≪大騎士≫②
≪大騎士≫
王国にてその存在は絶対的なものである。
≪大騎士≫になれば王国でも最強の騎士団である『青の騎士団』の隊長を任られる。
それに国の代表としての栄誉と名声が手に入り、国で最高の将校である元帥が座を手に入る。
王国最強の座を手にする御前試合でまさか毒を盛られるとは思わなかった。
神聖な御前試合に泥を塗った犯人の目星はついている。
マヴィウス家だ。
国内に僕に勝てる戦士がいないとなると、どこぞの国から連れてきた戦士。
それが僕の決勝の相手だ。褐色の色の肌に銀髪をした青年だ。
正直、今の僕の体調はすこぶる悪い。
それに比べて相手側はすこぶる元気なのか。素振りをして体を温めている。
「なんだ。ずいぶん調子が悪そうだな。そんなんで俺と勝負になるのか?」
彼の表情と態度から僕に毒をもった件は知らされていないようだ。
ゆっくりと、しかし確実に一歩一歩を踏み出しながら勝負の場に立った。
僕は試合開始まで立っていられるかが心配になるほど、衰弱している。
そんな僕を呼ぶ声が、コロッセオの観客席から応援の言葉が聞こえてきた。
そこを見ると、涙を流すのを必死に我慢するリンディ嬢とそんなリンディ嬢を落ち着かせようとるするミーファちゃんの姿が見える。
「おいおい、どこ見てんだ? 相手は俺様だぜ?わかってんのか?」
自信満々にそう言って鼻高々に声を上げる青年に対して僕は何も言い返せない。
もはや口を開くのでさえしんどい、早く審判の合図が欲しいのだが、残念ながらその合図の前に国王陛下よりありがたいお言葉をいただくのだが、疲れているせいか何を言っているのか全く分からないし、聞く気にもなれない。
『心の中で陛下にごめんなさい』とつぶやくことしかできなかった。
「おいお前。顔色が悪いぞ。今からでも遅くない危険したらどうだ?」
陛下のお言葉が終わり。互いに武器を構えると青年からそんな言葉が紡がれる。
正直に言って彼の言葉に乗って試合を放棄しても構わないんじゃないかと思う。
しかし、僕には四大貴族からの圧力と、リンディさんの期待に応えなければならない。
故に僕は一瞬で勝負をつけることにした。
いや、違う。
まともな一撃を出せるのは一回限りだ。
失敗すれば終わるだろう。
「試合開始!」
審判が試合開始を宣言した。
まずは、相手の動きを見る。
下手に体を動かして逃げられたら無駄に体力を消費するし、何よりこちらは毒のせいで動きが緩慢で逃げられたら追いつけない。
「なんだ? 有名な殺戮熊が待ちの姿勢かよ。噂では一瞬で敵を片付ける獰猛な奴って感じだったけど、どうして動かないんだ?体調でも悪いのか?」
どうやら相手も待ちの姿勢を選択したようだ。まずい。こちらは時間をかければかけるほど、体力を奪われ続けるのにこのままでは勝機はない。一か八か突っ込んでみるか?
しかし、もし逃げられれば勝ち筋が見えなくなる。
どうすればいいのかわからないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
まずい。意識が朦朧Zとしてきた。
瞼が重く感じる。
そう思った次の瞬間だった。
こちらの動きが悪くなったと確信したのか。
突如として相手が動いた。
攻撃が来る。その瞬間にカウンター気味に一発当てれば倒せる。
そう確信した瞬間だった。
急速に足の力が抜けだしたのだ。
最後の一撃を放つ前に、先ほどの長考で体力が尽きたのか。
膝から崩れ落ちる。
それを見ていた周囲の観客達がもう駄目だと誰もが思った。
そんな中で一人の女性の声を聴いた気がした。
「降参して!」
その言葉にはまるで勝たなくてもいいというような意味合いがあったに違いない。
しかし、それは体を毒に侵されそのうえ敵が放つであろう必殺の攻撃で傷ついてほしくない。
そんな感情が含まれているように感じた。
「終わりだおっさん!この国の民は俺たちのものだ!剛剣流・山崩し!」
そう言って必殺技を放った瞬間だった。
まさに一瞬の出来事であった。
「カハ・・・」
両手に剣を持つデイビーは崩れ落ちる足を支えるために一本を地面に突き刺し。
もう一本の剣で敵の鳩尾に突きを放ったのだった。
敵はデイビーが崩れ落ちる瞬間を狙ったのだろうが、逆にそれがあだになった。
一つは国家よりも自分を優先してくれた婚約者のため。
もう一つは、この国に戦乱を起こし兵や民の暮らしを守るため。
体力の限界を超えた一撃が運よくクリーンヒットした。
のと、敵が勝負を早めるためにこちらに突撃してきたその反動で攻撃がカウンターのように相手に突き刺さり、勝負はついた。
こうして、新たな≪大騎士≫の誕生に人々は喝采を上げたのだった。
だが、そのつかの間の勝利も虚しく王国は隣国から攻められることになったのだった。




