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1 出会いは偶然?



 誠一が見つけたのは偶然だった。

 たまたま古くからの友人のところに遊びに行った帰り道。たまたま入り込んだ裏道に《それ》は居た。

 古いビルが入り組んだ小さな空き地で、通りからは死角になっている。どうもちょっとした資材置き場として利用されているらしいスペース。どこからか日差しが入っていてそこに置かれた木箱の上を照らしている。その日差しの中にそれはちょこん、と座っていた。

 黒い髪はザンバラでツンツンとあちらこちらへとはねている。前に向けて両脚は投げ出しぺたんとお尻を付いている。見た目だけならおそらく3歳か4歳位の幼児。なのだが…、人間じゃない証拠にその背には小さな翼があった。左側が真っ白、右側が真っ黒の。また、それ以外にその子供の大きさが、身長およそ10センチほどであったのだ。

 それだけなら人形かと思うところだが、そうではないという確証をもたらしたのは時々首を振ったりして生き物だと思える仕草をしたせいだった。


「ねぇ…。君、なに?」


 誠一は自分の好奇心が抑えられず、驚かさないように注意しつつちいさく声をかけてみた。

 それでも、《それ》は驚いたようでびくりと竦むと、恐る恐るといった風に振り返った。

 大きな青紫の瞳がじっと誠一を見据える。

 ラベンダー色の、けぶる瞳。それはまるで珍しい宝石のようで、誠一は魅せられたかのようにその瞳から目が離せなくなってしまった。


「何? あんた…?」


 可愛らしい外見に似合わないぞんざいな口調で、《それ》は喋った。

 それでもその大きさの所為か幾分甲高く聞こえる声で、口調は悪くてもなんとなく微笑ましいもののように感じられてしまった。


「俺に、何か用かよ? 用がねぇんなら、どっかへとっとと行けば?」


 そうまくしたてると、ぷいっとそっぽを向く。


「あ、あの…、あのね、えっとぉ…」


 唖然としてしまった誠一はうまく言葉が継げず、あのあのと繰り返すばかり。


「……、うるせぇ」


ぼそりと呟かれた言葉に、誠一は深呼吸を一つして気持ちを落ち着ける。だいたい誠一はその程度でめげてへこむような性格はしていない。


「えっと、君は何? 人じゃないよね? 天使? それとも妖精? 精霊とか? そもそもその羽で、飛べるの? なんでそんなに小さいの? なんでこんなとこに、一人でいるの? 仲間は居るの? 何か待ってるの? えっと…」

「だあああああぁっ、うるせぇ! あんたこそ何なんだよ」

「え? 僕? 僕は雨宮誠一って言うんだ。君の名前は?」

「名前なんて、聞いてねぇ。つーか、名前なんて聞いてどうするんだ?」 

「どうするって、こっちが名乗ったんだから、そっちだって名乗るもんでしょ?」

「あんたに名乗る名前なんて無い」

「えーっ! 名前無いの?」

「……、名前はある。なんで教えなきゃなんないんだ?」

「だって、名前知らなきゃ呼べないじゃない」

「だから、なんで呼ぶ必要があるんだ? もうあっち行けよ」


 しっしと犬でも追い払うように小さな手が振られた。

 しかし、追い払われたからと簡単に諦めるわけはない。むしろもっと遠慮なく近づいて、そっと自分の両手で掬い上げた。


 目の前にしてまじまじと見れば、ぷくぷくとした頬っぺの丸い顔や、まるまっちくぷっくりとした体形はやはり3歳か4歳の幼児のそれだ。

 ただ、サイズが手乗りというだけで。そして、服らしきものは何も着ていなかった。


「いきなり何すんだ!」


 甲高い声でまくし立てたかと思うと《それ》はいきなりがぶりと誠一の手に噛みついたのだった。


「いたっ、いたたたた。落としちゃうよ、やめて~」


 誠一の悲鳴で、ピタリと噛むのを止めた。

 彼の手の位置は地面からおよそ150センチほど上だ。察するところ、背中の翼ではこの高さからの落下は安全に対処できないのだろう。

 自由に飛べるのなら、落とされても何も問題はないはずだ。むしろ自分から飛び降りているかもしれない。



「落とすなよ」

「落とさないよ。名前を教えてくれたらね」

「……。…ショウ…だ」

「ショウ君かぁ。可愛いなぁ」


 名前を聞いて上機嫌な誠一と対照的にふてくされた顔のショウだ。

 ショウは誠一の手の上に足を投げ出しておとなしく座り込んだ。ぺたりとお尻を付いて座るのが好きなのか、体型からその姿勢の方が楽なのかは微妙なところではある。

 そのまま彼はその小さな手で誠一の掌や指の間を抓ったり引っ張ったりした。


「くすぐったいよ~、ショウ君。も~、お返しだぁ」


 そう言うと誠一は指先でショウの脇やお腹をくすぐる様につついた。


「うわっ、やめろって。くすぐってェ…、も、やめ…」


 誠一の指を押し退けようと小さな手を突っ張っては身を捩っていたが、暫くするとくたりと力が抜けて気を失ってしまったようだった。


「え? あ、しまった。やりすぎちゃった?」


 気絶したショウを見て、誠一は我に返ったようだ。


(ど、どうしよう…。このままここに置き去りってわけにもいかないよねぇ…)


 そっと周囲を見回して…、ショウを着ているベストの胸ポケットにそっと入れた。


(ファンタジー小説で、異世界に行くって話は多いけど、異世界の生き物がこっちに来たってのはあんまりないんだもんね。だれだって持ち帰るよね)


 自分勝手な理論を展開し、自分を納得させて誠一は足早にその場を離れたのだった。


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