2 年長者は頼りになる?
秘密というのは、知る人間が少ないほど守られる。
それは真理だ。
しかし、社会で生活するうえでは、自分一人だけの秘密というのは案外難しいものだ。
(共犯者が要るよな)
共犯者にしてはまずいだろうという突っ込みはなしの方向で。
誠一はいまだ未成年。
親のいない子供を独り立ちするまで面倒を見てくれるボランティアの大人の下で生活をしているのだ。
誠一自身には親や親類が居ない。捨て子だったのだ。
彼が居た養護施設は15歳までしか面倒を見てはくれない。そのあとは社会に出て働いて生活するつもりだった。
そんな就職活動中に、彼、ギリル・エルダーに出会えた事は、誠一の人生においてかなりのラッキーだったといえるだろう。
今は、ギリルの経営する喫茶店で手伝い程度の店員をしながら彼と共に生活をしている。
(誰に相談すればいいのかな? 獣医さん? のわけは無いよね。だからって普通のお医者さんに見せるってのもダメだろうし~。あ、ギリルさんには話さなきゃ。あの人だったら信用できるし)
いかにおバカな誠一でも、地球上にはショウのような生物が今のところ発見されていないことぐらい知っている。
だから、異世界の生物だと思ったわけだし。
相談できる人が一人でもいれば、バカな事をして、取り返しがつかなくなるような事へのリスクは減らせるはずだと考えた。
誠一は、ギリルの店へと足を速めて向かうのだった。
店は静かだった。
時間は2時過ぎたところだから、この店の営業時間でいえば今は休憩中である。
この店「ボーダー」は、午前10時から午後1時半までと、午後5時から8時までとなっている。もともとギリル一人で店を回していた為このような営業時間にだった。それは今もそのままになっている。
そっとドアを押し開けても、ドアに取り付けられたベルは賑やかな音を立てた。
「おう、お帰り。今日は早いな」
「た、ただいま、ギリルさん。向こうが今日は夕方から学校なんだ。だから今日は早く帰ってきたんだ。って、それより…。ちょっと相談があるんだけど…。ドアのかぎ、締めてもいい?」
「なんだ? 誰か来たら困るような事か?」
「うん。ちょっと、他の人に知れるのは…、まずいんじゃないかと思うんだ」
かまわないぞというギリルの了解を得て、誠一は店のドアのロックをかけた。
「それで? 相談って一体なんだ?」
それまで広げて読んでいた新聞をたたむと誠一の近くに寄ってそう聞く。
「さっきね、帰ってくる途中で見つけたんだ。こんな生き物見たことも聞いたことも無いよね? 気絶しちゃったみたいでぐったりとしちゃったから大丈夫か心配になっちゃって連れてきちゃったんだ。けど、下手なところに連れて行ったら大騒ぎになっちゃいそうでちょっと困っちゃって。どうしたらいいと思う?」
そう言って誠一はポケットからそっとショウを出した。彼はまだ気絶したままのようだった。
「? 人形じゃないのか? 生き物? 生きてるのか?」
誠一の手からカウンターの上に置かれたのは小さな体をくるりと身を守るかのように丸めた幼児だった。その背中には人間にはついていない翼が付いていた。しかし、どう見てもそれは小鳥には見えっこなかった。強いて言えばキリスト教の中に出てくる天使が近いだろう。
ギリルはそっと指先でその幼児をつついてみた。指先には確かにその幼児が生き物である証拠の体温が感じられた。
「名前はショウ君。2丁目の公園わきから入った裏道で見つけたんだ。手で持ち上げたら噛みつかれちゃって、お返しにくすぐったら……、やりすぎちゃったみたいで…。」
「気絶してしまった、と?」
ギリルの言葉に誠一は真顔でこくこくと首を縦に振る。
その様子にギリルは『はぁ~~』とため息を吐いたのだった。
「で、こいつは一体何なんだ?」
「それがわかるんだったら相談なんてしないよぉ。こんなファンタジー小説の中にしかいないような生物なんて隠し通すのなんて難しいじゃない。どうしたらいいと思う?」
「専門家に任す、とか?」
「それじゃ、この子研究材料にされちゃう」
「うう~ん。誠一はどうしたいんだ? こいつで金を手に入れたいとかじゃないんだろう?」
ギリルは誠一がそんなことを考える性格ではないことを確信している。
「うん。もし異世界の生き物だっていうんなら、帰してあげたい。まあ、自分がそっちの世界を見てみたいってのもあったりするけど」
「ふむ。なら、まずそのおちびさんの目が覚めるまで待たないことには結論は出ないな」
「あ、そっか…」
カウンターの上のショウの意識はいまだ戻ってはいなかった。