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9 思惑通りには物事は動かない?



 ふよふよと綿毛のようなものが漂っている。

 ここに漂っているものはごくごく小さい奴で、本来はもっと大きなものなんだとメルマリアが教えてくれた。


「ここにいるポゥラは種みたいなものよ。まだまだただ浮かんでいるだけ。ポゥラの成体はあなたが隠れてしまうほどには大きいわ。ただ、本体の周りは殆どが長い羽毛でおおわれているのだけれど」


 そんな不思議な生き物がこの世界にはいるらしい。俺はいまだその生き物自体は見たことは無いけど。


「ショウは、外に出られるようになったら何がしたい?」

「わかんねぇよ。そもそも、出れるようになるってこと自体信じらんねェもん」


 俺にとってのこの部屋以外の場所は見たことのない世界で、知っていることは全部メルマリアが教えてくれたことだけ。そんな世界の事は実感なんて伴いっこない。







 ショウは生まれてから今まで、此処の部屋と別の世界の一部以外見たことがない。閉じ込められて育っているためだ。

 それはショウの持つ背の雪白の翼の所為なのだが、その理由自体ショウにはわからない事だろう。

 だからこそ、自分が自由に生活している姿というもの自体が想像すらできない。


「これくらいは想像してみて? 楽しくならない?」

「それ自体がどんな事かよくわかんねぇ。ってか、『楽しい』って? それってどんなものなんだ?」


 メルマリアはため息を吐いた。彼にはなかなか感情が理解してもらえない。

 ショウの御付きになってから、彼の知識だけは増えていっているのにも関わらず、その点だけはまったく進展がない。彼は、他人をやんわりと拒否している。その姿勢は出会った時から一切変わっていない。


「本に書かれてる物語を読んでると、自分もその物語の中にいるようでワクワクしたりしない? それが楽しいって事よ」

「ふーん。で、楽しいと何かあるのか? 何か変った事でも起きるのか?」

「……、取り付く島もないわね」

「ここに『島』なんてないと思ったけど?」

「もう、そういう意味じゃないわよ」


 なかなか相手は手強いらしく会話もなかなか続かない。それでも、少しずつではあるが会話が長く続くようになってきている。ショウの言葉もそれに従い語彙が豊富になってきている。

 メルマリアはそんな些細なことがうれしいと思っていた。


 彼女は過剰にショウをかまった。何かに理由をつけかまうことで彼とコミュニケーションを取る。

 一人放置されていた彼を少しでも他人とのコミュニケーションが取れるようにするためには、放置された期間以上にかまうことくらいしか思いつかないからだ。とにかく会話をして、繋がりを作り、他人に関心を持たせる。

 なかなか厄介ではあるが、少しずつでも前進している。期限は迫ってきているが、きっと彼なら大丈夫だ。



 彼女は決断を迫られていた。

 ショウは間もなく11歳になる。もう彼の存在を公開しないまま生活させるには限界が来ている。

 15歳を過ぎる頃には二次成長が始まるだろう。その頃までに継承権を認知させなければならない。式典だけの間なら、ショウの翼の色をごまかす事は出来るだろうが、その後のお披露目パーティではごまかす事は難しい。それらを解決する方法はただ一つしかない。

 こうなると、ショウの父のクラウスが異世界で数年生活したという事実はとてもありがたかった。ショウをその世界に一時逃す。留学したということにして、翼の黒化が安定したらこちらに戻す。

 そうして一族の者の追及を躱し、立太子の式典をその後にずらすのだ。


 そう考えていた。




 しかし、事態は彼女の思惑通りにはいかなかった。

 

 

 眠った彼を抱いて、メルマリアは次元の狭間を移動していった。

 そして目指す異世界への場所に門を開く。そこまでは問題がなかった。

 彼女はショウに付いて自分もその異世界に渡るつもりだったのだが、その異世界自体にはじかれてしまったのだ。クラウスが生活したことのある異世界は誰でもはいれるようなタイプのものではない。ある程度以上の魔力の親和性と大きさを要求される。そんな世界だからこそショウを隠すには最適であった。

 その為に選んだのに、彼女はその異世界に入ることが出来なかったのだ。


「ショウ! ショウ!! 何てこと!」


 叫んでも事態を取り消すことはできない。

 すでに彼はその異世界の中に落ちてしまった。入ることができない彼女にはショウを迎えに行くことができない。

 一族の者も、あの異世界に渡れるものは少ないからと、選んだのが裏目に出てしまった。まさか自分すらもはじかれてしまうとは。

 一族の者で、あの異世界に渡れたのは今までに数人しかいない。現在生きているのはショウの父クラウスのみだ。


「ショウ! 無事でいて。なんとしてもその世界に渡って、貴方を迎えに行くから」


 ショウに聞こえるわけがないとわかっていても、メルマリアは声が枯れるまで叫び続けたのだった。 


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