13 楽しい朝ごはん?
ショウは誠一に手伝ってもらいながら服を着替えた。そうしてバスルームに向かう。
洗面台には踏み台になるようなものがなかったため、誠一はショウを抱え上げて高さを合わせてやる。
顔を洗う習慣はあるのか、蛇口から流れる水をその小さな手ですくうと自らの顔にバシャバシャとかけた。
顔にかかるより周囲に飛び散る水の方が多い気がする誠一だった。
(どう見ても、水遊びをしているようにしか見えないよ。でも、きっと大真面目なんだろうな…)
苦笑を何とか隠し、ショウに続いて誠一の顔を洗った。
タオルで顔を拭き、身支度を整えた二人はダイニングへと駆け込んでいった。
ダイニングテーブルの上には朝食が乗っている。メニューは鯵の干物の焼き魚と目玉焼きとお味噌汁と白いご飯。そして漬物。ごくありふれた和食のモノだった。
しかし、それぞれの前に置かれたメニューの一部が違う。正しくはショウの前にだけ魚が置かれていなかったのだ。
「ショウ君の分の魚は無かったの?」
「いや、食えるのかを確認してなかったからな。聞いてから焼こうかと思ってな」
そう言いおいてギリルはショウの方に向き直る。
「で、魚は食べられるのか?」
「魚? 魚って、何? そのでかいやつ? 食べられるものなのか?」
ショウの視線は焼き魚の皿に固定されている。それも珍しいものを見るような類の視線だ。
その様子から嘘を言っているような感じは受けない。文字通り見たことがないのだろう。
「んじゃ、食ってみるか?」
ギリルは箸を取り焼き魚の身を一部ほぐして摘まむとショウの方へと差し出した。それをショウは口を開けて中にほおり込んでもらった。
口の中に入ったものをもぐもぐと咀嚼していたショウの顔が段々と顰められたものになって行く。眉間にはしわがくっきりと浮かんでいる程だ。
「………。ダメそうだな」
ショウの表情の変化を見てギリルはそう呟くのだった。
「なに、これ?」
苦労して口の中の物を飲み下してからショウはそう言った。
「魚だな。これは鯵だが。お前さんの世界じゃ食わんものなのか?」
ギリルの問いにショウは少し考えてから『俺は見たことも食べたこともない』と答えた。
「そうか、種族的に食べないモノなのかもしれんな。さて、ショウは魚はダメ、と。ハムでも焼くか?」
「んーと、それがいい」
「そうか、ちょっと待ってろよ」
ギリルは手早く厚切りハムを焼きショウの前に置いたのだった。
「さてと、じゃいただきます」
「いただきまーす」
「えっと、いただきます」
それぞれあいさつして朝食の時間となった。
ショウには箸が使えなさそうだったためスプーンとフォークが用意されている。
「ショウ、目玉焼きには何をかける?」
「ん? 何って?」
「醤油とかソースとか、塩やケチャップ、マヨネーズってとこか」
「???」
ショウはギリルの言葉に首を傾げている。
それを誠一はクスクス笑ってみている。
「まあ試しにいろいろ付けてみたらどうだ?」
ギリルはショウの前に醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、塩などの調味料の入った容器を並べた。
「ちょこっとずつ付けて食べてみて、気に入ったものをかけたらいい」
ギリルにそう言われてショウはそれを実践するのだった。
ちなみに気に入ったのはソースだった。
朝食を食べ終わるとギリルは急いで店へ出て行ってしまった。昼の営業の開店準備のためだ。
特に土曜日はランチ目当ての客が多くほぼ開店と同時に込み合うのだ。尤も、土曜のランチメニューは固定の為、客の回転効率はそれなりに良い。
朝の台所のかたずけと洗濯は誠一の担当だ。洗濯機は顔を洗いに行った時にすでにスイッチを入れてあるので間もなく終わるだろう。その前にまずは台所の洗い物をかたずけるために洗い場へと食器類を移し洗いはじめた。
ショウはまだ食べ終わっていないため、空いたものだけを先に洗う。
「ショウ君はまだゆっくり食べてていいよ。慌てて食べても体にいいことないからね~」
ギリルや誠一の行動で、ショウは自分も急がなければならない気になってしまったのか、食べる手をせわしなくしだしたのに気が付いた誠一はのんびりとした声をかけた。
「いいのか?」
「うん。いいよ。慌てないでしっかりと食べちゃってね」
誠一の言葉に安心したのか、ショウはそのまままたゆっくりとご飯に取り掛かったのだった。