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4 いくつなんだ?



 伸ばされた色違いの翼は、それぞれ自然な光沢があり美しい。どちらも不自然さのない色合いで、生まれつきこういう風なのでは思える。

 けれど、ショウの話からすれば、彼の翼は本来はどちらかの色だったはずだ。どちらかの色が変わってしまった為に今のショウは自由に飛ぶことすら出来なくなっているのだ。


「ねぇ、ショウ君の翼の色って、元は白だったの?」


 いきなりな誠一の言葉にショウは目を見開く。伸ばされていた翼がきちんと畳まれその背中に収まった。


「どうして『白』だと思うんだ?」


 ショウは誠一の質問には答えずに、逆に質問を返す。


「だって、白いほうが似合いそうじゃない」


 誠一はきっぱりと言い切った。


「…………。俺には黒い方が似合うって言われるんだが?」


 確かに髪と同色の漆黒の翼はしっくりとして似合うだろう。


「えーっ。ってことは黒かったんだ?」


 ギリルの苦笑が深くなった。

 ショウの言い方はひねくれてはいるが『白い色だった』と言っているようなものだ。

 しかし、言われたことを素直に受け取り、人の言動の裏を読もうとしない誠一には通じなかったらしい。

 これは誠一の表に見える単純なお人よしの性格のせいだろう。ただし、それが彼のすべてではない。いろいろひねたりした時期もそれなりにはあったのだから。

 ギリルはそのすべてを知っているわけではないが、誠一がそれらをすべて自分の中で消化しているらしいことを感じ取り、それでいいと思っている。

 そんな点もすべて了解して、受け入れているのだから。


 回りくどい言い回しが誠一には通じない、ということは誠一の前にちょこんと座っているおチビさんにも伝わったようで、


「…………白だ…」


 ぷうっと頬を膨らませたふてくされ顔で、そっぽを向きつつそう答えた。


「当たってたんじゃないか、もー!」


 誠一はぎゃあぎゃあと喚き、文句を言うがそっぽを向いたショウは全く取り合う気が無いようだった。


「そう言えば、魔力のバランスが悪いから飛べないって、マズくない? 元に戻るの?」


 翼を持つ生き物が飛べなくなるということは、『死』と直結することなのだ。

 実際に翼を傷めた野鳥は、人間に保護されない限りほぼ確実な死しかありえないのだから。


 ショウは誠一の言葉に一瞬だけびくりと体を強張らせたが、すぐじろりと睨み返す。


「バランスが悪いのは翼の色がちぐはぐだからだ。どっちかの色になっちまえばちゃんと飛べるようになる」

「そうなんだ。早く飛べるようになるといいね」


 誠一は睨み付けてくる瞳にやんわりと微笑み返した。と、睨む瞳が戸惑うように揺れた。


(変な奴。まるで、アイツみてぇ…)


 見た目は似てないのにな、とショウは心の中でこぼした。



「んなことより、ここは何処なんだよ? なごんでる場合なのか」

「あ、そうだった。気絶しちゃったから連れてきちゃったんだっけ」

「誰の所為だよ!」

「ごめんってば。でもあの場所にいることが何か意味あるの?」



 ショウの剣幕に誠一は謝り倒す。

 その様子を見て彼は俯いてしまった。ただでさえ小さいのに、俯いてしまえばその表情は誠一やギリルには窺い知れない。


「ショウ君? どうかしたの?」


「…、あの場所に俺達の世界との接点があるらしいんだ。今は何にもないんだけどさ。また、繋がらないかと思って時々見に行くんだ」

「それって…。じゃあ、ショウ君は、帰れないんじゃ…」

「どうやって、こっちに来たんだ? 今の言い方じゃ一人で行き来できるわけじゃないみたいだが」


 ギリルの言葉にショウは彼の方を向いた。


「メルマリアに連れてこられたんだと思う」

「メルマリアさん? その人は?」

「俺の世話役みたいな人。俺は、向こうの世界にいた時、『母親』『父親』って人には会ったこと、ねえんだ」

 

 言いづらそうにショウは答えた。あまり良い思い出ではないのだろう。


 誠一だって親の記憶は全く無い。

 その為に今のショウに何といって言葉をかけたらいいのかわからない。だから、黙るしかなかった。


「一人で戻れないのに、置いて行かれたのか? 迎えが来るのか? それがいつか分かるのか?」


 ギリルはそう聞きながら、こいつは何か事情があってこの世界に捨てられたのかもしれないと思った。

 知識はそれなりにある。言葉も問題はないくらい通じている。しかも結構口達者だ。

 けれど、見た目や仕草はかなり幼さが残っている。彼の種族的にはショウはかなり幼い子供なのではないだろうかと考えたのだ。



「んー? どうなんだろ? 来ねぇんじゃないか? ま、大人になれりゃ自力で何とかなるだろ」

「そんなのひどいじゃない。こんなに小さい子を捨ててくみたいに…」 


 誠一の叫びにショウはピクリと反応した。



「小さい子、だって? 俺は15歳だ。暦が一緒なら今年は16歳になるんだ」

「え、ええーっ。もっと小さいかと……。僕と変わんないじゃないか」


 誠一は改めてとショウを見た。

 どう見ても、幼児だ。大きさを抜きにしても、とても15歳には見えない。

 誠一はついこの間16歳になったところだ。尤も本当の誕生日はわからないので本当にこの年なのかは不明なのだが。


「まあまあ、ショウはこっちの世界に来てどれくらいたったのかわかるか?」

「んー、5年、位かな。10歳あたりで来たはずだから」


 5年。

 それは決して短いと言えるような期間じゃない。

 隠れるように、見つからないようにと警戒を伴い、安らぐことのない期間はただ何もせず過ごすよりもずっと辛く重いだろう。


「そんなに長い間……」

「仕方ねぇよ。何とか生きていられるし…」


 妙に大人びた、諦めきったショウの声。

 誠一はショウにそんな顔をさせたままにしたくはなかった。でも、何を言えばいいんだろう?


「………。ねぇ、ショウ君。聞いていいかな?」

「? 何を?」

「ショウ君て、大人になってもこれくらいの大きさなのかな?」


 神妙な顔で言う誠一。彼の手はカウンターの上40センチほど上に翳されている。


「あのな……。俺は幼生体だから小さいんだ。成体になればあんた達と変わらない大きさの筈だ。背中の翼が違うくらいで。まあ、他の種族についてはよく知らないかな」

「へー、ショウ君ってば、やっぱり妖精なんだ」

「誠一…、字、間違えてないか?」


 ぽややんと言う誠一の様子にひょっとしたらとギリルは突っ込みを入れてみた。


「え? 間違い?」

「そう、幼い生命って字だと思うが?」

「ええー? そうなの?」


 ショウの方を見ればコクコクと頷いている。


「あんた…、馬鹿?」

「ああもう、ショウ君が馬鹿にするー」


 その誠一のリアクションが面白くてショウは声をあげて笑い転げた。あまりにも楽しそうなその笑いにギリルも笑い出し、むくれていた誠一もいつの間にか笑い出していたのだった。


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