王都鎮圧
とうとうこの時がやってきた。
元王太子を掲げるマヴィウス派と王国との全面戦争。
こちらの数はそれほど多くはないが向こうも≪大騎士≫の地位をデイビー様に取られて想定より数が少ないはず・・・
しかし、武門の一族であるリードザッハ家の使用人がこうもあっさり突破されるだなんて予想外でしたわ。
本来なら賓客をもたらす部屋に陣を取り、敵が来るのを待ち受ける。
ドゴ!という音を立てて部屋に入ってきたのは、前王太子だった。
「迎えに来たよ。リンディ。さぁ、ここから出よう。そうすれば、あの熊のように貧層のない男と違って次期国王たる俺の伴侶になれるぞ。」
見た目で人を馬鹿にして本質は見抜けないようなあなたのもとに誰が行くというのですか。
「あなたが何を言っているのか分からないわ。次期国王って正気なの?」
「もちろんだよ。今日は新しき国ができる建国日だ。僕の才能に嫉妬した者達を排除して、この国を生まれ変わらせる。」
どうやら相手の意志は固いようだ。
こうなれば徹底抗戦で防御するよりも一人でやってきたこの男を一気に攻めて倒した方が得策かもしれない。
「王太子殿下。一人で先行されては困ります。」
私が策をめぐらすより早くに敵の増援が来た。
「「かかれ!」」
仲間が来る前に早めにけりをつけたくて私が声を上げると同時に前王太子も声を上げた。
こうなってはどちらが先に敵将を討つかにかかっている。
信じられない光景が目の前に広まっている。
私の家に敵が進行していた。
それだけならば想定内のことだっただろうが、それ以上に驚きなのはあのクズ元王太子がまともな指揮を取っているし我が家の守護騎士たちを圧倒する実力がある。
正直言って信じられない。
これだけの実力を廃嫡されてから手にしたとすれば、相当の才能と努力が伺える。
女癖を直しまともな人間になっていれば良き王になっていたかもしれない。
けど残念。
改心するのが遅すぎた。
もっと早くにその才能を使っていればこんな最後を迎えることなどなかっただろう。
彼はまっすぐ私のもとに駆け寄ってくる。
まるで私を迎えるかのように、両手を上げてやってくる。
そんな彼に私は刃を突き付けた。
完全に私のことを仲間だとでも思っているかのように向かってくる男を切るのは簡単だった。
「さようなら。王子様。あなたが道を間違えねば立派な王になり、そしてそれを私はそばで支え続けたことでしょう。」
才能に胡坐をかき女に溺れた一人の男がこの世を去った。
「あと、私の実力は秘密だからデイビー様には内緒にしてね?」
にっこりと笑顔を浮かべる私の目が笑っていない。表情は部下たちに十分な威力があった。
秘密をばらせば殺される。そう思い込ませるに十分な笑顔をみんなには分かってもらわなければならない。
~ヴィオ=フォン・エルトゥーン~
今日は騒がしい一日だ。何せ王宮内に賊が侵入したのだ。
いつも通り静かな日常のためには邪魔な存在には消えてもらうことにしよう。
王宮には兵士がいるし、王族を守るのは『黄の騎士団』の役目だ。
なら私が相手をするべきなのは誰なのか。
それは他国からやってきた。あの男だ。
「グラッツ様、迎えに来やしたで」
そう言って賊の一人が牢屋から誰かを出した。
その男は危険人物として秘密裏に捕まえておいた御前試合でデイビーに負けた男。
名はグラッツというらしいがそんなことはどうでもいい。
所詮、毒を盛られたデイビーにさえ屈した女々しい男だ。
「おう。来るのが遅いぞお前たち。俺の剣はあるか?」
牢屋から出たグラッツが自身の剣を求める。
それを部下から渡された男はこういった。
「おい、お前。今ならこっちに寝返らせてやってもいいぜ。」
どうやらデイビーとの戦いで頭のねじが2~3本外れているらしい。
優勢なのはこっちだというのになぜそんな自信に満ちているのだ?
俺は剣を抜いて構える。
「へ、そうかい。それがお前の返答か。御前試合にも出ていない。雑魚が俺に勝てるとでも思ったか!」
男はまっすぐにこちらに走り出し、剣を上段に構える。
そして、攻撃の間合いに入り剣を振り下ろす。
そんな男の横をするりと抜けて横から一閃。腹を半分以上切り裂いての一撃。
勝負はあっけなく終わりを告げる。
「あっけないものだな。まぁ、薬に頼らねばならぬほどの実力差を理解できない者などこんなものか。」
「こうかいするぞ・・・この国はもはや・・・悪夢の手のうちだ。」
戦いは終わり即死したと思われた男が言葉を発する。
どうやら調査通り、敵は悪夢と謳われる一人の武将が仲間についているようだ。
悪夢はどこの国がつけたのか。戦場で漆黒の鎧を身に着け敵を鎧袖一触で屠る最強の戦士だ。
我が国には≪大騎士≫が存在するため悪夢という言葉で恐れられるのは他国の兵士のみだ。
どうやらそれが相手の切り札らしい。
確か前大騎士であるクレスタ様を倒したのはその悪夢らしい。
だが、それがどうしたというのだろうか。
現在、我が国には歴史上で最も強い≪大騎士≫が存在する。
この国に悪夢など言う存在が降りかかる存在ではない。
「悪夢の相手は≪大騎士≫が行う。そして、≪大騎士≫には敗北の二文字はない。」




