しい目で見られると……。やばい。恥ずかしい。


「立花 愛さん。君の学生時代を思い出したよ。今の君は一人前の大人としての姿しか見せてくれない。嬉しい半面、少し寂しかった」


私立蓼園学園(ここ)に居た頃の私を憶えておいでですか?」


「初等部から高等部まで在籍した生徒は早々忘れられんよ。12年間だよ。君が初等部に入った頃には教頭だったかな? 中等部の頃に学園長となったはずだ。小さな君がもっと小さかった剛くんの手を引いて通学していた姿を憶えているよ」


「……学園長先生」


 学園長先生は慈愛に溢れていて……ちょっと泣けてきたじゃないですか。


 ……そっか。学園長先生にとって蓼学生は子どもみたいなモノなんですね。


「……何となく西水流(にしずる)先生が憂の秘密に協力して下さっている理由が解りました」


「彼には……。いや、失礼。昔話になりますが、宜しいですかな? 私の協力の理由も話しておくべきでしょう。何事も包み隠さず。それは信頼に繋がる」




 それから学園長先生が話してくれた理由は私にとって、憂の協力者として納得できる物だった。


 学園長先生の歩みは私立蓼園学園と共にあった。創設から教鞭を握り続けておられた。

 当時は初中高大の一貫校。普通科しか無かったんだって。


 企画製造販売で名前を売っていた蓼園商会。でも普通科。当時から多方面への進出を視野に入れていたから普通科。


 蓼園学園を巣立った人たちは、どんどんと蓼園グループに就職していった。そのお陰で人材も増えた頃、一ノ瀬 遥さん。あの総帥の秘書さんが突如として現れた。目立たない子であまり印象が無いって苦笑いされておられた。


 ……って、違う!


 こっちは蓼学とグループ各社の歩み。


 本題は憂の事。どうして、ここまで協力して下さるのか。


 理由はバスケだった。学園長は学園創設当初、新しく産声を上げたバスケ部の初代顧問だったんだって……。

 それはもう相当な情熱を傾けて、部員たちを鍛えていった。自身も若かりし頃、バスケをしていたって遠い目をして語られた。背も高いしね。


 でも、東部の学校の壁は分厚く、何度も何度も敗れ去った。

 着実に力を付け、全国の強豪へと成長していった女子バスケ部を妬んだ事さえあるって……。


 自分は15年ほどバスケ部を率いた。その中で東部の強豪に2点差で負けた試合があるって……。その試合は『私の采配ミスで落とした』と悔しさを滲まされた。


 西水流先生は次第に学園内で重責を担っていって、バスケ部の監督業を引退。バスケ部の次の顧問を最も信頼できるOBに託した。

 それからもバスケ部は、ずっと特別な目で見ておられたって。そりゃそうだよ。15年間の想いって、大きいよね。


 教え子が率いる高等部のバスケ部も中等部も、自分が率いていた時と同じように、厚く鉄壁にも思える壁に跳ね返され続けた。


『そこに天才が現れた!!』


 学園長先生は興奮を隠さず、高揚し話された。


 その天才が優。


 優の世代が中等部の主役になると、こっそりと観戦に行ってたりしてたんだとか。いたずらっ子みたいに語られた。


 優の世代は、ついに30年来の悲願を果たした。


 同点で迎えたラスト。優のシュートが決まった瞬間には、年甲斐にも無く号泣してしまった……と恥ずかしそうに笑われた。


 その優が高等部に上がる瞬間を本当に楽しみにしてた……って。自分が15年近く率いた高等部でも、きっとやってくれるって……。


 そんな時に事故。学園長先生のショックも相当な物だった。自らの教え子である現高等部顧問の先生の前で泣いてしまうほどに。


 そして、時は流れた。


 真冬の訪問者。総帥とその秘書。蓼園総合病院の院長と優の主治医と名乗る人物。


 葬儀は家族だけで済んでいた。弔問にも訪れた。

 何が何だか解らなかったと苦笑された。傷を抉らないで欲しいとも思ったって。



 そこで伝えられた事実。


『立花 優さんは生存しています』


 歓喜したって。でもすぐに湧いてくる疑問。何故、葬儀を? 何故、隠蔽を?


 混乱をきたす中での衝撃の事実の告白。


 誓った秘密の共有。


『立花 優は……。私にとっても特別な存在と成っていたのですよ』


 そう言って眼鏡を押し上げられる姿が印象的だった。



 ……私は、そこで憂の全てを告白した。


『なるほど……。そんな事が……。これは難しい。前言を撤回せざるを得ませんな。何事も包み隠さず……と云う訳にもいきますまい……』


 頭を抱えられた学園長先生を見て、告白は間違っていなかったと確信した。



 総帥と病院、家族の方針を伝え、それからは今後についての話し合い。


 いつか来るだろう性転換の事実が暴露されるその日まで、全力を尽くすと約束して下さった。



 学園長室を辞したら、いつの間にか昼休憩中。


 そんなに話してたんだー……とか思いながら、懐かしいグラウンドの傍を歩いていたら、憂を見付けた。三つ編みだった。……可愛いかも。


 憂は誘われたのかな? ピンクの靴底のバッシュを履いて、スカートの下にハーフパンツって格好でサッカーしてた。ちゃんと、ストッキング脱がせてくれたんだね。千穂ちゃん、やっぱり信頼できるわ。


 その千穂ちゃんと康平くんが憂の傍にピッタリ。マークされてるみたいで面白い。守ってくれてるんだね。


 あ!!


 ……憂のほうに向かって飛んでいったボールを憂は移動してキャッチ。


 あんたね……。


 バスケじゃないんだから……。



 ……なんで嬉しそうなのよ?



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